ファクタリングの歴史とは?日本で浸透するまでの経緯も解説

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  • ファクタリングは、16世紀頃のイギリスで原型が誕生したといわれている
  • 日本では1970年代に認知されたが、手形取引が主流でなかなか浸透しなかった
  • 1998年の債権譲渡登記制度の設立により、日本でもファクタリングの利用が広まった

ファクタリングの歴史には諸説ありますが、16世紀頃のイギリスで原型が誕生したといわれています。その後世界中で利用されるようになりますが、日本では手形取引が主流でなかなか浸透しませんでした。本記事では、ファクタリングの歴史や日本で広まった経緯などを解説します。

目次

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  1. ファクタリングの歴史
  2. 日本におけるファクタリングの歴史
  3. 日本におけるファクタリングの市場環境の変化
  4. ファクタリングの今後
  5. まとめ

ファクタリングの歴史

ファクタリングは、企業が所有する売掛債権を譲渡して、資金調達を行う手法です。担保や保証人無しで資金調達ができ、譲渡後に売掛債権の回収が不能になっても、譲渡した企業の責任は追及されないため、近年多くの企業が利用するようになりました。

しかし、世界的なファクタリングの歴史は比較的長く、日本でも1970年代に導入されましたが、広くは浸透していませんでした。日本でファクタリンが普及したのは最近(2020年度以降)のことであり、今後も多くの企業で利用が広がることが予想されています。

ここでは、日本でファクタリングが広まった経緯解説の前段階として、世界的なファクタリングの歴史を時代別に解説します。

ファクタリングとは|意味やメリットデメリットをわかりやすく解説

ファクタリングは「債権買取り」のことで、経済産業省が中小企業に向けて推奨している資金調達方法です。スピーディーに資金調達できる点が魅力です。本記事では、ファクタリングの仕組みや種類、メリット・デメリットの他、ファクタリングが役立つシーンなどについて解説します。

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16世紀頃:イギリスで「ファクター」が誕生

ファクタリングの歴史には諸説ありますが、16世紀頃のイギリスで原型が誕生したといわれています。当時のイギリスはアメリカ大陸に植民地を持ち、多くの人々がアメリカ大陸に移住をしていました。

移住した人々は、必要な物資をイギリスとの貿易で調達しており、その仲介をしていたのが「ファクター」と呼ばれる人達でした。これがファクタリングの語源となっています。

ファクターは移住者の商材をイギリスで販売し、その代わりに移住者が必要とする物資をイギリスから調達する役割を担っていました。主に生活物資の調達が目的であり、現代のような資金調達としての機能は持っていませんでした。

17世紀:アメリカが請求書による資金調達を採用

17世紀に入ると、植民地であるアメリカに移住したイギリス人たちは、イギリスへの輸出量を増やして、収益の増大を狙うようになりました。その結果、ファクターとの現金取引が盛んになり、出荷商品の前払いを要求することが多くなります

これに対応するために誕生したのが請求書を担保とした前払いであり、資金調達の方法として行われました。以後、イギリス貿易との仲介人だったファクターは、代金前払いのための信用調査も業務の1つとして行うようになります。

前払いが一般的になったこともあり、企業は積極的な設備投資で生産性を高め、植民地のアメリカは発展していきます。1776年7月4日にはイギリスからの独立を果たし、アメリカ合衆国が誕生します。

19世紀:売掛債権を担保にした現代的なファクタリングが発展

19世紀になると、現在のファクタリングの形式に近い売掛債権を担保にした取引が行われるようになりました。イギリスでは、18世紀後半から19世紀にかけて産業革命が起こり、アメリカに大量の工業製品が輸出されました。

その際、売掛債権を担保にした代金の前渡しが盛んに行われていました。さらに、債権の売却や譲渡による資金調達を容易にする制度が整備されたことで、さまざまな業界でファクタリングが利用されるようになりました。

20世紀:アメリカから世界中に浸透

20世紀に入ると、イギリスとアメリカの貿易は低調となり、同時に仲介していたイギリスのファクターは減少してしまいます。

一方、アメリカのファクターは勢力を拡大し、イギリス・西ドイツ・フランスを中心に事業を展開し、ヨーロッパ全域にファクタリングが広がりました。その頃には、現在のファクタリング会社のようなファクタリング専門のファクターも登場しています。

ヨーロッパでの成果は広く認められ、アメリカのファクターを中心にヨーロッパ以外の国々にもファクタリングが展開されます。その結果、今では世界中の国々でファクタリングの利用が一般的なものになってきています。

日本におけるファクタリングの歴史

日本でのファクタリングの普及は、世界に比べて非常に遅れています。ここでは、日本にファクタリングが普及するまでの背景を年代別に解説します。

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1970年代:手形取引が主流でファクタリングは普及せず

日本にファクタリングが登場したのは、1970年代です。しかし、一部の業界では認知されましたが、普及には至りませんでした。日本では、江戸時代に手形取引が行われていた影響で、日本人が馴染んできた商習慣からの脱却に時間がかかりました

手形は代金の支払いを約束した証券であり、支払期日前に銀行で現金化する手形割引という方法が一般的でした。手形割引とは、将来受け取る予定の手形を、一定の手数料を差し引いて銀行が買い取る仕組みです。

1970代では信頼性の高い銀行から資金を借りられる手形割引が、安全で確実な資金調達方法と考えられていました。

1990年代:バブル崩壊により手形取引が減少

1980年代まで日本は高度成長期で、手形取引が盛んに行われました。しかし、1991〜1993年にかけてバブル崩壊が起こり、日本経済は一気に冷え込んでしまい、多くの企業の倒産を引き起こします

