偽装請負と言われないBPO契約の作り方|業務委託・請負・委任の違い

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  • 「業務委託」は法律上の正式名称ではなく、請負・委任・準委任のいずれかになる
  • 偽装請負と判定される基準は厚労省37号告示の第二条(労務管理)と第三条(独立処理)の両軸で実態判断される
  • 給与計算代行のような専門資格者が扱うバックオフィス業務は、業務範囲が明確で偽装請負リスクを比較的抑えやすい

BPOを発注・受託する際、契約書に書かれる言葉は「業務委託」「請負」「委任」「準委任」「受託」とさまざまで、意味が重なる部分もあれば責任範囲がまったく異なる部分もあります。この違いを曖昧にしたまま契約を結ぶと、発注者は「偽装請負」と判定されるリスクを、受託者は「成果物責任を一方的に問われる」リスクをそれぞれ抱えることになります。本記事では、厚生労働省の37号告示に基づく偽装請負の判定基準を軸に、契約類型の整理方法、業種別のリスクの見極め方、発注者・受託者双方の実務チェックリストまでを解説します。

目次

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  1. 「業務委託」「請負」「受託」の違いを契約類型で整理する
  2. 請負契約と準委任契約、BPOではどちらを選ぶべきか
  3. 偽装請負と判定される基準——37号告示の構造
  4. 業種別に見る偽装請負リスクの見極め方
  5. 偽装請負リスクを抑えやすい業務類型と給与計算代行の位置づけ
  6. BPO契約で起こりやすい3つの失敗パターン
  7. 発注者・受託者それぞれの実務チェックリスト
  8. よくある質問(FAQ)
  9. まとめ|今日からできる4つのこと
  10. 参考文献

「業務委託」「請負」「受託」の違いを契約類型で整理する

BPO契約でよく使われる「業務委託」という言葉は、実は民法上の正式な契約類型ではありません。実務で「業務委託契約書」と呼ばれる契約は、法律上は「請負契約」または「(準)委任契約」のいずれかに分類されます。「受託」は委託を受ける側の立場を示す呼び方にすぎず、これも契約類型そのものを表す言葉ではありません。

BPOで使う「業務委託」の用語マップ 実務用語の業務委託は、民法上の請負契約・委任契約・準委任契約のいずれかに対応する。受託は委託される側の呼称、労働者派遣は別法令の枠組みで混同に注意。 業務委託 (実務用語・総称) 請負契約 民法632条以下 仕事の完成を約束 委任契約 民法643条以下 法律行為の事務処理 準委任契約 民法656条 事実行為の事務処理 受託 委託される側の立場(=受託者) 労働者派遣 労働者派遣法・別法令。混同に注意 「業務委託」自体は民法上の契約類型ではなく、請負・委任・準委任の総称として使われる実務用語である

厚生労働省も、業務委託(請負)と労働者派遣の区分は契約書の形式ではなく実態に基づいて判断されることを明確にしています。形式的に「業務委託契約書」を交わしていても、運用の実態が労働者派遣に該当すれば、派遣法違反として扱われる点に注意が必要です(参考:厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)」最終改正:平成24年厚生労働省告示第518号、2026年6月時点で確認)。

請負契約と準委任契約、BPOではどちらを選ぶべきか

BPO契約を組み立てるうえでもっとも重要な分岐点は「仕事の完成を約束するかどうか」です。請負契約は仕事の完成そのものを目的とし、報酬は完成した成果物に対して発生します。一方、準委任契約は事務処理を行うこと自体が目的であり、必ずしも成果物の完成を約束するものではありません。2020年4月施行の改正民法では、準委任契約に「履行割合型」と「成果完成型」が明文化され(民法648条の2)、BPO実務でも両者の違いを意識して契約類型を選ぶ必要があります(参考:e-Gov法令検索「民法」(明治二十九年法律第八十九号)第632条・第643条・第648条の2・第656条、2026年6月時点で確認)。

比較項目 請負契約 準委任契約
目的 仕事の完成 事務処理の実施
報酬請求 完成した成果物に対して 履行割合型または成果完成型
主な義務 仕事の完成義務 善管注意義務(民法644条)
契約不適合責任 あり(562条以下準用) 原則なし(成果完成型は例外)
契約解除 注文者は完成まで可(損害賠償あり・641条) 各当事者がいつでも可(651条)
BPOでの典型例 成果物が明確なシステム開発・事務代行 コールセンター運営・問合せ対応など業務遂行そのものが目的の業務

