マーケティングDXとリスキリングの必要性|経産省データで読み解く実務ガイド
Check!
- DXの必要性は経産省「DXレポート」「DXレポート2.2」とIPA「DX白書2025」が一次情報
- マーケDXの業務マップは4領域(MA/CRM/SFA/CDP)
- 経産省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」は転職希望の在職者が対象
「マーケティング部門のDXを進めたいが、何から手をつければよいか分からない」「必要性は感じるが、経営層に説明する材料がない」「ツール導入だけでは進まず、社内のスキルアップ(リスキリング)が課題になっている」——これらは規模を問わずマーケティング担当者から聞かれる悩みです。本記事では、経済産業省「DXレポート」と「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」、独立行政法人IPA「DX白書」を一次情報として、①DXの必要性の客観的な論拠、②マーケティング部門のDX業務マップ、③リスキリングの位置付け、④規模別の優先順位、⑤両者の組み合わせ方を整理します。基礎概念はDXとは何かを、全社的な進め方はDX推進の進め方を併せてご参照ください。
おすすめ記事
目次
開く
閉じる
開く
閉じる
「DXの必要性」公的データで見る客観的な論拠
マーケティングDXの必要性を語るうえで、最初に押さえたい一次情報は経済産業省「DXレポート」(2018年9月)です。同レポートは、複雑化・老朽化したレガシーシステムを刷新できない場合、2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が発生しうると試算しました。これがいわゆる「2025年の崖」と呼ばれる論拠です。
続く「DXレポート2.2」(2022年7月)では、DXは単なるシステム更新ではなく、企業文化・組織・業務プロセスまで踏み込んだ変革であると改めて整理されています。また、独立行政法人IPA「DX白書2025」では、日本企業のDX取り組み状況や海外との比較データが提示されており、規模別の進捗差(大企業のほうが取り組みが進んでいる傾向)が明らかになっています。
マーケティング部門に固有の必要性としては、次の3点が挙げられます。第一に、SNS・Web・店舗・メール・アプリと顧客接点が多様化し、人手で全チャネルを把握しきれなくなっていること。第二に、競合の動きやキャンペーン効果の意思決定スピードが求められること。第三に、勘や経験に依存した施策から、データを起点とした経営への移行が求められていることです。
ここで重要なのは、「DXをやらないと滅ぶ」「絶対に必要」といった誇張表現を避けることです。本記事では公的データの提示にとどめ、自社の状況にあてはめて判断するための材料として整理します。
マーケティング部門のDX業務マップ
経済産業省「DX推進ガイドライン」では、DXを「データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。マーケティング部門にこれを適用したのが「マーケティングDX」です。
マーケDXは、しばしば「デジタイゼーション/デジタライゼーション/DX」の3段階モデルで整理されます。紙のチラシをPDFに置き換える段階がデジタイゼーション、メール配信を自動化する段階がデジタライゼーション、データを起点に商品開発まで変える段階がDXです。「デジタルマーケティング」は主にデジタイゼーションとデジタライゼーションを指し、「マーケティングDX」はその先のビジネスモデル変革まで含む点で異なります。
マーケDXの4つの業務領域
マーケティング部門のDXは、業務領域で見ると次の4つに整理できます。MA(マーケティングオートメーション)は見込み顧客の育成を担い、メール配信・スコアリング・シナリオ設計などが主な機能です。CRM(顧客関係管理)は既存顧客との関係維持・拡大を担い、顧客情報の一元管理・問い合わせ履歴・LTV分析を行います。SFA(営業支援)は営業活動のデータ化を担い、商談管理・予実管理・パイプライン分析が中心です。CDP(カスタマーデータプラットフォーム)は複数チャネルの顧客データを統合する基盤として、セグメント生成・配信連携を担います。
業務適用のステップ
| ステップ | 内容 | 所要期間の目安 |
|---|---|---|
| ① 現状診断 | 4業務領域のうち、機能している領域・未着手領域を棚卸し | 1〜2週間 |
