標準原価計算と実際原価計算の違い｜原価差異の分析方法について解説

標準原価計算とは、原価を管理するための原価計算を指します。製造業では、利益を拡大させるために、原価を正確に計算し、分析することが必要です。本記事では、標準原価計算と実際原価計算の違いや原価の計算方法、原価差異の分析方法などをわかりやすく解説します。

目次

開く

閉じる

1. 標準原価計算・実際原価計算とは
2. 原価の計算方法
3. 標準原価と実際原価の差を分析する
4. 原価計算を効率化する方法
5. 原価計算を効率化できる原価管理システム
6. まとめ

標準原価計算・実際原価計算とは

原価計算とは、企業が製品やサービスのコストを評価し、管理するための方法論です。原価計算の方法としては、標準原価計算と実際原価計算の2つの方法があります。

標準原価計算は、事前に設定された標準コストまたは理論的に予測されたコストに基づいて、製品や商品のコストを算出する方法です。標準原価は、実際原価が算出できた時点で、双方を比較して分析されます。

実際原価計算は、実際のコストを基にして製品やサービスのコストを計算する方法です。この計算方式は、主に製造業における実際の製造工程で発生したコストに基づいて、コストを分析・評価する場合に使用されます。

標準原価計算とは

標準原価計算は、製品などのコストを事前に評価して管理するための方法であり、理論的な予測コストに基づいてコストを計算します。製造業においては、製造工程を詳細に分析し、材料・労働力・間接費といった各コストの要因に対して標準コストを設定します。

メリットは、標準原価計算の主な目的となる原価管理が明確化されることです。標準原価はあらかじめ科学的に算出された原価の目標値であり、特別な事情がない限り変更されることが少ないため、一定程度の正確性を持ち合わせた目標値として機能します。

ただし、現実の単価を単純化することがあるため、実際のコストとの乖離が生じる可能性を考慮しなければなりません。また、市場価格や外部要因の変動に対して柔軟に対応することが難しく、予測が困難なことから制約が生じることもあります。

標準原価の分類

標準原価は大きく次の4つに分類されます。

1. 理想標準原価
2. 現実的標準原価
3. 正常原価
4. 基準標準原価

理想標準原価は原価を高める原因となるものを省いたものを示し、現実的標準原価は理想標準原価で省いたものを考慮して実際に発生する原価を算出するものです。そして、正常原価は過去の実績などに将来的な予測を加えた原価です。

また、基準標準原価は翌年度以降の継続を視野に入れた標準原価を指します。これら4つをまとめたものを、総じて標準原価と呼びます。

標準原価計算と見積原価計算の違い

標準原価計算は、過去の材料費・労務費・間接費などの製造コストを分析し、定めた目標値である標準原価をベースにして算出します。

見積原価計算は、原価を計算する際の基本的な流れは標準原価の算出と同じですが、ベースとなる製造コストに関しては、経験に基づく予測値を用いて計算することになります。

つまり、標準原価が過去の製造実績や現在の状況を基準として算出するのに対して、見積原価は過去の経験や知識などを基準に予測値として算出される点に違いがあります。

実際原価計算とは　

実際原価計算は、製造工程で実際に発生した材料費・人件費・間接費・輸送費などの原価を用いて、製造原価を求める計算方法です。各製品のコストを、数量や生産量に基づいて単位コスト化するため、1つの製品コストが正確に計算されます。

実際原価計算のメリットは、実際のデータに基づいて算出されることから、非常に正確なコスト計算が可能となる点です。また、価格設定で実際のコストを反映することができるため、実質的な価格が設定できます。
なお、製品の原価を事後的にしか把握できない点や、データ収集と集計に時間と労力がかかる点がデメリットです。特に、複雑な製品の生産プロセスでは、収集作業が煩雑かつ長時間に渡ることがあります。

標準原価計算と実際原価計算の違い

標準原価計算では、事前に設定した標準コストや理論的な予測コストに基づいて製品のコストを計算します。事前に設定されたコストを基に計算するため、コストの透明性が高まって無駄を削減できます。