どちらを選ぶかによって、報酬支払のタイミング・成果物の検収基準・契約解除時の取扱いが大きく変わります。契約書のタイトルが「業務委託契約書」であっても、条文の内容がどちらの類型に近いかを確認したうえで、報酬支払や検収の条項を組み立てる必要があります。

偽装請負と判定される基準——37号告示の構造

BPO発注で最も法的リスクが高いのが「偽装請負」です。契約書では請負・準委任としていながら、実態として発注者が受託者の労働者へ直接指揮命令している場合、労働者派遣法違反と判定されます。判定の基準は、厚生労働省が定めた「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号、最終改正:平成24年厚生労働省告示第518号)」、通称「37号告示」に明記されています。

37号告示による偽装請負の判定構造 第二条(労務管理を自ら行う)と第三条(独立処理)の両方を満たさないと請負として認められない。 第二条:労務管理を自ら行う 受託者が労働者に対して次を自ら行う 業務遂行の指示・管理 業務遂行の評価 始業終業・休憩・休日の管理 服務規律・配置の決定 発注者が直接指揮命令すると偽装請負のリスク かつ 第三条:独立処理の要件 業務を自己の業務として独立処理 資金を自ら調達・支弁 法律上の責任のもとで処理 単なる労働力提供ではない 専門的技術・企画・設備を要する 資金・責任・専門性の3点が独立処理の目安 第二条と第三条の両方を満たして初めて「請負」として認められる(満たさない場合は労働者派遣に該当するリスクがある)

37号告示は契約の形式ではなく実態で判断する点に特徴があります。たとえば「業務委託契約書」と題した契約を結んでいても、発注者の社員が受託者の労働者に対して直接「この資料を午後3時までに作ってほしい」「明日は残業して対応してほしい」といった指示を出していれば、偽装請負と判定される可能性が高くなります。厚生労働省は判定基準を補足する「37号告示に関する疑義応答集」を公開しており、業務領域別の具体的な事例を確認できます(参考:厚生労働省「『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(37号告示)関係 疑義応答集」、2026年6月時点で確認)。

業種別に見る偽装請負リスクの見極め方

偽装請負のリスクは、業務の性質によって現れやすさが異なります。ここでは実務でBPOの対象になりやすい3つの業種を例に、37号告示の観点でリスクの傾向を整理します。

IT開発(システム開発・受託開発)

要件定義後の受託開発は、成果物(システム・プログラム)が明確で、請負契約との相性がよい業務です。一方で、常駐型の開発案件では発注者側のプロジェクトマネージャーが受託者のエンジニアに日々のタスクを直接割り振るケースが見られ、これが第二条の「労務管理を自ら行う」要件から外れて偽装請負と判定される典型パターンとされています。アジャイル型開発における発注者・受託者の役割分担については、厚労省の疑義応答集にも具体的な整理があります。

コールセンター運営(問合せ対応・受託)

コールセンター運営は業務遂行そのものが目的となるため、準委任契約が選ばれることが多い業務です。発注者側のシステムを利用する必要があり、受託者側の管理者を通さずに発注者が個々のオペレーターへ直接指示を出す運用になりやすい点が、第二条・第三条の両方でリスクとなりやすい業務類型です。

バックオフィス事務(給与計算・労務事務・経理事務)

給与計算や労務事務、経理事務などのバックオフィス事務は、業務範囲を「毎月の給与計算」「年末調整」など具体的な単位で切り出しやすく、成果物(計算結果・書類)も明確です。加えて、給与計算代行の多くは社会保険労務士(社労士)の専門知識を前提とするため、次章で解説するとおり、第三条の「専門的技術・経験を要する業務」という要件を説明しやすい業務類型といえます。

業務類型 成果物の明確さ 独立処理のしやすさ(37条3号の目安) 偽装請負リスクの傾向
IT開発(受託開発) 高い(成果物が明確) 常駐型は低下しやすい 常駐案件で直接指示が発生しやすい
コールセンター運営 中程度(対応件数・品質基準) 発注者システム依存で低下しやすい 現場での直接指示が発生しやすい
バックオフィス事務(給与計算・労務事務) 高い(計算結果・書類が明確) 専門資格に基づき説明しやすい 業務範囲を明確化しやすく比較的抑えやすい

