AIの法律とは?推進法・著作権・EU法の全体像

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  • AIの法律は専用法と既存法の2層で整理できる
  • AI推進法に罰則はなく実務の中心は既存法
  • 法改正のたびに契約書や規程を見直す

AIの法律とは、AIそのものを対象にした法律と、AIの利用にも適用される既存の法律の総称です。日本にはAIを包括的に規制する罰則付きの法律はなく、2025年9月に全面施行されたAI推進法は国の方針を定める基本法で、実務上の義務は著作権法や個人情報保護法などの既存法が担っています。「何が義務で何が努力目標なのか分からない」「生成AIで作った文章や画像を業務で使っても著作権は大丈夫なのか」「EUのAI規制は日本の会社にも関係するのか」と迷う方に向けて、この記事ではAIの法律の全体マップ、AI推進法の中身、AIと著作権、EU AI Actの最新の適用スケジュール、法改正への備え、自社の対応状況の確認方法を、中小企業の実務担当者の目線で整理します。まずは、AIの法律が実務で最も形になりやすい契約書の見直し方から見ていきます。

AIの法律で、先に確認したいことを診断

Q1. いま一番気になっているのは?

目次

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  1. AIの法律は「契約書」から実務に落ちてくる|自社の契約は大丈夫か
  2. AIの法律の全体マップ|推進法・既存法・ガイドライン・海外法の関係
  3. 日本のAI推進法とは|罰則のない「推進型」の法律
  4. EU AI Actの施行スケジュール|2026年の改正で高リスクAIは延期
  5. 米国・韓国など、EU以外の国のAI規制
  6. AIと著作権|学習データと生成物の扱い
  7. 日本の法制度|既存の法律がAIの利用に適用されるポイント
  8. 法改正にどう備えるか|AIの法律は「変わり続ける」前提で運用する
  9. AIの法務対応でよくある失敗パターン
  10. 自社のAI法務対応の状況をどう確認するか
  11. よくある質問(FAQ)
  12. まとめ
  13. 参考文献

AIの法律は「契約書」から実務に落ちてくる|自社の契約は大丈夫か

AIの法律で中小企業がまず確認したいのは、AIに関わる契約書です。AI推進法は国の方針を定める法律ですが、著作権や個人情報に関わる実際の責任は、外注先との契約、AIサービスの利用規約、取引先との取引条件といった契約条項の形で、日々の業務に現れるためです。

AIの法律の全体像は、AIを対象にした法律と既存の法律の2層で整理できます(詳しくは全体マップで解説します)。たとえば外注先が生成AIで作った画像を納品物に含めていれば、著作権の帰属や第三者の権利を侵害しない保証が契約に書かれているかが問題になります。逆に自社がAIを使って受託業務を行うなら、顧客データの扱いや生成物の正確性について過大な保証をしていないかを確認します。経済産業省も「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(令和7年2月)で、当事者間の適切な利益とリスクの配分を促しています。

とはいえ、法務担当がいない中小企業が条項を1本ずつ確認するのは負担です。選択肢は大きく2つに分かれます。過去の契約書や規程をAIで検索・比較・補正して見直しを効率化する文書エディタ型と、弁護士にレビューや相談を依頼するアウトソース型です。役割の違いを次の表で比べます。

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AIの法律の全体マップ|推進法・既存法・ガイドライン・海外法の関係

AIの法律は「AIそのものを対象にした法律」と「AIの利用にも適用される既存の法律」の2層に分けて考えると整理しやすくなります。日本のAI推進法(AI法、AI新法とも呼ばれます)やEU AI Actは前者、著作権法や個人情報保護法は後者です。さらに、法律ではないものの実務の目安になるガイドラインが、両者をつなぐ役割を果たしています。

「AI 法律」で検索すると、EU・日本・米国を並べて比較する記事が多く見つかります。ただし、日本国内で事業をしている中小企業にとって、すべてを同じ重さで理解する必要はありません。日本は、罰則を伴う「ハードロー」で包括的に規制するEUとは異なり、基本法とガイドラインなどの「ソフトロー」を組み合わせる形を取っています。自社に直接関係するのはどの層なのかを先に把握すると、読むべき範囲が絞れます。

