SaaSのマルチテナントとは?シングルテナントとの違い、データ分離の仕組み、選定時の確認ポイントを解説
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- マルチテナントの仕組みと違いがわかる
- メリット・デメリットとデータ分離がわかる
- SaaS選定時の確認点と社内周知の進め方がわかる
SaaSのマルチテナントとは、1つのシステム(アプリケーション、データベース、サーバーなど)を複数の顧客企業で共有しながら、各社のデータや設定は論理的に分けて提供する仕組みです。多くのSaaSがこの方式をとることで、低い月額料金、すぐに使い始められる手軽さ、自動で行われるアップデートを実現しています。この記事では、SaaSを選ぶ担当者、情報システム部門、SaaSを開発する側のそれぞれに向けて、マルチテナントの仕組み、シングルテナントとの違い、メリットとデメリット、データを分ける方法、MaaS・ASP・SIerとの違い、選定時に確認したいポイントを順に整理します。
2つの質問で、あなたに合う読み方と社内への伝え方がわかります
Q1. マルチテナントについて、いま一番知りたいことはどれですか?
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マルチテナント型SaaSを社内で使いこなす前に、「共有ゆえのルール」を整理する
マルチテナント型のSaaSでは、1つの環境を多くの企業で共有するため、アップデートの時期、設定で変えられる範囲、データの置き場所が提供会社のルールで決まります。
この「共有ゆえのルール」は、安さと手軽さを得る代わりに受け入れる条件です。ところが、選定や契約を担当する人だけが理解していても、利用部門や新しく入った社員が知らなければ、無断で別のサービスを契約する、機密情報を想定外の場所に保存するといった問題が起こりがちです。総務省の国民のためのサイバーセキュリティサイトには、クラウドサービスの仕組みの解説とともに、預けていた重要データが消えた事例も掲載されています。
ルールを社員に定着させる手段の一つが、研修の形にまとめて受講状況まで管理できるeラーニングです。ここでは、役割の違う3つのサービスを一例として比べます。
SaaSの利用ルールを社内に定着させる、3つのeラーニングの役割の違い
自社の状況を選ぶと、合うサービスが強調されます。優劣ではなく役割の違いで並べています
この状況に合う一例:Smart Boarding自社の資料や動画を組み合わせて、オリジナルの研修コースを作れます。
資料を無料ダウンロードこの状況に合う一例:SAKU-SAKU Testing選択式・穴埋め・記述などのテストを配信し、受講結果を集計できます。
資料を無料ダウンロードこの状況に合う一例:OneCompliance(ワンコンプライアンス)情報セキュリティなどの研修コンテンツがそろい、受講状況を一覧で確認できます。
資料を無料ダウンロード| サービス | Smart Boarding |
SAKU-SAKU Testing |
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|---|---|---|---|
| 向いている会社 | SaaSの利用ルールや業務の手順を、自社の資料や動画で教材にして伝えたい会社 | ルールを伝えたあとに確認テストで理解度を測り、結果を集計したい会社 | 情報セキュリティや個人情報保護など、全社員向けの基本研修の受講を管理したい会社 |
| 特徴 | 社員研修・OJT・eラーニングを1つのシステムで扱える。自社の資料や動画と用意された動画を組み合わせた研修コースを作成でき、LMS機能で受講者の進捗や理解度を確認できる | CBTの技術を活かしたテスト機能が特徴。選択式・穴埋め・並び替え・記述の問題を配信でき、既存の問題と自社オリジナルの問題を1つのテストにまとめられる。受講結果はリアルタイムで集計される | コンプライアンス研修に特化し、法務・労務・情報領域のコンテンツを提供。ダッシュボードで受講状況を確認でき、自動リマインダーで受講を促せる |
| 注意したい点 | 自社の教育内容を学習プログラムにする際に手間がかかり、担当者との打ち合わせも必要。電話・メールでの相談や教育プログラムの設計支援は、サポートプラスのプランが対象 | AIを使ったリモート監視機能「サクテスAIMONITOR」などは有償オプション。日本国内仕様で、海外での利用はサポートの対象外 | 料金体系は受講者の人数で変わるため、問い合わせでの確認が必要。デモや無料トライアルの期間・内容も問い合わせで確認する |
| 資料・詳細 |
3サービスの資料をまとめて請求(入力は1回・無料)
まとめて資料をダウンロード表は横にスクロールできます。料金はプランによって異なるため、資料や公式サイトで確認してください。
SaaSの利用ルールを自社の教材にして、新入社員や異動者にも伝えたい場合の一例が、Smart Boardingです。社員研修・OJT・eラーニングを1つのシステムで扱え、自社の資料や動画と用意された動画を組み合わせて、オリジナルの研修コースを作れます。LMS機能で受講者の進捗や理解度も確認できるため、ルールを伝えて終わりにせず、定着まで見届けやすくなります。一方で、自社の教育内容を学習プログラムにする際には一定の手間がかかり、担当者との打ち合わせも必要です。料金はプランによって異なるため、資料や公式サイトで確認してください。


LearnOとの比較はこちら

【2026年最新】LearnO vs Smart Boardingを徹底比較|どちらがあなたに合う?評判・機能・料金で検証!
