SaaS導入と定着の進め方|オンボーディングと運用5フェーズを解説
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- 2024年は80.6%の企業がクラウドサービスを利用(総務省)
- 導入は検討→選定→契約→オンボーディング→運用の5フェーズ
- 成否を分けるのはオンボーディング以降の社内定着・運用
「SaaSを導入してみたが社内で使われていない」「契約だけ進めて運用がうまく回らない」──そんな声を聞く機会は少なくありません。総務省「令和7年版 情報通信白書」によれば、2024年時点で80.6%の企業がクラウドサービスを利用しており、SaaSはもはや特別なツールではなく業務基盤になりつつあります。一方で、導入そのものはできても「使われないSaaS」になってしまう失敗は規模を問わず起きています。本記事では、SaaS導入の5フェーズを整理したうえで、特に見落とされやすいオンボーディング・社内定着・運用フェーズに重心を置き、個人事業主から中堅・大企業まで規模別の進め方を解説します。
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- SaaS導入の全体像|検討から運用までの5フェーズ
- 導入前に決めるべき3点|セキュリティ・契約・利用範囲
- オンボーディングと社内定着の進め方
- 運用フェーズで起きる「使われないSaaS」を防ぐには
- よくある質問(FAQ)
SaaS導入の全体像|検討から運用までの5フェーズ
SaaS導入は「契約して使えるようにする」までで終わるものではありません。検討から運用まで連続したプロセスで考えることで、導入後の「使われないSaaS」を防ぎやすくなります。総務省「令和7年版 情報通信白書」によれば、2024年は80.6%の企業がクラウドサービスを利用しており、利用用途は「ファイル保管・データ共有」「社内情報共有・ポータル」「電子メール」「給与・財務会計・人事」「スケジュール共有」が上位を占めています。つまり多くの企業がすでに複数のSaaSを並行運用している状態であり、新規導入の際は単体ツールの検討ではなく、既存環境との接続性まで含めて設計する必要があります。
5つのフェーズで特に時間と労力が偏りがちなのは①検討・②選定です。一方で「使われないSaaS」が発生する主因はむしろ後半の④オンボーディング・⑤運用にあります。本記事では前半フェーズは要点のみに絞り、後半に紙幅を割く構成としています。
5フェーズの概要
| フェーズ | 主な作業 | 担当の重心 |
|---|---|---|
| ① 検討 | 業務課題の言語化、要件整理 | 業務部門 |
| ② 選定 | 要件適合性・セキュリティ・契約条件の比較 | 業務部門+情シス |
| ③ 契約 | 利用範囲・解約条件・データ持ち出し条項の確認 | 情シス+法務・経理 |
| ④ オンボーディング | 初期設定、利用者登録、教育 | 情シス+業務部門 |
| ⑤ 運用 | 利用率モニタリングと改善、棚卸し | 業務部門+管理者 |
導入前に決めるべき3点|セキュリティ・契約・利用範囲
導入前に必ず詰めておきたいのが、セキュリティ・契約・利用範囲の3点です。これらは導入後に変更がきかない、もしくは変更コストが高い項目で、後手に回ると運用フェーズで顕在化します。IPA「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver 3.0実践のためのプラクティス集」は、クラウドサービス利用時の責任共有モデル(事業者と利用者の責任範囲の切り分け)を経営層が理解しておくべき項目として挙げています。
セキュリティは「責任共有モデル」が出発点
SaaSのセキュリティは、事業者がインフラ・OS・アプリケーションを管理し、利用者がアカウント・データ・利用ポリシーを管理する「責任共有モデル」が基本です。総務省「クラウドサービス提供における情報セキュリティ対策ガイドライン」は、利用者側が「自社の責任範囲」を明確化し、その範囲で必要なセキュリティ対策を実施することを推奨しています。SaaSを契約しただけでセキュリティ要件が満たされるわけではないため、利用者側で何をするかをチェックリスト化しておくことが重要です。
契約条項では「終わり方」を先に決める
解約条件・データ持ち出し(エクスポート)の形式と保管期間・サービス停止時の補償(SLA)は、契約締結前に必ず確認したい3項目です。とくに「データ持ち出し」は、SaaSを他社製品に乗り換える際の負担を大きく左右します。CSV・JSON・標準フォーマットのいずれで出せるか、解約後何日間保管されるかを契約書の条項で確認しておくと、将来の選択肢が広がります。
