歯科検診の義務化とは?重要性や国民皆歯科検診などについて解説

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  • 歯科検診を義務化して個々の歯の健康を守ることで、全身の健康を守ることにもつながる
  • 塩酸などの歯に有害な物質を扱う労働者に対して、事業者は検診を行わなけらばならない
  • 国民皆歯科検診の導入によって口腔ケアが促進され、国全体の医療費の削減にもつながる

会社では健康診断が義務付けられていますが、近年では歯科検診も義務化する動きが活発化しています。歯科検診の義務化は、国民の健康寿命や歯科検診の受診率にも関わってきます。本記事では、義務化が検討されている・すでに義務付けられている歯科検診などについて解説します。

目次

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  1. 歯科検診の義務化とは
  2. 歯科検診義務化の重要性
  3. 歯科検診義務化のメリット
  4. 歯科検診義務化で期待される社会的効果
  5. すでに義務化・義務化が検討されている歯科検診
  6. 国民皆歯科検診はいつから始まるのか
  7. まとめ

歯科検診の義務化とは

現在、企業では雇用者に対する健康診断が義務化されていますが、歯科検診は必須ではありません。歯科検診の義務化は、口腔健康が全身の健康に与える影響を考慮し、従業員の健康管理と福祉をより向上させるために検討されているものです。

歯科疾患は口腔内の問題だけにとどまらず、さまざまな全身疾患に関連し、他の健康問題にも影響を及ぼす可能性があります。そのため、定期的な歯科検診を通じて、初期段階の歯周病や虫歯を早期に発見して治療することで、より深刻な健康問題の発生を防止します。

参考:歯科口腔保健の推進に向けた取組等について|厚生労働省

参考:口腔の健康状態と全身的な健康状態の関連|厚生労働省

歯科検診義務化の重要性

歯科検診の義務化には、国民の健康寿命を伸ばすこと、歯科検診の受診率を上げること、国全体の医療費削減といった、さまざまな目的があります。ここでは、歯科検診義務化の重要性について解説します。

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国民の健康寿命を伸ばすため

歯の健康は全身の健康に深く関わっており、口腔内の問題が全体的な健康問題に発展することも少なくありません。例えば、歯周病は他の疾患などとも関連があるとされており、口腔疾患を放置すると全身の健康リスクを高める可能性が高いです。

そのため、定期的な歯科検診を通じて問題を早期に発見し、適切な治療を受けることで国民の健康寿命にも影響します。つまり、歯科検診の義務化によって口腔疾患の早期発見と予防が可能となり、深刻な健康問題への発展を防げます

高齢者はもちろん、若年層においても早期からの歯科検診により、将来的な口腔疾患の発生リスク減少を図れます。歯科検診の義務化は全年齢層における健康管理の質を高め、国民の健康寿命を伸ばすために重要な手段です。

参考:口腔の健康状態と全身的な健康状態の関連|厚生労働省

歯科検診の受診率を上げるため

日本における歯科検診の受診率は、他の健康検診と比較して低いという事実があります。これは、口腔健康の重要性に対する認識の欠如や、歯科検診の必要性を軽視する傾向が高いことなどが要因です。

歯科疾患は初期段階での発見が難しく見過ごされがちですが、放置した場合は重篤な健康問題に発展するリスクがあります。歯科検診の義務化によって定期的な歯科検診が普及すれば、口腔疾患の早期発見と予防の促進に期待できます。

また、国民一人ひとりが口腔健康に対する意識を高めるきっかけとなり、長期的な健康増進にもつなげることが可能です。

参考:歯科医療に関する生活者意識調査|公益社団法人日本歯科医師会

国全体の医療費削減のため

日本の高齢化社会において、医療費の増加は避けられない課題です。特に、高齢者の口腔健康は全身の健康状態にも影響を及ぼす可能性があり、適切な健康管理が行われないことが医療費の増大にもつながっています。

歯科疾患は、放置すると消化器系の問題や心血管疾患など、他の健康問題を引き起こしかねません。その点、歯科検診の義務化を行うことで定期的な口腔ケアが普及し、歯科疾患の早期発見・治療が促進されるため、長期的な医療費の削減を図れます。