| ② 領域選択 | 最も投資対効果が高い領域を1〜2つ選択 | 1週間 |
| ③ ツール選定 | 機能要件と運用人材のスキルに合わせて選定 | 2〜4週間 |
| ④ 運用定着 | 運用ルール策定・教育・PDCAの回し方を設計 | 3〜6か月 |
個別のツール選定の考え方はDXツールの選定軸に、活用全般の実務手順はDX活用の具体例にまとめています。
DXリスキリングとは——経産省「キャリアアップ支援事業」の位置付け
「リスキリング」は、デジタル化や事業環境の変化に対応するために新しい職業スキルを習得することを指す概念で、近年は経済産業省・内閣府を中心に政策的な後押しが進められています。マーケティング領域では、データ分析・MA運用・SQL基礎・顧客分析・生成AI活用などがリスキリングの主要なテーマです。
経産省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」の概要
経済産業省は「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」を運営しています。これはリスキリングと労働移動の円滑化を一体的に進める観点から、在職者を対象に①キャリア相談対応、②リスキリング提供、③転職支援、④フォローアップの4工程を一体的に実施する体制を整備する事業です。2025年8月には六次公募が開始されています(公募回は順次更新)。
| 工程 | 内容 |
|---|---|
| ① キャリア相談対応 | キャリアコンサルタント等によるキャリアの棚卸し・ゴール設定・スキル棚卸し |
| ② リスキリング提供 | 相談を踏まえたリスキリング講座の受講 |
| ③ 転職支援 | キャリア相談とリスキリングを踏まえた転職活動の支援 |
| ④ フォローアップ | 転職後の定着支援 |
講座費用については、リスキリング講座の提供価格の1/2相当額(講座受講修了人数1人当たり40万円を上限)が支援され、講座受講修了後に転職が完了して1年間継続就業した場合には、追加的に提供価格の1/5相当額(同16万円を上限)が支援される仕組みです(詳細は経産省の最新公募要領を確認)。
本事業を使える人・使えない人
本事業は「雇用主の変更を伴う転職を目指している在職者」を対象としています。社内昇進や独立開業、派遣社員の派遣先変更などは対象外です。社内人材のリスキリングを進めたい企業は、別途「人材開発支援助成金」「キャリアアップ助成金」など厚生労働省の制度との併用を検討する選択肢があります。
DX人材像(経産省「デジタルスキル標準」)
経産省「デジタルスキル標準」では、DX推進を担う人材像として、ビジネスアーキテクト・デザイナー・データサイエンティスト・ソフトウェアエンジニア・サイバーセキュリティの5類型が提示されています。マーケティング部門で特に関連が深いのは、データサイエンティストとビジネスアーキテクトの2類型です。社外人材の確保についてはDX人材の確保、AIを軸とした業務効率化との接続についてはAIを活用した業務効率化との接続も併せて整理すると、社内と社外の選択肢を俯瞰できます。
規模別の必要性の度合いと優先順位
マーケDXとリスキリングの必要性は、規模を問わず存在しますが、優先順位の置き方は事業規模によって変わります。本記事では「中小企業のための」を冠語にせず、3層を並列で扱います。
個人事業主・フリーランス
マーケ施策を1〜2人で回している場合、フル機能のMA・CDPは過剰投資になりがちです。まずは軽量SaaS(無料CRM・無料MAの導入)と、無料・低価格のオンライン講座を活用した自学リスキリングが現実的です。経産省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」は在職者向けのため、フリーランスは対象外となるケースが多く、ハローワークの公的職業訓練や教育訓練給付制度など別ルートの活用が選択肢になります。
中小企業(マーケ担当2〜5名)
マーケ担当が複数人いる規模では、MA/CRMから着手するのが現実的です。IT導入補助金と組み合わせると、初期投資の負担を抑えながらツール導入を進められます。社員のリスキリングについては、経産省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」のほか、厚労省「人材開発支援助成金」など複数の制度から自社状況に合うものを選択する形になります。具体的な公的制度の整理はDX加算・DX認定・DX補助金の全体像にまとめています。
中堅大企業(マーケ部門10名以上)
