SaaS導入の進め方|選び方5つのポイントと定着までの5フェーズ

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  • SaaS導入は対象業務と改善したい数字を決めることから始めよう
  • 候補は機能・セキュリティ・料金・サポート・トライアルの5つで比較しよう
  • 契約後は5フェーズで定着を進め、利用率と削減時間で効果を確認しよう

SaaSの導入は、申し込めばその日から使えるほど手軽です。その手軽さゆえに、目的を決めないまま契約し、半年後には一部の社員しかログインしていない、似たサービスが部署ごとに増えている、といった状態になりがちです。SaaS導入を成功させるうえで最初にやるべきことは、製品選びではなく「何のために導入するのか」という目的の明確化です。

この記事では、SaaS導入の基本的な進め方を、目的の明確化、比較検討、トライアル、契約・導入、オンボーディングと定着という流れで整理します。選び方の5つのポイント、契約時に確認したい項目、導入スケジュールの立て方、定着までの5フェーズ、導入後によくある失敗パターンまで、導入担当者が実務でそのまま使える形で解説します。

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Q1. SaaS導入の検討は、いまどの段階ですか?

目次

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  1. 最初のSaaS導入に選ばれやすいグループウェアを比較
  2. SaaS導入の基本的な進め方|目的の明確化から
  3. SaaS導入のメリットとデメリット
  4. SaaSの選び方5つのポイント
  5. 導入プロセスの実務|契約とスケジュール策定
  6. オンボーディングと定着の5フェーズ
  7. 導入後によくある失敗パターン
  8. 企業規模によって変わる導入の進め方
  9. よくある質問(FAQ)
  10. まとめ
  11. 参考文献

最初のSaaS導入に選ばれやすいグループウェアを比較

中小企業が最初に導入するSaaSとして検討されやすいのが、スケジュールや掲示板、ファイル共有、申請・承認をまとめたグループウェアです。情報共有はどの業種・部署にも存在する業務で、全社員が毎日触れるため、アカウント発行や権限設定、社内への使い方の周知といった「SaaS導入の一連の流れ」を一度経験するのに向いています。最初の1つで導入と定着の型を作っておくと、会計や人事、営業支援など2つ目以降のSaaSを導入するときにも同じ手順を使い回せます。

一方で、グループウェアは製品ごとに契約条件やお試し期間の考え方が異なります。導入の進め方という観点で見ると、「短期間の契約で小さく始められるか」「無料トライアルで操作を確かめられるか」「無料版から有料版へ段階的に移れるか」が比較の軸になります。お名前.comビジネスコンシェルジュの中小企業向けグループウェア比較記事で紹介されているサービスのうち、この3つの軸で特徴が分かれる製品を並べると次のとおりです。

サービス名(運営会社)強み留意点
サイボウズ Office(サイボウズ株式会社)ユーザー単位で契約ができ、最低契約期間も1ヶ月と短め。誰でも簡単に操作しやすく、モバイル対応で外出先からでも確認可能利用するには「最低5ユーザー」の契約が必要
Zoho Connect(ゾーホージャパン株式会社)プランごとに充実した機能が利用でき、14日間の無料トライアルの提供も。職場の最新情報も把握できる各プランとも最低利用人数がそれぞれ設けられている
GroupSession(日本トータルシステム株式会社)掲示板やチャットなど用途に合わせて情報共有ができ、各種申請や稟議などの書類も電子化できるデータ移行はVer2以上の場合のみ可能

表の留意点を見ると分かるとおり、「最低利用人数」や「データ移行の条件」といった契約・移行まわりの条件は、機能一覧だけを見ていると見落としやすい項目です。後半で解説する選び方のポイントや契約時の確認項目は、こうした条件を導入前に洗い出すためのものです。自社の人数や使い方に合う製品を幅広く比べたい場合は、以下の比較記事が参考になります。

SaaS導入の基本的な進め方|目的の明確化から

SaaS導入は、目的の明確化、比較検討、トライアル、契約・導入、オンボーディングと定着の5つのステップで進めるのが基本です。オンプレミス型のシステム開発と比べて期間は短くなりますが、ステップそのものを省略してよいわけではありません。むしろ導入が手軽な分、最初のステップを飛ばして製品選びから始めてしまうことが、失敗の大きな原因になります。