区分 主なルール 性格 中小企業への関係
AIを対象にした国内法 AI推進法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律) 国の基本方針や推進体制を定める法律。罰則付きの義務はない 国や自治体の施策への協力が求められる(罰則はない)
AIの利用に適用される既存法 著作権法、個人情報保護法、不正競争防止法など AIかどうかに関係なく適用される。違反すれば民事・刑事の責任が生じうる AIを使う全ての企業に直接関係する。実務上の中心
国内のガイドライン・指針 AI事業者ガイドライン(経済産業省・総務省)、AI戦略本部の適正性確保に関する指針、経済産業省のAI契約チェックリスト、文化庁「AIと著作権に関する考え方について」など 法的拘束力はないが、望ましい取り組みや解釈の目安を示す 社内ルールや契約条項づくりの土台として参照しやすい
海外の法律 EU AI Act(AI規則) リスクに応じて義務を課し、制裁金もある規制型の法律 EU域内でAIを提供・利用する場合に対象になりうる
海外の判例 米国のThaler v. Perlmutter事件など AI生成物の著作権の考え方を示す裁判所の判断 直接の拘束はないが、海外取引や議論の方向性を知る参考になる

この表から分かるとおり、国内で事業をしている企業にとって実務の中心は「既存法」と「ガイドライン」です。AI推進法は国の方向性を示す法律で、企業に新しい禁止事項を課すものではありません。EU AI Actは、EU向けにAIを使った製品やサービスを提供していなければ、直ちに対応が必要になるケースは限られます。まずは自社のAI利用が既存法のどこに触れるのかを確認し、そのうえで海外の動きを把握するという順番が現実的です。

日本のAI推進法とは|罰則のない「推進型」の法律

AI推進法は、AIの研究開発と活用を国として推し進めるための基本法で、企業に罰則付きの義務を課すものではありません。正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」で、2025年5月に成立し、同年6月4日に公布・一部施行、9月1日に全面施行されました(内閣府)。法律の条文に、罰金や懲役などの罰則規定はありません(e-Gov法令検索で確認)。

AI推進法で決まっていること

AI推進法の中心は、国の推進体制と計画づくりです。内閣に内閣総理大臣を本部長とする人工知能戦略本部(AI戦略本部)を置き、AIに関する施策を総合的に進めるための人工知能基本計画を定めることになっています。2025年12月23日には、この法律に基づく初めての人工知能基本計画が閣議決定され、2026年7月14日にも新たな人工知能基本計画が閣議決定されています(内閣府)。条文ごとの内容と、企業との関係は次のとおりです。

条文 内容 企業との関係
第2条(定義) 「人工知能関連技術」を、人間の認知・推論・判断に係る知的な能力を代替する機能を実現する技術などと定義する 法律が対象とする技術の範囲を示す
第3条(基本理念) 研究開発と活用を推進する一方、不正な目的や不適切な方法での利用が、犯罪への利用、個人情報の漏えい、著作権の侵害などを助長するおそれがあるとして、透明性の確保などの施策を求める 個人情報・著作権が実務の注意点であることを、法律自体が示している
第4条から第6条 国、地方公共団体、研究開発機関の責務を定める 主な名宛人は国や自治体で、企業は直接の対象ではない
第7条(活用事業者の責務) AIを事業に活用する事業者は、積極的な活用に努め、国や地方公共団体の施策に協力しなければならない 企業に関わる主な規定。罰則は付いていない
第13条・第16条 国が適正性確保のための指針を整備する。権利利益の侵害が生じた事案の分析を行い、事業者に指導、助言、情報の提供などを行う 不適切な利用があれば、国から指導・助言を受けることがある
第18条から第28条 人工知能基本計画の策定と、内閣に置く人工知能戦略本部の組織を定める 国の施策の司令塔。企業の義務ではない

第13条に基づく指針としては、2025年12月19日に、AI戦略本部が「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」を決定しています(内閣府)。事業者向けの実務の目安としては、経済産業省と総務省のAI事業者ガイドラインも参照されています。

AI推進法に罰則はあるのか

AI推進法には罰則の規定がありません。活用事業者に定められた責務(第7条)も、違反したからといって罰金や行政処分を受ける性質のものではありません。ただし、国は不適正な利用で国民の権利利益が侵害された事案を分析し、事業者に指導、助言、情報の提供などを行うものとされています(第16条)。制裁はなくても、国から指導を受けること自体が企業の信用に影響しうるため、日頃から適切な運用を心がけることが大切です。

