IPOにおける反社チェックの重要性|J-SOX監査対応についても解説

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- IPO(新規株式公開)を目指す企業にとって、反社チェックおよびJ-SOX遵守は重要
- 新規上場企業は、上場後の最初の決算日から3ヶ月以内に内部統制報告書を提出する
- 反社チェックの準備は早めに始め、反社に対する行動規範や社内規則を明文化しておく
IPOを目指す企業にとって、反社チェックは欠かせません。また、J-SOXに基づいた内部統制も重要です。この記事では、IPOにおける反社チェックの重要性やJ-SOX遵守に必要な書類、IPOに向けた反社チェックのポイントなどを解説します。
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IPOにおける反社チェックの重要性とは

IPOとは、未上場会社が新たに証券取引所に株式を上場して一般の投資家に向けて売り出すことで、日本語では「新規公開株式」や「新規上場株式」などと呼ばれます。IPOの実現までにはさまざまな手続きがあり、その中でも特に反社チェックは重要です。
本記事では、IPOを目指す企業に向けて、反社チェックの重要性ややり方について解説します。新規上場を目指す場合はぜひ最後までご覧ください。
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IPOにおける反社チェックの重要性とは
そもそも反社チェックとは
反社チェックとは、自社の利害関係者の中に、反社会的勢力関係者が含まれていないかを精査する作業です。一般的には、「コンプライアンスの遵守」「企業の信頼性の維持」「反社組織への資金提供の阻止」といった目的で実施されます。
特にIPOにおいては、「反社会的勢力との関係が無いこと」が上場の条件であり、新しく株式公開を目指す企業は証券取引所にこの事実を証明しなければなりません。そのため、IPOを予定している企業は、上場準備の一貫として反社チェックを実施する必要があります。

反社チェックとは|どこまでやる?やり方は?対処法や注意点も解説
反社チェックとは、政府の指針や各都道府県の条例を基準に、取引先や従業員が反社会勢力に当てはまらないかをチェックすることです。本記事では、反社チェックの必要性や方法を解説し、反社チェックをどうやってやるのか、引っかかる対象がいた場合はどうするかなどを紹介します。
反社会的勢力とは
法務省の「企業の反社会的勢力による被害を防止するための指針」によると、反社会的勢力とは、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」を指します。
また、東京都暴排条例では、次のような集団・個人を反社会的勢力と定義しています。
- 暴力団
- 暴力団員
- 暴力団関係者
- 準暴力団
- 総会屋
- 社会運動標ぼうゴロ
- 特殊知能暴力集団(いわゆる半グレ)
自社の利害関係者の中に、上記の該当者または関係者がいないかを調査するのが反社チェックです。自社の反社チェック対象者には、自社・子会社の従業員、取引先、主要株主などが含まれます。
IPOの審査で否認になる例
前述のように、IPOでは「自社と反社会的勢力に関係がないこと」が上場の審査条件となっており、もし関係が認められた場合は審査で否認される可能性があります。
例えば、過去には元役員の1人が反社会的勢力の関係者だったために、IPOに否認されたケースがみられます。また、外注先の代表者が半グレ集団として名前が挙がり、結果として上場を断念したケースもあります。
このように、IPOでは自社内だけでなく、自社と関係のある取引先についても厳格な目が向けられます。反社会的勢力との関わりが発覚し、かつ対応を怠った企業は上場廃止になるため、上場し続ける限りは継続的な反社チェックが必要です。
J-SOX(内部統制報告制度)とは