今、eラーニングシステムを導入する企業が増えています。特に「LearnO」と「Smart Boarding」は2大人気サービスで、評価を見てもどちらが本当に自社に合うサービスなのか悩んでいる方も少なくありません。本記事では、徹底比較したビジコン編集部が目的別・使い方別に違いを明確に解説します。
ここがおすすめ!
- 内定者・新人教育からリーダー・管理職育成まであらゆるシーンで活用
- 属人化を防いでいつでも何回でも学習できる環境を実現
- 自社オリジナルコースの作成や学習進捗管理も行える
ここが少し気になる…
- 電話やメール相談、教育プログラム設計といった手厚いサポートを受けられるのは「充実サポートプラン」のみ
Smart Boardingの動画コンテンツにプラスして、弊社オリジナルの内容を社員に共有できる点です。Smart Boardingを導入する以前は、社内でレクチャーや研修を行っても、その動画や、作業マニュアルを共有する環境が整っていなかったのです。
出典:Smart Boarding公式サイト 導入事例(不動産業・全社員対象)
ルールを伝えたあとに、社員が理解できているかを確認して結果を残したい場合の一例が、SAKU-SAKU Testingです。CBT(コンピューターを使った試験)の技術を活かしたeラーニングで、選択式・穴埋め・並び替え・記述の問題を配信できます。既存の問題と自社で作った問題を1つのテストにまとめられ、受講結果はリアルタイムで集計されます。AIを使ったリモート監視機能「サクテスAIMONITOR」のように有償オプションの契約が必要な機能もあるため、標準で使える範囲は資料で確認しましょう。料金はプランによって異なるため、資料や公式サイトで確認してください。
株式会社イー・コミュニケーションズ
SAKU-SAKU Testing
株式会社イー・コミュニケーションズ
SAKU-SAKU Testing
初心者にも◎受講者の管理をスムーズに行いたい方におすすめ
ここがおすすめ!
- 不慣れな方でも作成・登録しやすいコンテンツ機能を多数搭載
- あらゆる企業ですぐに役立つ実践的な内容のコンテンツを厳選して用意
- ユーザー管理機能を備えているため、より細かな対象でカテゴリーやグループを紐づけられる
ここが少し気になる…
- 事務局運営やカスタマーデスクを利用する場合はオプション扱いとなる
SAKU-SAKU Testingを使うことで、これまでのように受講のために社員を長時間拘束することがなくなりました。期間中に社員自身のタイミングで受講することができ、業務に対する負荷やコストが軽減されました。
出典:株式会社イー・コミュニケーションズ SAKU-SAKU Testing導入事例(株式会社ハウスメイトパートナーズ・個人情報保護に関する全社教育)
情報セキュリティや個人情報保護法など、全社員が押さえておく基本の研修を漏れなく回したい場合の一例が、OneCompliance(ワンコンプライアンス)です。コンプライアンス研修に特化したeラーニングで、法務・労務・情報領域のコンテンツを提供し、法改正などに合わせて内容が更新されます。ダッシュボードで受講状況を確認でき、自動リマインダーで受講を促せるため、研修の連絡や集計にかかる手間を抑えられます。料金体系は受講者の人数で変わるため、詳細は問い合わせで確認が必要です。料金はプランによって異なるため、資料や公式サイトで確認してください。
株式会社Oyster
OneCompliance(ワンコンプライアンス)
株式会社Oyster
OneCompliance(ワンコンプライアンス)
コンプライアンスに特化!上場準備中/IPO準備中、上場企業、大手グループ会社、監査法人、金融機関/フィンテック、中堅/中小企業の方に特におすすめ

ここがおすすめ!