「罰則がない=何をしてもよい」ではない理由

AI推進法に罰則がないことは、AIを使った行為が自由になるという意味ではありません。AIを使って他人の著作物に似た画像を作れば著作権法の問題になり、顧客の個人情報を目的外にAIに入力すれば個人情報保護法の問題になります。これらは従来どおり、それぞれの法律の罰則や損害賠償の対象です。AI推進法は、こうした既存の法律を置き換えるものではなく、その上に国の推進方針を重ねた法律だと理解しておくと混乱しません。

実務の目安としては、経済産業省と総務省がまとめたAI事業者ガイドラインが参照されています。AIの開発者・提供者・利用者それぞれに求められる取り組みを整理したもので、2026年3月に第1.2版が公表されています。ガイドラインの位置づけや改訂の内容は、AI事業者ガイドラインの位置づけと改定内容の記事で詳しく解説しています。

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EU AI Actの施行スケジュール|2026年の改正で高リスクAIは延期

EU AI Actは2024年8月に発効し、義務が段階的に適用される法律です。2026年7月に施行された改正(AIに関するデジタル・オムニバス)により、高リスクAIへの義務の適用は2027年12月以降に延期されました。当初は2026年8月に主要規定が全面適用される予定でしたが、基準づくりや各国の監督体制の準備が遅れていることを理由に見直されています。

リスクに応じた4段階の規制

EU AI Actの特徴は、AIをリスクの大きさで分類し、それに応じて義務を変える点です。人の弱みにつけこんで行動を操作するAIなど、許容できないリスクがあるものは禁止されます。採用選考や与信審査などに使うAIは高リスクとして、リスク管理やデータ品質、人による監視などの厳しい要件が課されます。チャットボットのように人と対話するAIには、AIであることを知らせる透明性の義務があります。それ以外の多くのAIは、特別な義務のない最小リスクに分類されます。違反した場合の制裁金は、最も重い区分で最大3,500万ユーロまたは全世界の年間売上高の7%のいずれか高い額と定められています。

主な適用時期(2026年の改正後)

時期 適用される主な内容
2024年8月1日 EU AI Actが発効
2025年2月2日 禁止されるAIの規定、AIリテラシーに関する規定が適用
2025年8月2日 汎用目的AIモデルの提供者に対する義務などが適用
2026年8月2日 AIとの対話であることを知らせるなどの透明性義務が適用(既存システムの一部には猶予期間あり)
2027年12月2日 採用・教育・与信などの用途で使う高リスクAI(単体型)への義務が適用(改正により延期)
2028年8月2日 機械や医療機器などの製品に組み込まれる高リスクAIへの義務が適用(改正により延期)

2026年の改正では延期のほか、AIリテラシーの規定を「従業員のリテラシーを確保する」から「リテラシーの向上を支援する」方向に緩める見直しや、本人の同意のない性的画像を生成するAIを禁止対象に加える見直しも行われました。インターネット上には「2026年8月に全面適用」という改正前の情報も残っているため、EUとの取引がある企業は、最新の条文や公式発表を確認してください。

日本の中小企業が対象になるケース

EU AI Actは、EU域外の企業にも適用される場合があります。典型的なのは、EUの利用者向けにAIを組み込んだサービスを提供する場合や、AIの出力結果がEU域内で使われる場合です。国内の顧客だけを相手にしている企業が直ちに対応を迫られることは多くありませんが、EUの取引先から「AI Actへの対応状況」を契約や質問票で求められる場面は増えると考えられます。その際にあわてないよう、自社がどんなAIをどの用途で使っているかを一覧にしておくと役立ちます。

米国・韓国など、EU以外の国のAI規制

EU以外でもAIの法規制は進んでいますが、国によって考え方が大きく異なります。米国は国全体を対象にした包括的なAI法がなく州ごとに規制が進む形、韓国はEUに続いて包括的なAI法を施行した形です。海外の顧客や取引先がある企業は、相手国のルールも確認しておく必要があります。