IPOにおける反社チェックは、J-SOXの一環として行います。J-SOXとは、金融証券取引法が定める「財務報告に係る内部統制報告制度」を指し、上場企業における財務報告の信頼性を担保し、不正会計を防止する目的があります。
J-SOXが導入された背景には、2000年代前半に大企業における粉飾決算やリコールといった不祥事が相次いだ経緯があります。企業の透明性を高め、安全な運営がなされているかを監視する目的で内部統制の強化と報告が義務付けられました。
具体的には、上場企業には、J-SOXに基づいた「内部統制報告書」の提出が義務付けられています。反社チェックはJ-SOXの直接的な対象ではありませんが、上場に向けたガバナンス体制の一部として不可欠です。
ここでは、J-SOXの詳細な内容や対象企業などをみていきましょう。
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J-SOX(内部統制報告制度)とは
内部統制とは
内部統制とは、企業における不祥事を防ぎ、事業を健全かつ効率的に運営するための体制を指します。金融庁は「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」の中で、次の4項目を内部統制の目的に挙げています。
- 業務の有効性および効率性
- 財務報告の信頼性
- 事業活動に関わる法令などの遵守
- 資産の保全
内部統制を整えることで、社内不祥事を未然に防げる可能性が高まります。その結果、日々の業務を効率的に遂行でき、企業資産も安全に運用できます。特にIPOでは一般株主に株式を売り出すため、資産の安全性を担保しなければなりません。
そのため、上場企業はJ-SOXに基づいて内部統制が安全に機能していることを証明する必要があります。
J-SOXの対象企業
J-SOXの対象企業は、金融商品取引所に上場しているすべての企業です。また、財務報告が連結ベースで行われることから、上場企業は必要に応じて、国内外の子会社・関連会社・外部委託先も評価対象に含める必要があります。
ただし、評価対象となる内部統制は3つに分類でき、企業規模に応じて関係者ごとに適用される項目が異なります。
- 全社的な内部統制
- 決算・財務報告
- その他
原則として上記の3項目はすべての関係者に適用されますが、企業規模が大きい場合などは、財務報告にかかる影響が小さい関係者などは評価から除外されることもあります。
J-SOXにおける立場別の役割
J-SOXでは、企業内の立場によって、内部統制に対して果たすべき役割が異なります。具体的な役割は以下の通りです。
経営者の役割 | 内部統制の最終的な責任者 |
取締役会の役割 | 内部統制の基本方針の策定・システムの監督 |
監査役の役割 | 内部統制の整備と運用状況の監視 |
内部監査人の役割 | 内部統制の評価と改善の提案 |
従業員の役割 | 反社チェックの実施・記録・報告と 反社会的勢力との関係遮断 |
J-SOXの3点セットとは
J-SOXへの対応の効率化に不可欠なのが、「業務記述書」「フローチャート」「リスクコントロールマトリックス」の3点セットです。「業務記述書」とは、業務内容の概要や手順などを文章で表したものです。
業務工程ごとに内容や使用するシステムの名称、発生する会計について詳細に記述します。これを図に書き起こしたものが「フローチャート」です。プロセスごとの関連部署、取引先との会計過程がチャートで分かり、業務全体の流れを可視化します。
そして「リスクコントロールマトリックス」は、業務プロセスにおけるリスクとその対応方法をまとめた書類です。業務ごとに起こりやすいミス・不正と対応を一覧化することで、社内リスクに対するコントロールの有効性を確認できます。
業務のプロセスに沿って、各工程における他部署との関りや、取引先との集計・記帳といった会計処理の過程を可視化しやすくなります。業務の流れを俯瞰で確認でき、起こりやすい問題点やリスクの判断を手助けします。
IPO準備企業にもJ-SOX対応は必要
J-SOXは上場企業に義務付けられた内部統制報告制度ですが、これからIPOを目指す企業であっても準備が必要です。新規上場企業には、上場後初の決算日から3ヶ月以内の内部統制報告書の提出が義務付けられているためです。
内部統制報告書の作成には一定の時間がかかるため、IPOを目指している企業は、上場準備と並行して反社チェックや報告書の作成を進めておく必要があります。
内部統制報告書の記載事項
内部統制報告書の基本的な記載事項は以下の5つです。
- 財務報告に係る内部統制の整備及び運用に関する事項
- 評価の範囲、評価基準日及び評価手続に関する事項
- 評価結果に関する事項
- 付記事項
- 特記事項
各事項ごとに記載項目が詳細に決められています。例えば「財務報告に係る内部統制の整備及び運用に関する事項」においては、「会社の代表者およびCFOの責任」「準拠する基準の名称」「完全な虚偽情報の予防・発見が不可能であること」といった記載が必要です。
なお、内部統制報告書のひな型は金融庁のWebサイトで公開されています。このフォーマットを参考に、必要なカスタマイズをして自社独自の内部統制報告書を作成しましょう。
内部統制報告書の作成手順
内部統制報告書は、大まかに次のような流れで作成します。
- 内部統制の整備
- 内部統制の評価の実施
- 内部統制報告書の作成
- 内部統制監査の実施・監査証明の作成
- 内部統制報告書・監査証明を金融庁へ提出
J-SOXに対応するには、内部統制報告書の提出と並行して、外部の監査法人や公認会計士による内部統制監査の実施が必須です。外部機関のチェックを通すことで、内部統制報告書の信頼性と中立性を保つ意図があります。
新規上場企業は上場後3年間の監査証明の提出が免除されていますが、内部統制報告書の提出は必要です。提出期限は上場企業は事業年度ごと・新規上場企業は上場後初の決算日から3カ月以内であるため、忘れずに提出しましょう。
IPOに向けた反社チェックのポイント