偽装請負リスクを抑えやすい業務類型と給与計算代行の位置づけ

前章で触れたとおり、給与計算や社会保険関連の事務は、専門資格制度と結びついている点が他のBPOと異なります。社会保険労務士法第27条は「社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、同法第2条第1項第1号から第2号までに掲げる事務を業として行ってはならない」と定めており、社会保険の資格取得・喪失手続きや給付関係の事務代理は、原則として社労士・社労士法人でなければ有償で行えません(参考:e-Gov法令検索「社会保険労務士法」(昭和四十三年法律第八十九号)第27条、2026年6月時点で確認)。

このため、給与計算代行サービスの多くは社労士事務所・社労士法人が運営主体であるか、社労士と提携する体制で提供されています。これは37号告示第三条が求める「専門的技術・経験を要する業務」を制度的に説明しやすいことを意味し、かつ給与計算という成果物(計算結果・給与明細の発行)が具体的であるため、請負契約または成果完成型の準委任契約として整理しやすいという特徴もあります。この2点から、給与計算代行は、数あるBPOの中でも偽装請負のリスクを比較的抑えやすい業務類型として位置づけられます。

もちろん「社労士に依頼すれば偽装請負は起こらない」というわけではありません。仮に発注者側の担当者が委託先のスタッフに対して日々の勤務時間を直接管理するような運用になれば、第二条の要件を満たさなくなり、偽装請負のリスクは残ります。とはいえ、これからBPO契約全体の整理に着手する場合、業務範囲が明確で専門資格者が扱うバックオフィス業務——特に給与計算・社会保険事務——から契約類型を見直すのは、実務上の合理的な出発点といえます。自社の給与計算業務を代行に切り出す際に依頼できる業務内容や検討の進め方は、以下の記事で解説しています。

BPO契約で起こりやすい3つの失敗パターン

BPO契約のトラブルは、契約類型を選び間違えるよりも、契約書のレベルで合意が曖昧なまま運用してしまうところから生じることが少なくありません。実務でつまずきやすい3つの典型パターンを整理します。

失敗パターン1:業務範囲が曖昧なまま発注する

「経理業務一式」「コールセンター運営全般」など包括的な記載のままBPOを発注し、運用開始後に「これは契約外」「ここまでは含まれているはず」と認識がズレるパターンです。請負・準委任のどちらを選ぶにしても、業務範囲・業務量の上限・追加業務発生時の取扱いは契約書に具体的に書いておく必要があります。

失敗パターン2:個人情報の取扱い委託の合意が漏れる

顧客データ・従業員情報を含むBPOは、個人情報保護法第27条第5項第1号に基づく「個人データの取扱いの委託」に該当します。委託元は必要かつ適切な監督を行う義務があり、個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)では、委託契約に安全管理措置・再委託の条件・取扱状況の把握方法を盛り込むことが求められています(参考:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」、2026年6月時点で確認)。BPO発注時にはこれらを契約書に明記し、定期的な報告サイクルを定めておくことが重要です。

失敗パターン3:取適法(旧下請法)の対象判定を見落とす

2026年1月施行の改正により、従来の「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」は「中小受託取引適正化法(取適法)」へ改称されました。BPOの発注においても、委託元・委託先の資本金規模と取引内容の組合せで取適法の対象になるかどうかの判定が必要です。対象となる場合、書面交付義務・支払期日の遵守・支払遅延の禁止・買いたたきの禁止などの規制が適用されます(参考:公正取引委員会「下請法の概要/中小受託取引適正化法(取適法)」、2026年6月時点で確認)。

※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、法的助言ではありません。個別の契約における法的判断については、弁護士や社会保険労務士等の専門家にご確認ください。