国 規制の考え方 主な動き
米国 連邦レベルの包括的なAI法はなく、連邦政府は規制緩和とイノベーション重視の方針 2025年1月に前政権のAI安全性に関する大統領令が撤回された。一方でカリフォルニア州、コロラド州、ニューヨーク州などが独自のAI規制を定めており、州ごとにルールが異なる
韓国 AI分野全体を対象にした包括的な法律(AI基本法) 2026年1月22日に施行。影響の大きいAIの管理体制や、生成AIを使っていることの事前通知・表示などを定める。透明性に関する一部の規定には猶予期間がある

米国では連邦政府と州の間で規制をめぐる調整が続いており、州法の内容が短期間で改正されることもあります。国内だけで事業をしている中小企業が直ちに対応を求められる場面は多くありませんが、米国や韓国の利用者向けにAIを使ったサービスを提供する場合は、EU AI Actと同様に現地の最新情報を確認してください。

AIと著作権は、AIが著作物を学習する「開発・学習段階」と、AIで作ったものを使う「生成・利用段階」を分けて考えるのが基本です。文化庁が2024年3月に公表した「AIと著作権に関する考え方について」も、この2段階に分けて整理しています。

学習段階:著作権法30条の4の考え方

日本の著作権法30条の4は、著作物に表現された思想や感情を自ら楽しむことを目的としない利用であれば、原則として著作権者の許諾なく利用できると定めています。AIの学習のための情報解析はこれにあたる場合が多いとされています。ただし、特定の作家の作風を再現する目的で作品を集中的に学習させるなど、学習データに含まれる表現を出力させることを目的とする場合や、著作権者の利益を不当に害する場合は、この規定の対象外になりうると整理されています。

生成・利用段階:類似性と依拠性で判断

中小企業にとってより身近なのは、生成物を使う段階です。AIで作った文章や画像を公開・販売する場合、著作権侵害になるかどうかは、通常の著作物と同じく「既存の著作物に似ているか(類似性)」と「既存の著作物をもとにしているか(依拠性)」で判断されるとされています。生成AIの利用者が既存作品を知らなかった場合の依拠性について、文化庁は次の3つの場合に分けて整理しています。

場合 依拠性の考え方 実務での注意
利用者が既存の著作物を認識していた 依拠性が認められ、著作権侵害が成立すると考えられる 既存の画像そのものや、作品名・キャラクター名などの固有名詞をプロンプトに入れない
利用者は認識していなかったが、学習データに既存の著作物が含まれていた 類似した生成物が出れば、通常は依拠性が推認される。ただし、学習した表現が出力されない状態が技術的に担保されているなどの事情を示せば、否定される余地もある 公開前に既存作品との類似を確認する。利用するサービスの学習データや利用規約も確認する
利用者は認識しておらず、学習データにも含まれない 偶然の一致にすぎず、依拠性は認められず、侵害は成立しないと考えられる 依拠性がないことを説明できるよう、生成に使ったプロンプトなどの過程を記録しておく

侵害が認められた場合の責任の重さも異なります。文化庁の整理では、差止請求は故意・過失がなくても可能ですが、損害賠償請求には故意または過失が、刑事罰には故意が必要とされています。利用者が既存の著作物を認識していなかった場合は、受け得る措置が差止請求にとどまる場合もありますが、使用料相当額の不当利得返還が認められる可能性もあります。特定の作品名や作家名をプロンプトに入れて生成したものを業務で使うのは、リスクが高い使い方だといえます。

AI生成物に著作権は発生するのか

AIが自律的に生成したものには、原則として著作権は発生しないと考えられています。日本では、人が創作的な意図を持ち、生成の過程で具体的な指示や選択、加筆修正などの創作的な寄与をした場合に、その人の著作物と認められる可能性があるとされています。米国でも、AIが自律的に作ったとされる画像の著作権登録が争われたThaler v. Perlmutter事件で、2025年3月に連邦控訴裁判所が「著作権の保護には人間の著作者が必要」と判断し、2026年3月2日に連邦最高裁判所が上告を受理しなかったことで、この判断が維持されました。自社でAIを使って作った広告やデザインを「自社の著作物」として守りたい場合は、人がどのように手を加えたかの記録を残しておくことが大切です。

