SaaS事業とは?代表例から学ぶ定義・営業手法・具体的サービス
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- 「SaaSとは何か」従来のシステムとの違いや、コスト削減・業務効率化など導入するメリットを徹底解説
- 自社に最適なツールが見つかる!営業支援からバックオフィスまで、業務カテゴリ別のSaaS代表例を一覧で紹介
- 「導入に失敗したくない」担当者必見!目的の明確化やトライアル活用など、後悔しないSaaSの選び方を解説
この記事では、SaaSの基本的な定義から、従来のソフトウェアとの違い、PaaSやIaaSといった他のクラウドサービスとの関係性、さらにSaaSの主な種類や導入することで得られる具体的なメリット・デメリットまでを網羅的に解説します。
SaaS(サース)は、現代のビジネス環境において、特に中堅・中小企業の業務効率化や生産性向上を実現するために不可欠なツールとして、その重要性を増しています。しかし、「数多くのSaaSサービスの中から、どれを選べば自社の課題を解決できるのか」「せっかく導入するなら失敗したくない」といったお悩みを抱える担当者の方も少なくないでしょう。市場には多種多様なSaaSが存在し、その選定プロセスは決して容易ではありません。
具体的なサービス例をカテゴリ別に多数ご紹介するとともに、SaaS事業者がどのようなビジネスモデルでサービスを提供しているのか、その背景にある「The Model」や「カスタマーサクセス」といった特徴的な営業手法や、事業の成長を測るKPIについても深掘りします。
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SaaSとは?事業モデルの定義と特徴
SaaS(サース)は、現代ビジネスにおいて業務効率化や生産性向上を強力に後押しするサービスモデルです。しかし、SaaSという言葉は聞いたことがあっても、従来のソフトウェアと何が違うのか、あるいは他のクラウドサービスとの区別が曖昧だと感じる方もいらっしゃるかもしれません。
このセクションでは、SaaSの基本的な概念から、その特徴、そして従来のソフトウェアや、同じクラウドのPaaS・IaaSとの違いまでを、専門用語を使わずに分かりやすく解説します。SaaSがどのような立ち位置のサービスモデルなのかを理解することで、自社に最適なツール選定の第一歩を踏み出せるでしょう。
SaaSの読み方と基本的な意味
SaaSは「Software as a Service」の頭文字をとった略称で、日本語では「サース」と読みます。その意味するところは、「サービスとしてのソフトウェア」です。これは、私たちが普段利用しているソフトウェアの利用形態が大きく変化したことを示しています。
従来のソフトウェアは、CD-ROMなどで購入し、自分のパソコンにインストールして使うのが一般的でした。しかし、SaaS型サービスでは、パソコンに何かをインストールする必要はありません。インターネットに接続できる環境があれば、Webブラウザを開いてIDとパスワードを入力するだけで、すぐにソフトウェアの機能を利用できます。
身近な例を挙げると、GmailやGoogle Drive、あるいはZoomなどもSaaSの一種です。これらのサービスは、皆さんのパソコンやスマートフォンに専用のソフトウェアをインストールしなくても、Webブラウザ経由でアクセスし、アカウントにログインするだけで利用できます。これにより、場所を選ばずにどこからでもアクセスでき、常に最新の機能を利用できる手軽さがSaaSの大きな特徴と言えるでしょう。
従来のソフトウェアとの違い
SaaSと従来のパッケージ型ソフトウェア(一般的に「オンプレミス型」と呼ばれます)では、サービスの提供形態や料金体系、運用方法に大きな違いがあります。この違いを理解することが、SaaSのメリットを最大限に活かす上で重要です。
従来のオンプレミス型ソフトウェアは、企業が自社でサーバーやネットワーク機器を購入・設置し、その上にソフトウェアをインストールして運用します。そのため、初期費用が高額になりがちで、システムの導入までに時間と手間がかかります。また、導入後も、サーバーの保守・管理、ソフトウェアのバージョンアップ、セキュリティ対策などをすべて自社のIT部門で行う必要があり、運用負荷が大きい点が特徴です。
一方、SaaSはインターネット経由でベンダーが提供するソフトウェアを「利用」する形です。企業はサーバーを自社で用意する必要がなく、ソフトウェアのインストールも不要です。料金は月額または年額のサブスクリプション形式が一般的で、必要な時に必要な分だけ利用できるため、初期費用を大幅に抑えられます。システムの保守・運用はすべてベンダー側が行うため、自社のIT部門の負担を軽減できる点も大きなメリットです。常に最新の機能が提供され、セキュリティ対策もベンダーが実施するため、利用企業は安心してサービスに集中できます。
まとめると、SaaSは「所有」から「利用」へとソフトウェアの概念を変え、コストや運用負荷を削減しながら、迅速な導入と常に最新の環境での利用を可能にするサービスモデルと言えるでしょう。
PaaS・IaaSとの違いをわかりやすく解説
SaaSと同様に「クラウドサービス」の仲間には、PaaS(パース)やIaaS(イアース)といった言葉もあります。これらはSaaSと混同されがちですが、それぞれ提供するサービスの範囲とユーザーが担当する領域が異なります。最も分かりやすい違いは、「サービス提供事業者がどこまで責任を持つか」という点にあります。
これらの違いを「家」を建てることに例えてみましょう。
IaaS(Infrastructure as a Service)は「インフラストラクチャ(基盤)としてのサービス」を意味します。これは例えるなら「土地だけ」を提供されるようなものです。サーバーやネットワーク、ストレージといったITインフラそのものを提供し、その上にOSやミドルウェア、アプリケーションを自由に構築できるのが特徴です。ユーザーは、土地を借りて、建物の設計から建設、内装まですべて自分で行うイメージです。自由度が高い反面、専門知識と運用スキルが求められます。
