UBO(実質的支配者)とは?重要性や確認方法・注意点も解説
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- UBO(実質的支配者)とは、企業の事業経営を実質的に支配する自然人を指す
- UBOの定義は国によって異なるが、多くの場合「25%の閾値」が採用されている
- UBOを確認する方法としては、法務省の実質的支配者リスト制度が利用できる
UBO(実質的支配者)とは、法人の議決権の総数の4分の1を超える議決権を有する自然人と定義されています。UBOを特定することは、企業間の取引において、マネーロンダリングなどの犯罪を防止するために重要です。この記事では、UBOの基準や確認方法などを解説します。
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UBO(実質的支配者)とは

実質的支配者とは、 法人の事業経営を実質的に支配する自然人を指し、「Ultimate Beneficial Owner」の略称でUBOとも呼ばれます。自然人とは、実在する生身の人間を指し、法律によって権利を認められた存在のことをいいます。
特にUBOチェックが不十分な場合は、マネーロンダリングやテロ組織への資金供与といった犯罪行為に巻き込まれる恐れがあり、自社における損失は甚大なものとなります。
そのため、企業の新規取引においては、反社チェックと並行してUBOのスクリーニングが求められます。本記事では、UBOの基準や確認方法について解説していきます。
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UBO(実質的支配者)とは
UBO(実質的支配者)をチェックする重要性
前述のとおり、企業同士の取引においては、取引先のUBOチェックが求められます。企業の中には、表向きは一般的で健全な組織を装っているものの、裏では反社会的勢力といった暴力団関係者などが経営に関わっている「フロント企業」が存在します。
フロント企業と取引を行うと、結果として自社から犯罪組織に資金を供与することになり、犯罪行為に巻き込まれる恐れもあります。
このようなリスクから自社を守るためにも、新規取引先と取引を行う際は、取引先を実質的に支配している個人を特定しなければなりません。特に最近はマネーロンダリングやテロ資金供与の経路が複雑化しており、UBOチェックの重要性が増しています。
UBO(実質的支配者)のスクリーニングに必要なデータ
UBOのスクリーニングには、一般的に次のようなデータが必要です。
- 取引先のグループ構造
- 株主
- 子会社
- PEPリスト
- 制裁リスト
- 同じグループ内で同一の最終所有者を持つ姉妹会社
- 有益な所有権と認識できる所有権
- その会社に関するニュース・メディア記事
UBOのスクリーニングにおいては、いわゆる「AMLプロセス」「KYCプロセス」の両方を実施する必要があります。取引先が受け取った利益を最終的に誰が受け取るのかを徹底的に調査し、その人物に社会的問題がないかを確認します。
マネーロンダリングとは
そもそも「マネーロンダリング」とは、日本語で「資金洗浄」と呼ばれており、犯罪などの不正行為で入手した資金の出所をわからないようにする方法のことをいいます。日本では、犯罪収益移転防止法が施行されたため、マネーロンダリング対策が厳しくなっています。
また、マネーロンダリングは日本だけに留まらず、海外でも行われています。海外への送金や着金は複雑なため、知らないうちに巻き込まれてしまう可能性があるため、マネーロンダリング対策が重要になってきます。
参考:犯罪による収益の移転防止に関する法律|e-Gov 法令検索
AMLとは
AMLとは、アンチマネーロンダリング(Anti Money Laundering)の略称で、マネーロンダリングを防ぐための対策を指します。そして、CFT(Countering the Financing Terrorism)と呼ばれる、テロ資金供与対策とセットで考えられています。
AMLは、犯罪組織から資金の流れを阻止するために欠かせません。そのため、不正行為を防ぐために、銀行などの金融機関は送金目的や受取人の詳細を細かく確認する必要があります。
また、AMLプロセスとは、マネーロンダリングやテロ資金供与を防ぐための法規制やシステムの総称で、不正に得た資金を合法的なものと見せかけ、経済に流入するのを防ぐ目的があります。
KYCとは
KYCとは、Know Your Customerの略称で、顧客の本人確認を指します。金融機関などが顧客の身元と取引の正当性を確認し、不正行為を防止するための手続きで、主に銀行へ送金依頼をする際に必要になります。
KYCにより、個人情報の盗難や詐欺を防止し、不正行為から金融機関やオンライン決済サービスなどを守ることができます。また、KYCプロセスとは、金融機関などが顧客の身元を確認し、不正行為やマネーロンダリングを防止するための手続きをいいます。
UBO(実質的支配者)の基準