本章の内容は一般的な情報提供であり、個別の事案についての法的助言ではありません。具体的な判断が必要な場合は、弁護士などの専門家に相談してください。AIと著作権の実務対応は、生成AI時代の著作権と実務対応の記事でさらに詳しく解説しています。

日本の法制度|既存の法律がAIの利用に適用されるポイント

日本でAIを使う企業が実際に注意すべき法律の多くは、AI専用の法律ではなく、以前からある法律です。AIに入力する情報、AIが出力した内容、AIを使った判断のそれぞれに、どの法律が関係するかを押さえておきましょう。

法律 AIの利用で問題になりやすい場面 実務での確認ポイント
個人情報保護法 顧客や従業員の個人情報を生成AIサービスに入力する 利用目的の範囲内か、入力データが学習に使われない設定か、外国のサーバーに保存されるか
著作権法 生成した文章・画像・コードを公開や販売に使う 既存作品との類似の確認、特定作品名をプロンプトに入れていないか
不正競争防止法 社外秘の資料や取引先の情報をAIに入力する 営業秘密として管理されている情報を外部サービスに入力していないか
景品表示法 AIが作った広告文に根拠のない効果や優良性の表現が入る 公開前に人が表現と根拠を確認しているか
民法(契約・不法行為) AIを使った納品物や業務の品質・権利について取引先と争いになる 権利の帰属、第三者の権利を侵害しない保証、責任の範囲が契約書に書かれているか

個人情報保護委員会は2023年6月、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表し、個人情報取扱事業者が個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認するよう求めています。無料の個人向けプランと法人向けプランでは、入力内容を学習に使うかどうかの扱いが異なることも多いため、利用するサービスの規約と設定を確認しておきましょう。AIによる損害が起きた場合の民事責任については、経済産業省が2026年4月に「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」(第1.0版)をまとめ、不法行為法と製造物責任法の観点から論点を整理しています。

この表の最後に挙げた契約は、ほかの法律の論点が集まる場所でもあります。たとえば「外注先がAIを使うことを認めるか」「AIに入力してよい当社の情報の範囲はどこまでか」「生成物が第三者の権利を侵害していた場合に誰が責任を負うか」といった点は、法律で一律に決まっているわけではなく、当事者間の契約で定めることになります。条項の抜けや自社に不利な表現を、法務担当がいない状態で見つけるのは簡単ではありません。弁護士に契約書のレビューや法務相談を依頼したい会社の場合の一例が、Molton株式会社が提供するクラウドリーガルです。厳選された弁護士による契約書レビューは、基本1営業日以内にWordコメント付きで返答があり、チャット・リモート面談・電話での法務・労務相談、契約書の自動作成、英文契約書のレビューにも対応しています。注意点として、契約書レビューはサービス内の一部で1通あたり7ページ以下が対象となり、プランごとに相談時間やレビュー件数の上限があります。料金はプランによって異なるため、資料や公式サイトで確認してください。

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法改正にどう備えるか|AIの法律は「変わり続ける」前提で運用する

AIの法律は国内外で改正や新しい指針が続いているため、一度整えた社内ルールや契約書も、定期的に見直す前提で運用するのが現実的です。「法改正でAIに関するものは何か」と調べる方も多く、2025年から2026年にかけての主な動きは次のとおりです。

時期 動き 見直しが必要になりやすい文書
2025年6月・9月 AI推進法の公布(6月4日)と全面施行(9月1日) 社内のAI利用方針
2025年12月 適正性確保に関する指針の決定(19日)、最初の人工知能基本計画の閣議決定(23日) 社内のAI利用方針、リスクの洗い出し表
2026年3月 AI事業者ガイドライン第1.2版の公表 AI利用規程、取引先への説明資料
2026年4月 経済産業省「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」第1.0版 契約書の責任範囲・保証条項
2026年7月 新たな人工知能基本計画の閣議決定(14日)、EU AI Actの改正が施行 EU取引先向けの回答、社内のAI利用方針

AI推進法そのものにも見直しの仕組みがあり、附則で、政府が施行状況を検討し、必要があると認めるときは所要の措置を講ずるものとされています。今後も運用や指針が変わる可能性があるため、法改正のたびに自社の文書を点検する手順を決めておくと慌てずに済みます。

