給与前払いの控除・源泉徴収はどうなる?注意点もわかりやすく解説

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  • 給与前払いをしても、給与から控除する金額は一括で給与を支給する場合と変わらない
  • 給与前払いをする場合は、従業員と確認・合意を行うことでトラブルを避けられる
  • 給与前払いを効率的に行うには、給与前払いサービスの利用がおすすめ

給与の前払いは企業と従業員の双方にメリットがあるため、導入を検討する企業が増えています。しかし、控除や源泉徴収に適切に対応しなければならず、導入時は混乱が起きやすいです。本記事では、給与前払いの際の控除の仕方や注意点などについて詳しく解説します。

目次

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  1. 給与前払いとは
  2. 給与前払いの控除の仕方
  3. 給与前払いの控除における注意点
  4. 給与前払いのメリット
  5. 給与前払いのデメリット
  6. 給与前払いの際の源泉徴収の仕方
  7. 給与前払いを効率的に行う方法
  8. まとめ

給与前払いとは

給与前払いとは、従業員がすでに働いた分の賃金の一部を、通常の給与支払日より前に受け取ることができる制度です。対象となるのは「労働の対価として発生した賃金」であり、将来の労働分を先に受け取るものではありません。

従業員は給料日を待たずに必要な金額を受け取れるため、急な出費や生活費の不足など、突発的な資金ニーズに対応しやすくなります。一方、企業側にとっても、福利厚生の一環として導入することで、従業員満足度の向上や離職防止につながる点がメリットです。

また、給与前払いは最終的に「本来の給与支給時に前払い分を差し引く(控除する)」形で精算されます。そのため、給与前払い制度は、通常の給与計算や控除処理と密接に関係しています。

給与前払いが「控除」と関係する理由

給与前払いは、あくまで「本来支払う予定の給与の一部を先に渡している」状態です。そのため、給料日に改めて全額を支払うのではなく、すでに支払った前払い分を差し引いた金額を支給します。この差し引き処理が「控除」に該当します。

例えば、月給20万円の従業員が給料日前に5万円を前払いで受け取った場合、給料日には残りの15万円から社会保険料や税金などの法定控除を行ったうえで支給することになります。

つまり、給与前払いは「別途支給」ではなく、「後日の給与から相殺する仕組み」です。その仕組みを理解せずに運用すると、二重支給や違法な天引きと誤解されるリスクがあるため、給与前払いと控除の関係を正しく理解しなければなりません。

給与前払いが認められる法的根拠

労働基準法では、賃金は原則として「全額を、通貨で、直接労働者に支払う」ことが定められています(労基法24条)。この「賃金全額払いの原則」により、企業が一方的に給与を差し引くことは認められていません。

しかし、給与前払いは「すでに発生している賃金を支払日より前に支給する」ものであり、賃金の未払いを防ぐ目的にも合致するため、適法な支払い方法とされています。

厚生労働省も、実際に働いた分については給料日前であっても支払うことが可能であると示しています。

参考:賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。|厚生労働省

前借りとの違い

給与前払いと前借りは似ている制度に見えますが、法的な性質は大きく異なります。給与前払いは、すでに働いた実績に基づいて賃金の一部を先に受け取る制度であり、賃金そのものの支払い方法の一種です。

一方、前借りは将来支払われる予定の給与を担保に企業から金銭を借りる行為であり、賃金ではなく「貸付」に該当します。実際の労働実績がない状態でも借り入れが可能である点が、給与前払いとの大きな違いです。

前借りは本質的に借金であるため、賃金とは別に債務関係が発生します。そのため、労働基準法では、前借り金を賃金から一方的に差し引くことは原則として認められていません

例えば、従業員が結婚式などの私的な理由で資金援助を求めてきた場合、すでに働いた分については給与前払いとして支払うことができますが、将来の労働分を前提とした前借りに応じる義務はありません

参考:従業員が給料を前借りしたいと申し出てきました。前借りの前例がないので、どのようにすればいいか教えてください。|厚生労働省

給与前払いの控除の仕方

給与前払いをした場合・していない場合で1ヶ月の総支給額は変わらないため、控除額も前払いの有無によって変動することはありません

給与の控除限度額は、民法第510条、民事執行法第152条によって、通勤手当や公租公課を除外した賃金の4分の1とされています。これは、従業員の生活を保護するために設けられた制限であり、企業は限度額を超えて給与から控除を行うことはできません。

しかし、賃金前払いの分は限度額と別に控除することが可能です。貸付金返済に関しては、労働法24条1項の賃金の全額払いの原則に反する行為とされるため、企業は従業員との合意の上で控除を行う必要があります。