ステップやることこのステップの成果物
1. 目的の明確化対象業務の課題を洗い出し、導入で何をどの程度改善したいかを決める導入目的と目標値、必須要件のリスト
2. 比較検討候補を洗い出し、評価項目に沿って3つ程度に絞る候補製品の比較表
3. トライアル実際の業務データや担当者で操作感・運用のしやすさを確かめる評価結果と導入候補の決定
4. 契約・導入利用規約・料金・データの扱いを確認し、スケジュールを策定する契約書類と導入スケジュール
5. オンボーディングと定着初期設定、利用者への説明、利用状況の確認と改善を続ける運用ルールと利用率の記録

目的は「業務」と「数字」で書く

目的の明確化でよくあるのが、「業務効率化」「DX推進」といった抽象的な言葉で終わってしまうケースです。これでは比較検討の段階でどの機能が必須なのか判断できず、導入後に効果があったのかどうかも確認できません。目的は、対象の業務と改善したい数字をセットで書くのがコツです。例えば「紙の稟議書の回覧にかかる日数を短くしたい」「会議室の予約の重複をなくしたい」「毎月の請求書作成にかかる時間を減らしたい」のように書くと、必要な機能と効果の測り方が自然に決まります。

あわせて、現状の数字を記録しておくことも大切です。導入前に「月に何時間かかっているか」「何件の問い合わせが来ているか」を控えておかないと、導入後に比較する基準がありません。完璧な計測は必要なく、担当者へのヒアリングで概算を出す程度でも、あとから効果を振り返る際の大きな手がかりになります。

必須要件と「あれば便利」を分ける

目的が決まったら、必要な機能を「これがないと目的を達成できない必須要件」と「あれば便利な要件」に分けます。SaaSは提供事業者が用意した機能を多くの企業で共有して使う仕組みのため、自社専用の細かいカスタマイズには限界があります。すべての要望を満たす製品を探すと候補がなくなるか、多機能で高価な製品ばかりが残ります。必須要件を3つから5つ程度に絞り込み、それ以外は運用ルールでカバーするという割り切りが、比較検討をスムーズに進めるポイントです。

なお、SaaSを含むクラウドサービスの利用は企業の間で広く定着しています。総務省の通信利用動向調査では、クラウドサービスを一部でも利用している企業の割合が年々高い水準で推移しており、利用する理由として場所や機器を選ばず利用できることや、資産・保守体制を社内に持つ必要がないことが上位に挙がっています。「みんなが使っているから」ではなく、こうした特徴が自社の目的に合っているかという視点で導入を判断しましょう。

SaaS導入のメリットとデメリット

SaaS導入には、初期費用を抑えて短期間で使い始められる一方、カスタマイズの自由度や継続的な費用の面で制約もあります。比較検討に進む前に両面を整理しておくと、自社の目的にSaaSという形態そのものが合っているかを判断しやすくなります。

観点メリットデメリット・注意点
費用サーバーや機器の購入が不要で、初期費用を抑えやすい利用している限り月額・年額の費用が続き、長期では総額が膨らむ場合がある
導入期間申し込み後すぐに使い始められ、小さく試しやすい手軽さゆえに目的があいまいなまま契約しやすい
運用・保守サーバー管理やアップデートを提供事業者が担う仕様変更や機能の廃止を自社で止められず、障害時も復旧を待つしかない
業務への適合多くの企業で使われている標準的な業務の流れを取り入れられる自社独自の業務に合わせた細かいカスタマイズには限界がある
利用環境インターネットがあれば場所や端末を選ばず利用できる通信環境に依存し、アカウント管理や共有設定は利用者側の責任になる

デメリットの多くは、導入前の確認と運用ルールで小さくできます。費用は数年後の総額で比べる、業務への適合はトライアルで確かめる、仕様変更や障害への備えは契約条件とデータのエクスポート手段を確認しておく、といった対応です。一方で、業務の大部分が自社独自の手順で、それを変えられない事情がある場合は、SaaS以外の選択肢も含めて検討する方が結果的に負担が少なくなることもあります。次の選び方の5つのポイントは、これらのデメリットを比較の段階で洗い出すための観点でもあります。