中堅大企業では、MA/CRM/SFAに加えてCDP含むデータ基盤構築が論点になります。同時に、全社規模のリスキリング設計(教育予算・対象者選定・キャリアパス連携)が必要で、経済産業省・東京証券取引所による「DX認定制度」の取得を経営目標に置く事例も増えています。DX認定は、経営者の関与・戦略・体制・指標・公表など複数要件を満たした事業者を国が認定する制度です(運用は独立行政法人IPAが実施)。
規模共通の優先順位ロジック
- 必要性の論拠を社内合意(経産省「DXレポート」「DXレポート2.2」を引用)
- 業務マップで現状把握(MA/CRM/SFA/CDPのうち何が機能しているか)
- リスキリング計画を並行設計(社内向け・転職前提向けのどちらに該当するか)
- ツール導入と運用定着(運用ルール・教育・PDCAの設計)
中小企業庁「中小企業白書」では、デジタル化に取り組む中小企業のほうが取り組まない企業よりも業績改善傾向にあるというデータが繰り返し示されており、規模ニュートラルに「自社の段階を把握し、無理のない優先順位で進める」ことの重要性が裏付けられています。
マーケティングDXとリスキリングの組み合わせ方——人と仕組みの両輪
マーケDXとリスキリングは、よく「別々のテーマ」として議論されますが、実務では「人と仕組みの両輪」で扱わないと機能しません。「仕組みだけ」(ツール導入だけ)では運用人材がおらず形骸化し、「人だけ」(研修だけ)では実務適用の場がなく定着しません。
組み合わせ方は、図3のように4パターンに整理できます。A:仕組み先行型はツール導入を先行させ、運用しながらリスキリングを行う進め方です。素早く効果を出したい場面で選ばれますが、運用人材が不在のまま導入すると形骸化のリスクが高くなります。B:人先行型はリスキリングを先に進めてからツールを選定する進め方で、自社課題が明確でない時期に向きますが、実務適用までの時間が長くなりがちです。C:並走型は両者を同時並行で進める方式で、中堅大企業の本格的な変革で推奨されます。経産省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」やIT導入補助金などの公的支援を併用できる場面でもあります。D:外部委託+内製化型は、BPOや運用代行を併用しながら運用知見を吸収し、段階的に内製化していく方式で、マーケ部門が小規模な場合に向きます。
営業領域も含めた業務適用についてはSaaSの全体像とBPOによる外部委託の選択軸を、活用の具体的な進め方についてはDX活用の進め方を参照すると、内製化と外部委託のバランスを設計しやすくなります。
失敗パターンと回避策
| 失敗パターン | 回避策 |
|---|---|
| ツール導入したが運用人材がいない | 導入決定と並行してリスキリング計画を策定(パターンC) |
| 研修だけ受講して実務適用できない | 研修受講者に小規模PoCを担当させ、実務での運用機会を設ける |
| メール配信ツール導入を「マーケDX」と呼んでしまう | 3段階モデル(デジタイゼーション/デジタライゼーション/DX)で自社段階を明示 |
| リスキリング支援事業を「自社にも使える」と誤認 | 本事業は「雇用主の変更を伴う転職を目指す在職者」が対象。社内人材向けは別制度を検討 |
よくある質問(FAQ)
Q1:マーケティングDXとデジタルマーケティングはどう違いますか?
A.「デジタルマーケティング」はWeb広告・SEO・SNS運用などデジタルチャネルを使った個別施策を指す概念で、3段階モデルで言えばデジタイゼーション・デジタライゼーションの範囲に主に位置します。一方「マーケティングDX」は、業務プロセス・組織・ビジネスモデルの変革まで含む概念で、デジタルマーケティングを内包しつつ、その先の段階まで踏み込んでいます。経済産業省のDX定義(顧客や社会のニーズを基にした製品・サービス・ビジネスモデルの変革)に沿うかどうかが分岐点です。
Q2:リスキリング支援事業は誰でも使えますか?
A. 経済産業省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」は「雇用主の変更を伴う転職を目指す在職者」が対象で、社内昇進や派遣先変更、独立開業を目的とする方は対象外です。フリーランス・個人事業主も対象外となるケースが多く、別ルート(ハローワークの職業訓練・教育訓練給付制度など)の活用が選択肢になります。最新の対象要件・公募回は経産省の公式ページで確認してください。
Q3:マーケDXに最低限必要なツールは何ですか?
