給与前払いサービスは賃金業に該当する?利用時の注意点も解説

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  • 給与前払いサービスは、従業員が希望するタイミングで給与を受け取れるサービスである
  • 金融庁の見解では賃金業に当たらないが、立替型サービスは貸付行為にあたる場合がある
  • 貸付行為に当たる立替型サービスを利用する場合、賃金業登録の有無の確認を必ず行う

給与前払いサービスとは、従業員が希望するタイミングで給与を前払いで受け取れる仕組みを提供するサービスです。立替型のサービスは貸付行為にあたる可能性があり、その場合は貸金業に該当します。本記事では、給与前払いサービスと貸金業法の関係や利用時の注意点を解説します。

目次

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  1. 給与前払いサービスは賃金業に該当するのか
  2. 給与前払いサービスに違法性はないのか
  3. 給与前払いサービスを利用する際の注意点
  4. 給与前払いサービスにはメリットも多い
  5. 給与前払いサービスを選ぶ際のポイント
  6. まとめ

給与前払いサービスは賃金業に該当するのか

給与前払いサービスが賃金業に該当するかどうかは、サービスの提供方法によって異なる可能性があります。ここでは、金融庁の見解を含めて、給与前払いサービスの法的位置づけについて解説します。

給与前払いサービス・システムとは?メリット・デメリットなどを解説

給与前払いサービス・システムとは、従業員が給与日を待たずに、希望のタイミングで給与を受け取れるサービスです。導入により、担当者の負担軽減や従業員の満足度向上につながります。本記事では、給与前払いサービス・システムのメリット・デメリット、選び方を解説します。

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金融庁の見解では貸金業にあたらない

給与前払いサービスが賃金業に該当するかについては、平成30年に金融庁から見解が示されました。「グレーゾーン解消制度」における回答によれば、給与前払いサービスは賃金業にたらないとされています

金融庁は、この照会内容においてはサービス提供企業が賃金の立て替えを行っていると認識しており、これは貸金業法上の「貸付け」、つまり賃金業には該当しないという見解です。

貸金業者が行うような貸し付けではなく、企業が従業員に支払うべき賃金を一時的に立て替えているという観点が、金融庁の見解の根拠とされています。

参考:グレーゾーン解消制度に係る事業者からの照会に対し回答がありました~給与前払いサービスの提供について~|経済産業省

参考:貸金業法|e-Gov 法令検索

立替型サービスは貸付行為にあたる場合がある

給与前払いサービスには「立替型」と「自社払い型」がありますが、このうち立替型のサービスは貸付行為にあたる可能性があります。

上記の見解でも対象となっているのは立替型サービスですが、資料によると「導入企業の支払い能力を補完するための資金の立替となっている」「手数料が導入企業の信用力によって変動する」といった条件を満たす場合は、貸付け行為となる可能性が高いと理解できます。

このような場合は給与前払いサービスは賃金業に該当するため、貸金業法や利息制限法の対象となるでしょう。

参考:利息制限法|e-Gov 法令検索

立替型

立替型の給与前払いは、従業員から前払いの申請があった際に、必要な金額をサービス提供企業が一時的に立て替えてくれる仕組みです。立て替えた分の給与は後日まとめて請求・清算されるため、企業は事前に資金を用意する必要がありません。

このタイプの給与前払いサービスを利用することで、労務管理の負担が軽減されます。また、従業員も即払いで給与を受け取れます。

自社払い型

自社払い型の給与前払いは、企業が前払い分の資金を自社で用意し、従業員へ支払う仕組みです。このサービスは法的リスクを排除しながら、安全性の高い環境下で利用できるのが特徴です。

支払い方法は様々で、自社の口座から従業員の口座への振り込み業務を代行してくれるサービスや、従業員がATMから預託資金を引き出せるサービスがあります。

給与前払いサービスに違法性はないのか

給与前払いサービスが貸金業法に該当するのかという疑問と同時に、そういったサービスに違法性がないのか気になる方も多いでしょう。ここでは、給与前払いサービスの違法性について解説します。

適切な方法や手続きに基づいていれば合法

上述のように給与前払いサービスは貸金業に当たらないケースが多く、またそのサービス自体に違法性も指摘されていません。貸金業にあたる場合でも、「貸金業登録」を行っている事業者であれば合法です

ただし、貸金業にあたるサービスを行っているにも関わらず貸金業登録を行っていないなど、違法性のあるサービス事業者がいることも考えられるため、気を付ける必要があります。

また、給与前払いサービスでは一般的に手数料が発生しますが、その手数料を従業員が負担する場合は、あらかじめ労使協定によって合意を得ておかないと、労働基準法における賃金の支払いに関する定め(賃金支払の五原則)に抵触する恐れがあります。

参考:貸金業を始めるには|日本貸金業協会

参考:労働基準法 第二十四条 | e-Gov 法令検索

違法な「給与ファクタリング」に注意が必要

給与ファクタリング(給料ファクタリング)とは、従業員個人の給与を「債権」とし、給与債権をファクタリング業者が買い取ることで規定の給料日よりも早く給与を受け取れるものです。

給与を早く受け取れるという点は給与前払いサービスと同じですが、給与ファクタリングは従業員個人とファクタリング業者間で行われるため、従業員を雇っている企業は関与しません。