SaaSの選び方5つのポイント

候補のSaaSは、機能、セキュリティ、料金、サポート、トライアルの5つのポイントで比較すると判断のもれを防げます。製品紹介ページやランキングは機能と価格に目が行きがちですが、導入後のトラブルはむしろセキュリティやサポート、契約条件の見落としから起きることが多いため、5つを同じ重さで確認するのがおすすめです。

ポイント確認すること見落としやすい点
1. 機能必須要件を満たすか、既存ツールと連携できるか必要な機能が上位プランにしかない
2. セキュリティ認証方式、アクセス権限、データの保存場所、第三者認証利用者側で設定しないと有効にならない機能がある
3. 料金課金単位(ユーザー数・容量など)、初期費用、オプション最低利用人数や、利用拡大時の総額
4. サポート問い合わせ手段、対応時間、導入支援の有無電話対応が上位プラン限定になっている
5. トライアル無料お試しの期間と使える機能の範囲トライアルで入力したデータが本契約に引き継げるか

1. 機能は「連携」まで確認する

機能の確認では、単体の機能に加えて、すでに使っているツールとの連携を確認します。例えばグループウェアのスケジュールをWeb会議ツールと連携できるか、経費精算の結果を会計ソフトに取り込めるかといった点です。連携できないと、同じ情報を2か所に入力する作業が生まれ、導入前より手間が増えることもあります。API連携やCSVでのデータ入出力に対応しているかは、将来の乗り換えのしやすさにも関わります。

2. セキュリティは「利用者側の責任」も含めて考える

SaaSでは、サーバーやソフトウェアの管理は提供事業者が担いますが、アカウントの管理やアクセス権限の設定、共有範囲の設定は利用者側の責任です。総務省が公表している「クラウドサービス提供・利用における適切な設定のためのガイドライン」でも、設定の不備による情報漏えいを防ぐために、利用者自身が設定内容を理解し管理することの重要性が示されています。比較の段階では、二要素認証やシングルサインオンへの対応、権限を細かく分けられるか、操作ログを確認できるかといった点をチェックしましょう。

第三者の評価を参考にする方法もあります。政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)は政府機関向けの制度ですが、登録されたサービスの一覧が公開されているため、民間企業にとってもセキュリティ水準を確認する材料の1つになります。ただし、登録の有無だけで安全性が決まるわけではないため、自社の情報の重要度に応じて総合的に判断することが大切です。

3. 料金は「3年後の総額」で比べる

SaaSの料金は月額やユーザー単位で表示されることが多く、導入時の金額だけを見ると安く感じます。しかし、利用人数の増加、容量の追加、上位プランへの切り替え、オプション機能の追加などで、数年後には当初の想定を大きく上回ることがあります。比較するときは、現在の人数と数年後に想定される人数の両方で総額を試算し、年払いによる割引や最低利用人数の条件も含めて比べましょう。料金や契約条件は変更される場合があるため、最新の内容は必ず各提供事業者の公式情報で確認してください。

4. サポートは「導入時」と「運用時」を分けて見る

サポートには、初期設定やデータ移行を手伝う導入時の支援と、日々の問い合わせに対応する運用時の支援があります。社内にIT担当者が少ない中小企業では、導入時の支援の有無が定着を左右することも少なくありません。問い合わせ手段(電話・メール・チャット)、対応時間、日本語でのサポートの有無、マニュアルや動画などの自己解決用の資料がそろっているかも確認しておきましょう。

5. トライアルは「実際の業務」で試す

無料トライアルは、デモ画面を眺めるだけで終わらせず、実際の業務データや実際の担当者で試すことが大切です。導入担当者だけが触ると「使いやすい」と感じても、ITに不慣れな社員にとっては操作が難しいことがあります。トライアル期間中に、普段の業務を1つか2つ実際にSaaS上で回してみて、つまずいた点をメモしておくと、導入後の説明資料づくりにも役立ちます。

トライアルの評価は、担当者の印象ではなく、比較表と同じ評価項目で点数を付けると社内で説明しやすくなります。例えば「必須要件を満たしているか」「操作に迷った回数」「問い合わせへの回答の早さ」などを記録し、候補製品ごとに並べておけば、最終的な決定の根拠を上司や経営層に示せます。