そのため、給与前払いの際の控除は、法的な規定と従業員の同意の両方を考慮しながら慎重に行う必要があります。

参考:民事執行法|e-Gov法令検索

参考:労働基準法第24条第1項|e-Gov法令検索

前払いの給与から控除するもの

給与前払い制度において、給与から控除される項目は主に2つに分類されます。1つは法定控除で、もう1つは労使協定に基づく控除です。以下では、それぞれについて詳しく解説します。

法定控除

法定控除とは、従業員の給与から差し引いて納めることが義務付けられているもので、企業を通して公的機関に納付されます。

法定控除は給与から控除することが法律によって定められているため、企業の方針などによる変動はありません。以下の6つが法定控除として給与から差し引かれます。

  1. 所得税
  2. 住民税
  3. 健康保険料
  4. 介護保険料
  5. 厚生年金保険料
  6. 雇用保険料

労使協定に基づく控除

労使協定に基づく控除は「協定控除」とも呼ばれ、企業と従業員間の合意に基づいて設定される控除項目です。

法律で定められた控除ではないため、企業ごとに項目や金額が異なります。企業ごとに異なるものの、多くの企業が以下の項目を協定控除として給与から差し引いています。

  1. 福利厚生費
  2. 寮・社宅費
  3. 労働組合費

給与前払いの控除における注意点

給与前払いは、従業員の金銭的ニーズに対応するための制度です。従業員が前払いを希望する場合、その額や条件を明確にしておく必要があります。また、給与前払いの際には、上限金額を設定しておくことも大切です。

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従業員との確認・合意を行う

給与前払いに関する合意は、法的な観点からも重要です。この合意は、従業員の自由な意思に基づくものでなければならず、強制や不当な影響があってはなりません

また、規定の給与日に控除される項目と控除後の給与額について、従業員との間で明確な認識を共有する必要があります。明確にしないまま給与前払いを行い、従業員が規定の給与日に想定以上に控除されていると感じた場合、トラブルにつながることも少なくありません。

そのため、従業員に対して前払いされる給与の額・それに伴う控除項目・給与日に受け取る給与の額について、明確に説明を行いましょう。控除のタイミングも伝えておけば、トラブルが起きるリスクをさらに低減できます。

給与前払いの上限金額を設定しておく

給与前払いによって規定の給与日に控除される金額が大きくなると、従業員が経済的な困難に直面するリスクが高まります。特に、固定された支出がある場合、給与の大部分を前払いで消費すると従業員は必要な支出を賄えない可能性があります。

上限金額の設定は、従業員の月間給与額や生活費の必要性を考慮して行うべきです。従業員が経済的な安定を保ちながら、緊急時に柔軟に対応できるようにしましょう。給与前払いの上限金額を設定し、従業員が給与日に十分な金額を受け取れるようにすることが大事です。

給与前払いのメリット

給与前払い制度は、従業員が給与日前に働いた分の給与を受け取ることを可能にし、急な出費や緊急時の金銭的ニーズに対応できるようにします。従業員にとっては、経済的な柔軟性と安心感が得られるメリットがあります。

一方、企業側にとっては、従業員に対するサポートと配慮を示し、企業のブランドイメージや雇用ブランドを強化できるといった点がメリットです。

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給与前払いのメリット

  1. 従業員のメリット
  2. 企業側のメリット

従業員のメリット

従業員にとっては、経済的な緊急時に素早く対応できるのが大きなメリットです。従業員が予期せぬ出費や医療費、家族の急な支出など、緊急時の金銭的ニーズに直面した場合でも、通常の給与日を待たずに必要な資金を得ることができます。

また、金銭的な不安は従業員の精神的な負担を大きくし、仕事のパフォーマンスや日常生活に悪影響を及ぼすことがあります。そのため、給与前払い制度は従業員のストレス軽減にも役立ちます

企業側のメリット

給与前払いによって従業員は金銭的な安心感を得られ、職場における幸福感と満足度の向上を図れます。従業員が職場に対して肯定的な感情を持つことは、職場の雰囲気を改善し、職場全体の士気を高める効果があります。

さらに、給与前払い制度は従業員の生産性の向上にもつながります。従業員は金銭的な不安の軽減で仕事に集中しやすくなり、効率的な業務の遂行が可能です。生産性の向上は企業の業績向上にも期待でき、競争力の強化が見込めます。

給与前払いのデメリット

給与前払い制度は多くのメリットが得られる反面、従業員と企業にとっていくつかのデメリットも生じます。従業員にとっての主なデメリットは、給与前払いによって生じる長期的な金銭管理の問題です。

一方、企業側にとってのデメリットは、給与前払い制度の管理と運用に関連するコストと複雑さです。これらのデメリットも考慮しながら、給与前払い制度の導入を検討しましょう。

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給与前払いのデメリット

  1. 従業員のデメリット
  2. 企業側のデメリット

従業員のデメリット

従業員にとって給与前払いは、予算管理の難しさが大きな問題になる可能性があります。給与の一部を前払いで受け取ることで当面の金銭的ニーズに対応できますが、習慣化すると規定の給与日に受け取る金額が減少します。