給与ファクタリングは貸金業にあたるため、貸金登録をしていないファクタリング業者は違法です。警視庁なども注意喚起しているように、安易に利用しないようにしましょう。

参考:無登録の給与ファクタリング業者に注意!|警視庁

給与前払いサービスを利用する際の注意点

上記の内容を踏まえて、給与前払いサービスを利用する際には以下の注意点を意識しましょう。安全にサービスを利用できるように、慎重な判断をすることが大切です。

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賃金業登録について確認する

法律上の貸付行為にあたる立替型の給与前払いサービスは賃金業となるため、まずは貸金業に該当するサービスなのか、そして該当する場合は賃金業者登録を行っている事業者であるか確認することが重要です。

仮に貸金業登録の必要があるのに登録を行っていない場合、違法で悪質な事業者である可能性も高く、トラブルに巻き込まれる恐れもあるため注意しましょう。

参考:登録貸金業者情報検索サービス|金融庁

手数料について確認する

手数料の金額や支払い方法についても確認しておきましょう。例えば、相場と比べてあまりにも高い手数料が設定されていたり、条件によって手数料が跳ね上がるような料金体系であったりする場合は、悪質業者の可能性があります。

特に貸金業に該当する場合は、振込手数料が年利換算して20%を超えると利息制限法に違反します。また、前述したように手数料を従業員が支払う場合には適切な合意が必要です。

企業側が手数料を負担するケースも多いので、サービス導入にあたっての費用対効果についても考えるべきでしょう。

サービスの事業実績などを確認する

給与前払いサービスの信頼性を確かめるには、サービスの事業実績も判断材料の一つになります。これまでのサービス運用年数、導入企業数、前払いの実施件数、実際に導入している企業の口コミなどが参考情報として挙げられます。

また、サービス事業者の名前や住所、代表者などを調べて事業者の実態を調べておくのも、危険なサービスを避けるために有効です。

給与前払いサービスにはメリットも多い

ここまで、給与前払いサービスにおける法的な懸念を中心に解説してきましたが、健全な給与前払いサービスを利用するメリットは大きいと言えます。ここからは、給与前払いサービスを利用するメリットについて詳しく解説します。

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従業員満足度の向上や人材定着につながる

給与前払いサービスは、福利厚生の一環として導入されますが、こうした福利厚生が充実することは従業員満足度の向上や人材の定着につながります。

近年は、給与の水準だけでなく、働きやすい職場環境を重視する傾向が強まっています。従業員が働きやすいと感じる環境を整え、優秀な人材を確保・定着させるためには、福利厚生の充実が重要です。

急な支出に備えて給与を前借りしたいというニーズは一定程度あり、給与前払いサービスによってそういった従業員のニーズを満たせることが期待されます。

求人応募数の増加につながる

給与前払いサービスは、求人応募数の増加に繋がるメリットがあります。これは上記と同じ理由ですが、従業員は急な出費にも対応できるため、生活面での安心感を得られやすく、求人への応募意欲が高まることが期待できます。

特に給与前払いサービスは導入している企業がまだそれほど多くないため、ほかの企業との差別化のポイントにもなります。

前払い制度構築の負担を軽減できる

これから給与前払いに対応していこうと考えている企業では、そのための制度構築の手間がネックとなっていることもあるでしょう。また、すでに前払いに対応していても、経理担当者の負担が大きいなどの課題が見られる場合もあります。

そこで、給与前払いサービスを利用することで、簡単に前払いの仕組みを導入し、煩雑な手続きもサービス側に任せることができます。従業員もより気軽に申請することできるようになり、利便性が高まるでしょう。

給与前払いサービスを選ぶ際のポイント

ここからは、給与前払いサービスを選ぶ際のポイントについて見ていきましょう。安全性や信頼性以外の面で確認すべきポイントは以下のとおりです。

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サービスのタイプを確認

前述したように、給与前払いサービスには「立替型」と「自社払い型」の2種類のタイプがあります。それぞれ特徴が異なるため、自社にはどちらが適しているか見極めましょう。

法的なリスクを徹底的に排除したいか、従業員のニーズとして即払いが求められているか、あらかじめ資金を準備しておくのと必要になった分だけ後で支払うのではどちらが良いか、手数料の許容範囲はどの程度かなどを検討し、選択しましょう。

提携している銀行の種類・数を確認

従業員が利用する銀行が限られている場合、振込手続きや口座への入金がスムーズに行えないことがあるため、提携している銀行が多いほど、従業員がそのサービスを利用しやすくなります。

企業がサービスを導入する際には、提携銀行の情報を詳しく確認し、従業員全体にとって利便性の高いサービスを選ぶことがポイントです。

従業員が使いやすいか

給与前払いサービスは従業員のためのサービスであるため、従業員が円滑に利用できるサービス仕様かどうかも重要なポイントです。具体的には、給与前払いの申請手続きがシンプルで分かりやすいか、アプリやWebサイトを介した利用が容易かどうかを確認します。

また、サービス提供企業が提供する情報やFAQが充実しているかも重要です。企業がサービスを選ぶ際には、従業員の立場に立って使い勝手を検討し、簡単で分かりやすいサービスを導入しましょう。

まとめ

給与前払いサービスは、従業員が給料日前に前払いで給与を受け取れるようにするサービスです。基本的には貸金業としてみなされず、金融庁からもその旨の見解が発表されています。

ただし、立替型と自社払い型の2つのタイプのうち、立替型については条件によって貸金業に該当する可能性も指摘されているため、企業が給与前払いサービスを導入する際は、サービス事業者の貸金業登録の必要性と登録の事実を確認することが必要です。

悪質な業者がいるリスクもあるなど懸念も多少ありますが、適切に運用されていれば便利なサービスですので、従業員への福利厚生を充実させるために導入を検討しましょう。

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