標準原価計算の場合は、予測原価と実際のコストを比較して作業効率の評価ができます。また、現実の単価を単純化するため、実際のコストとの乖離が生じることがあります。

実際原価計算では、製造時点で発生した材料費・人件費・間接費などの実際のコストに基づいて製品コストを計算するため、正確な原価計算が可能となります。一方、製品の原価を事後的にしか把握できず、データ収集や集計に時間と労力がかかる場合があります。

つまり、実際に発生したコストを用いて計算するのか、正確な原価計算ができるか否かといった点で、標準原価計算と実際原価計算には大きな違いがあります。

原価の計算方法

原価計算は、製品や商品のコストを評価し、事業の収益性を把握するために重要です。原価計算にはいくつかの方法があり、それぞれ異なるアプローチで原価を導き出します。ここでは、主要な原価計算方法として、以下の3つの方法を詳しく解説します。

＼気になる項目をクリックで詳細へジャンプ／

標準原価の計算方法

標準原価計算は、製品やサービスの各コスト要素を詳細に分析し、標準コストを設定する計算方法です。コストの種類としては、材料費・人件費・間接費・輸送費などがあります。標準原価は一般的に、過去の実績データや市場調査に基づいた標準値が設定されます。

標準原価の計算では、製品1単位にかかる標準の材料費などを設定して合計値を算出します。例えば、1製品ごとの標準材料費が1,000円、標準労務費が600円、標準間接費が400円の場合だと、1製品あたりの標準原価は2,000円となります。

ただし、標準原価計算は理論的な予測に基づいているため、実際のコストとの乖離が生じること、市場価格や外部要因などの変動に対応するのが難しい点に注意が必要です。

見積原価の計算方法

見積原価とは、製造業において新製品の企画・開発段階で見積もりを行う製造原価のことです。製造に取り掛かるための材料発注や設備投資として、設計図などから過去の経験や知識を基に原価を予測します。

見積原価の計算方法は基本的に標準原価と同じですが、製造コストとして経験に基づく予測値を使用して計算します。標準原価が過去の製造実績や現在の状況を基に算出するのに対して、見積原価の計算は過去の経験・知識などの予測値を基準にします。

よって、見積原価を算出する際には全体の原価を出す必要があります。材料費・直接加工費・間接費などの原価を明確にしつつ、漏れがないように注意しましょう。仮に見積原価が実際の原価と大きく異なって低めに設定されると、製品が売れても収益率は減少します。

実際原価の計算方法

実際原価を算出する場合には、製品を製造する工程で実際に発生したコストをベースにします。コストには、製造時に使用した材料費・労務費・間接費・数量・作業に費やした作業時間などを使用し、実際原価を算出します。

例えば、製品を500個製造する際、必要とされる材料費が200万円、人件費が60万円、間接費が40万円の場合には、製品全体の製造原価は、200万円+60万円+40万円＝300万円となります。そして、1製品あたりの実際原価は6,000円です。

実際原価計算の注意点としては、実際にかかったコストを基にすることから比較的計算しやすいですが、実際の正確なデータを必要とし、収集までに手間と時間がかかることです。

標準原価と実際原価の差を分析する

標準原価と実際原価の差を分析することにより、製品の実際のコストがどれだけ標準原価から逸脱しているかを把握できます。これにより、原価管理における正確性が向上し、無駄な費用の削減が可能になります。

製品の価格設定の際には原価の正確な把握が不可欠ですが、標準原価と実際原価の差を分析することにより、競争力のある価格設定が可能となり、利益の最大化に効果があります。

企業は一般的に、予算を立ててから事業計画を策定します。標準原価は予算に基づいて設定されることが多いため、実際原価が予算とどれだけ合致しているかを分析・確認することで、予算を策定する際の精度向上に役立ちます。

原価差異の分析方法

原価差異を分析することにより、標準原価と実際原価の間に生じた差異を把握して原因を明らかにできます。原価の差異を比較する方法もありますが、ここでは以下の原価差異の分析方法について解説します。

＼気になる項目をクリックで詳細へジャンプ／

価格差異

価格差異は、購入した材料や部品などの価格が、標準原価と比較して異なる場合に発生します。価格差異の1つである材料価格差異は、材料の単価が標準原価から変動する場合に生じます。これは、供給業者からの価格変更や市場価格の変動に関連しています。