PaaS(Platform as a Service)は「プラットフォーム(開発環境)としてのサービス」を意味します。こちらは「土地と、建物の骨組みまで」が提供されるようなものです。IaaSのインフラに加え、OSやデータベース、プログラミング言語の実行環境といったアプリケーション開発に必要なプラットフォームまでをベンダーが提供します。ユーザーは、骨組みのある家に内装を施すように、アプリケーションの開発に集中できるのがメリットです。
そしてSaaS(Software as a Service)は「ソフトウェアとしてのサービス」を意味します。これは「家具・家電付きの賃貸物件」に例えられます。すでに完成したアプリケーションがインターネット経由で提供されており、ユーザーはアカウントを作成してログインするだけで、すぐに利用を開始できます。アプリケーションの機能や運用はすべてベンダーが管理するため、ユーザーは専門知識がなくても、入居してすぐに生活を始められる手軽さがあります。
このように、IaaSが最も自由度が高く、SaaSが最も手軽に利用できるサービスと言えます。一般的なビジネスユーザーが日々の業務で利用するツールやシステムは、ほとんどがSaaSに該当します。そのため、もしあなたが社内の業務改善のためにシステム導入を検討しているのであれば、基本的にはSaaSの中から最適なサービスを探すことになるでしょう。
SaaS事業の2つの種類|Horizontal SaaSとVertical SaaS
SaaSには、ターゲットとする市場の広さによって大きく分けて2つの種類があることをご存知でしょうか。それが「Horizontal SaaS(ホリゾンタルSaaS)」と「Vertical SaaS(バーティカルSaaS)」です。それぞれの特徴を理解することは、自社の抱える課題に最適なサービスを見つけるための重要なヒントとなります。どちらのタイプのSaaSが自社の業務にフィットするのか、このセクションで詳しく見ていきましょう。
Horizontal SaaS(ホリゾンタルSaaS)
「Horizontal(水平)」という言葉が示す通り、ホリゾンタルSaaSは業界や業種を問わず、幅広い企業で共通して利用される汎用的なSaaSを指します。特定の部門や業務に特化している点が特徴で、例えば会計、人事、顧客管理、コミュニケーションといった、あらゆる企業に共通する機能を提供しています。
具体的なサービス例としては、クラウド会計ソフトの「マネーフォワード クラウド」や、Horizontal SaaSとして広く利用されつつもVertical SaaSとしての側面も持つビジネスチャットツールの「Slack」などが挙げられます。これらのサービスは多くの企業で導入されており、幅広い業務課題の解決に役立っています。
ホリゾンタルSaaSのメリットは、汎用性が高く導入事例が豊富なため、情報が得やすく安心して導入できる点にあります。一方で、特定の業界固有の非常にニッチな業務や商習慣には対応しきれない場合があるため、導入前に自社の特殊な業務フローとの適合性を慎重に検討する必要があります。
Vertical SaaS(バーティカルSaaS)
一方、「Vertical(垂直)」という言葉が示す通り、バーティカルSaaSは建設、医療、不動産、飲食といった特定の業界に特化して開発されたSaaSです。その業界独自の業務フロー、専門用語、商習慣に深く対応している点が最大の特徴となります。
例えば、建設業界向けのプロジェクト管理ツールや、医療機関向けの電子カルテシステムなどがバーティカルSaaSの代表例です。これらのサービスは、特定の業界の専門的なニーズにきめ細かく対応することで、業務への適合度を極めて高くしています。
バーティカルSaaSのメリットは、自社の業界特有の複雑な業務を効率化し、高い生産性向上を見込める点にあります。しかし、対象とする市場が限定されるため、ホリゾンタルSaaSと比較すると導入事例や情報が少なかったり、特定の業界向けの高い専門性や規制遵守の必要性から料金が割高になる傾向がある一方で、市場参入戦略として初期価格を抑えるケースもある点には注意が必要です。特定の業界に特化している分、導入後のサポートや機能拡張の方向性なども、業界固有の視点で行われることが多いです。
SaaSを導入するメリット
SaaS(サース)の導入は、現代のビジネスにおいて企業の競争力を高める強力な手段です。単に新しいツールを導入するだけでなく、業務のあり方そのものを見直し、効率化や生産性向上を実現するための重要なステップとなります。特に、リソースが限られる中堅・中小企業にとって、SaaSは初期投資を抑えながら、大企業と同レベルのシステムを活用できる大きな機会をもたらします。
このセクションでは、SaaS導入が企業にもたらす具体的なメリットを、導入担当者の皆様が経営層や現場担当者にその価値を説明する際に役立つ視点から深掘りします。コスト削減、業務効率の向上、そして多様な働き方の実現といった側面に焦点を当て、SaaSがいかにして企業の成長を後押しするのかを分かりやすく解説していきます。
導入コストや運用コストを抑えられる
SaaSを導入する最大のメリットの一つは、従来のソフトウェアと比較して導入コストと運用コストを大幅に抑えられる点にあります。従来のパッケージ型ソフトウェアの場合、自社でサーバーやネットワーク機器を購入・設置し、ソフトウェアを開発または購入するといった高額な初期投資が必要でした。
一方、SaaSはサービス提供事業者が用意したクラウド環境を利用するため、サーバーの購入費用や設置工事費、複雑なシステム開発にかかる初期費用が一切不要です。料金体系も月額または年額のサブスクリプション(定額制)が一般的であり、まるで携帯電話の料金のように毎月・毎年決まった金額を支払う形になります。これにより、突発的な大きな出費が発生せず、経費として処理しやすいため、予算計画も立てやすくなります。
