SaaS企業とは|ビジネスモデル・業界マップ・重要指標を解説
Check!
- SaaS企業は継続課金で収益を積み上げるビジネスモデル
- 業界はHorizontal SaaSとVertical SaaSに分けて整理しよう
- 評価はARR・MRRとチャーンレートを定義とあわせて確認しよう
「SaaS企業」という言葉は、求人票でも投資関連のニュースでも、ツール導入の検討資料でもよく目にします。SaaS(Software as a Service)とは、ソフトウェアを自社のサーバーにインストールせず、インターネット経由で利用する提供形態のことで、SaaS企業はこの形でサービスを提供し、月額や年額の利用料で収益を上げる会社を指します。ただし、同じ「SaaS企業」でも、転職先として見るのか、投資先として見るのか、取引先(導入するサービスの提供元)として見るのかで、確認すべきポイントは大きく変わります。
この記事では、SaaS企業のビジネスモデル、Horizontal SaaSとVertical SaaSの業界マップ、ARR・MRR・チャーンレートといった重要指標、国内の代表的な企業の例、職種とキャリアパス、よくある誤解までを、立場ごとの見方とあわせて整理します。まずはSaaS企業が実際にどのようなサービスを提供しているのか、身近なグループウェアを例に見てみましょう。
あなたに合う読み方を診断
Q1. SaaS企業について知りたい目的は?
おすすめ記事
目次
開く
閉じる
開く
閉じる
SaaS企業が提供する具体的なサービスの例|グループウェアを比較する
SaaS企業が何をしている会社なのかを理解するには、実際に提供されているサービスを1つ見てみるのが近道です。中でもグループウェア(スケジュール、掲示板、ファイル共有、申請・承認などをまとめた社内の情報共有ツール)は、業種を問わず多くの会社が使う代表的なSaaSで、SaaS企業のビジネスモデルがよく表れている分野です。
同じグループウェアでも、提供するSaaS企業の成り立ちや戦略によって、サービスの方向性ははっきり分かれます。お名前.comビジネスコンシェルジュの比較記事で紹介されているサービスのうち、提供企業のタイプが異なる3つを並べると次のようになります。
| サービス名(運営会社) | 強み | 留意点 |
|---|---|---|
| Garoon(サイボウズ株式会社) | 「kintone」と併用することで幅広い使い方が可能。「クラウド版」「パッケージ版」が選べ、企業規模に捉われず利用できる | より使いこなす場合は他サービス連携を検討する必要がある |
| Zoho Connect(ゾーホージャパン株式会社) | プランごとに充実した機能が利用でき、14日間の無料トライアルの提供もある。自動化による時間コスト削減の機能を多数搭載 | 各プランとも最低利用人数がそれぞれ設けられている |
| GroupSession(日本トータルシステム株式会社) | 掲示板やチャットなど用途に合わせて情報共有ができ、各種申請や稟議などの書類も電子化できる | データ移行はVer2以上の場合のみ可能 |
この3つを見比べると、SaaS企業の戦略の違いが見えてきます。Garoonは同じ会社の別サービス(kintone)との組み合わせで顧客の利用範囲を広げるタイプ、Zoho Connectは海外に本拠を置くグループが多数のSaaSを揃え、無料トライアルから利用を始めてもらうタイプ、GroupSessionは無料版から有料のクラウド版へ段階的に移行してもらうタイプです。いずれも「一度使い始めた顧客に長く使い続けてもらう」ことを前提に設計されており、これが後半で解説するサブスクリプション型ビジネスの核心です。他のサービスも含めて比較したい場合は、以下の記事が参考になります。
SaaS企業とは|サブスクリプション型のビジネスモデル
SaaS企業とは、ソフトウェアをインターネット経由で提供し、月額・年額などの継続課金(サブスクリプション)で収益を得る会社のことです。従来のソフトウェア会社が製品を「売り切る」ことで収益を得ていたのに対し、SaaS企業は顧客が使い続ける限り収益が積み上がる構造を持っています。
買い切り型ソフトウェアとの違い
| 比較項目 | SaaS企業(サブスクリプション型) | 従来のソフトウェア会社(買い切り型) |
|---|---|---|
| 収益の入り方 | 利用期間中、毎月・毎年継続して入る | 販売時にまとめて入る(保守契約を除く) |
| 顧客の初期負担 | 小さい。少人数・短期間から始めやすい | 大きい。ライセンス購入やサーバー準備が必要 |
| アップデート | 提供企業側で継続的に行われる | 新バージョンの購入や適用作業が必要な場合がある |
| 企業側の重点 | 解約を防ぎ、利用を広げてもらうこと | 新規販売の件数を伸ばすこと |