- 上場準備中/IPO準備中の企業にも最適
- ダッシュボードや自動リマインダーなど管理工数を最小化
- 初期費用なし、受講人数に合わせた料金体系のためコストを最適化
ここが少し気になる…
- 費用は人数に応じた課金体系のため、問い合わせで確認
導入の背景・課題感として「社内に法務専任担当や教育専任担当がおらず、社内のみでの実施が困難」と挙げ、お役立ちポイントとして「時間・場所を選ばずにeラーニングで受講でき」と紹介されています(医療/ヘルスケア業・上場準備中の企業の事例)。
出典:OneCompliance公式サイト 導入事例
マルチテナントとは|複数の顧客が同一リソースを共有する仕組み
マルチテナントとは、1つのシステム環境を複数の顧客(テナント)で共有し、データや設定だけを顧客ごとに分けて提供する方式です。対になるのが、顧客ごとに専用の環境を用意するシングルテナントです。SaaSそのものの意味やPaaS・IaaSとの違いは、SaaSとは|PaaS・IaaS・ASPとの違いと選び方で整理しています。
集合住宅にたとえると、マルチテナントはマンション、シングルテナントは一戸建てに近い関係です。マンションでは建物の構造、エレベーター、水道や電気の設備を住人全員で共有しますが、各部屋には鍵がかかり、住人は自分の部屋の中しか使えません。一戸建ては設備をすべて自分専用にできる代わりに、建築費や維持費を1世帯で負担します。
| 比較の観点 | マルチテナント | シングルテナント |
|---|---|---|
| 環境 | 複数の顧客で1つの環境を共有 | 顧客ごとに専用の環境 |
| 費用 | 設備や運用の費用を顧客全体で分担するため安くなりやすい | 専用環境の費用を1社で負担するため高くなりやすい |
| 導入までの期間 | 申し込み後すぐに使い始められることが多い | 環境の構築に時間がかかる |
| カスタマイズ | 設定で変えられる範囲に限られる | 自社に合わせた改修がしやすい |
| アップデート | 提供会社が全顧客に一斉に適用する | 顧客ごとに適用時期を調整できる |
| 他の顧客の影響 | 共有部分の障害や負荷の影響を受ける可能性がある | 他の顧客の影響を受けにくい |
米国国立標準技術研究所(NIST)によるクラウドコンピューティングの定義でも、資源を複数の利用者で共有する「リソースの共用(resource pooling)」がクラウドの基本的な特徴の一つとされ、マルチテナントのモデルに触れています(NIST SP 800-145)。SaaSの多くがマルチテナントを採用しているのは、この共用がクラウドの価格や手軽さの源になっているためです。
身近なSaaSで見る「共通部分」と「自社専用部分」
マルチテナントの仕組みを具体的にイメージするには、利用者から見て「全社共通の部分」と「自社だけの部分」がどう分かれているかを見るのが近道です。メール・チャット・会計など身近なSaaSの例に当てはめると、次のように整理できます。
| SaaSの種類 | 全社共通の部分(提供会社が用意) | 自社専用の部分(テナントごとに分かれる) |
|---|---|---|
| ビジネスチャット | メッセージ機能、画面、サーバー | やり取りの履歴、参加メンバー、グループの設定 |
| クラウド会計 | 仕訳や決算書を作る仕組み、画面 | 取引データ、勘定科目などの設定 |
| 勤怠管理 | 打刻や集計の仕組み、画面 | 社員情報、就業ルールの設定、勤務の記録 |
| eラーニング | 学習管理の機能、提供会社の共通教材 | 受講者の情報、学習履歴、自社で作った教材 |
表は考え方を示した一般的な例で、実際の分け方はサービスによって異なります。各サービスの内部構成(データベースをどう分けているかなど)は通常公開されていないため、利用者としては「どこまでが全社共通で、どこからが自社専用か」という線引きを、資料や契約内容で確認することが基本になります。
テナントとは何か
テナントとは、SaaSを契約して利用する単位のことで、多くの場合は1つの企業や組織が1テナントにあたります。もとは建物を借りる「入居者」を指す英語で、1つのビルに複数の店舗や会社が入居する様子になぞらえて使われています。
注意したいのは、テナントとユーザーは別の単位だという点です。1つのテナント(企業)の中に、管理者、一般社員、閲覧のみの社員など複数のユーザーが所属します。SaaSの料金が「1テナントあたり」ではなく「1ユーザーあたり」で決まることが多いのはこのためで、テナントは「データと設定を分ける単位」、ユーザーは「ログインして使う人の単位」と考えると整理しやすくなります。