さらに、システムのアップデートやセキュリティ対策、障害発生時の復旧作業といった保守・運用にかかる手間やコストも、SaaSの利用料金に含まれています。情報システム部門の人的リソースが限られている中堅・中小企業にとって、これらの運用業務をサービス提供事業者に任せられることは、大きな負担軽減につながり、本来の業務に集中できる環境を整えることができます。
場所やデバイスを問わずに利用できる
SaaSはインターネット経由で利用するサービスのため、場所や使用するデバイスに縛られることなく、いつでもどこでも業務を行える柔軟な働き方を実現します。インターネット環境さえあれば、オフィスにいる必要はありません。
例えば、営業担当者が外出先でスマートフォンやタブレットを使って顧客情報を確認したり、会議中にノートPCからリアルタイムでデータ入力を行ったりできます。また、コロナ禍で急速に普及したリモートワークやテレワークにおいては、情報通信技術(ICT)の活用が大きく貢献しましたが、Web会議システム、コミュニケーションツール、ファイル共有ツール、勤怠管理ツールといったSaaSは、その中でも不可欠なツールとして重要な役割を担いました。従業員が自宅のPCから安全に社内システムにアクセスし、業務を継続することが可能です。
この「場所やデバイスを問わない」という特性は、企業のBCP(事業継続計画)対策としても非常に有効です。万が一、オフィスが利用できなくなった場合でも、SaaSを利用していれば業務を停止させることなく継続できる可能性が高まります。現代の多様な働き方や予期せぬ事態への対応力を高める上で、SaaSは企業の強力な基盤となります。
常に最新の機能を利用でき、保守管理が不要
SaaSの大きなメリットの一つは、ユーザーが常に最新かつ最適な環境でサービスを利用できる点です。SaaS提供事業者は、市場のニーズや技術の進化に合わせて、定期的に機能の追加や改善、インターフェースの更新などを行います。これらのバージョンアップ作業はすべてベンダー側で実施されるため、ユーザー側で面倒なアップデート作業を行う手間やコストが発生しません。
また、法改正への対応や、日々巧妙化するサイバー攻撃からシステムを守るためのセキュリティパッチの適用はベンダーが迅速に行います。ただし、SaaS環境のセキュリティは、ベンダーと顧客の共同責任で成り立っている点に注意が必要です。ベンダーはインフラとプラットフォームのセキュリティを担いますが、データ保護、アクセス管理、各種設定、ユーザー行動の監視、第三者との連携のセキュリティについては顧客側が責任を持ちます。
APIの脆弱性や設定ミス、第三者ベンダー経由の攻撃といったSaaS特有のリスクに対しては、顧客側でも多要素認証の導入やアクセス権限の適切な管理、データの暗号化、定期的なセキュリティ監査、インシデント対応計画の策定といった対策を講じることが不可欠です。
これにより、企業は常に最新のセキュリティ対策が施された環境でサービスを利用でき、コンプライアンスや情報セキュリティ面でのリスクを大幅に軽減できます。自社でこれらの管理を行う必要がないため、情報システム部門の負担を軽減し、本来の事業活動に集中できる体制を構築することが可能です。
ユーザーは常に最先端の技術と機能の恩恵を受けながら、安全かつ効率的に業務を進められるため、変化の激しいビジネス環境においても常に優位性を保ちやすくなります。
必要な機能からスモールスタートできる
SaaSの導入は、大規模な初期投資や複雑なシステム構築を必要としないため、導入リスクを抑えながら「スモールスタート」できるというメリットがあります。多くのSaaSは、利用するユーザー数や機能に応じて複数の料金プランを用意しています。これにより、企業はまず特定の部署や最小限の機能からSaaSを導入し、その効果を検証しながら、徐々に利用範囲を拡大していくといった柔軟な対応が可能です。
例えば、「まずは営業部門のみでSFA(営業支援システム)を導入し、効果が見られれば全社展開を検討する」といった段階的なアプローチが容易に行えます。大規模な初期投資が不要なため、「導入に失敗したらどうしよう」と不安に感じる担当者にとって、心理的なハードルが低いという点も大きな魅力です。
トライアル期間を設けているサービスも多く、実際に使ってみて自社の業務に適合するかどうかをじっくりと見極めることができます。これにより、導入後の「使われないシステム」となるリスクを最小限に抑え、確実に業務改善へとつなげることが期待できます。
SaaSを導入するデメリット・注意点
SaaSの導入は、企業の業務効率化やコスト削減に大きなメリットをもたらしますが、注意すべきデメリットも存在します。導入担当者様が「間違った選択をして社内に迷惑をかけたくない」という不安を抱えるのは当然のことです。ここでは、SaaS導入を検討する際に事前に把握しておくべきデメリットと、それらに対する具体的な対策を解説します。メリットとリスクの両面を理解することで、より現実的で後悔のないSaaS選定を実現できるようになります。
カスタマイズの自由度が低い
多くのSaaSは、サービス提供事業者が単一のシステムを複数の顧客に提供する「マルチテナント」方式で運用されています。この方式はコスト効率に優れる反面、企業独自の特殊な業務への対応が難しい場合があります。例えば、既存の基幹システムに合わせてSaaSの入力項目や承認フローを細かく変更したいと考えても、制限があるケースが多いです。