| 収益化までの時間 | 獲得コストの回収に時間がかかる | 販売時点で回収しやすい |
この構造から、SaaS企業は「契約を取ったら終わり」ではなく、契約後に顧客がサービスを使いこなせているか、利用人数や機能を広げてもらえるかに経営の重点を置きます。顧客獲得には広告費や営業人件費が先にかかるため、最初の数か月から数年は赤字でも、解約が少なければ後から利益が積み上がる、という収益の時間差があるのも特徴です。
SaaS企業の主な料金モデル
- ユーザー課金:利用するアカウント数に応じて月額が決まる、最も一般的な形です。
- 段階別(ティア型)プラン:機能や上限の異なる複数プランを用意し、上位プランへの移行で単価を上げます。
- 従量課金:データ量や処理件数など、実際に使った量に応じて料金が変わります。
- フリーミアム:基本機能を無料で提供し、一部の利用者に有料プランへ移ってもらう形です。
多くのSaaS企業は、これらを組み合わせています。冒頭の比較で見た「無料トライアル」「最低利用人数」「無料版からの移行」といった条件も、料金モデルの設計が表に出たものです。サービスの利用条件を読むと、その会社がどの段階で収益を得ようとしているかが分かります。
マルチテナントという提供の仕組み
SaaS企業の多くは、1つのシステムを複数の顧客企業で共有する「マルチテナント」という仕組みでサービスを提供しています。顧客ごとにシステムを個別に構築しないため、顧客が増えても運用コストが比例して増えにくく、改善やセキュリティ対策を全顧客に一斉に反映できます。反面、個別の顧客向けに大きな作り込みはしにくいため、SaaS企業は「多くの顧客に共通する業務」に合わせて機能を設計する傾向があります。
業界マップ|Horizontal SaaSとVertical SaaS
SaaS企業は、業種を問わず使われる業務機能を提供する「Horizontal SaaS(ホリゾンタル型)」と、特定の業界向けに特化した「Vertical SaaS(バーティカル型)」の2つに大きく分けられます。SaaS業界全体を見渡すときは、この2分類と業務領域を組み合わせたマップで整理すると分かりやすくなります。
| 分類 | 主な業務領域・分野 | 事業としての特徴 |
|---|---|---|
| Horizontal SaaS | グループウェア、ビジネスチャット、会計、人事労務、勤怠管理、CRM・SFA、電子契約、名刺管理など | 対象となる企業数が多く市場が広い一方、競合も多く、機能やブランドでの差別化が求められる |
| Vertical SaaS | 医療機関の電子カルテ・予約、建設業の施工管理、不動産業の物件管理、飲食・小売のPOSレジ、製造業の生産管理など | 対象業界は限られるが、業界特有の業務や商習慣に深く対応でき、一度導入されると乗り換えられにくい |
総務省の「通信利用動向調査」では、クラウドサービスを一部でも利用している企業の割合が2024年時点で8割を超えており、SaaSは特定の先進的な企業だけでなく、幅広い企業に浸透しつつあります。Horizontal SaaSの分野では複数の企業が同じ領域で競い合う状況が続いており、近年は、自社の中心サービスの周辺に会計・人事・ワークフローなど関連するサービスを増やし、複数のSaaSを組み合わせて提供する企業も増えています。
Vertical SaaSの分野では、業界の紙・電話中心の業務をデジタル化する役割を担う企業が多く、業界の法令や商習慣への理解そのものが競争力になります。業界マップで企業を見るときは、「どの分類の、どの業務領域の会社か」を最初に押さえておくと、競合関係や成長の余地をつかみやすくなります。
SaaS企業が重視するKPI|チャーンレート・ARR/MRR
SaaS企業の状態は、単月の売上高よりも、継続収益の規模を示すARR・MRRと、解約の割合を示すチャーンレートで判断されることが一般的です。サブスクリプション型では、売上が「積み上がっているか」「漏れていないか」を見る必要があるためです。
| 指標 | 意味 | 見るときのポイント |
|---|---|---|
| MRR(月次経常収益) | 毎月継続して入る見込みの収益 | 新規・追加契約による増加と、解約・値下げによる減少の内訳 |
| ARR(年間経常収益) | 継続収益を1年分に換算した規模(MRRの12倍で示されることが多い) | 前年同時期からの伸び率 |
| チャーンレート(解約率) | 一定期間に解約した顧客や収益の割合 | 顧客数ベースか収益ベースか、月次か年次かの定義 |
| NRR(売上継続率) | 既存顧客からの収益が1年後にどれだけ残り、増えたか | 100%を超えていれば、既存顧客だけで収益が伸びている状態 |
