SaaSの例・型・意味をやさしく整理|NIST定義から具体例まで
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- SaaSはクラウドで提供されるソフトの利用形態(NIST SP 800-145準拠)
- 「型」は「インフラ構造軸」と「業務領域軸」の2軸で分類できる
- 選び方は規模別に重視軸が変わる(コスト/連携/統制)
「SaaSの例って結局どれを指すの?」「SaaS型ソフトとSaaSは同じ意味?」と検索したとき、用語の解説ページや個別ベンダーの宣伝ページが混在してかえって混乱した経験はないでしょうか。SaaSは米国NISTが公表する「SP 800-145」というクラウドコンピューティングの公式定義で世界的に整理されており、「型」と「例」を国際標準の枠組みに沿って捉え直すと、個人事業主から中堅大企業まで規模を問わず理解しやすくなります。この記事では、SaaSの意味・型・業務カテゴリ別の代表例・用語の使い分け・規模別の選び方を、NIST準拠の定義に沿ってやさしく整理します。
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SaaSとはどんな意味か|NIST準拠の定義と「3層ペルソナ」で見る位置づけ
SaaS(Software as a Service)とは、クラウドを通じて提供されるソフトウェアの利用形態を指す概念です。米国国立標準技術研究所(NIST)が公表した「SP 800-145:The NIST Definition of Cloud Computing」では、クラウドコンピューティングを構成する3つのサービスモデルのひとつとして位置づけられています。
NIST SP 800-145ではクラウドコンピューティングの基本特性として、利用者が必要なときに自分で調達できる「オンデマンド・セルフサービス」、標準ネットワーク経由でさまざまな端末から使える「広範なネットワークアクセス」、複数の利用者でリソースを共有する「リソースのプール化」、需要に応じて容量を素早く増減できる「迅速な拡張性」、利用量を計測して課金や可視化に使える「計測可能なサービス」の5つを挙げています。SaaSはこの5つの特性を備えたサービスのうち、利用者が直接ソフトウェアを使う層を指しています。
「ソフトを所有する」から「サービスとして使う」への発想転換
従来のパッケージソフトウェアは、CDやダウンロードで購入して自分のPC・サーバーにインストールし、ライセンスを「所有」する形態でした。SaaSはこれを根本から変え、ソフトウェアそのものはクラウド側で動き続け、利用者はブラウザやアプリ越しに「サービスとして使う」形に変わります。バージョンアップは提供者側で随時行われ、利用者は常に最新の機能を使えるのが大きな違いです。
3層ペルソナで見るSaaSの位置づけの違い
同じ「SaaS」でも、組織の規模によって受け止め方は変わります。個人事業主・フリーランスにとっては、会計や請求書発行、名刺管理などを1ツールずつ手軽に始められる「単機能のクラウドソフト」がSaaSの入り口です。中小企業では、複数の部門が別々のSaaSを使い始めるため、IDやデータの統合、退職時の権限管理といった運用課題が見えてきます。中堅・大企業になると、既存基幹システムとの併用、全社的なガバナンス、シングルテナント型やVertical SaaSの選択肢といった、より構造的なテーマが加わります。
SaaSとクラウドの全体像、SaaSとPaaS・IaaSの違いについては、関連記事の「SaaSとは何か」「SaaSとPaaS・IaaSの違い」もあわせて参照してください。
SaaSの主な「型」|マルチテナント/シングルテナント/Horizontal/Vertical
SaaSの「型」は、大きく「インフラ構造の型」と「業務領域の型」の2軸で分類できます。導入規模・カスタマイズの必要性・業種特殊性によって、適する型が変わります。
インフラ構造軸:マルチテナント/シングルテナント/ハイブリッド
マルチテナント型は、ひとつのシステム基盤を複数の利用者で共有する形態で、現在のSaaSの主流パターンです。NIST SP 800-145でいう「リソースのプール化」を典型的に体現した型で、料金が抑えやすく、提供側のバージョンアップが全利用者へ一斉に反映されるのが特徴です。シングルテナント型は、利用企業ごとに独立した環境を用意する形態で、カスタマイズ性や独自要件のセキュリティに強い反面、コストが上がりやすくなります。両者を組み合わせるハイブリッド型もあり、共通部分はマルチテナント、機密性の高い領域はシングルテナントで運用するケースが見られます。
業務領域軸:Horizontal SaaS/Vertical SaaS
Horizontal SaaS(ホリゾンタルSaaS)は、業種を問わず部門横断で使える汎用業務向けのSaaSを指します。会計・人事・グループウェア・CRM・プロジェクト管理などが典型例で、利用者数が多いため料金単価を下げやすく、機能アップデートも頻繁です。Vertical SaaS(バーティカルSaaS)は、特定の業界・業種に特化したSaaSで、医療機関向けの電子カルテ連携、建設業向けの工事管理、飲食店向けのPOS/予約管理など、業界固有の業務フローや法令対応を組み込んでいるのが特徴です。中小から中堅にかけて、汎用Horizontalだけでは届かない業界特殊性をVerticalで補う動きが広がっています。
「型」によって何が変わるか