この対策としては、SaaS導入を単なるツール置き換えと捉えるのではなく、これを機に既存の業務プロセス全体を見直し、効率化を目指す「BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)」の視点を持つことが重要です。SaaSが提供する標準的な機能やフローに合わせて業務を最適化することで、システム側での過度なカスタマイズ要望を減らし、導入効果を最大化できます。また、最近のSaaSではAPI連携機能が充実しているものも多く、他のシステムとデータを連携させることで、ある程度の柔軟性を確保し、自社に最適なシステム環境を構築することも可能です。
セキュリティリスクの管理が必要
SaaSを利用するということは、企業の重要なデータを社外のクラウドサーバーに預けることになります。これにより、自社でサーバーを管理する場合とは異なるセキュリティリスクが発生する可能性はゼロではありません。万が一、サービス提供事業者のセキュリティ対策が不十分だった場合、情報漏洩やデータ消失といった重大な事態を招く恐れがあります。そのため、SaaSベンダーの選定においては、そのセキュリティ体制を極めて厳しく評価することが重要です。
具体的な対策として、選定時には以下の項目を確認すると良いでしょう。
・ISO/IEC 27001などの国際的な情報セキュリティマネジメントシステム認証を取得しているか ・データの送受信や保管時に適切な暗号化が行われているか ・アクセス権限を詳細に設定できる機能があるか(例:部署や役職に応じたアクセス制限) ・特定のIPアドレスからのみアクセスを許可する機能(IPアドレス制限)があるか ・IDとパスワードだけでなく、さらに別の認証要素を組み合わせる二要素認証に対応しているか
これらの項目をチェックリストのように活用し、ベンダーに直接問い合わせて確認することで、安心して利用できるSaaSを見極めることができます。
サービス障害やメンテナンスの影響を受ける
SaaSはインターネットを通じてサービスが提供されるため、サービス提供元のサーバーで大規模な障害が発生した場合や、定期的なシステムメンテナンスが行われる際には、一時的にサービスが利用できなくなる可能性があります。これは自社でオンプレミスシステムを運用している場合には考えにくい、SaaS特有のデメリットと言えるでしょう。例えば、経理処理の締め日や営業活動のピーク時にサービスが停止してしまうと、業務に大きな支障をきたす恐れがあります。
このリスクを軽減するためには、SaaSベンダーとの契約内容を十分に確認しておくことが重要です。具体的には、SLA(Service Level Agreement:サービス品質保証)に定められた稼働率保証の値(例:月間稼働率99.9%など)や、障害発生時の通知方法、復旧プロセス、そしてサポート体制(問い合わせ窓口の対応時間や緊急時の連絡先など)について事前に確認し、自社の事業継続計画(BCP)と照らし合わせて問題がないか判断してください。万が一に備え、オフラインでの代替手段や手動での対応方法も検討しておくと安心です。
ベンダーロックインの可能性がある
SaaSを一度導入し、業務プロセスや顧客データなどがそのサービスに深く依存するようになると、他のサービスへの乗り換えが非常に困難になる「ベンダーロックイン」のリスクが生じます。これは、SaaSの利便性や継続利用のメリットと表裏一体のデメリットとも言えます。
例えば、データの形式がそのSaaS固有のものであったり、従業員がそのSaaSの操作に習熟してしまったりすると、いざ別のサービスに移行しようとした際に、データの移行コスト、従業員の再教育コスト、そして移行期間中の業務停止リスクなど、多大な時間と費用がかかってしまいます。また、カスタムAPIによるシステム連携の深化やベンダー固有の認証システムなども、代替サービスへの移行にかかる費用や再構築の労力を大きくする要因となります。
実際に、企業の69.2%がSaaSのベンダーロックイン状態にあると回答しており、その主な要因は移行コストと作り込みであるという調査結果もあります。このようなリスクを軽減するためには、長期契約を避けたり、解約条件を事前に確認したり、あるいは複数のクラウドベンダーを使い分けるマルチクラウド戦略を検討したりすることが有効です。
このようなベンダーロックインのリスクを最小限に抑えるためには、契約を締結する前に、サービス解約時におけるデータの取り扱いについてベンダーに確認しておくことが非常に重要です。具体的には、「蓄積したデータをどのような形式(例:CSV形式や標準的なデータベース形式など)でエクスポートできるか」「エクスポートされるデータの範囲や、データポータビリティを保証する仕組みがあるか」などを明確にしておきましょう。これにより、将来的にサービスを乗り換える必要が生じた場合でも、スムーズなデータ移行が可能となり、企業の柔軟性を保つことができます。
【カテゴリ別】SaaSサービスの代表例一覧
数多くのSaaSサービスの中から、自社に最適なものを選ぶためには、具体的なサービスを知ることが近道になります。このセクションでは、中堅・中小企業で特に導入ニーズの高い業務カテゴリに焦点を当て、それぞれの課題解決に役立つ代表的なSaaSサービスをご紹介します。各カテゴリでどのような業務を効率化できるのか、そしてどのような企業に適しているのかを簡潔にまとめましたので、ぜひ自社の課題と照らし合わせながらご覧ください。
営業支援・顧客管理(SFA/CRM)
営業活動の効率化と顧客情報の一元管理は、企業の売上向上に直結する重要な課題です。SFA(Sales Force Automation:営業支援システム)は、営業担当者の行動管理や案件の進捗状況を可視化し、営業プロセス全体の最適化を支援します。一方、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)は、顧客とのあらゆる接点から得られる情報を一元的に管理し、顧客との良好な関係構築・維持を目的とします。両者は密接に連携し、営業活動を強力にサポートします。