参考:口腔機能の健康への影響|厚生労働省

歯科検診義務化のメリット

企業における歯科検診の義務化によって、従業員の健康寿命を延ばすのが大きな目的として挙げられますが、その他にも定期的な歯科検診を行うことで得られるメリットがいくつかあります。ここでは、歯科検診義務化によるメリットを詳しく解説します。

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早期発見で治療費の削減につながる

歯科に関する虫歯や歯周病といった症状は、痛みが出るまで症状の変化に気付くことが少なく、普段の歯磨きなどだけでは症状の悪化に気付きづらいです。そのため、発見が遅くなりやすく、症状の進行がある程度進んだ状態で治療を受けることも多いでしょう。

治療の内容も工程が多く大変なものとなり、治療費がかさみます。平日などに対象者が自ら歯科医院へ行く手間を省きつつ、口腔内における症状の早期発見が可能な歯科検診は、従業員の負担軽減につながる大きなメリットです。

セルフケアの質を向上させられる

企業向けの歯科検診では、現在の口腔内における症状の把握だけでなく、日頃使用する歯ブラシや歯磨き粉、歯磨きの仕方など、個人のセルフケアに関する指導も行ってくれます。これにより、従業員全員のセルフケアの質を向上させることが可能です。

また、定期的な指導・セミナーを行うことで、口腔内に対する意識改革にもつながり、企業全体の健康促進としても役立ちます。そして、企業外から見て従業員の健康促進に貢献していることが伝わると、企業イメージの向上にもつながります

生産性向上につながる

従業員の歯科検診が義務化されることで、虫歯や歯周病といった歯科疾患の重篤化を防げます。虫歯や歯周病の治療のためには、早退または有給を取らなければならないケースも多く、通院での職場離脱を余儀なくされ、生産性が低下してしまいます。

しかし、歯科検診によって早期に疾患を発見・対応できたり、疾患の予防につなげられたりすることから、従業員の治療による職場離脱の可能性を抑えられます。その結果、従業員の生産性向上を見込めます。

歯科検診義務化で期待される社会的効果

歯科検診の義務化は、個人や企業の健康促進にとどまらず、社会全体の医療費抑制や地域格差の是正、経済活性化など幅広い効果が期待されます。国民全体の健康意識の向上や地域活動の促進にもつながるため、義務化は長期的な社会保障政策の一環ともいえます。

医療・介護分野への好影響

歯科疾患を早期に発見・予防することは、口腔内だけでなくさまざまな全身疾患に関連し、他の健康問題にも影響を及ぼす可能性があるといわれています。

治療や介護にかかる社会的コストを抑えつつ、国と自治体の医療・介護費用の削減にも直結します。特に、高齢者においては、口腔の健康維持が生活の自立や介護予防に大きく影響することから、歯科検診義務化は高齢化社会での重要な施策の1つです。

また、定期検診が広がれば、医療現場の負担軽減や医療資源の効率的な運用にもつながることが期待されます。

参考:口腔の健康状態と全身的な健康状態の関連|厚生労働省

参考:口腔機能向上マニュアル|厚生労働省

経済活動や地域社会の活性化

口腔機能が健康に保たれていると、食べ物をしっかりと噛めたりスムーズに会話できたりするため、日常生活や社会活動に支障が出にくくなり、趣味・地域活動への参加も積極的に行えることにもつながります。

健康な人が増えれば、労働力人口の安定化と地域経済の活性化に期待でき、医療費や欠勤による経済的な損失の軽減も図ることが可能です。そして、全国的な検診制度の導入で地域間の健康格差を是正し、全世代にわたる社会全体の生活の質向上にもつながるでしょう。

参考:歯の健康|厚生労働省

参考:口腔機能の健康への影響|厚生労働省

すでに義務化・義務化が検討されている歯科検診

歯科検診の義務化は、口腔健康の向上と医療費削減のための施策として検討されています。特に、「歯科特殊健康診断」と「国民皆歯科検診」が代表的な例です。これらの検診は口腔健康を維持し、将来的な重篤な疾患の発生を防ぐために実施されています。

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すでに義務化・義務化が検討されている歯科検診

  1. 歯科特殊健康診断
  2. 国民皆歯科検診

歯科特殊健康診断

安全衛生法第66条3項に基づき、特定の業務に従事する労働者に対して歯科医師による健康診断が義務付けられています。具体的には、メッキ工場やバッテリー製造工場での作業者など、歯と関連する組織に有害であるとされる物質を扱う業務に従事する労働者が対象です。