価格差異は、次の式を用いて計算することができます。

　価格差異 = (実際の価格 – 標準価格) × 実際の数量

「実際の価格」は実際に支払った価格（原材料やサービスの単価）を指し、「標準価格」は標準原価計算に基づいて設定された価格です。「実際の数量」は、実際に購入または利用した数量を意味します。

数量差異

数量差異は、実際の生産数量が標準原価計画における予測数量と異なる場合に生じます。この差異は、生産過程における変動・生産ラインの停止・不良品の発生などが原因となります。

数量差異は、次の式を用いて計算できます。

　数量差異 = (実際の数量 – 標準数量) × 標準原価

「実際の数量」は実際に生産された製品や部品の数量を指し、「標準数量」は標準原価計画に基づいて設定された予測数量です。「標準原価」は標準原価計画に基づいて設定された単位あたりのコストになります。

賃率差異

賃率差異は、労働力に関連するコストの変動を分析・評価する方法です。この差異は、実際の賃金率と標準賃金率における違いを示し、賃率差異の分析では従業員の労働コストが予想とどれだけ異なるかを把握します。

賃率差異は、次の式を用いて計算することができます。

　賃率差異 = (実際の賃金率 – 標準賃金率) × 実際の労働時間

「実際の賃金率」は実際に支払われた賃金率を指し、「標準賃金率」は標準原価計画に基づいて設定された賃金率、「実際の労働時間」は実際の従業員の労働時間です。

時間差異

時間差異は原価差異分析の一部で、実際の労働時間と標準労働時間を比較して違いを評価する方法です。この差異は製造工程の効率性を評価し、生産プロセスの改善や従業員のスキル向上を考慮する場合に役立ちます。

時間差異は、次の式を用いて計算します。

　時間差異 = (実際の労働時間 – 標準労働時間) × 標準賃金率

「実際の労働時間」は、実際に従業員が製品を製造するのにかかった労働時間を指します。「標準労働時間」は、標準原価計画に基づいて設定された労働時間で、「標準賃金率」は標準原価計画に基づいて設定された賃金率です。

原価計算を効率化する方法

多くの計算方法を活用する原価計算は、業務担当者にとって大きな負担ともなります。そこで、原価計算を効率化する方法として、企業では以下のようなことが取り入れられています。

1. 定期的な標準原価計算の見直し
2. 生産管理による現場の正確なデータ管理
3. 原価計算を意識した企業の経営判断
4. 現状の業務工程の洗い出しと改善
5. 原価管理システムの導入

まずは定期的な標準原価計算の見直しを行うことが一番重要であり、材料費や労働費などを正確に把握しながら標準原価計算を適切に行っていく必要があります。その際、効果的な経営判断へとつなげるためにも、原価管理システムの導入を検討する企業が多いです。

原価計算を効率化できる原価管理システム

原価計算の効率化には原価管理システムの活用がおすすめです。システムは、製品やサービスの生産にかかる材料費・労働費・間接費などを正確に計算します。これにより、製品の実際の原価を的確に把握し、価格設定や収益予測の際に正確なデータを使用できます。

手作業で原価計算を行う場合、一つひとつの計算に時間がかかりヒューマンエラーが生じやすいですが、原価管理システムで自動化することにより、計算時間を大幅に短縮できます。その結果、従業員は他の業務に時間を割くことが可能です。

また、原価管理システムによる正確な原価情報を基にして、競争力を持ち合わせた価格設定が実現します。そして、高品質な製品の開発、製造などの原価計算、予算配分の際にも効果的であり、市場における競争力向上に寄与します。

まとめ

標準原価計算と実際原価計算は、企業におけるコスト管理や価格設定で必要不可欠な要素です。標準原価計算は事前に設定した基準に沿ってコストを算出し、効率性の向上や無駄の削減に役立ちます。

また、実際原価計算は実際のコストを元に製品のコストを計算して正確なデータを提供します。そして、原価管理システムの導入には、原価計算方法を効率化してコスト管理を向上させるなど、多くのメリットがあります。

自社に最適な原価管理システムの選択は、業務の効率化や収益向上に向けて非常に重要です。煩雑化する原価計算に悩みを抱える場合は、導入を検討しつつ企業の競争力を強化しましょう。