ワークシェアリングとは?意味や種類、メリットをわかりやすく解説

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  • ワークシェアリングは近年の失業者の増加問題に対応でき、世界的に注目されている手法
  • ワークシェアリングの導入により、従業員の満足度向上や労働環境の改善に繋がる
  • ワークシェアリングの運用では、追加の人件費などに注意し、国の助成金にも注目する

ワークシェアリングとは、今まで1人で担当していた業務を複数人で分担することで、1人の業務負担を減らす手法です。失業率の増加や過重労働の問題などの背景により、日本でも注目されています。本記事では、ワークシェアリングの意味や種類、導入のメリットなどを解説します。

目次

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  1. ワークシェアリングとは
  2. ワークシェアリングの種類
  3. ワークシェアリングのメリット
  4. ワークシェアリングのデメリット
  5. ワークシェアリングの導入手順
  6. ワークシェアリングの導入における注意点
  7. 海外のワークシェアリングの事例
  8. ワークシェアリングの運用で受け取れる助成金
  9. まとめ

ワークシェアリングとは

ワークシェアリングの「ワーク(work)」は仕事・作業、「シェアリング(sharing)」は共有する・分け合うなどを意味する英単語です。

その言葉通り、ワークシェアリングとは、これまで1人が担当していた仕事・作業を、複数人で分担することにより、1人にかかる負担を減らす取り組みです。例えば、スキルが高く、仕事のスピードが早い人ほど、多くの仕事を任されがちです。

そして、仕事量が増えることで、徐々に業務時間内に仕事を終えることが難しくなり、残業が増えていきます。このように、仕事が1人に集中すると、体調を崩したり、パフォーマンスの低下やミスなどのリスクが高まります。

しかし、ワークシェアリングを行うことで、特定の人に負担が集中するのを回避し、すべての従業員がバランス良く仕事をこなせます。そして、就業機会の創出・労働時間の短縮・ワークライフバランスの向上・生産性の向上に寄与します。

参考:わが国におけるワークシェアリングの実践例|厚生労働省

ワークシェアリングが注目されている理由

欧州では、失業者の急増が問題になっており、失業者の雇用の機会を創出する手段の1つとして、ワークシェアリングが導入されるようになりました。

昨今では、日本でも失業率の増加・過重労働による過労死が問題視されており、ワークシェアリングに注目が集まっています。

日本には派遣社員やパートなど、多くの非正規雇用労働者が存在しますが、会社の経営状況によっては解雇される可能性があり、安定した収入や雇用の確保を得ることが難しいです。

また、日本では長時間労働が常態化しており、過労によるストレスや健康被害が深刻な社会問題となっています。そこで、ワークシェアリングが、労働環境・労働時間の改善に柔軟に対応するための手段として期待されています。

参考:ワークシェアリング導入促進に関する秘訣集(2004年6月)|厚生労働省

ワークシェアリングの種類

ワークシェアリングには、雇用維持型・雇用創出型・緊急対応型・多様就業型の4種類があります。それぞれについて、以下で詳しく解説します。

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種類特徴
雇用維持型定年を迎えた中高年層の従業員の労働時間を短縮し、定年後も雇用を維持する
雇用創出型既存従業員の労働時間を短縮し、その分の業務を新規採用者に割り当て、雇用機会を増やす
緊急対応型経営悪化などに陥った場合に、1人あたりの労働時間を減らして、現在の従業員を解雇せずに雇用を維持する
多様就業型時短勤務など、従業員が多様な働き方を選べるように業務を分担する

雇用維持型

雇用維持型は、定年を迎えた中高年層の従業員における雇用を維持するためのワークシェアリングです。勤務時間を短くしたり、勤務日数を少なくしたりして、定年を迎えた従業員の雇用を維持し、より多くの中高年層が活躍できるようにします。