| LTVとCAC | 顧客1社から得られる生涯収益と、1社を獲得するための費用 | 獲得費用を何か月で回収できているか |
中でもチャーンレートは、SaaS企業の健全さを表す指標として重視されます。新規契約をいくら獲得しても、既存顧客の解約が多ければARRは伸びません。逆に解約が少なく、既存顧客が利用人数や上位プランを広げていれば、新規獲得に頼らなくても収益が伸びていきます。SaaS企業がカスタマーサクセス(顧客の活用支援)を専門の部署として置くのは、この指標を改善するためです。
注意したいのは、これらの指標の算出方法が企業ごとに異なる点です。チャーンレートを顧客数で計算するか収益で計算するか、月次か年次かで数字は大きく変わります。上場しているSaaS企業は、決算説明資料や有価証券報告書(金融庁のEDINETで閲覧可能)で指標を開示していることがありますが、比較する際は必ず定義の注記を確認してください。なお、本記事は特定の企業への投資を勧めるものではなく、投資判断の助言を目的としたものではありません。
国内SaaS企業の代表例
国内のSaaS企業は、会計・人事労務・情報共有・営業支援など、全社的な業務を支えるHorizontal SaaSの分野で広く知られた企業が多く見られます。ここでは優劣や順位ではなく、業務領域ごとにどのような企業があるかを理解するための例として、代表的な企業を分類して紹介します。
| 業務領域 | 企業の例 | 主な提供分野 |
|---|---|---|
| 会計・バックオフィス | freee株式会社、株式会社マネーフォワード | クラウド会計、請求書、経費精算、人事労務など |
| 人事労務 | 株式会社SmartHR | 入退社手続き、従業員情報管理など |
| 情報共有・業務アプリ | サイボウズ株式会社 | グループウェア、業務アプリ作成 |
| 営業・名刺管理 | Sansan株式会社 | 名刺・顧客接点のデータ化など |
これらの企業に共通するのは、1つの業務領域で顧客基盤を築いた後、周辺の業務へサービスを広げている点です。たとえば会計から始めて請求書や人事労務へ、あるいは情報共有から業務アプリ作成へと、既存顧客が次に困る業務を追いかける形で事業を拡大しています。一方、Vertical SaaSの分野には、医療・建設・不動産・飲食など、それぞれの業界で存在感を持つ企業が数多くあり、業界ごとに有力企業の顔ぶれが異なります。
また、国内で利用されるSaaSには海外に本拠を置く企業のサービスも多く含まれます。海外企業のサービスはグローバルでの開発規模や機能の幅に強みがある一方、日本語サポートの範囲や契約書・請求書の形式が国内の商習慣と異なる場合があります。国内企業は日本の法令や商習慣に合わせた機能設計に強みがあることが多く、導入先として見る場合は、この違いも比較の材料になります。
SaaS業界の職種とキャリアパス
SaaS企業では、顧客の獲得から継続利用までを複数の職種が分業で担う体制が一般的です。見込み顧客を集め、商談を行い、契約後の活用を支援するという流れを、それぞれ専門の職種が受け持ちます。
| 職種 | 主な役割 | 関わる指標の例 |
|---|---|---|
| マーケティング | 広告やセミナー、コンテンツで見込み顧客を集める | 問い合わせ件数、獲得費用 |
| インサイドセールス | 電話やメールで見込み顧客と接点を持ち、商談を設定する | 商談化率 |
| フィールドセールス | 商談を行い、契約を獲得する | 受注率、新規MRR |
| カスタマーサクセス | 契約後の導入・活用を支援し、継続と利用拡大につなげる | チャーンレート、NRR |
| プロダクト・開発 | 機能の企画・開発・改善、システムの安定運用 | 利用率、障害件数 |
キャリアパスとしては、インサイドセールスからフィールドセールスへ、あるいはセールスからカスタマーサクセスへと、顧客接点の近い職種の間で異動・転職するケースがよく見られます。どの職種も前の章で見た指標と結びついて評価されることが多いため、転職を検討する場合は、応募先がどの指標を重視しているか、職種間でどのように顧客情報を引き継いでいるかを面接などで確認しておくと、入社後の働き方を想像しやすくなります。
SaaS業界での職種ごとの仕事内容や業界との関わり方をさらに詳しく知りたい場合は、SaaS業界とは|職種と関わり方の記事も参考になります。なお、職種別の賃金水準を客観的に確認したい場合は、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」など公的統計もあわせて参照すると、求人情報だけに頼らない判断材料になります。
SaaS企業を見る際によくある誤解
SaaS企業については、「新しい」「成長している」といったイメージが先行し、実態とずれた理解のまま判断してしまうことがあります。転職・投資・導入のいずれの立場でも起こりやすい誤解を整理すると、次のとおりです。