SaaS導入の全体の流れや、選定段階での失敗を避けるポイントをさらに広く知りたい場合は、SaaS導入の流れとは?選び方や失敗しないためのポイントも解説もあわせてご覧ください。この記事では、選定後の契約・スケジュール策定と、定着までの運用に重点を置いて解説します。

導入プロセスの実務|契約とスケジュール策定

導入するSaaSが決まったら、契約内容の確認と導入スケジュールの策定を並行して進めます。SaaSの契約は申し込みフォームから数分で完了することもありますが、利用規約には解約やデータの扱いなど、あとから変更しにくい条件が含まれています。

契約前に確認したい項目

確認項目確認する理由
契約期間と自動更新年間契約の途中解約ができない、更新期限を過ぎると自動で1年延長される場合がある
解約時のデータの扱い解約後にデータが削除されるまでの期間と、エクスポートの可否を把握しておく
データの保存場所国内外どこに保存されるかで、社内規程や取引先との契約上の制約が変わる場合がある
サービスレベル(SLA)稼働率の目標値や、障害時の連絡・補償の考え方を確認する
個人情報の取り扱い顧客や従業員の個人情報を扱う場合、提供事業者の取り扱い方針を確認する
料金改定のルール契約期間中や更新時に料金が変わる可能性と、その通知方法を把握する

特に個人情報を扱うSaaSでは、個人情報保護法への対応を社内で整理しておく必要があります。クラウドサービスに個人データを保存する場合の考え方は、個人情報保護委員会が公表しているガイドラインやQ&Aで示されていますが、個別のケースでの判断は契約内容やサービスの仕組みによって変わります。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言ではありません。判断に迷う場合は、社内の法務担当者や弁護士などの専門家に確認してください。

導入スケジュールの立て方

スケジュールは、利用開始日から逆算して立てるのが基本です。業務の繁忙期や決算期、人事異動の時期に全社展開が重なると、説明会に人が集まらず、問い合わせ対応も追いつかなくなります。比較的業務が落ち着いている時期に利用開始日を置き、そこから準備期間を確保しましょう。目安として、小規模なSaaSを1部署に導入する場合の流れは次のようになります。

時期の目安主な作業
開始の1から2か月前契約手続き、管理者アカウントの作成、初期設定、権限設計
開始の1か月前既存データの移行、社内ルールと簡易マニュアルの作成
開始の2週間前利用者アカウントの発行、説明会の実施、問い合わせ窓口の周知
利用開始から1か月旧来の方法との並行運用、よくある質問の収集と回答
利用開始から3か月利用状況の確認、旧来の方法の廃止、効果の振り返り

上記はあくまで一例で、対象業務の範囲や利用人数、データ移行の量によって必要な期間は変わります。重要なのは、旧来の方法をいつやめるのかを最初から決めておくことです。並行運用の期限を決めないと、紙やExcelとSaaSの二重管理が続き、かえって手間が増える状態が固定化してしまいます。

社内の役割分担を決めておく

SaaS導入には、実際にツールを使う業務部門、セキュリティや設定を担う情報システム担当、契約内容を確認する法務担当、予算とコストを管理する経理担当が関わります。中小企業では1人が複数の役割を兼ねることも多いですが、その場合でも「誰が最終的に導入を決めるのか」「障害や問い合わせは誰が受けるのか」を事前に決めておくと、トラブル時の対応が遅れにくくなります。

オンボーディングと定着の5フェーズ

SaaS導入の成否は、契約後のオンボーディング(利用開始までの立ち上げ)と定着の進め方で大きく変わります。契約して全員にアカウントを配っただけでは、多くの社員は今までのやり方を続けます。定着までを次の5つのフェーズに分けて、段階的に進めましょう。

フェーズ目的主な取り組み
1. 初期設定安全に使える土台を作る権限設計、認証設定、共有範囲の初期値の見直し
2. 先行利用小さく試して課題を出す1部署や少人数のチームで先に使い、つまずく点を集める
3. 全体展開全員が使い始められる状態にする説明会、簡易マニュアル、問い合わせ窓口の用意
4. 現場への浸透日常業務の中で使われる状態にする各部署の推進担当者の配置、旧来の方法の廃止
5. 振り返りと改善効果を確認し運用を見直す利用率と削減時間の確認、設定やルールの改善