また、定年退職後に、嘱託やパートタイムで再雇用するパターンも、雇用維持型です。超高齢社会を迎えている日本では、高齢労働者の雇用が、労働力不足解消のための重要な役割を担っています。

雇用創出型

雇用創出型は、既存の労働者1人当たりの労働時間を短くし、その分の業務を新規採用者に割り当てて雇用機会を増やすワークシェアリングです。この方法は、パートタイムや短時間労働者の雇用など、新規雇用の創出に繋がっています。

例えば、休職者が発生した場合に、複数のパートタイムや短時間労働者を採用し、休職者の業務を分担して補えば、業務の穴を埋めつつ、失業者に対して新たな就業機会を提供できます。

これは景気低迷などによって求人倍率が低下し、なかなか仕事が見つからない、という状況を改善するためにも用いられる手段です。

緊急対応型

緊急対応型は、急激な景況の悪化といった予期せぬ社会情勢の変化があり、一時的に余剰人員が発生した際、既存の労働者を解雇することなく、全体の仕事量を複数の労働者の間で分担するワークシェアリングです。

例えば、工場の稼働時間・シフト制の業務時間の短縮や、休日を増やすなどの対策を講じて、リストラを行わずに労働者の雇用を維持します。これにより、景気が回復して仕事量が増えた際にも、仕事に慣れた労働者をすぐに現場復帰させることが可能です。

また、経営状況が厳しい中でも、リストラを行わず雇用維持に努めたことで、従業員の企業に対する信頼度が高まります。その結果、さらに企業に貢献しようという意欲が従業員に湧けば、生産性の向上にも期待できるでしょう。

多様就業型

多様就業型は、子育てや介護などで、家庭と仕事の両立が難しい労働者が、さまざまな働き方を選べるようにするワークシェアリングです。

企業は具体的に、時短勤務・パートタイム・テレワーク・フレックスタイムなど、さまざまな働き方を提供して、労働者の生活を支援します。

これにより、労働者は自身のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方ができるようになり、企業は有能な人材の退職・流出を防止できます。

日本では近年、少子高齢化や人口減少にともない、労働者人口が減少しています。そんな、労働力不足を解消するためにも、企業が多様就業型ワークシェアリングを導入する動きが活発化しています。

ワークシェアリングのメリット

ワークシェアリングには、労働者にとっても企業にとってもさまざまなメリットが存在します。具体的にどのようなメリットがあるか、以下で解説します。

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企業側従業員側
コスト削減働く場所を失わない
従業員満足度の向上ワークライフバランスが保てる
迅速な人材配置モチベーションの向上
イメージアップ戦略が可能

企業側のメリット

ワークシェアリングを行うことで、企業側には、コスト削減・従業員満足度の向上・迅速な人材配置・イメージアップ戦略が可能になるなどのメリットがあります。

コスト削減

労働者1人に業務の負担がかかってしまうと、その労働者は残業・休日出勤などで業務をカバーする必要があります。そして、残業を抱える労働者が多いほど、人件費は増していきます

また、労働者がリストラ・定年・家庭事情で退職した場合も、新たな人材を雇用して教育するのに多くの時間と労力がかかり、人的コストも発生します。

ワークシェアリングを行うと、業務の負担を既存の労働者と分担したり、定年退職後に嘱託やパートタイムで再雇用した従業員に業務を任せたりして、人件費などのコストを削減することが可能です。

従業員満足度の向上

ワークシェアリングによって、定年後も嘱託やパートタイムなどで雇用が継続されたり、多様な働き方ができたりと、従業員はライフスタイルに合わせた働き方ができるようになります

また、同じ仕事を複数の従業員で分担することで、従業員同士の連帯感やチームワークが生まれ、仕事のモチベーションになります。そして、ワークシェアリングでワークライフバランスが向上すれば、従業員の仕事に対する不満やストレスも減るでしょう。

このように、ワークシェアリングは、従業員満足度の向上に貢献します。

迅速な人材配置

ワークシェアリングを実施していない場合、従業員は個人で仕事を抱えてしまっているため、急な追加業務で人手が必要になっても、既存従業員を補充するのは容易ではありません。