| 観点 | マルチテナント × Horizontal | シングルテナント × Vertical |
|---|---|---|
| 料金 | 1ID単位・低めの単価 | 個別見積もり・固定費寄り |
| カスタマイズ性 | 設定範囲内に限定 | 個別開発の余地が大きい |
| 更新頻度 | 提供者主導・頻繁 | 個別調整が入りやすい |
| セキュリティ | 共通基盤の標準仕様 | 業界要件・専有環境に対応 |
| 主な利用層 | 個人事業主〜中小 | 中堅大企業・規制業種 |
SaaSの具体例|業務カテゴリ別に「型」と一緒に理解する
SaaSの例は、業務カテゴリで整理すると理解しやすくなります。代表的なのは「CRM(顧客管理)」「ERP(基幹業務)」「会計・経理」「グループウェア・コラボレーション」「プロジェクト管理」「コミュニケーション・チャット」の6領域で、それぞれにHorizontal型が主流のものとVertical型が伸びているものがあります。
規模別の使われ方の違い
個人事業主・フリーランスは、まず会計・請求書発行・名刺管理のような単機能SaaSから始める例が多くなります。1ツールごとの月額単価が低く、ブラウザだけで完結できるのが魅力です。中小企業では、会計+勤怠+グループウェアといった「複数SaaSの組み合わせ」が広がり、IDの統合や退職者の権限剥奪といった運用設計が必要になります。中堅・大企業では、ERPやCRMの大型SaaSと既存の基幹システムを連携させ、Vertical SaaSやシングルテナント型を用途別に併用する構成が見られます。
業務カテゴリ別の代表的なサービス名をさらに具体的に知りたい場合は、関連記事の「SaaSとは何か」と業務カテゴリ別の代表例まとめをあわせて参照してください。AI機能を搭載したSaaSが急速に増えている動向は「AIとは何か」でも整理しています。
「SaaSソフトウェア」と「SaaS型ソフトウェア」の使い分け|用語の混乱を整理
「SaaSソフトウェア」「SaaS型ソフトウェア」「クラウド型ソフトウェア」はほぼ同義で使われますが、文脈によって微妙にニュアンスが異なります。意味を取り違えると、見積もりや要件定義でかみ合わない原因になります。
「SaaS」「SaaSソフトウェア」「SaaS型ソフトウェア」の関係
厳密に言うと、「SaaS」はサービス提供のモデル名であり、「SaaSソフトウェア」はそのモデルで提供される個別のソフトを指します。「SaaS型ソフトウェア」も同じ意味で、「型」は「SaaSという形式の」というニュアンスを表す日本語表現です。日常会話ではどちらを使っても意味は通じますが、契約書や仕様書では「SaaS(モデル)として提供される本ソフトウェア」のように、モデル名とソフト名を分けて書くと誤解が減ります。
ASP・クラウド型ソフトウェア・サブスクとの違い
ASP(Application Service Provider)は1990年代後半から2000年代前半に登場した、SaaSの前身に当たる概念です。仕組みは似ていますが、当時はインフラがマルチテナント前提ではなく、利用者ごとに環境を切り分けるケースが多かったため、現在のSaaSと比べると拡張性に制約がありました。「クラウド型ソフトウェア」は、SaaS/PaaS/IaaSをひとまとめにした広い言い方で、文脈によってSaaSだけを指す場合と、クラウド上のソフトウェア全般を指す場合があります。「サブスクリプション型ソフトウェア」は課金モデル(月額・年額)の名称で、SaaSと多くが重なる一方、インストール型のソフトをサブスクで売るケースもあるため、必ずしも一致しません。
| 用語 | 指すもの | SaaSとの関係 |
|---|---|---|
| SaaS | クラウドでソフトを使う「提供モデル」 | 本体の概念 |
| SaaSソフトウェア/SaaS型ソフトウェア | SaaSモデルで提供される個別ソフト | ほぼ同義 |
| クラウド型ソフトウェア | クラウド経由で動くソフト全般 | SaaSを含むより広い概念 |
| ASP | SaaSの前身に当たる提供形態 | 歴史的な概念 |
| サブスクリプション型 | 月額・年額で課金するモデル | SaaSと重なるが完全一致ではない |
SaaSのビジネスモデルとサブスク課金の関係をさらに深掘りしたい場合は、関連記事「SaaSのビジネスモデル」や「SaaSをわかりやすく」もあわせて参照してください。
規模別の選び方|個人事業主・中小・中堅大で重視ポイントが変わる
SaaSの選び方は、組織の規模によって重視軸が変わります。個人事業主は「コスト」、中小は「連携」、中堅大は「統制とID管理」が中心軸となり、共通して「提供範囲」「契約形態」「セキュリティ」の3点を押さえることが起点になります。
個人事業主・フリーランス:コスト最重視/1ツール完結
個人事業主が最初に検討するSaaSは、会計・請求書発行・名刺管理など「単機能で月額数百円〜数千円」の領域がほとんどです。重視ポイントは、月額料金、確定申告・電子帳簿保存法への対応、スマートフォンだけで完結するかの3点に絞られます。複数ツールに広げる前に、まずは1ツールで日常業務が回る状態を作るのが現実的です。
中小企業:複数SaaSの連携/退職時の権限管理
中小企業では、会計・勤怠・グループウェア・コミュニケーションといった複数SaaSを並行運用するため、「ID管理」と「退職時の権限剥奪」が大きなテーマになります。SSO(シングルサインオン)の導入や、Google Workspace/Microsoft 365のような統合基盤と他のSaaSとの連携可否を、選定の初期段階でチェックしておくと、後から追加コストが膨らみにくくなります。IPAが公開する「クラウド利用者のための情報セキュリティチェックシート」は、契約・運用面で確認すべき観点を整理しており、規模を問わず活用できる資料です。