代表的なサービスとしては、顧客管理や案件管理といった営業活動を支援する様々な機能を持ち、ビジネス要件に合わせて柔軟にカスタマイズできる「Salesforce Sales Cloud」が挙げられます。こちらは、より高度な営業戦略を実現したい企業におすすめです。
また、ノーコードで手軽に業務アプリを作成できる「kintone」は、プラグインやAPI連携による高度なカスタマイズや外部システム連携を通じてローコード開発も可能にするツールです。拡張機能であるプラグインには無料のものと有料のものがあり、特に高機能なものや専門的なプラグインは有料となるケースが多いため、利用によっては追加費用が発生する可能性もある一方で、自社の業務フローに合わせて柔軟にシステムを構築したい企業に適しています。さらに、CRM機能と連携して無料で始められる「HubSpot Sales Hub」は、営業活動の効率化と顧客関係の深化に貢献し、顧客との関係構築から営業活動までを一貫して管理したい企業におすすめです。
マーケティングオートメーション(MA)
マーケティングオートメーション(MA)ツールは、見込み客(リード)の獲得から育成、そして営業への引き渡しまでの一連のマーケティング活動を自動化・効率化するSaaSです。Webサイト上の行動履歴やメールの開封率、資料ダウンロード状況などをもとに、見込み客の関心度合いをスコアリングし、購入意欲の高い見込み客を適切なタイミングで営業担当者に共有することで、商談機会の最大化を支援します。
BtoB企業のマーケティングに強みを持つ「Marketo Engage」は、複雑なシナリオ設定や高度なデータ分析に対応し、大規模なマーケティング活動を展開する企業に適しています。Salesforceとの連携がスムーズな「Account Engagement(旧 Pardot)」は、Salesforceのデータに基づいた顧客アプローチや営業活動の効率化を通じて、マーケティングと営業の連携を強化したい企業に有効です。また、国産ならではのきめ細やかなサポートと、匿名リードへのアプローチが強みの「SATORI」は、初めてMAツールを導入する企業や、国内市場に特化したマーケティングを行いたい企業におすすめです。
コミュニケーション(ビジネスチャット・Web会議)
現代のビジネスにおいて、社内外の円滑なコミュニケーションは業務効率と生産性の向上に不可欠です。ビジネスチャットやWeb会議システムは、離れた場所にいるメンバー間でも迅速な情報共有と意思決定を可能にし、リモートワークや拠点間の連携を強力にサポートします。
ビジネスチャットの代表例としては、外部サービスとの連携機能が豊富な「Slack」は、様々なツールを連携させてワークフローを自動化したい企業に人気です。シンプルで直感的に使える「Chatwork」は、中小企業や初めてビジネスチャットを導入する企業でも浸透しやすいでしょう。Microsoft Office製品との親和性が高い「Microsoft Teams」は、既にMicrosoft 365を導入している企業にとって、スムーズな導入と活用が期待できます。
Web会議システムでは、高品質な音声・映像と安定した接続で広く普及している「Zoom」が、多くの企業で利用されています。また、Googleアカウントがあれば手軽に利用できる「Google Meet」は、G Suite(現Google Workspace)を利用している企業にとって、シームレスな連携が可能です。これらのツールは、出張費の削減や移動時間の短縮にも貢献し、柔軟な働き方を実現する上で欠かせない存在となっています。
バックオフィス(会計・人事労務・経費精算)
経理、人事、総務といったバックオフィス業務は、定型的な作業が多く、SaaS導入による自動化・効率化の恩恵を最も受けやすい領域の一つです。これらのシステムは、ペーパーレス化を推進し、法改正への自動対応、そして担当者の負担軽減に大きく貢献します。
会計ソフトでは、個人事業主から中小企業まで幅広く利用されている「マネーフォワード クラウド会計」や、銀行口座やクレジットカードとの連携に強みを持つ「freee会計」が代表的です。これらのSaaSは、仕訳の自動化や決算業務の効率化を実現します。
人事労務ソフトでは、入社手続きから年末調整までを一元管理できる「SmartHR」が、従業員情報のペーパーレス化と手続きの簡素化を推進します。勤怠管理から給与計算、人事評価までをカバーする「jinjer」は、人事関連業務の統合管理を目指す企業に適しています。
経費精算システムでは、「楽楽精算」が、領収書の写真撮影によるデータ化や、交通系ICカードとの連携などにより、従業員の経費申請業務と経理担当者のチェック業務を大幅に効率化します。これらのバックオフィス系SaaSは、管理部門の生産性を向上させ、企業全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上で不可欠なツールと言えるでしょう。
プロジェクト・タスク管理
チームや個人のタスク管理、プロジェクトの進捗状況を可視化し、業務の抜け漏れを防ぎ、生産性を向上させるSaaSも多く提供されています。「誰が」「何を」「いつまでに行うか」を明確にすることで、チーム全体の生産性を高め、目標達成を支援します。
柔軟なカスタマイズ性と豊富な機能で、様々なプロジェクト管理手法に対応できる「Asana」は、大規模なプロジェクトや複雑なタスク管理を行う企業に適しています。カンバン方式で直感的に使える「Trello」は、タスクを視覚的に管理し、チーム内の情報共有をスムーズに行いたい企業に好評です。また、ガントチャートやWiki機能も充実した「Backlog」は、日本の企業である株式会社ヌーラボが提供するツールであることから、ソフトウェア開発プロジェクトなど、特に技術系のチームに多く導入されています。
これらのツールは、プロジェクトの全体像を把握しやすくし、ボトルネックを早期に発見することで、納期遅延のリスクを低減する効果が期待できます。
情報システム(統合基幹業務システム – ERP)