しかし、ワークシェアリングでは、人員を削減せずに雇用数を確保しているため、急に人員が必要になっても、状況に応じて迅速な人材配置が可能です。また、業務を復数の労働者で分担しているため、個々の労働者は作業量に余裕を持って勤務しています。

そのため、新規・追加の業務が発生しても、迅速かつ柔軟に人材を配置できるメリットがあり、適切な人材配置は生産性の向上にも寄与します。

イメージアップ戦略が可能

ワークシェアリングの実施は、企業のイメージアップ戦略を可能にします。企業が、リストラを行わずに雇用を守る姿勢や、従業員に多様な働き方を提供している姿勢を世間に示せば、多くの人から好印象を持たれることでしょう。

それにより、取引先・顧客からの信用度が上がり、利益の増加も見込めます。また、就職を希望する求職者が増え、長期的に見て優秀な人材の確保にも繋がります。

企業イメージの向上は、企業価値も高めるため、ワークシェアリングの戦略的な活用も、視野に入れていくと良いでしょう。

従業員側のメリット

ワークシェアリングは、従業員にとっても、働く場所を失わない・労働時間の短縮・モチベーションの向上など、多くのメリットがあります。

働く場所を失わない

ワークシェアリングでは、定年退職後も、嘱託やパートタイムで働き続けることができます。

また、家庭事情などでフルタイム勤務が難しくなっても、時短勤務・パートタイム・テレワーク・フレックスタイムなど、さまざまな働き方の中から自分に合った働き方を選択し、勤務の継続が可能です。

しかし、ワークシェアリングが導入されていなければ、新たに働ける場所を探さなければならなかったり、働くこと自体を諦めなければならないケースが発生したりします。

家庭事情やアクシデントが発生しても、働く場所を失わない体制が整っていれば、従業員は安心して働き続けられます

ワークライフバランスが保てる

ワークシェアリングでは、復数の従業員で作業を分担するため、従業員の作業負荷が下がり、余裕を持って働くことが可能です。これにより、従業員は自由な時間を確保しやすくなり、ワークライフバランスを保ちながらプライベートの充実化が図れます

また、従業員の中には、育児・介護・持病など、さまざまな事情でフルタイム勤務が困難な人もいます。そのため、企業がワークシェアリングを実施していれば、多様な働き方が選択できるため、従業員は個々のライフスタイルに合わせた働き方が可能です。

モチベーションの向上

ワークシェアリングにより、仕事とプライベートの両立が図れます。これにより、今まで以上に趣味や家族との時間を楽しめるようになれば、従業員のモチベーションは格段にアップすることでしょう。

また、復数の従業員で同じ業務を分担するため、自然とチームワークが生まれます。それに伴い、チームで協力し合って業務を効率化しよう、労働環境をより良くしていこう、という協力意識も高まります。

  

ワークシェアリングのデメリット

ワークシェアリングは、メリットだけではなく、企業側と従業員側の双方にいくつかのデメリットがあります。以下では、ワークシェアリングのデメリットについて解説します。

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企業側従業員側
各種制度の見直しが必要基本給が減る
給与計算に手間がかかる賃金・待遇格差が起こる
一部コスト増加が発生

企業側のデメリット

ワークシェアリングを導入すると、各種制度の見直しが必要になったり、給与計算の手間が増えるなどのデメリットがあります。以下で、詳しく解説します。

各種制度の見直しが必要

ワークシェアリングを実施するには、各種制度を大きく見直す必要があります。具体的には、フルタイム勤務を基準に各種制度を設置している企業が多いため、多様な働き方を認めて従業員の労働時間がバラバラになった場合、対応できないケースが出てきます。