中堅・大企業:全社ガバナンス/ISMAP登録サービスのチェック
中堅・大企業では、既存の基幹システムとの連携、シングルテナント型やVertical SaaSの併用、全社的なガバナンス設計が中心テーマになります。公的機関や規制業種では、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度である「ISMAP(イスマップ)」に登録されているSaaSを選定基準のひとつにする運用が広がっています。経済産業省の「DXレポート2.2」では、レガシーシステムからの脱却とクラウド・SaaSの活用がDX推進の中心軸として整理されています。
規模を問わず押さえる3つの共通チェック
- 提供範囲:自社の業務フローのどこまでをSaaS側でカバーするか/どこは別ツールや手作業に残すか
- 契約形態:月額・年額の料金体系、最低契約期間、解約条件、ID追加・削減の柔軟性
- セキュリティ:データ保管場所、暗号化、アクセス権限管理、第三者認証(ISMAP・ISO 27001等)
SaaS製品の比較観点をさらに細かく見たい場合は、関連記事「SaaS製品の比較観点」を参照してください。DX全体の進め方とSaaS活用の関係は「DX推進の進め方」でも整理しています。
よくある質問
Q. SaaSとSaaS型ソフトウェアは別のものですか?
A. ほぼ同じ意味で使われています。厳密には「SaaS」がクラウドでソフトを使う提供モデル名、「SaaS型ソフトウェア」がそのモデルで提供される個別ソフトを指す日本語表現です。日常会話ではどちらを使っても通じますが、契約書や仕様書ではモデル名とソフト名を分けて書くと誤解が減ります。
Q. SaaSの「型」は何種類くらいありますか?
A. 「インフラ構造軸」と「業務領域軸」の2軸で整理するのが分かりやすい方法です。インフラ構造軸ではマルチテナント/シングルテナント/ハイブリッドの3つ、業務領域軸ではHorizontal(部門横断)/Vertical(業界特化)の2つに大別できます。両者を組み合わせた4象限で、自社の選定範囲を絞り込めます。
Q. 個人事業主でもSaaSは使った方がよいですか?
A. 確定申告や請求書発行、電子帳簿保存法への対応など、個人事業主にとっても恩恵が大きい領域があります。まずは月額数百円〜数千円の単機能SaaSから始め、自分の業務サイクルに合うかを確かめてから、勤怠・名刺管理など他の領域に広げていくのが現実的です。
まとめ|SaaSの「型」と「例」を国際標準の枠組みで捉え直す
SaaSは米国NIST SP 800-145で定義された、クラウドで提供されるソフトウェアの利用形態です。「型」はインフラ構造軸(マルチテナント/シングルテナント/ハイブリッド)と業務領域軸(Horizontal/Vertical)の2軸で整理でき、「例」はCRM/ERP/会計/グループウェア/プロジェクト管理/コミュニケーションの6つの業務カテゴリで把握すると見通しが良くなります。「SaaSソフトウェア」「SaaS型ソフトウェア」「クラウド型ソフトウェア」「ASP」「サブスクリプション型」は重なる部分が多い一方で、それぞれの指す範囲は微妙に異なるため、契約書や要件定義ではモデル名と個別ソフト名を分けて書くと誤解が減ります。規模別の選び方は、個人事業主はコスト、中小は連携、中堅大は統制とID管理が中心軸で、提供範囲・契約形態・セキュリティの3点が共通の起点となります。SaaS全体の入門は関連記事「SaaSとは何か」をあわせて参照してください。
今日からできる3つのこと
- 自社で使っているソフトを「業務カテゴリ別6領域」に当てはめて棚卸しする
- 各SaaSが「マルチテナント or シングルテナント」「Horizontal or Vertical」のどこに属するかを書き出す
- 規模に応じた重視軸(コスト/連携/統制)で、今後追加・統合・乗り換えを検討する優先順位を決める
参考文献
- 米国国立標準技術研究所(NIST)「SP 800-145:The NIST Definition of Cloud Computing」(2011年9月)
https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/Legacy/SP/nistspecialpublication800-145.pdf - 総務省「令和7年版 情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ - 経済産業省「DXレポート2.2」
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/dx.html - 情報処理推進機構(IPA)「クラウド利用者のための情報セキュリティチェックシート」
https://www.ipa.go.jp/security/economics/checksheet.html - ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)
https://www.ismap.go.jp/
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