企業の基幹業務である会計、人事、生産、販売などの情報を一元的に管理し、経営状況をリアルタイムに可視化するのがERP(Enterprise Resource Planning)システムです。従来、ERPはオンプレミス型で大企業向けの高価なシステムというイメージがありましたが、近年は中堅・中小企業でも導入しやすいクラウド型のERP、すなわちSaaS版ERPが増加しています。
SaaS版ERPは、従来のERPが抱えていた高額な初期導入費用や運用保守コスト、システム管理の手間といった課題を解決します。代表的なサービスとしては、グローバル企業で広く利用されている「Oracle NetSuite」や「SAP S/4HANA Cloud」などがあります。これらは、高度な機能とグローバル対応力が特徴です。国内の中小企業向けに特化したクラウドERPも登場しており、日本の商習慣に合わせた機能やサポートが充実しているサービスも増えています。
SaaS版ERPを導入することで、部門間の情報連携がスムーズになり、経営層はリアルタイムなデータに基づいた迅速な意思決定が可能になります。これにより、企業全体の生産性向上と競争力強化に大きく貢献するでしょう。
SaaS事業における特徴的な営業手法
SaaS(Software as a Service)を提供する企業のビジネスモデルを深く理解すると、「なぜこれほど手厚いサポートが受けられるのだろう」という疑問が解消されます。SaaS業界では、効果的な営業・マーケティング活動と顧客の成功支援のために、「The Model(ザ・モデル)」というフレームワークや「カスタマーサクセス」という概念が広く採用されています。これらのユニークな手法を知ることで、SaaSベンダーがどのような思想で事業を展開し、私たちユーザーとどのように関わろうとしているのか、その背景をより深く理解できるようになります。
分業体制を構築する「The Model(ザ・モデル)」
「The Model(ザ・モデル)」は、世界的なCRM(顧客関係管理)ベンダーであるセールスフォース・ジャパンで活用されてきた営業プロセスのフレームワークです。マーケティングから営業、カスタマーサクセスに至るまでの情報を可視化・数値化し、営業効率の最大化を図ることを目的としています。従来の営業担当者がすべてのプロセスを担当するのではなく、営業活動を専門的な役割を持つ4つの部門に分業することで、効率と成果の最大化を目指す手法です。
具体的には、「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」の4つの部門が連携します。
・マーケティング:Webサイトやセミナー、広告などを通じて、将来顧客となりうる見込み客(リード)を創出します。潜在的なニーズを持つ企業を特定し、初期的な興味を引くのが主な役割です。 ・インサイドセールス:マーケティング部門が獲得した見込み客に対し、電話やメール、Web会議ツールなどを活用して非対面でコミュニケーションを取り、見込み客の課題やニーズを具体的にヒアリングします。
その上で、商談化の確度が高いと判断された見込み客をフィールドセールスに引き渡す役割を担います。 ・フィールドセールス:インサイドセールスから引き継いだ見込み客に対して、より具体的な課題解決策の提案やデモンストレーションを行い、契約締結(クロージング)までを担当します。 ・カスタマーサクセス:SaaS導入後の顧客に対し、サービスの適切な活用を支援し、定着化を促進することで、顧客がビジネス目標を達成できるよう能動的にサポートします。(この部門については、次のセクションで詳しく解説します。)
このように営業プロセスが分業されているため、ユーザー視点で見ると、検討段階から導入、そして導入後まで、それぞれのフェーズで専門の担当者から的確なサポートを受けられるというメリットがあります。これにより、安心してSaaSの導入を進め、効果的な活用に繋げることが期待できます。
LTVを最大化する「カスタマーサクセス」
SaaSビジネスの収益モデルは、従来のパッケージ型ソフトウェアのように「売り切り」ではありません。月額や年額で利用料を支払う「サブスクリプション」型であるため、いかに顧客にサービスを長く使い続けてもらうかが、事業の成長において極めて重要となります。この「顧客にサービスを使い続けてもらう」という目標を達成するために、SaaS業界で確立されたのが「カスタマーサクセス」という概念です。
カスタマーサクセスは、単なるお問い合わせ対応を行う「カスタマーサポート」とは一線を画します。顧客からの問い合わせに対応する受け身の姿勢ではなく、顧客がサービスを最大限に活用し、ビジネス上の目標を達成できるよう、能動的に支援する役割を担います。たとえば、以下のような活動を通じて、顧客の成功を後押しします。
・サービスの初期設定やオンボーディング(導入支援) ・具体的な活用方法の提案やトレーニング ・利用状況のモニタリングと課題の早期発見 ・定期的なミーティングを通じた進捗確認や新たなニーズのヒアリング ・新機能の案内や既存機能の活用促進
このような能動的な働きかけによって、顧客はSaaSを導入した目的を達成しやすくなり、結果としてサービスの継続利用へと繋がります。SaaSベンダーにとって顧客の継続利用はLTV(顧客生涯価値)の最大化に直結し、ユーザーにとっては導入後の手厚いサポートによって、サービスの価値を最大限に引き出し、ビジネス成果を向上させることに繋がるのです。
SaaSビジネスの成長を測る重要指標(KPI)
SaaSビジネスでは、その健全性や成長性を評価するために、一般的な事業とは異なる独自の重要業績評価指標(KPI)が用いられます。これらの指標を理解することで、導入担当者の方々が検討しているSaaSベンダーの安定性や将来性を見極める一助となり、「安心して長く付き合える企業か」を判断する材料になります。専門的な内容ではありますが、それぞれの指標が何を意味するのかを簡潔に解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