そのため、給与日までの生活費の管理に苦労する場合があり、長期的な支出計画や予算管理が複雑化しかねません。また、給与の一部を前払いで受け取ることが常態化すると制度に依存してしまい、経済的な自立ができなくなる恐れもあります。

企業側のデメリット

企業側にとってのデメリットは、キャッシュフローへの影響が挙げられます。企業の財務計画において、給与の前払いは予期せぬ支出を生じさせる可能性があります。通常、企業は給与支払いのために特定の予算を計画し、その範囲内でキャッシュフローを管理します。

しかし、給与の前払いが多くなると予定されていたキャッシュフローの計画が狂い、企業の財務安定性に影響を及ぼしかねません。また、給与前払い制度の管理には追加のコストがかかることも、企業にとってのデメリットです。

従業員からの給与前払いの要望を処理し、適切に記録を管理するには、追加の人的資源やシステムが必要です。それにより、人事や経理部門の作業負担が増加し、結果として企業の運営コストが上昇する可能性があります。

給与前払いの際の源泉徴収の仕方

給与前払いにおいても、通常の給与支払いと同様に源泉徴収が必要です。ここでは、そもそも源泉徴収とはどのような制度なのか、給与を前払いした際の源泉徴収の時期はいつなのかについて詳しく説明します。

源泉徴収とは

源泉徴収は、従業員が受け取る給与に対して、所得税や社会保険料などの法定控除を差し引いて納付する精度を指し、給与明細には所得税として記載されます。

基本的には、会社が源泉徴収を行う義務があるため、源泉徴収の対象者である給与所得者は、原則として確定申告をする必要はありません。

また、年末調整で税額が確定した後、毎月の給与・報酬から前払いとして差し引かれます。過剰に納税している場合は、確定申告の際に還付されます。

給与前払いの源泉徴収の時期

源泉徴収が行われる時期は、各企業ごとに契約で決められている給与支給日です。源泉徴収を行う時期については、企業で決められている場合は支給日、定められていない場合は支給を受けた日となり、前払い給与を支給した時期に源泉徴収されます

その際、保険料や税金を控除するのが一般的ですが、給与の前払いを実施した場合も保険料は元の給与日に控除されます。企業はこれらの控除を適切に管理し、関連する公的機関に納付しなければいけません。

参考:No.2509 給与所得の収入金額の収入すべき時期|国税庁

給与前払いを効率的に行う方法

給与前払い制度を導入する企業が増えていますが、効率的な運用のためには適切な仕組みづくりが欠かせません。ここでは、給与前払いを効率的に行うための2つの方法について解説します。

給与前払いのルールを設定する

給与前払いをスムーズかつ適切に行うために、企業は事前に明確なルールを設けることが重要です。具体的には、前払いが認められる金額や回数、従業員がどのような場合に利用できるのかを明確に定義する必要があります。

さらに、決定したルールは就業規則に明記することで、従業員への周知徹底を図りつつ、後のトラブルを避けることができます。承認プロセスや人事部門と経理部門の連携方法など、実務的な手続きの流れも詳細に定めておきましょう。

明確なルール設定と円滑な運用体制を構築することで、従業員と企業双方がより安心して利用可能な給与前払い制度を実現できます。

給与前払いサービスを利用する

給与前払いを効率的に行うには、給与前払いサービスの利用がおすすめです。給与前払いサービスは、使いやすいオンラインプラットフォームを通じて提供され、従業員はいつでも簡単に給与の前払いを要望できます。

また、企業側にとっても、給与前払いの管理に関連する作業負担を大幅に軽減できるのがメリットです。サービスプロバイダーが給与前払いの要望処理・記録の管理を行うため、企業の人事や経理部門の作業負担を減少させることが可能です。

おすすめの給与前払いサービス3選|選び方や注意点を詳しく解説

給与前払いサービスとは、働いた分の給与を通常の給料日よりも早く受け取れるサービスのことを言います。給与前払いサービスの利用を考えていても数が多くて選び方がわからない企業もあるでしょう。本記事では、おすすめの給与前払いサービスとサービスの選び方を解説しています。

まとめ

給与前払い制度により、従業員は経済的な緊急時に迅速に対応でき、金銭的ストレスが軽減されます。しかし、予算管理の難しさや依存につながりやすい点など、長期的な財政計画に影響を及ぼす可能性もあります。

企業側にとっては、従業員の満足度と生産性の向上がメリットとして挙げられますが、キャッシュフローへの影響・管理コストの増加といったデメリットも考慮しなければなりません。

効率的な給与前払いを実施するには、専門の給与前払いサービスの利用がおすすめです。給与前払いサービスを利用することで、社員の要望を聞きながら企業の管理負担を軽減できます。本記事を参考に、人材の定着や採用にも役立てましょう。

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