また、安全衛生規則第48条により、対象となる労働者は業務開始時およびその後6ヶ月ごとに、歯科健康診断を受ける必要があります。さらに、2022年10月からは従業員数に関わらず、健康診断の結果を所轄労働基準監督署長へ報告することが義務化されました。

この報告には、健康診断の結果、歯科医師からの意見、必要に応じた作業の転換や労働時間の短縮などの措置、労働者への健康診断結果の通知が含まれます。健康診断を実施しなかった場合、50万円以下の罰金といった罰則があるため、事業者は十分に注意しましょう。

参考:安全衛生法に基づく歯科医師による健康診断を実施しましょう|厚生労働省

参考:歯科健診の結果報告が すべての事業場に義務化されます|厚生労働省

参考:労働安全衛生法|e-Gov法令検索

国民皆歯科検診

『経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針)』において、日本政府は新しい資本主義の実現に向けた重点投資分野として、「人への投資」を挙げています。この中で、国民皆歯科検診の義務化が検討されています。

国民皆歯科検診は、全国民を対象にした口腔健康のチェックと予防を目的としています。また、口腔健康に対する意識の向上と健康習慣の定着が期待されています。

参考:経済財政運営と改革の基本方針2022について|内閣府

国民皆歯科検診はいつから始まるのか

国民皆歯科検診の導入は2025年を目標としており、政府は具体的な枠組みや運用方法について検討を進めています。この新しい制度は、国民の口腔健康を維持し、向上させることを目的としており、高齢化社会における健康管理の重要性を考慮して計画されています。

国民皆歯科検診の導入により、早期の歯科疾患の発見と治療が可能となり、長期的な健康維持に役立つことが期待されています。また、口腔健康が全身の健康に与える影響を考慮すると、国民の生活における質の向上にも大きな影響を与えると考えられます。

参考:歯科口腔保健の推進に向けた取組等について|厚生労働省

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国民皆歯科検診はいつから始まるのか

  1. 企業への影響
  2. 費用の負担
  3. 産業医との提携も検討

企業への影響

国民皆歯科検診の導入に伴い、企業にも新たな義務が生じることが予想されます。具体的には、企業は従業員に対して、定期的な歯科検診を提供する責任を負うことになる可能性が高いです。

義務化が実施されれば、企業は歯科検診の実施方法・費用・スケジュールなど、多くの実務的な問題に対処しなければいけません。そのため、企業は国民皆歯科検診の義務化に備え、関連する法律や規制の動向を注視し、準備を進めておく必要があります。

費用の負担

現時点では、国民皆歯科検診の費用を誰が負担するのかについては決まっておらず、国が負担するのか企業や個人負担になるのかは明確になっていません。企業で検診が義務付けられる場合、従業員が費用全額を負担する可能性は低く、歯科検診を受けやすくなるでしょう。

一方、個人で費用を支払うことになった場合、負担は大きくなりますが、検診によって疾患の早期発見・治療に期待できるため、長期的に見れば個人の医療費抑制にもつながるでしょう。

産業医との提携も検討

義務の有無に関わらず、企業は従業員の健康増進のため、産業医と連携した歯科検診を検討することも視野に入れると良いでしょう。産業医とは、労働者の健康管理や職場環境改善の専門家として、企業に雇用される医師のことです。

定期的な検診は、従業員の口腔衛生意識向上とセルフケア習慣化を促進し、企業にとっても欠勤率低下や生産性向上につながります。将来を見据え、従業員の健康と企業の成長のために、産業医と連携した歯科検診の取り組みを積極的に検討していきましょう。

まとめ

現在、企業での健康診断は義務化されていますが、歯科検診は必須ではありません。歯科検診の義務化は口腔健康が全身の健康に与える影響を考慮し、従業員の健康管理と福祉を向上させるために検討されているものです。

歯科疾患は、口腔以外の他の健康問題にも影響を及ぼす可能性があります。そこで、定期的な検診で初期の歯周病や虫歯を早期に発見して治療すれば、深刻化する健康問題の発生を防げます。

国民皆歯科検診の導入は2025年を目標としており、政府は具体的な枠組みや運用方法について検討を進めています。企業にも新たな義務が生じることが予想されるため、義務化に備えて関連する法律や規制の動向を注視しつつ、認識・準備を進めておく必要があります。

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