そのため、時短勤務・フレックスタイム・パートタイムなど、それぞれの働き方の状況を整理し、現状に適した制度の変更が必要です。

また、従業員の働き方が異なっても、従業員の評価が公平に行われるようにすることも忘れてはなりません。特に日本では、長時間労働を「努力している」と評価する傾向があるため、時短勤務でも正当な評価が受けられる制度づくりが求められます。

給与計算に手間がかかる

さまざまな雇用形態を認めるということは、異なる給与体系の従業員が存在するということです。フルタイムの従業員がメインの企業では、複雑な給与体系が発生しないため、給与計算作業は容易です。

しかし、さまざまな雇用形態を認めれば、従業員ごとに異なる給与計算処理が求められます。また、ワークシェアリングを行うことで雇用が広がるため、従業員数も増加します。そうなると、給与計算業務が増加して複雑になり、人的ミスが起こりやすくなります

したがって、この問題を解決するためには、給与計算システムを導入し、給与計算業務を自動化するなどの対策が必要です。

一部コスト増加が発生

ワークシェアリングでは、雇用する従業員が増加するため、それにともない社会保険料・福利厚生費も増加します。そして、採用費・教育費などのコストが加算されることも考慮する必要があります。

これらのコストは、従業員1人あたりの労働時間が少なくなっても、削減できません。しかし、ワークシェアリングでコストを削減できる部分もあるため、残業の減少による割増賃金の削減などにより、増加するコストをまかなえるか試算しておきましょう。

ワークシェアリングの運用においては、人件費のみならず、その他に発生するコストも把握するようにし、計画的に採用プランを立てることが求められます。

従業員側のデメリット

ワークシェアリングでは、労働時間の短縮による給与の減少など、従業員側にもデメリットがあります。以下で詳しく解説します。

基本給が減る

ワークシェアリングは、復数の従業員に業務を分散させて作業を進めていく特性から、従業員1人あたりの作業負担は減ります。しかし、それによって就労時間が短くなるため、個人の給与の減額が懸念されます。

また、ワークシェアリングでは業務負担の軽減によって、生産性が向上するメリットがあります。それにより、従業員の給与がそれに合わせて増加するケースも考えられます。

このように、ワークシェアリングをうまく活用できれば、従業員の基本給を維持しながら業務負担を減らしていくことも可能です。

賃金・待遇格差が起こる

ワークシェアリングの導入により、賃金・待遇格差が起こる可能性があります。なぜなら、多様な雇用形態の従業員が存在することにより、従業員ごとに労働時間が異なり、賃金や待遇が一律ではないからです。

そして、ワークシェアリングによって労働時間が短縮される職種と、変更がない職種が混在する場合、それぞれの立場からの不公平感が生まれる可能性があります。

また、資格手当などは労働時間が減っても全額支給されるため、この待遇に対して不服を抱く従業員もいるかもしれません。

よって、労働環境が改善される一方で、企業は賃金・待遇格差が起こるデメリットがあることも把握し、可能な限り従業員全員が納得できる公平な賃金制度の確立を目指すことが大切です。

ワークシェアリングの導入手順

ワークシェアリングを導入するための手順を、以下で解説します。ワークシェアリングをスムーズに導入するために、手順に沿ってしっかりと把握しておきましょう。

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自社の業務の現状を把握

まず、はじめに自社の業務の現状を把握するようにします。把握しておくべき項目には、以下のようなものがあります。

  1. 業務量
  2. 業務フロー
  3. 組織体制
  4. 業務が集中する時間帯
  5. 業務に必要なスキルや経験

業務を複数人で分担するには、まず自社の業務量・業務が集中する時間帯・業務に必要なスキルや経験を洗い出します。これらは、各業務を遂行するのに必要なスキルや経験を持った人員を、どの程度・どの時間帯に配置するかの判断基準になります。

また、業務フローの把握は、業務の分担でどの程度の効率化やコスト削減が見込めるかを判断するのに役立ちます。そして、組織体制を把握することで、従業員間で賃金・待遇格差が起こらないように配慮することもできます。