利用範囲は「権限3階層」で設計する
利用者数・対象業務・権限の3つを文書化することで、追加コストや権限事故を防げます。とくに権限は「管理者・利用者・閲覧者」の3階層で設計するのが定番で、これに「外部共有可・不可」のフラグを加えるとガバナンスが効きやすくなります。個人事業主は管理者=利用者で構いませんが、中小企業では退職時の権限処理を見越して管理者を2名以上置く、中堅・大企業では部門ごとの管理者と全社管理者を分けるのが現実的です。
オンボーディングと社内定着の進め方
SaaS導入で最も差がつくのが、オンボーディング以降の進め方です。前半フェーズ(検討・選定・契約)は外部の比較情報や事業者の提案書が充実しているのに対し、オンボーディング以降は「自社で設計する」割合が高く、ここで手を抜くと「契約はしたが使われない」状態に陥ります。総務省「令和7年版 情報通信白書」が示す利用用途別の利用率は、社内で機能が周知され実務に組み込まれている企業ほど高い傾向にあります。
A. 初期設定|管理者と利用者の役割を分離する
初期設定でまず行うのが、管理者と一般利用者の役割分離です。管理者は「ライセンス管理・権限変更・契約更新・監査ログ確認」を担い、一般利用者は実際の業務で使います。次に、既存システムとのID連携(SSO・SAML・SCIMなど)を設計しておくと、退職・異動時のアカウント追加・削除が一元化され、運用負荷が下がります。最後に初期データ移行を行い、移行データの整合性チェックまでをセットで完了させます。
B. 教育|マニュアル・FAQ・問い合わせ窓口の3点セット
教育は「マニュアル」「FAQ」「問い合わせ窓口」の3点セットで設計します。マニュアルは新規利用者が最低限の操作を行えるよう簡潔に、FAQはオンボーディング期間に出てきた質問を逐次追記する形で育てます。問い合わせ窓口は、社内Slack・Teamsチャンネル、もしくは情シス共通アドレスに集約し、回答ログを残すと後続の教育コンテンツに活用できます。
C. 定着モニタリング|ログイン率と主要機能利用率の2軸
定着の評価指標は、最低限「月間アクティブ率(ログイン率)」と「主要機能の利用率」の2つを継続観測します。前者は契約ユーザー数のうち実際に使っている人の割合、後者は導入目的の中核となる機能(例:経理SaaSなら仕訳入力、CRMなら商談登録)が実務でどれだけ使われているかを見ます。両指標が3か月連続で低位なら、教育のやり直しか、機能要件の再定義が必要です。
規模別の進め方
| 規模 | オンボーディングの重点 | 定着の指標 |
|---|---|---|
| 個人事業主・フリーランス | 無料トライアル期間で実務適合性を見極める/主要機能だけ使い倒す | 月の利用日数/本業務での代替率 |
| 中小企業 | 管理者2名体制/退職・異動時のID処理フローを文書化 | 月間アクティブ率/管理者の棚卸し頻度 |
| 中堅・大企業 | SSO・SAMLによるID統合/部門別の利用率モニタリング | 部門別月間アクティブ率/主要機能利用率/監査ログ完備 |
運用フェーズで起きる「使われないSaaS」を防ぐには
運用フェーズで顕在化する典型的な失敗は「目的が不明確」「管理者不在」「教育が一度きり」の3点に集約されます。いずれも導入時点で対策の芽を植えていなければ修復が難しく、契約だけが続くまま「使われないSaaS」になりがちです。NISC「クラウドを利用したシステム運用に関するガイダンス」も、クラウドサービス利用者側の継続的な運用責任を強調しており、運用フェーズを設計の対象として捉える視点が欠かせません。
退職・異動時の権限処理を「フロー」にする
運用フェーズで最も事故が起きやすいのが、退職・異動時の権限処理です。退職者のアカウントが削除されないまま残るとセキュリティリスクになり、ライセンス費の無駄も生じます。中小企業では人事側から情シスへ通知するフローが属人化しがちなので、退職通知に「利用中のSaaS一覧」を必ず添える運用にすると漏れが減ります。中堅・大企業ではSSO・SAMLによる一元管理+人事システム連動で、退職処理と同時に全SaaSのアカウントを無効化する設計が現実的です。
半期ごとのID・契約棚卸し
半期ごとに「契約ユーザー数」と「実利用ユーザー数」を突き合わせ、休眠アカウントを削除する棚卸しを行うと、無駄なコストと権限事故の両方を抑えられます。同時に「主要機能を使っていない利用者」を抽出して教育の対象とすれば、定着率も底上げできます。SaaSは月額課金が中心のため、棚卸しの結果はコスト削減として直接効きやすい点も特徴です。
よくある質問(FAQ)