A. 業務内容と規模によりますが、多くの企業ではCRM(顧客関係管理)から着手するのが現実的です。顧客情報の一元管理ができていれば、MA・SFA・CDPへの拡張が後から進めやすくなるためです。ただし、自社の現状(顧客接点が多いか/営業案件が多いか/既存顧客数が多いか)によって優先順位は変わります。まずは4業務領域(MA/CRM/SFA/CDP)のうち、どこが最も詰まっているかを業務マップで可視化することから始めます。
Q4:個人事業主でもマーケDXは必要ですか?
A. 必要性の度合いは事業規模で変わりますが、顧客接点の多様化と意思決定スピードの要請は規模を問わず存在します。個人事業主の場合は、フル機能のMA・CDPは過剰投資になりがちなので、無料CRM・無料MAから始めて段階的に拡張する形が現実的です。リスキリング面では、公的職業訓練・教育訓練給付制度・各種オンライン講座などを組み合わせて、自学を進めることが選択肢になります。
Q5:マーケDX推進にどのくらいの期間がかかりますか?
A. 領域や規模によって幅がありますが、本記事の業務適用ステップ(現状診断1〜2週間/領域選択1週間/ツール選定2〜4週間/運用定着3〜6か月)を踏むと、最初の領域での運用定着までに4〜8か月程度を見込むのが一般的です。CDPなどデータ基盤の構築まで含めると、複数年スパンの取り組みになります。重要なのは「全社一斉に始める」ではなく、領域を絞ったスモールスタートで始めることです。
Q6:「2025年の崖」を過ぎた今、必要性は薄れていますか?
A. 経済産業省は「DXレポート」公表(2018年)以降も「DXレポート2(中間取りまとめ)」(2020年)、「DXレポート2.1」(2021年)、「DXレポート2.2」(2022年)と更新を続けており、レガシーシステム刷新と企業文化・組織変革の必要性は継続的に提示されています。「2025年の崖」という言葉が刺さりやすい時期は過ぎつつありますが、デジタル競争の加速・人材不足・データ起点経営の要請は変わらず、IPA「DX白書2025」でも引き続き取り組み状況が報告されています。必要性は薄れているというよりも、「いつ・どの規模で・どの領域から」着手するかの段階に論点が移っていると整理できます。
まとめ|今日からできる3つのこと
- 経産省「DXレポート」「リスキリング支援事業」を読む:30分で全体像を把握でき、社内議論の共通言語ができる
- 現状の業務マップを書き出す:MA/CRM/SFA/CDPのうち、機能している領域・未着手領域を1枚に整理する
- 経産省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」の対象者要件を確認する:自社・自分が対象になるかを判断し、対象外なら別ルート(厚労省制度・教育訓練給付など)を比較検討する
マーケティングDXとリスキリングは、別々のテーマとして扱うと「ツール導入だけ」「研修だけ」で止まりがちです。経産省の一次情報を出発点にして、人と仕組みの両輪で進める計画を立てることが、規模を問わず実装の近道になります。
関連記事
- DXとは何か——基礎から推進までの全体像
- DX推進の進め方——6ステップで読むロードマップ
- DX人材の確保——コンサル・研修の選び方
- DX活用の具体例と進め方
- AIを活用した業務効率化(関連カテゴリ:AI)
- SaaSの全体像
- BPOの全体像と外部委託の選択軸
参考文献
- 経済産業省「DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜」2018年9月7日(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html 2026年5月31日取得)
- 経済産業省「DXレポート2.2」2022年7月(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc.html 2026年5月31日取得)
- 経済産業省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業(六次公募)」2025年8月(https://www.meti.go.jp/information/publicoffer/kobo/2025/k250804001.html 2026年5月31日取得)
- 経済産業省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」公式サイト(https://careerup.reskilling.go.jp/ 2026年5月31日取得)
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX白書2025」2025年(https://www.ipa.go.jp/digital/dx-hakusho/index.html 2026年5月31日取得)
- 総務省「令和7年版情報通信白書」2025年(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/ 2026年5月31日取得)
- 中小企業庁「中小企業白書 2025年版」2025年(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/ 2026年5月31日取得)
- 経済産業省「デジタルスキル標準」(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/skill_standard/main.html 2026年5月31日取得)
- 経済産業省「DX認定制度」(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-nintei/index.html 2026年5月31日取得)
この記事に興味を持った方におすすめ