ワークシェアリングが可能な業務や職種を洗い出す

ワークシェアリングが可能な業務や職種の洗い出しは、「ワークシェアリングに適した業務」「どの業務に、どの程度の作業負荷やコストが発生しているか」「業務の振り分け方」の3つのポイントを押さえて行いましょう。

例えば、複数人での分担が可能な業務・誰が行っても同じ品質を保てる業務が、ワークシェアリングには向いています。自社の業務の現状を把握して整理すると、ワークシェアリングに適合する業務や職種が見えてくるため、それを基に判断しましょう。

ワークシェアリングの運用方法・体制を整える

自社にワークシェアリング可能な業務や職種があれば、導入後はどのように人員を配置して、どのように仕事を分担するか、具体的な運用方法を検討していきます。その際、従業員によって業務配分にムラが発生しないように注意しながら、体制を整えましょう。

新たに業務分担を行っても、従業員の作業負担にムラができてしまっては、ワークシェアリングが成功しているとは言えません。よって、検証・改善も繰り返しながら、運用方法・体制を整え、ワークシェアリングの効果的な運用を目指しましょう。

従業員の理解を得る

従業員の理解を得られなければ、従業員は新しい制度の導入のために余計な負担が増えたと感じ、不満を持つ可能性があります。そのような事態が起こると、従業員のモチベーションが低下し、生産性が落ちるなどの悪影響も懸念されます。

そのため、ワークシェアリング導入に向けて、運用方法・制度・福利厚生などの変更点を整理し、事前にマニュアルを作成するなどして、従業員の理解を得るように心がけましょう。従業員の理解なくして、ワークシェアリングは成し得ません。

評価・改善を行う

ワークシェアリングは、導入後も継続的に評価・改善を行う必要があります。事前に定めていた目標が達成できているか定期的に評価し、改善を繰り返すことで、自社にとってより良い仕組みへと磨き上げていけます。

ビジネスでは、PDCAサイクルを回すことが大切です。ワークシェアリングでも同様に行うことで、導入による効果をさらに高められるでしょう。

ワークシェアリングの導入における注意点

ワークシェアリングの導入を検討する際には、いくつかの注意点も考慮する必要があります。ここでは、以下で具体的に2つの注意点を解説します。

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人件費が追加で必要になる場合がある

ワークシェアリングによって、今まで1人に対する業務負担が多かった部分を分担できるのは大きなメリットです。しかし、業務の分担によって新たな人材の必要性が生まれ、新規採用における業務負担・人件費が追加で必要になる場合があります。

つまり、ワークシェアリングは従業員の働き方を改善し、ワークライフバランスの確保などに繋がりますが、それらの改革を行うためのコストは、すべて企業にのしかかってくることを忘れないようにしましょう。

業務全体の生産性が下がる恐れがある

従来まで、1人の従業員が請け負っていた業務は、それだけその従業員の能力・スキルが高く、信頼できる人材であったからです。よって、ワークシェアリングを行うことにより、別の従業員に業務を任せることで、業務全体の生産性が下がる恐れがあります

また、ワークシェアリングの実施にあたって、業務の引継ぎやトラブルが発生した際の対応に時間を費やすことが増えます。

その結果、本来必要な業務に費やす時間が減り、業務全体の進行が滞り、企業の業績・売上にも影響してしまう可能性があることにも留意しなければなりません。

海外のワークシェアリングの事例

海外でも、オランダ・ドイツ・フランスなど、ワークシェアリングを推進している国があります。以下で、それぞれの国のワークシェアリングの事例を解説します。

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海外のワークシェアリングの事例

  1. オランダ
  2. ドイツ
  3. フランス

オランダ

オランダは、1980年代に深刻な経済危機に陥ったことにより、国全体でワークシェアリングを推進してきました。そして、この問題を解決するべく、政労使間で「ワッセナー合意」が締結されました。