発注者・受託者それぞれの実務チェックリスト

契約締結前後の確認項目を、発注者(委託元)と受託者(委託先)双方の立場で整理しました。

発注者(委託元)のチェックリスト

  • 業務範囲・成果物・検収基準を契約書に具体的に明記したか
  • 請負か準委任かを意図的に選び、報酬支払の根拠と紐付けているか
  • 自社の従業員が、受託者の労働者へ直接指揮命令していないか(37号告示・第二条)
  • 個人情報を委託する場合、安全管理措置・再委託条件・監督方法を契約に明記したか
  • 取適法(旧下請法)の適用対象か、資本金規模と取引内容で確認したか
  • 定期的な業務報告のサイクルと、トラブル発生時の連絡経路を決めているか

受託者(委託先)のチェックリスト

  • 業務範囲を曖昧なまま受注していないか(追加業務発生時の取扱いを契約に明記)
  • 自社の労働者への指揮命令を自社で完結できているか(発注者からの直接指示を受けていないか)
  • 必要な設備・資材を自社で調達しているか(37号告示・第三条)
  • 個人情報を取り扱う場合、組織的・人的・物理的・技術的の4つの安全管理措置を整備しているか
  • 再委託を行う場合、委託元の同意を契約に基づき得ているか
  • 取適法の対象取引である場合、書面交付・支払期日の管理ができているか

よくある質問(FAQ)

Q1. 「業務委託」と「請負」は同じ意味ですか?

A. 法律上、業務委託は民法上の正式な契約類型ではなく、請負と(準)委任の総称として実務で使われる呼称です。契約書のタイトルに「業務委託」と書かれていても、契約内容に応じて請負契約・準委任契約・委任契約のいずれかに分類されます。

Q2. BPO契約は請負と準委任、どちらにするべきですか?

A. 成果物の完成を約束できる業務(システム開発・成果物が明確な事務代行など)は請負、業務遂行そのものを目的とする業務(コールセンター運営・問合せ対応など)は準委任が選ばれる傾向にあります。報酬請求のタイミングや契約不適合責任の有無が変わるため、業務特性に合った類型を選ぶことが重要です。

Q3. 偽装請負とはどのような状態を指しますか?

A. 契約形式は請負や準委任としながら、実態として発注者が受託者の労働者へ直接指揮命令している状態です。厚生労働省の37号告示で判定基準が示されており、該当すると労働者派遣法違反となる可能性があります。

Q4. 発注先の社員に作業の進め方を直接指示したら違法ですか?

A. 請負契約・準委任契約の場合、原則として業務指示は受託者の管理者を通じて行います。発注者が個別の労働者へ直接指示すると、偽装請負と判定されるリスクがあります。技術的な質問・連絡などの境界事例については、厚労省の疑義応答集に具体的な事例が示されています。

Q5. 個人情報を委託先に渡してBPOを依頼してもよいですか?

A. 個人情報保護法上は委託として認められますが、委託元には委託先への必要かつ適切な監督義務があります。委託契約に安全管理措置・再委託条件・取扱状況の把握方法を明記することが必須です。

Q6. 給与計算代行を利用すれば偽装請負のリスクはなくなりますか?

A. リスクがゼロになるわけではありませんが、比較的抑えやすい業務類型です。給与計算は成果物が明確で、多くは社会保険労務士法上の専門資格者が扱う業務のため、37号告示が求める独立処理の要件を説明しやすい傾向があります。ただし発注者側が委託先スタッフの勤務時間を直接管理するような運用になれば、リスクは残ります。

まとめ|今日からできる4つのこと

「業務委託」「受託」「請負」という言葉は日常的に使われていますが、契約書の中ではそれぞれが指し示す責任範囲が異なります。BPOを発注する側も受託する側も、契約類型を意識して契約書を組み立てることが、偽装請負・成果物責任・個人情報漏えいといった法的リスクの回避につながります。

  1. 自社のBPO契約書を見直し、契約類型(請負/準委任)が明記され、報酬請求の根拠と紐付いているかを確認する
  2. 発注者の立場であれば、自社の従業員が受託者の労働者へ直接指揮命令していないか業務フローを点検する
  3. 個人情報を委託している場合は、安全管理措置の合意状況と取扱状況の把握方法を見直し、必要に応じて契約書を改訂する
  4. 業務範囲が明確で専門資格者が扱う給与計算・社会保険事務のようなバックオフィス業務から、契約類型の整理に着手する(該当する場合は給与計算代行サービスの活用も検討する)

参考文献

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