| 単位 | 具体例 | 分けられるもの |
|---|---|---|
| テナント | 契約した企業、グループ会社ごとの契約 | 業務データ、会社全体の設定、ロゴなどの見た目 |
| ユーザー | テナントに所属する社員一人ひとり | ログイン情報、権限、個人の履歴 |
なお、すべてのSaaSにテナントの考え方があるわけではありません。個人が自分のアカウントだけで使うメモアプリのように、組織単位でデータを分ける必要のないサービスでは、ユーザー単位でデータを管理する設計も多くあります。法人向けのSaaSでは、会社ごとのデータの分離、契約や請求の単位、会社全体の設定が必要になるため、ユーザーとは別にテナントという単位を設けます。
情報システム部門の立場では、グループ会社や部門ごとに別テナントとして契約するか、1テナントの中で権限を分けて運用するかも判断のポイントになります。別テナントにすればデータは完全に分かれますが、会社をまたいだ集計や人事異動への対応に手間がかかることがあります。
3サービスの役割を比較表で見るマルチテナントのメリット・デメリット|採用される理由(コスト効率・スケーラビリティ)
マルチテナントが採用される理由は、提供会社と利用企業の双方にとって、費用と手間を大きく減らせるからです。一方で、共有することの代償として、カスタマイズやアップデートの自由度が下がるデメリットもあります。まず、主な理由(メリット)を4つ見ていきます。
| 理由 | 提供会社にとって | 利用企業にとって |
|---|---|---|
| コスト効率 | サーバーや運用の費用を多くの顧客で分担できる | 月額料金を低く抑えたサービスを選べる |
| スケーラビリティ | 顧客が増えても、共通の基盤を拡張するだけで対応できる | ユーザー数の増減に合わせて契約を変えやすい |
| 運用の一元化 | 1つの環境を更新すれば全顧客に反映できる | アップデートやセキュリティ対策を自社で行う必要がない |
| 導入の速さ | 新しい顧客の追加がテナントの作成だけで済む | 申し込み後すぐに使い始められる |
とくに大きいのがスケーラビリティです。シングルテナントでは顧客ごとに余裕を持たせた設備を用意する必要がありますが、マルチテナントでは全顧客で余裕分を共有できます。ある顧客の利用が一時的に増えても、別の顧客の利用が少なければ全体として吸収できるため、設備を無駄なく使えます。
デメリットと利用企業が確認すること
マルチテナントのデメリットは、環境を共有することから生まれる制約です。安さと手軽さは、次の制約と引き換えに成り立っていると理解しておくことが大切です。
| デメリット | 起こりうること | 利用企業が確認すること |
|---|---|---|
| カスタマイズに限りがある | 設定で変えられる範囲を超えた改修や、自社独自の画面は作れない | 設定で変えられる項目、独自項目や帳票の追加可否 |
| アップデートの時期を選べない | 提供会社の判断で全顧客に適用され、画面や操作が変わる | 事前告知の時期と方法、変更内容の案内 |
| 他の顧客の影響を受ける可能性 | 他社の大量の処理で、動作が遅くなる(ノイジーネイバー) | 稼働率の目標(SLA)、負荷への対策 |
| データの分離に依存する | 設計や運用に不備があると、他社のデータが見えるおそれがある | 分離の方法、保存場所、第三者認証の取得状況 |
これらの制約のうち、アップデートと設定範囲に関するものは、提供会社ではなく利用企業の側が社員に伝え続ける必要があります。口頭やチャットでの案内だけでは、異動者や新入社員には届きにくくなります。手順やルールを教材として残しておくと、変更のたびに説明し直す手間を減らせます。
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データの独立性はどう確保されるか
マルチテナントでは、1つの環境を共有しながらも、ある顧客が他の顧客のデータを見たり変更したりできないように分離します。データの分け方には主に3つの型があり、分離の強さとコスト効率のバランスが異なります。
| 分け方 | 仕組み | 分離の強さ | コスト効率 |
|---|---|---|---|
| データベースを分ける | アプリケーションは共有し、データベースはテナントごとに用意する | 強い | 低め |