MRR/ARR(月次/年次経常収益)
MRR(Monthly Recurring Revenue:月次経常収益)とARR(Annual Recurring Revenue:年次経常収益)は、SaaSビジネスにおいて最も基本的ながら重要な指標です。これらは、毎月または毎年、安定的に継続して得られる収益の合計額を示します。一度売って終わりではなく、顧客がサービスを使い続けることで積み上がる収益であるため、SaaS企業の事業の安定性や将来の成長を予測する上での基盤となります。
例えば、MRRが着実に右肩上がりに成長している企業は、新規顧客の獲得が順調であるだけでなく、既存顧客がサービスを継続して利用している、つまり顧客満足度が高い証拠と判断できます。これにより、投資家や取引先だけでなく、サービス導入を検討する企業にとっても、そのベンダーが持続的にサービス提供や機能改善を行える健全な企業であるかを見極める手がかりとなるのです。
LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)とCAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得コスト)は、SaaSビジネスの投資効率と収益性を測る上で欠かせない指標です。LTVは、一社のお客様がサービス契約期間中に、その企業にもたらす総収益を指します。一方、CACは、一社の新規顧客を獲得するためにかかったマーケティング費用や営業人件費といった総コストを意味します。
SaaSビジネスが持続的に成長するためには、「LTVがCACを上回る」ことが絶対条件となります。具体的には、一般的に「LTVがCACの3倍以上」であることが健全なビジネスモデルの一つの目安とされていますが、この比率は業界やビジネスモデル、さらにはビジネスの成長段階や市場戦略によっても変動する可能性があります。もしLTVがCACよりも低い場合、新規顧客を獲得するたびに赤字が増えていくことになるため、事業の継続が難しくなります。この指標を知ることで、SaaSベンダーが効率的かつ持続可能な方法で顧客を獲得し、長期的な関係を築いているかを判断できます。
チャーンレート(解約率)
チャーンレート(Churn Rate)は、SaaSビジネスにおける顧客の「解約率」を示す重要な指標です。SaaSは継続利用が前提となるサブスクリプションモデルであるため、新規顧客の獲得と同時に、既存顧客にサービスを継続して利用してもらうことが事業成長の鍵となります。そのため、チャーンレートをいかに低く抑えるかが、SaaS企業の経営戦略において極めて重視されます。
チャーンレートが低いということは、顧客満足度が高く、製品やサービスが市場に強く受け入れられている証拠と言えます。逆にチャーンレートが高い場合は、サービス内容やサポート体制、価格などに何らかの課題がある可能性を示唆します。チャーンレートには、解約した顧客数に基づいて算出する「カスタマーチャーンレート」と、解約によって失われた収益額に基づいて算出する「レベニューチャーンレート」の2種類があります。
レベニューチャーンレートはさらに「グロスレベニューチャーンレート」と「ネットレベニューチャーンレート」に分けられ、これら両方を分析することで、顧客の解約状況と収益への影響をより詳細に把握し、効果的な顧客維持戦略を立てることができます。
具体的には、顧客数と売上が比例するビジネスモデルではカスタマーチャーンレートが、顧客ごとに契約金額が異なる場合や複数の料金プランを提供するビジネスではレベニューチャーンレートが特に有効です。ベンダーのチャーンレートを知ることは、そのサービスが長期的に多くの企業に利用され続けているか、つまり信頼性や安定性があるかを判断する上で役立ちます。
失敗しないSaaSサービスの選び方とポイント
SaaS導入は、企業の業務効率化や生産性向上を実現する強力な手段となる一方で、「自社に合うサービスがどれかわからない」「導入に失敗したらどうしよう」といった不安を抱える担当者の方も少なくありません。市場には数多くのSaaSサービスが存在し、選定基準も多岐にわたるため、意思決定には慎重さが求められます。
このセクションでは、SaaS導入で後悔しないための具体的な選び方と、確認すべき重要なポイントをステップバイステップで解説します。これまでの記事で解説したSaaSの基本やメリット・デメリット、代表的なサービス例を踏まえ、皆様が自信を持ってSaaS導入の意思決定ができるよう、実践的な選定プロセスをご紹介します。社内での稟議や導入プロジェクトをスムーズに進めるためのヒントとして、ぜひお役立てください。
導入目的と解決したい課題を明確にする
SaaS選定において、まず最初に取り組むべき最も重要なステップは、「何のためにSaaSを導入するのか」「SaaS導入によってどのような課題を解決したいのか」という目的を明確にすることです。「流行っているから」「競合他社が使っているから」といった漠然とした理由でサービスを選んでしまうと、導入後に「期待した効果が得られない」「費用対効果が見合わない」といった事態に陥る可能性が高くなります。
具体的な目的設定としては、例えば「営業日報の作成・共有にかかる時間を月間20時間削減する」や「請求書の作成から郵送までの一連の業務を電子化し、年間で○円のコスト削減とペーパーレス化を実現する」といったように、定量的または定性的な目標を具体的に言語化することが重要です。この明確な目的意識こそが、数あるSaaSの中から本当に自社に必要なサービスを見極めるための羅針盤となり、後の機能選定や費用対効果の測定において、ブレない軸となります。 現場の業務担当者や経営層とも連携し、現状の業務プロセスにおける具体的な課題や非効率な点を洗い出すことで、より本質的な導入目的を設定できるようになります。