1. 初期設定は「共有範囲の初期値」を必ず確認

初期設定で見落とされやすいのが、ファイルや予定の共有範囲の初期値です。SaaSによっては、初期状態で社内全体に公開される設定や、リンクを知っている人なら社外からでも閲覧できる設定になっている場合があります。全体展開の前に、どの情報を誰が見られるのかを確認し、必要に応じて初期値を絞っておきましょう。退職者や異動者のアカウントを誰がいつ停止するのかという手順も、このフェーズで決めておくと後から慌てずに済みます。

2. 先行利用で「つまずきリスト」を作る

いきなり全社で使い始めると、同じ質問が一度に大量に寄せられ、担当者が対応しきれなくなります。まずはSaaSに前向きな1部署や少人数のチームで先行して使い、操作で迷った点や、既存の業務ルールと合わない点を「つまずきリスト」として集めます。このリストがそのまま全体展開時のマニュアルとよくある質問の元になります。

3. 全体展開は「最初の1週間」に集中して支援する

全体展開では、説明会で全機能を紹介するのではなく、「まずはこの2つの操作だけ覚えてください」と使う場面を絞るのが効果的です。例えばグループウェアなら「予定の登録」と「掲示板の確認」だけから始めるといった形です。利用開始直後の1週間は問い合わせが集中するため、担当者がすぐに回答できる体制を用意しておくと、最初の印象が良くなり定着しやすくなります。

4. 現場への浸透は「推進担当者」と「旧来の方法の廃止」で進める

情報システム担当や導入担当者だけでは、各部署の細かな使い方の相談まで目が届きません。各部署に1人ずつ、新しいツールへの抵抗が少なく周囲に教えることを苦にしない人を推進担当者として置くと、現場での簡単な質問はその場で解決できます。推進担当者は必ずしもITに詳しい人である必要はありません。

もう1つ効果的なのが、旧来の方法をやめる日を決めて周知することです。紙の申請書やExcelの共有ファイルが使える限り、慣れた方法に戻る人は必ず出てきます。「この日以降は紙の申請は受け付けない」と決めることで、SaaSが業務の標準になります。

5. 振り返りは「利用率」と「削減時間」の2つで見る

定着したかどうかは、契約したアカウントのうち実際に使われている割合(利用率)と、目的に掲げた業務の時間がどれだけ減ったか(削減時間)の2つで確認します。利用開始から1か月と3か月の時点で利用率を、半年の時点で削減時間を見ると、改善すべき点が見つけやすくなります。利用率が低い部署があれば、推進担当者を通じて理由を聞き、設定やルールを見直しましょう。

この5つのフェーズは、どのSaaSにも共通する考え方ですが、最初に取り組む対象としてはグループウェアが特に向いています。全社員が日常的に触れるため利用率の変化が分かりやすく、推進担当者の配置や旧来の方法の廃止といった定着の型を、社内全体で一度経験できるからです。自社の人数や運用体制に合うグループウェアを比較してから、定着までの計画を立ててみてください。

導入後によくある失敗パターン

SaaS導入の失敗は、製品そのものよりも、導入前の準備不足や導入後の運用の放置から起きることがほとんどです。よくあるパターンと、その対策を導入前後の状態で比べると次のとおりです。

失敗パターンよくある状態(Before)対策後の状態(After)
目的があいまいなまま導入「便利そう」で契約し、効果を説明できない対象業務と目標の数字を決め、導入前の数値を記録している
オンボーディングの軽視アカウントを配っただけで、一部の人しか使っていない先行利用と説明会を経て、推進担当者が現場を支援している
二重管理の長期化紙やExcelとSaaSの両方に入力し、手間が増えている旧来の方法を廃止する日が決まり、SaaSが業務の標準になっている
部署ごとのSaaS乱立似た機能のサービスを部署ごとに契約している契約中のSaaSを台帳で一覧管理し、導入前に重複を確認している
契約条件の見落とし使われていないのに自動更新され、費用だけ発生している更新日の1から2か月前に利用率を確認し、継続か見直しかを判断している