| スキーマを分ける | 1つのデータベースの中で、テナントごとに表の置き場所(スキーマ)を分ける | 中程度 | 中程度 |
| 行で分ける | 同じ表に全テナントのデータを入れ、各行にテナントIDを付けて区別する | アプリケーションの制御に依存 | 高い |
行で分ける方式は最も効率的ですが、プログラムの不具合でテナントIDの条件が抜けると、他社のデータが表示されるおそれがあります。そのため、データベース側の機能で行へのアクセスを制限する、テナントIDの付け忘れを検査する仕組みを入れる、といった多重の対策をとるのが一般的です。実際のSaaSでは、大口の顧客だけデータベースを分け、それ以外は共有するなど、型を組み合わせることもあります。AWSやMicrosoftの設計ガイドでも、どこまでを共有しどこからを分けるかは一律ではなく、要件に応じて選ぶものとして整理されています(AWS「マルチテナンシーの再定義」、Microsoft Learn「SaaS とマルチテナント ソリューション アーキテクチャ」)。
こうした共有と分離の組み合わせは、設計の世界では「サイロ」「プール」「ブリッジ(ハイブリッド)」という3つのモデルで呼び分けられます。サイロはテナントごとに専用の資源を割り当てる方式、プールは全テナントで資源を共有する方式、ブリッジはデータベースは分けてアプリケーションは共有するといった形で両者を部分ごとに組み合わせる方式です。前述のAWSのホワイトペーパーでも、アプリケーションの処理部分はテナントごとに分け、データの保存先は全テナントで共有するといった構成例が示されています。提供会社の資料や技術ブログでこれらの用語を見かけたら、「どの部分がテナント専用で、どの部分が共有か」を読み取る手がかりにすると、分離の強さや料金プランの違いを理解しやすくなります。
データのほかに、性能面の分離も課題になります。ある顧客が大量の処理を行うと、同じ環境を使う他の顧客の動作が遅くなる現象は「ノイジーネイバー(うるさい隣人)」と呼ばれ、Microsoft Learnのアンチパターン解説でも、複数のテナントが同じ共有リソースを使うために起こる問題として説明されています。提供会社はテナントごとの利用量に上限を設ける、負荷の大きい顧客を別の環境に移すといった方法でこれを防いでいます。
利用企業の側から確認できるのは、分離の方式そのものよりも、提供会社がどの対策を公開しているかです。一般的には、ユーザーごとに閲覧・編集できる範囲を分ける権限管理、保存データと通信の暗号化、誰がいつ何をしたかを残す監査ログの3点が、確認項目の基本になります。
ただし、データの分離は提供会社が担う部分で、利用する社員が機密情報を想定外の場所に保存したり、アカウントを使い回したりすれば、どれだけ分離が強くても情報は漏れます。利用する側の情報セキュリティ教育は、マルチテナントの安全性を支える前提といえます。
SaaSとMaaS・ASP・SIerの違い
SaaSはインターネット経由で使うソフトウェアの提供形態、MaaSは複数の交通手段を組み合わせて検索・予約・決済を一括で行う移動サービスで、同じ「as a Service」でも別分野の言葉です。ASPはSaaSの前身にあたる呼び方、SIerは個社向けにシステムを作る事業者を指します。
| 用語 | 指すもの | SaaSとの関係 |
|---|---|---|
| SaaS | インターネット経由で利用するソフトウェアの提供形態 | 多くがマルチテナントで提供される |
| ASP | ソフトウェアをネットワーク経由で提供する事業者やサービス。2000年前後に広まった呼び方 | SaaSの前身にあたる。当時は顧客ごとに環境を用意するシングルテナント型が多かったとされる |
| MaaS | Mobility as a Service。複数の交通手段を組み合わせ、検索・予約・決済を一括で行う移動サービス | 名前が似ているだけで、ソフトウェアの提供形態ではない別分野 |
| SIer | 顧客の要望に合わせてシステムを設計・開発・構築する事業者(システムインテグレーター) | 個社向けに作るため、シングルテナントに近い。SaaSの導入支援を行うこともある |
MaaSについて、国土交通省は地域住民や旅行者の移動ニーズに合わせて複数の交通サービスを組み合わせ、検索・予約・決済などを一括で行うサービスとして説明しています(国土交通省「日本版MaaSの推進」)。「as a Service」という表現が共通するためSaaSの仲間と誤解されやすいのですが、クラウドの分類(SaaS・PaaS・IaaS)とは別の文脈の言葉です。クラウドの分類そのものは、SaaS・PaaS・IaaSの違い|3層モデルの管理範囲とASPとの関係を解説で詳しく整理しています。