ワッセナー合意に基づき、政府は減税を、労働組合は賃金抑制を、企業は雇用維持・時短労働を行った結果、1983年に11.9%まで上昇した失業率が、2001年には2.7%まで低下しました。これにより、オランダはワークシェアリング先進国として知られるようになりました。

なお、オランダでは、フルタイムとパートタイム勤務で待遇に差をつけず、正社員でパートタイムとして働くという就労形態が普及しているのが特徴です。

ドイツ

ドイツでは、1980年代から産業ごとの労使協約が結ばれ、業績悪化によるリストラ回避のための緊急避難として、ワークシェアリングによる時短勤務が導入されました。

また、ドイツでは、正社員とパートタイムで賃金や待遇に大きな格差があったため、2001年にパートタイム労働及び有期労働契約法が施行されました。さらに、雇用創出のため、パートタイム労働者への待遇改善も行われています。

そして、パートタイム労働者への差別禁止が定められ、パートタイム労働者のフルタイム労働者への転換も容易になりました。その結果、ドイツではオランダ同様に時短勤務でも正社員として雇用するようになり、パートタイム労働者が増加しています。

フランス

フランスでは、法定労働時間が週35時間と定められており、日本の週42時間と比較すると大きな差があります。週35時間制は、オブリ法により定められている制度で、従業員21人以上の事業所では2000年から、20人以下の事業所では2002年から施行されました。

オブリ法は、1994年にオランダで制定された労働法です。この法律は、企業が従業員を解雇する際に、まず従業員の労働時間の短縮を検討することを義務づけています。また、企業が従業員を解雇する際には、労働組合と協議を行う必要があります。

このように、フランスでは、時短勤務の具体的な実施方法を労使間に委ねているのが特徴です。また、時短勤務導入を実施した企業に対して、インセンティブとして社会保障負担の一時的な軽減措置を行うなど、さまざまな取り組みが行われています。

参考:世界経済の潮流 2002年春|働き方を変えるワークシェアリング|内閣府

ワークシェアリングの運用で受け取れる助成金

日本ではワークシェアリングを運用する企業に対して、国から助成金を支給しています。ワークシェアリングに関する助成金には、以下のようなものがあります。

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労働移動支援助成金

労働移動支援助成金とは、失業した労働者が、新しい職業に就職するために必要な費用を助成する制度で、職業訓練費・転職活動費・再就職準備費などが支給されます。支給対象者は、以下の通りです。

  1. 失業保険の受給資格者
  2. 雇用保険の被保険者で、離職した者
  3. 雇用保険の被保険者で、解雇された者

労働移動支援助成金には、やむを得ず解雇する労働者の再就職を支援した企業に助成する「再就職支援コース」と、離職した労働者を早期に雇い入れた企業を助成する「早期雇入れ支援コース」の2つのコースが用意されています。

再就職支援コース

再就職支援コースは、経営不振による事業縮小などで、労働者をやむを得ず離職させることになった企業が、その労働者の再就職を支援し、再就職を実現させることで受給可能となる助成金制度です。

  1. 再就職支援
  2. 休暇付与支援
  3. 職業訓練実施支援

再就職支援は、職業紹介を行う事業者に、対象となる労働者の再就職支援の委託をし、再就職が実現した際に助成されます。休暇付与支援は、離職が確定している労働者に対し、再就職先の求職活動を行うための休暇を与えた場合に助成されます。

また、職業訓練実施支援は、離職する労働者の再就職のための職業訓練を、訓練施設などに委託し実施された場合に助成されるものです。このコースは、やむを得ず離職させるに至った労働者の再就職を、いち早く実現させる目的があります。

参考:労働移動支援助成金(再就職支援コース)

早期雇入れ支援コース

早期雇入れ支援コースは、前職場の離職の際に「再就職援助計画」または「求職活動支援書」の対象者となった労働者を、前職場の離職日翌日から3カ月以内に雇用することで、受給可能となる助成金制度です。雇用を行う条件は、以下のとおりです。