機能とコストのバランスを見極める
明確な導入目的が設定できたら、次にその目的を達成するために必要な機能を洗い出し、コストとのバランスを見極めるステップに進みます。この際、必要な機能を「必須機能(Must-have)」と「希望機能(Nice-to-have)」に分類して整理することをおすすめします。多機能なSaaSは魅力的に見えますが、利用しない機能が多ければ多いほど、その分だけ無駄なコストを支払うことになります。自社の課題解決に本当に必要な機能が揃っているか、そして過剰なスペックになっていないかという視点を持って、サービスを評価しましょう。
また、コスト面では初期費用だけでなく、月額料金、ユーザー単価、オプション料金、そして最低契約期間などを総合的に比較検討することが重要です。複数の候補サービスから見積もりを取り、自社の利用状況を想定した上で、長期的な視点での総コストをシミュレーションすることで、予算計画の精度を高め、予期せぬ出費を避けることができます。
セキュリティ対策とサポート体制を確認する
SaaSは企業の重要なデータをクラウド上に預けることになるため、安心してサービスを使い続けるためには、ベンダーのセキュリティ対策とサポート体制の確認が不可欠です。セキュリティ面では、以下の項目を重点的にチェックしてください。
・ISO/IEC 27001などの国際的な第三者認証を取得しているか ・データの暗号化は適切に行われているか ・アクセス権限の詳細な設定が可能か ・IPアドレス制限や二要素認証など、不正アクセス対策は講じられているか ・データのバックアップ体制はどうなっているか
これらの項目を確認することで、自社の情報セキュリティポリシーに合致しているか、重要な情報資産が適切に保護されるかを確認できます。
次に、サポート体制です。導入時の不明点を解決してくれるオンボーディング(導入支援)の有無や内容、導入後の問い合わせ方法(電話、メール、チャットなど)、対応時間、そしてFAQなどの情報提供が充実しているかを確認しましょう。特に、SaaSビジネスの根幹をなす「カスタマーサクセス」の存在は、導入後のサービス定着や活用促進において極めて重要な要素です。単なる問い合わせ対応に留まらず、顧客がサービスを最大限に活用して成果を出せるよう、能動的に支援してくれる体制が整っているかを確認することは、長期的な利用において非常に大きな意味を持ちます。
既存システムとの連携性をチェックする
SaaSを導入する際、そのサービス単体で完結するケースは少なく、多くの場合、既存の会計ソフト、CRM、ビジネスチャット、勤怠管理システムといった他の社内システムと連携して利用することになります。SaaSを社内システム全体の一部として捉え、既存システムとの連携性を事前に確認することは、業務の効率を最大化し、データのサイロ化を防ぐ上で極めて重要です。
API(Application Programming Interface)が提供されているか、そしてどのようなサービスと標準で連携できるのかを、導入前にしっかりと確認しましょう。API連携が可能であれば、データの二重入力や転記ミスといった非効率な作業を削減し、部門間のスムーズな情報共有や業務プロセスの自動化を実現できます。例えば、営業支援SaaSと会計SaaSを連携させることで、営業が入力した案件情報から自動で請求書が作成されるといったメリットが考えられます。連携機能が不十分な場合、SaaSを導入したことでかえって手作業が増えてしまうといった本末転倒な状況になりかねません。デモやトライアルの段階で、実際に利用しているシステムとの連携が可能か、その操作性を含めて検証することをおすすめします。
無料トライアルで操作性を試す
いくつかのSaaSサービスが候補として絞り込めたら、最終決定の前に必ず無料トライアル(試用期間)を活用することをおすすめします。デモ画面や営業資料だけでは把握しきれない、サービスの直感的な使いやすさ(UI/UX)や、実際の業務フローへの適合性を実地で確認できる貴重な機会です。
無料トライアルでは、導入担当者だけでなく、実際にそのツールを利用する現場の従業員にも参加してもらいましょう。複数名で様々な機能を試用し、日々の業務における使い勝手や、既存の課題が本当に解決されるのかを検証します。
例えば、画面のわかりやすさ、機能へのアクセス方法、レスポンス速度、エラー発生時のメッセージのわかりやすさなど、細部にわたる操作性を確認してください。これにより、導入後に「現場で使われない」という最大のリスクを回避し、スムーズな定着と高い利用率を実現するための確かな判断材料を得ることができます。トライアル期間中に積極的に疑問点を洗い出し、ベンダーのサポート体制も合わせて確認することで、より安心して導入を進められるでしょう。
まとめ
本記事では、SaaSの基本的な定義から、従来のソフトウェアや他のクラウドサービスとの違い、メリット・デメリット、そして具体的なサービス例、さらには選定のポイントまでを網羅的に解説しました。
SaaSの導入は、単に新しいツールを導入するだけでなく、業務プロセスそのものを見直し、最適化する絶好の機会です。現代のビジネス環境はめまぐるしく変化しており、特に中堅・中小企業にとっては、業務効率化や生産性向上を実現するための強力なソリューションとなります。
「間違った選択をして社内に迷惑をかけたくない」という不安をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、本記事でご紹介した「導入目的の明確化」「機能とコストのバランス」「セキュリティとサポート体制の確認」「既存システムとの連携性」「無料トライアルでの操作性確認」という5つのポイントを押さえることで、自信を持って最適なSaaSを選び、自社の課題解決に向けた次の一歩を踏み出せるはずです。
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