UBOの定義は国によって異なるものの、一般的には株式の保有率が基準となります。しかし、必ずしも株式の保有だけで判断されるわけではなく、企業に対する影響力などが考慮されることもあります。ここでは、UBOの判断基準についてみていきましょう。
一般的な基準は「25%の閾値」
主要な国においては、主に議決権の25%がUBOの特定基準の閾値として採用されています。つまり、この議決権に準じる株式を直接的または間接的に保有する個人が、最終受益者であるUBOとして認識されます。
ただし、企業の意思決定は株式の保有率だけで決まるものではないため、UBOの判断基準も個別のケースに合わせて変動します。
例えば、一部の株主に対して株主の保有分を超える議決権が付与されている場合や、非公式な手段による実質的支配が認められるケースにおいては、これに準じた判断基準が適用されることがあります。
特に、家族経営企業などは企業のグループ構造が可視化しにくい傾向にあるため、入念なUBOチェックが必要です。
金融機関の基準はより厳しい
金融機関は金融犯罪と直接的に対峙する頻度が高いことから、法的開示基準を超える厳しい基準を設ける傾向にあります。具体的には、25%の法的開示基準に対し、10%以上の株主すべての開示を求めることが多いです。
これによってフロント企業の見極めを厳格化するとともに、自機関が犯罪行為に関与するリスクを減らし、コンプライアンス強化に努めています。
UBO(実質的支配者)を確認する方法

企業取引において取引先のUBOを確認するには、実質的支配者リスト制度が利用できる場合があります。実質的支配者リストとは、株式会社の実質的支配者の氏名と、それぞれの議決権を一覧化したリストで、その企業におけるUBOを容易に特定できます。
このリストが法務局のチェックを通過すると、認証文を添付した写しの交付を受けられます。企業は金融機関や取引先との取引において、この認証文とリストの写しを提示することで、自社のUBOの信頼性を証明できるという仕組みです。
なお、実質的支配者リスト制度を利用できるのは株式会社と有限会社のみで、合同会社は利用できません。利用するには、リストを作成したうえで「株主名簿の写し」「実質的支配者の本人確認書類の写し」などの添付書類を添えて法務局へ申し出る必要があります。
また、企業取引において実質的支配者リストの開示を請求できる場合もありますが、請求先に開示義務はありません。しかし、開示を拒否する場合はなんらかの不正が疑われるため、取引の可否の判断材料になるでしょう。
参考:実質的支配者リスト制度の創設(令和4年1月31日運用開始)|法務省
UBOコンプライアンスにおける注意点

UBOコンプライアンスは、マネーロンダリングやテロ資金供与などの犯罪に巻き込まれないためにも非常に重要です。UBOコンプライアンスを実施する際には、国ごとの定義・閾値を理解し、これに準拠した必要書類を準備しましょう。
ここでは、UBOコンプライアンスにおける注意点を解説します。
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UBOコンプライアンスにおける注意点
国ごとの定義・閾値を理解しておく
前述のように、UBOの定義は国ごとに異なります。例えば、米国・EU圏では25%が標準的な閾値ですが、インドでは10%、南アフリカでは金融機関に対して5%を閾値するなど、国によって異なります。
UBOの定義自体が異なる国もあるため、UBOコンプライアンスは多くの国でも導入されており、特に事業をグローバル展開させている企業は、海外取引先の定義・閾値に準拠したUBOコンプライアンスを意識する必要があります。
必要書類を準備しておく
UBOコンプライアンスに対応するには、一般的に次のような書類が必要です。
- すべての実質的支配者の身分証明書と住所証明
- 公証済みの証明書類
- 支配関係が明確にわかる企業の所有構造図
具体的な必要書類は、提出先の国・金融機関によって違います。過不足なく必要書類を揃えるためにも、取引先の担当者に直接確認しましょう。
まとめ

UBO(実質的支配者)とは、その企業を実質的に支配する個人を指します。日本においては「フロント企業」によるマネーロンダリングや犯罪組織への資金供与を防ぐために、企業取引におけるUBOの特定の重要性が高まっています。
実質的支配者とは分かりやすくいうと、法人の事業経営を実質的に支配できる自然人(個人)です。UBOの判断基準は国・金融機関ごとに異なるものの、一般的には議決権25%が閾値です。
また、より厳しい基準を設ける国もあるため、海外との取引が多い企業は、各国の規制に準拠した対応が求められます。特に新規取引の際は、UBOチェックを実施し、安全な取り引きに役立ててください。
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