| よくある誤解 | 実際のところ | 確認したいこと |
|---|---|---|
| SaaS企業はどこも急成長している | 分野や成長段階によって伸び方は大きく異なり、競争の激しい分野もある | ARRの伸び率、チャーンレートの推移 |
| 赤字のSaaS企業は危ない | 獲得費用を先行投資している段階では赤字になりやすい構造がある | 獲得費用の回収期間、既存顧客からの収益の伸び |
| クラウドを使う会社はすべてSaaS企業 | IaaSやPaaSの提供企業、受託開発企業などSaaSではない事業も多い | 収益の中心が継続課金のソフトウェア提供かどうか |
| 大手のサービスを選べば安心 | 企業規模とは別に、自社の業務に合うかどうかで使いやすさが決まる | 無料トライアルでの操作感、サポート体制 |
| 契約すればずっと同じ条件で使える | 料金改定や機能変更、サービス終了は提供企業の判断で起こりうる | 利用規約の変更告知、解約時のデータ取り出し方法 |
特に導入を検討する立場では、最後の誤解に注意が必要です。SaaSは提供企業側でシステムを運用しているため、仕様変更や料金改定の影響を利用者が受けることになります。契約前には利用規約やサービスレベルの内容、データの保存場所、解約時のデータ返却方法を確認しておくと安心です。本記事の内容は一般的な情報提供であり、個別の契約内容についての法的助言ではありません。判断に迷う場合は専門家にご相談ください。
誤解を避ける一番の方法は、記事や評判だけで判断せず、SaaS企業が提供しているサービスに実際に触れてみることです。業種を問わず使われるグループウェアは、無料トライアルや無料版が用意されていることが多く、「提供企業が定期的に機能を更新する」「利用人数に応じて料金が変わる」といったSaaSの特徴を体感しやすい分野です。
よくある質問(FAQ)
Q. SaaS企業とは何ですか?
A. ソフトウェアをインターネット経由で提供し、月額・年額などの継続課金(サブスクリプション)で収益を得る会社のことです。顧客が使い続ける限り収益が積み上がるため、解約を防ぎ利用を広げてもらうことを重視します。
Q. Horizontal SaaSとVertical SaaSの違いは何ですか?
A. Horizontal SaaSはグループウェアや会計など業種を問わず使われる業務機能を、Vertical SaaSは医療・建設・不動産など特定の業界に特化した機能を提供します。前者は市場が広く競合も多く、後者は対象が限られる分、業界の業務に深く対応できます。
Q. SaaS企業を評価するときはどの指標を見ればよいですか?
A. 継続収益の規模を示すARR・MRRと、解約の割合を示すチャーンレートが代表的です。既存顧客からの収益の伸びを示すNRRも参考になります。ただし算出方法は企業ごとに異なるため、比較する際は定義を確認してください。
Q. 赤字のSaaS企業は経営が危ないのですか?
A. 一概にはいえません。SaaS企業は顧客獲得の費用を先に負担し、継続課金で後から回収する構造のため、成長段階では赤字になりやすい面があります。獲得費用の回収期間や解約率の推移とあわせて見ることが大切です。
Q. SaaS企業にはどのような職種がありますか?
A. マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセス、プロダクト・開発などがあり、顧客の獲得から継続利用までを分業で担うのが一般的です。職種ごとにチャーンレートや受注率など関わる指標が異なります。
Q. SaaS企業が提供するサービスを実際に試すにはどうすればよいですか?
A. 多くのSaaSには無料トライアルや無料版があります。業種を問わず使われるグループウェアは試しやすい分野の一つで、比較記事で複数のサービスの強みと留意点を見比べてから試すと、SaaSの特徴を理解しやすくなります。
まとめ
SaaS企業とは、ソフトウェアをインターネット経由で提供し、継続課金で収益を得る会社です。顧客が使い続けることで収益が積み上がる構造のため、ARR・MRRの伸びとチャーンレートが経営の重要な指標になり、営業からカスタマーサクセスまでの職種が分業で顧客の継続利用を支えています。業界全体は、業種横断のHorizontal SaaSと業界特化のVertical SaaSに分けて整理すると把握しやすくなります。
転職・投資・導入のいずれの立場でも、「成長している」「大手だから安心」といったイメージだけで判断せず、指標の定義や利用条件を確認することが大切です。SaaS企業の実像をつかみたい場合は、グループウェアのように身近なサービスを実際に比べてみることから始めると理解が深まります。