Q. SaaS導入にかかる期間の目安は?
A. 規模と対象業務の複雑さで大きく変わります。個人事業主が1ツールを導入する場合は数日〜2週間、中小企業で部門単位なら1〜2か月、中堅・大企業で全社展開なら3〜6か月が一般的な目安です。期間が短すぎる場合はオンボーディング・教育が不足し、長すぎる場合は要件定義の段階で迷走している可能性があります。
Q. オンボーディング期間中にやめてよい場合は?
A. 「要件と機能が合っていない」「セキュリティ要件を満たせない」「データ移行が想定以上に困難」の3つが見えたら、無料トライアル期間や初期解約条項を活用して撤退する判断も妥当です。サンクコストに引きずられて運用フェーズに進むより、選定フェーズに戻った方が結果的に近道になることもあります。
Q. 既存SaaSと統合できるか確認する方法は?
A. 公式ドキュメントで「API・Webhook・SSO(SAML/OIDC)・SCIM」の対応状況を確認し、必要なら無料トライアル期間中に実環境で接続テストを行うのが確実です。既存SaaSとのID連携・データ連携が想定どおり動くかは、契約前に把握しておきたいポイントです。
Q. 退職者のアカウント削除はどのタイミングで?
A. 退職日当日に無効化、一定期間(30〜90日が目安)保管したうえで削除、という二段構えが一般的です。引き継ぎや監査の観点でデータの即時消去はリスクがあるため、保管期間中はアクセスのみ停止する設計が安全です。具体的な日数は社内規程・契約・業種要件に合わせて設定します。
まとめ|SaaS導入は「運用フェーズ」を起点に設計する
SaaS導入は契約までで完結せず、オンボーディングと運用フェーズの設計が成否を分けます。導入前の3点チェック(セキュリティ・契約・利用範囲)で土台を固め、オンボーディングでは初期設定・教育・定着モニタリングの3段階を設計、運用フェーズでは退職・異動時の権限処理と半期ごとの棚卸しを定着させる──この流れを規模に応じて適用すれば「使われないSaaS」を避けられます。総務省「令和7年版 情報通信白書」が示すとおり、SaaSはすでに8割の企業が使う基盤になっており、導入巧者と未着手企業の差は今後ますます業務効率に直結していくと考えられます。
今日からできる3つのこと
- 自社で使っているSaaSを棚卸しし、契約ユーザー数と実利用ユーザー数を突き合わせる
- 各SaaSの管理者が誰か、2名体制になっているかを確認する
- 退職・異動時の権限処理フローが文書化されているかを点検する
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参考文献
- 総務省「令和7年版 情報通信白書」第Ⅰ部第1節「社会基盤的機能を発揮するデジタル領域の拡大(クラウドサービス)」2025年/https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd111210.html(2026年5月30日確認)
- 総務省「クラウドサービス提供における情報セキュリティ対策ガイドライン(第3版)」2021年9月/https://www.soumu.go.jp/main_content/000771515.pdf(2026年5月30日確認)
- 独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver 3.0実践のためのプラクティス集」/https://www.ipa.go.jp/security/economics/csm-practice.html(2026年5月30日確認)
- 内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)「クラウドを利用したシステム運用に関するガイダンス」/https://www.nisc.go.jp/policy/group/infra/cloud_guidance.html(2026年5月30日確認)
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