企業が倒産すると、その企業が発行した取引手形は不渡りになります。それにより、手形を利用して手形割引を行っている企業は、銀行から支払いが求められることになります。支払うことができないと、その企業も倒産してしまうという倒産の連鎖が起こります。

この流れによって各企業は手形の発行を控えるようになり、手形取引は減少しました。手形取引額のピークは1990年であり、2017年にはピーク時の10%以下まで落ち込んでいます。同時に、この頃から償還請求権のないファクタリングが注目され始めました。

1998年:債権譲渡登記制度の設立

手形取引が減少した1998年に債権譲渡特例法が施行され、債権譲渡登記制度が設立されました。この債権譲渡登記制度の設立によって、ファクタリングが利用しやすくなり、資金の調達方法が手形取引からファクタリングへ移行するきっかけが生まれます。

債権譲渡登記制度とは、債権を誰が・誰に・いつ譲渡したのかを証明できる公的制度です。制度設立によって債権の保有者が明確になり、第三者に対する対抗要件となることから、ファクタリング会社も積極的な取引ができるようになりました。

参考:第1 債権譲渡登記制度とは?|法務省

2005年以降:法改正などにより浸透が進む

債権譲渡登記制度は2005年に改正され、より簡単に債権譲渡ができるようになりました。改正前までは、債務者ごとに対抗要件を具備する必要がありましたが、法改正で法人の債権譲渡は、登記によって一括して対抗要件を具備できるようになりました。

そして、2020年の債権法改正では、債権譲渡禁止特約付きの債権譲渡が可能になり、継続的取引で定期的に発生する将来債権の譲渡もできるように整備されました。この法改正により、ファクタリングできる債権の幅が広がりました。

また、経済産業省や中小企業庁では、借入金依存度が高い中小企業・個人事業主にファクタリングの利用を推奨する文書なども出しています。ファクタリングを利用しやすい環境が整えられたことにより、日本でもファクタリングが浸透するようになってきました。

参考:債権法改正により資金調達が円滑になります|経済産業省

参考:売掛債権の利用促進について|中小企業庁

日本におけるファクタリングの市場環境の変化

日本におけるファクタリング市場は、法制度の整備や企業の資金調達ニーズの多様化により、近年大きな変化を見せています。ここでは、日本におけるファクタリングの市場環境の変化について解説します。

コロナ禍による資金繰り需要の高まり

2020年に発生した新型感染症拡大の影響により、多くの中小企業が急速な売上減少や支払遅延といった課題に直面しました。これに伴い、迅速な資金調達手段としてファクタリングを利用する企業が増加しました。

従来の銀行融資では審査や手続きに数ヶ月を要するのに対し、ファクタリングは売掛債権を活用してスピーディーに現金化できるのがメリットです。最短即日で入金対応しているサービスも多く、迅速な資金繰りの改善に役立っています。

さらに、オンライン完結型のファクタリングサービスが普及したことで、非対面での契約や資金調達が可能となり、コロナ禍の環境に適した資金調達方法として需要が高まりました。

銀行系ファクタリングサービスの進出

近年では、従来のファクタリング専門会社に加えて、メガバンクや地方銀行といった金融機関もファクタリング市場に参入しています。これは、中小企業の資金繰り支援を強化するという国の方針と、金融行政の影響による影響が大きいです。

銀行が提供するファクタリングサービスは、既存の取引口座や信用情報を活用できるため、審査スピードの速さと信頼性の高さが特徴です。

多くの企業にとって利用しやすく、経営が厳しい企業に限らず健全な経営状態の企業にとっても、戦略的な資金管理手段として注目されています。

ファクタリングの今後

従来の商取引や資金調達の形が変化する中で、ファクタリングは新たな役割と可能性を広げつつあります。ここでは、ファクタリングの今後で注目される動向について解説します。

約束手形廃止の流れとファクタリング活用の拡大

近年、ファクタリングを利用する企業が増えてきていますが、認知度は十分とはいえませ。中には、ファクタリングは違法であると誤解している人や、経営状態が悪い企業が利用するものと思っている人がいるのも事実です。

しかし、それらの誤解もファクタリングの普及に伴い、解消されつつあります。また、政府は2026年に紙の約束手形を廃止する方向で検討を進めているため、手形取引からファクタリングに移行する企業が増えると予想されています。

参考:2026年の約束手形の利用廃止|経済産業省

オンラインファクタリングサービスの浸透

近年、テクノロジーの進化により、インターネットを通じて申し込みから契約、資金化までを完結できるファクタリングサービスが増えています。

そのため、手続きが煩雑で時間がかかっていたことから利用を見送っていた企業にも、ファクタリングは身近な資金調達手段となりつつあるのが現状です。

今後も、AIやビッグデータなどを活用した審査の自動化や、より利用しやすいインターフェースの開発など、大きな進化と普及が期待されます。その結果、ファクタリング市場全体の活性化につながるでしょう。

中小企業向けファクタリングサービスの多様化

資金調達ニーズが多様化する中小企業に対応するため、ファクタリングサービスも多様化しています。例えば、少額の資金調達ニーズに対応したサービスや、特定の業界に特化したサービスなど、さまざまなニーズに合わせたサービス開発が進んでいます。

今後も、中小企業の経営課題を解決するための多様なファクタリングサービスが開発され、資金調達環境の改善に役立つと考えられます。

まとめ

ファクタリングの歴史には諸説ありますが、16世紀頃のイギリスで原型が誕生したといわれています。その後世界中で利用されるようになりますが、日本では江戸時代からの商習慣である手形取引が主流であったため、同時期には浸透しませんでした。

しかし、1998年の債権譲渡登記制度の設立や2005年の改正、2020年の債権法の改正などで、ファクタリングが利用しやすくなり、普及が進みました。今後はファクタリングの認知度が高まり、ファクタリングの利用が広がっていくと考えられています。

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