IPOを実現するにはJ-SOXへの対応が不可欠であり、その一環として反社チェックも欠かせません。また、反社チェックはIPO審査基準にも含まれることから、これからIPOを目指す企業は入念な準備が必要です。
ここでは、これからIPOを目指す企業が守るべき反社チェックのポイントについて解説します。
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IPOに向けた反社チェックのポイント
早めに準備を始める
IPOに向けた反社チェックは早い段階で開始しましょう。反社チェックの対象は自社に留まらず、子会社・関連会社・取引先・株主と範囲が広く、調査に一定の時間を要するためです。
また、万が一、自社関係者に反社会的勢力との関わりが見つかった場合は、これらを排除するための時間も必要です。上場の方針が決まった時点で、新聞・インターネットや登記簿での確認、専門機関への調査依頼など、反社チェックの準備を始めましょう。
行動規範や社内規則を明文化する
IPOを目指す企業は、反社会的勢力に対する行動規範や社内規則を明文化する必要があります。具体的には、反社会的勢力と関係を持たない旨を宣言し、その実現のために自社従業員の行動や取引先への対応をマニュアル化しましょう。
企業として明確な意思表示を行うことで、従業員に模範的な行動を促すことができ、取引関係を拒絶する根拠も示せます。また、万が一、反社会的勢力との関わりが発覚した場合にも社内規則があることで、経営者の善管注意義務違反を回避できる可能性が高いです。
社内体制を整える
行動規範や社内規則は明文化するだけでなく、正しく実行されるような社内体制作りが必要です。例えば、反社会的勢力への対応における統括部署の設置や監査対応マニュアルの策定、情報収集といった運用体制を構築しましょう。
反社チェックは上場後も必須であることから、IPO後も持続的に機能するような社内体制の構築が求められます。
契約書に反社排除条項を盛り込む
雇用契約書や取引約款に反社排除条項を盛り込むことで、反社とは接点すら持たないという企業の強い姿勢を内外に示すことができます。これによって、自社従業員や外部委託先にIPO実現に向けて正しい行動を取ることを促せます。
同時に、万が一関係者と反社との関りが確認された場合に、契約書を根拠に損害補償を請求できる可能性があります。これらの契約書を有効に活用できるように、顧問弁護士の選定や警察との連携など、外部の専門家との関係性も深めておきましょう。
反社チェックは定期的に行う
反社会的勢力との接触状況は日々変わっていくため、反社チェックは定期的に実施しましょう。例えば、去年は問題なかったとしても今年になって、外部委託先が反社と関係を持っている可能性があります。
一般的に、反社との関わりが長い・深いほどIPO審査が否認されるリスクが高いです。反社との関係性によっては、今回の上場だけでなく、将来的な上場も難しくなる恐れもあります。
したがって、IPOを実現させるには、継続的に反社を排除する仕組み作りが重要です。
「年に1度」「半年に1度」などのように反社チェックの実施スケジュールを決め、確実に運用できる体制を整えましょう。
IPOを実現するには反社チェックツール利用がおすすめ

IPOの実現には反社チェックが欠かせませんが、一方で調査範囲が広く、確認すべき情報網も大量である点は課題です。また、ノウハウ不足の企業ではチェックの精度が甘く、結果としてIPOの審査にも悪い結果を与える可能性があります。
IPOの一環である反社チェックを効率化するには、反社チェックツールの利用がおすすめです。反社チェックツールとは、インターネットや各種データベースから自動で情報を収集し、自社の利害関係者と反社の関係を自動でチェックするシステムです。
新規採用時や新規取引ごとにリスクをチェックでき、安全な人材採用や新規契約を支援します。膨大なチェック作業を自動化できるため、社内担当者の業務負荷を減らせるうえ、人的ミスのリスクを削減できるのも魅力です。

反社チェックツールとは、個人や法人が反社会的勢力に関わっていないか、過去に不祥事はないかをチェックするツールです。反社チェックを行うことは、会社の信用を守ることや安全なビジネス運営に繋がります。本記事では、反社チェックツールのメリットや選び方を解説します。
まとめ

IPOを目指す企業にとって、反社チェックによる内部統制の強化は欠かせません。また、上場後にもJ-SOXへの対応が求められることから、IPOに向けた準備段階から持続的に反社チェックを実施する必要があります。
IPOに向けた反社チェックを効率化するには、チェック作業を自動化できる反社チェックツールの導入がおすすめです。膨大なデータベースの参照や分析、リスク評価を自動で行うため、膨大なチェック作業も短時間かつ高精度で完了できます。
自社基準に対応した反社チェックツールを導入し、IPO準備を効率的に進めましょう。
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