  1. 改正の原文と施行日を、e-Gov法令検索や所管省庁のページで確認する
  2. 自社の契約書・規程・社内ルールのうち、該当しそうな条項を一覧にする
  3. 条項ごとに修正の要否を判断し、修正案を作る
  4. 重要な契約や規程は、弁護士などの専門家に最終確認を依頼する
  5. 改訂の経緯と施行日、対応した版を記録に残す

最近は、2番目の「該当しそうな条項の洗い出し」にAIを活用する動きもあります。ただし、AIが示すのは確認すべき候補であり、法的な判断ではありません。条文の原文に当たることと、専門家の確認は省略できません。一方で、契約書や規程が1か所にデータとして整理されていなければ、候補を挙げる前の「どの文書にどんな条項があるか」を探す作業で手間がかかります。LAWGUEの商品ページでは、オプションで法令改正に対応する機能があり、影響のある文書を特定して改訂の準備を進められると紹介されています。

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AIの法務対応でよくある失敗パターン

AIの法務対応で多い失敗は、法律を知らないことよりも「どの法律が関係するかの思い込み」から生じます。よくあるパターンと、代わりに取るべき対応を整理します。

失敗パターン 起きやすい問題 代わりに取るべき対応
AI推進法に罰則がないので対応不要と考える 既存法の違反に気づかないまま利用が広がる 個人情報・著作権・営業秘密の観点で自社の利用場面を洗い出す
EU AI Actの情報を改正前のまま使う 不要な対応に予算を使う、または必要な対応が遅れる 公式の条文や発表で適用時期を確認し、取引先への回答を更新する
生成物はAIが作ったので著作権侵害にならないと考える 既存作品に似た画像や文章を公開してしまう 公開前に類似性を確認し、特定作品名を使ったプロンプトを避ける
社内ルールを作っただけで運用を確認しない 個人アカウントの無料サービスに業務情報が入力される 利用してよいサービスを指定し、定期的に利用状況を確認する
契約書の雛形を見直さずにAI利用を始める 納品物の権利や責任範囲をめぐって取引先と争いになる AI利用の可否、権利の帰属、保証の範囲を条項として明記する
法改正や新しい指針を追わず、規程が古いままになる 現行のガイドラインや取引先の要請と食い違う 年に1回など点検の時期を決め、改訂の記録を残す

これらの失敗に共通するのは、「AIの法律」を新しい専門分野として遠ざけてしまい、自社の日常業務と結びつけていない点です。社内でどのAIサービスを誰がどの業務に使っているかを把握するだけでも、多くのリスクは早い段階で見つかります。

自社のAI法務対応の状況をどう確認するか

自社の対応状況は、「使っているAIの把握」「入力するデータのルール」「生成物の確認手順」「契約書の整備」の4つの観点で確認すると抜け漏れを防げます。法務担当者がいない企業でも、次の項目を1つずつ確認するところから始められます。社内でのAI活用の全体像は、AI活用とはの記事もあわせて参考にしてください。

使っているAIの把握

  • 社内で使われている生成AIサービスと、利用している部署・業務を一覧にしている
  • 会社として認めたサービスと、個人の判断で使われているサービスを区別できている
  • 採用選考や与信判断など、人の権利に影響する業務でAIを使っていないかを確認している

入力するデータのルール

  • 個人情報や取引先の秘密情報を入力してよいかどうかのルールを決めている
  • 利用するサービスで、入力内容が学習に使われるかどうかの設定を確認している
  • 従業員向けに、AIの利用ルールと注意点を説明する機会を設けている

生成物の確認手順

  • 生成した文章や画像を公開する前に、人が内容の正確性と既存作品との類似を確認している
  • 広告や商品説明にAIを使う場合、根拠のない表現が入っていないかを確認している
  • 人が手を加えた記録や、生成に使ったプロンプトの記録を残し、自社の著作物として説明できるようにしている

契約書の整備

  • 外注先との契約で、AI利用の可否と納品物の権利の帰属を定めている
  • 自社がAIを使って受託する業務について、保証や責任の範囲を過大にしていない
  • 利用しているAIサービスの利用規約で、生成物の権利や禁止事項を確認している

最初の3つの観点は社内のルールづくりで対応できますが、最後の契約書の整備と、法改正のたびの見直しは、条項の書き方ひとつで結果が変わるうえ、手作業の負担も大きい部分です。この作業を毎回手でやっているなら、次のセルフチェックで今の運用を確認してみてください。

AI法務の確認作業、今のやり方で足りていますか?セルフチェック

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よくある質問(FAQ)

Q1. 日本にAIを規制する法律はありますか?