特に注意したいのが、部署ごとのSaaS乱立です。SaaSは部署単位でも手軽に契約できるため、全社で把握しないうちに似たサービスが増え、退職者のアカウントが複数のサービスに残ったままになるといったセキュリティ上の問題も起きやすくなります。契約中のSaaSについて、契約部署、費用、更新日、利用人数、管理者を一覧にした台帳を作り、新しいSaaSを導入する前に台帳を確認する手順を組み込んでおきましょう。

もう1つは、担当者の異動や退職による引き継ぎの問題です。なぜそのSaaSを選んだのか、契約時にどのような条件を交渉したのか、過去にどんなトラブルがあったのかといった経緯は、文書に残していないと担当者と一緒に失われます。契約書類や設定内容、社内の利用ルールを共有フォルダにまとめておくことが、長く安定して使い続けるための土台になります。

企業規模によって変わる導入の進め方

5つのステップと5つのフェーズの基本的な流れは企業規模を問わず共通ですが、時間をかけるべきポイントは規模によって異なります。

数名から数十名規模の企業では、担当者が1人で比較から契約まで短期間に判断できる反面、複数の目でリスクを確認する機会が少なくなりがちです。無料トライアルを積極的に使って実際の操作感を確かめる、契約前に利用規約の解約条件とデータの扱いだけは必ず読む、といった最低限の確認を省かないことが失敗を防ぐポイントです。オンボーディングは大がかりな研修を用意しなくても、使いながら覚える形で十分に機能します。

数十名から数百名規模の企業では、業務部門、情報システム担当、法務、経理など関わる部署が増え、各ステップの意思決定に時間がかかります。その分、オンボーディングのフェーズで「どの部署から順に展開するか」「推進担当者を誰にするか」を事前に設計しておくと、規模が大きくても定着を進めやすくなります。導入規模にかかわらず、最初の1つを小さく成功させ、その手順を次のSaaSに使い回すことが、全社的なSaaS活用を進める近道です。

よくある質問(FAQ)

Q. SaaS導入は何から始めればよいですか?

A. 製品選びの前に、導入の目的を明確にすることから始めます。対象の業務と改善したい数字をセットで書き出し、導入前の現状の数値を記録しておくと、必要な機能と効果の測り方が決まります。

Q. SaaSを選ぶときに比較すべきポイントは何ですか?

A. 機能、セキュリティ、料金、サポート、トライアルの5つです。機能は既存ツールとの連携まで、料金は利用人数が増えたときの総額まで確認すると、導入後の想定外を防ぎやすくなります。

Q. SaaS導入にはどれくらいの期間がかかりますか?

A. 対象業務の範囲や利用人数、データ移行の量によって変わります。小規模なSaaSを1部署に導入する場合でも、契約から利用開始までに1から2か月、定着の確認までにさらに3か月程度を見込んでおくと、無理のない計画を立てやすくなります。

Q. 契約前に必ず確認しておくべきことは何ですか?

A. 契約期間と自動更新の条件、解約時のデータの扱い、データの保存場所、個人情報の取り扱いなどです。料金や契約条件は変更される場合があるため、最新の内容は提供事業者の公式情報で確認してください。

Q. 導入したSaaSが社内で使われない場合はどうすればよいですか?

A. 部署ごとの利用率を確認し、使われていない理由を推進担当者を通じて聞き取ります。操作が難しい、旧来の方法が残っているといった原因に応じて、使う場面を絞った説明や、旧来の方法を廃止する日の設定を検討します。

Q. 最初に導入するSaaSは何がよいですか?

A. 全社員が日常的に使う情報共有の分野、特にグループウェアが入り口になりやすいです。利用率の変化が分かりやすく、導入から定着までの手順を社内で一度経験できるため、2つ目以降のSaaS導入にも活かせます。

まとめ

SaaS導入は、目的の明確化、比較検討、トライアル、契約・導入、オンボーディングと定着の5つのステップで進めるのが基本です。導入が手軽だからこそ、最初に対象業務と改善したい数字を決め、機能、セキュリティ、料金、サポート、トライアルの5つのポイントで候補を比較することが、失敗を防ぐ第一歩になります。

契約後は、初期設定、先行利用、全体展開、現場への浸透、振り返りと改善の5フェーズで定着を進め、利用率と削減時間で効果を確認しましょう。最初の1つで導入と定着の型を作っておけば、その後のSaaS導入もスムーズに進められます。

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