  1. 支給対象者を離職日の翌日から3か月以内に期間の定めのない労働者として雇い入れること
  2. 申請事業主に雇い入れられる直前の離職の際に「再就職援助計画」または「求職活動支援書」の対象者となっていること

通常は30万円が支給されますが、条件によっては金額が加算される場合があります。このコースは、離職せざるを得なくなった労働者の早期再就職、次の就職先での雇用の定着が目的です。

参考:労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)|厚生労働省

雇用調整助成金

雇用調整助成金とは、企業が経済状況の悪化や景気変動等により、事業活動の縮小を余儀なくされ、従業員の休業や雇用調整を行った場合に、休業手当や雇用維持費などの賃金負担額の一部を助成する制度です。

会社は休業しているものの、社員には内勤業務があって出勤しているという場合には、助成金の対象になる休業にはあたりません。一方、 縮小しながらも会社は営業しているが、一部の社員を休ませているという場合は、休ませている社員が助成金対象休業にあたります。

雇用調整助成金は、従業員の失業防止を目的として設けられた制度です。企業も、この制度を利用することで、従業員の雇用を維持して経済の活性化に貢献できます。

参考:雇用調整助成金|厚生労働省

人材開発支援助成金

人材開発助成金とは、労働者のキャリア形成を促進するために、職務に関連した専門的な知識技能を習得させるための訓練費用を一部助成する制度です。訓練にかかる費用や、訓練期間中の賃金の一部などが助成対象となります。

人材開発支援助成金には、以下のようなコースがあります。

  1. 特定訓練コース
  2. 一般訓練コース
  3. 教育訓練休暇付与コース
  4. 特別育成訓練コース
  5. 建設労働者認定訓練コース
  6. 建設労働者技能実習コース
  7. 障害者職業能力開発コース
  8. 人への投資促進コース
  9. 事業展開等リスキリング支援コース

人材開発助成金は、2022年から「人への投資促進コース」の助成率が上がり、「事業展開等のリスキリング支援コース」が新設されるなど、国が特に力を入れている事業の1つでもあります。

人材育成に積極的に取り組むための助成制度の活用は、人手不足が深刻化している昨今において、人材確保のために重要視されています。

参考:人材開発支援助成金|厚生労働省

働き方改革推進支援助成金

働き方改革推進支援助成金とは、働き方改革に取り組んでいる中小企業を対象に、環境整備に必要な費用の一部を助成する制度です。働き方改革推進支援助成金には、以下のようなコースがあります。

  1. 労働時間短縮・年休促進支援コース
  2. 勤務間インターバル導入コース
  3. 労働時間適正管理推進コース
  4. 団体推進コース

働き方改革推進支援助成金は、企業の規模による労働環境の格差をなくし、働き方改革を力強く推進することを目的としており、対象となる取り組みの範囲が広いのが特徴です。

参考:働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年末促進支援コース)|厚生労働省

参考:働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)|厚生労働省

参考:働き方改革推進支援助成金(団体推進コース)|厚生労働省

参考:働き方改革推進支援助成金(適用猶予業種等対応コース)|厚生労働省

まとめ

ワークシェアリングは、企業・従業員の双方に大きなメリットをもたらします。企業は、人件費削減・雇用の創出・企業のイメージアップなどが可能です。また、従業員は労働時間の短縮によるワークライフバランスの実現や、雇用が安定化される利点があります。

一方、企業は制度変更によって一部で手間やコストが増加したり、従業員は給与ダウンといったデメリットもあります。しかし、ワークシェアリングをうまく取り入れられれば、労働環境の改善や生産性の向上が可能です。

ワークシェアリングは、雇用を創出し、従業員の生活を充実させるのに有効な取り組みです。メリット・デメリットを理解し、海外の成功事例も参考にしながら、自社に合った方法でワークシェアリングを取り入れましょう。

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