A. AIそのものを対象にした法律として、2025年9月に全面施行されたAI推進法があります。ただし、AIの研究開発と活用を推進するための基本法で、企業に罰則付きの義務を課すものではありません。AIの利用に伴う実務上の注意点は、著作権法や個人情報保護法などの既存の法律と、AI事業者ガイドラインで確認します。

Q2. AI新法(AI推進法)に違反すると罰則はありますか?

A. AI推進法には罰則の規定はありません。活用事業者には国や自治体の施策に協力する責務が定められていますが、違反に対する罰則はありません。不適正な利用で権利侵害が生じた事案については、国が分析を行い、事業者に指導、助言、情報の提供などを行う仕組みがあります。一方、AIを使った行為が著作権法や個人情報保護法に違反すれば、それぞれの法律に基づく責任が生じます。

Q3. AI法で禁止されていることはありますか?

A. 日本のAI推進法には、企業の行為を禁止する規定はありません。禁止の規定があるのはEU AI Actで、人の弱みにつけこんで行動を操作するAIなどが2025年2月2日から禁止されています。2026年の改正では、本人の同意のない性的画像を生成するAIも禁止対象に加える見直しが行われました。EU向けにAIを提供する場合は、最新の条文を確認してください。

Q4. 生成AIを業務で使うと法律違反になりますか?

A. 生成AIを使うこと自体が違法になるわけではありません。問題になるのは、既存の著作物に似た生成物を公開する、個人情報や営業秘密を不適切にAIへ入力するといった、既存の法律に反する使い方です。生成物の公開前に類似を確認し、入力してよい情報のルールを決めておくのが基本です。個別の判断が必要な場合は専門家への相談をおすすめします。

Q5. AIに関する法改正や新しい指針には何がありますか?

A. 2025年6月にAI推進法が公布され、同年12月に適正性確保に関する指針と最初の人工知能基本計画が決まりました。2026年には、3月にAI事業者ガイドライン第1.2版、4月に経済産業省の民事責任の手引き、7月に新たな人工知能基本計画とEU AI Actの改正が出ています。AI推進法には施行状況の検討規定もあるため、今後も見直しが続く可能性があります。

Q6. AIの法律対応として、中小企業はまず何から始めればよいですか?

A. 社内で使っているAIサービスと用途を一覧にし、入力してよい情報のルールと、生成物を公開する前の確認手順を決めるところから始めるのが現実的です。あわせて、外注先や取引先との契約書にAI利用の可否や権利の帰属が書かれているかを確認し、必要に応じて契約書の管理・レビューを支援するサービスや専門家を活用して条項を見直しましょう。

まとめ

AIの法律は、日本のAI推進法のようにAIを対象にした法律と、著作権法や個人情報保護法のようにAIの利用にも適用される既存の法律の2層で成り立っています。国内で事業をする企業にとって実務の中心は既存法とガイドラインであり、EU AI Actは2026年の改正で高リスクAIの適用が延期されるなど、最新の情報を確認することが欠かせません。今日から取り組めることは次の4つです。

  1. 社内で使っているAIサービスと用途を一覧にし、個人情報・営業秘密を入力してよい範囲のルールを決める
  2. 生成した文章や画像を公開する前に、正確性と既存作品との類似を人が確認し、生成の過程を記録する手順を作る
  3. 外注先や取引先との契約書に、AI利用の可否、権利の帰属、責任の範囲が書かれているかを確認する
  4. 契約書や規程の確認、法改正のたびの見直しが手作業で負担なら、文書の管理・比較を支援するサービスや、弁護士に相談できるサービスの資料を取り寄せて比べる

本記事は2026年10月時点の公開情報に基づく一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。法令や制度は改正されることがあるため、最新の情報は各省庁やEUの公式発表で確認し、個別の判断が必要な場合は弁護士などの専門家に相談してください。

参考文献

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