ASPとSaaSの違いは、ソフトウェアをネットワーク経由で使う点は同じでも、提供の仕組みにあります。一般に、ASPの時代は顧客ごとに専用の環境を用意することが多く、1つの環境を多数の顧客で共有するマルチテナントの広まりとともにSaaSという呼び方が定着したと説明されます。古いASP時代の契約書やシステムを引き継いでいる場合は、専用環境を前提とした条件が残っていないかを確認しておくと安心です。
3サービスの役割を比較表で見るSaaS選定時にマルチテナントをどう見るか
SaaSを選ぶときは、マルチテナントかどうかそのものより、共有による制約が自社の要件と合うかを確認することが大切です。次の表は、提供会社への質問や資料確認で使えるチェック項目です。
| 確認項目 | 確認する内容 | 主に見る立場 |
|---|---|---|
| データの分け方 | 他社データとの分離方法、データの保存場所(国内か国外か) | 情報システム部門 |
| 第三者認証 | ISMAP登録、ISO/IEC 27001、ISO/IEC 27017などの取得状況 | 情報システム部門 |
| カスタマイズの範囲 | 設定で変えられる項目、自社独自の項目や帳票を追加できるか | 選定担当者、利用部門 |
| アップデートの扱い | 事前告知の時期、画面や機能が変わる際の案内方法 | 利用部門 |
| 障害時の影響範囲 | 稼働率の目標(SLA)、障害情報の公開方法、バックアップと復旧の方針 | 情報システム部門 |
| 解約時のデータ | データを出力できる形式、解約後の削除時期 | 選定担当者、情報システム部門 |
第三者認証のうちISMAPは、政府がクラウドサービスを調達する際の安全性評価の制度で、登録されたサービスの一覧が公開されています(ISMAPポータル)。民間企業が選ぶ際にも、客観的な判断材料の一つになります。また、総務省の国民のためのサイバーセキュリティサイトでも、クラウドサービスを安全に利用するための基礎知識や、預けたデータが失われた事例が紹介されています。
選定で見落とされやすいのが、決めた基準を社内に浸透させる工程です。マルチテナント型SaaSでは、利用部門が勝手に設定を変えられない、アップデートで画面が変わる、データの持ち出しに制限があるといった「共有ゆえのルール」があります。情報システム部門だけが理解していても、利用部門がそれを知らなければ、無断で別のサービスを契約する、機密情報を想定外の場所に保存するといった問題が起こりがちです。選定の背景やルールを研修として形にし、社員が同じ知識を持てるようにしておくと、導入後の運用が安定します。自社の現状を、次のチェックで確かめてみましょう。
SaaS利用ルールの社内への伝え方、今のやり方で大丈夫?セルフチェック
当てはまるものを選んでください(登録不要)
チェックの結果にかかわらず、共有ゆえのルールを整理する出発点は、上の確認項目の表です。研修の仕組みを検討する場合は、冒頭の比較表で、3つのサービスの役割の違いをもう一度確認できます。
よくある質問(FAQ)
Q1. SaaSのマルチテナントとは何ですか?
A. 1つのシステム環境を複数の顧客企業で共有し、データや設定だけを顧客ごとに分けて提供する方式です。設備や運用の費用を顧客全体で分担できるため、多くのSaaSが低い料金と手軽な導入を実現するために採用しています。
Q2. マルチテナントとシングルテナントの違いは何ですか?
A. マルチテナントは複数の顧客で環境を共有し、シングルテナントは顧客ごとに専用の環境を用意します。マルチテナントは安く早く導入できる一方でカスタマイズの範囲が限られ、シングルテナントは自由度が高い一方で費用や構築期間が大きくなりやすい方式です。
Q3. マルチテナントのデメリットは何ですか?
A. 主なデメリットは、設定で変えられる範囲を超えたカスタマイズが難しいこと、アップデートの時期を自社で選べないこと、他の顧客の大量の処理で動作が遅くなる可能性があること、データの分離が提供会社の設計と運用に依存することの4つです。選定時は、データの分離方法や保存場所、ISMAPやISO/IEC 27017などの第三者認証の有無、稼働率の目標(SLA)を確認すると、リスクを見極めやすくなります。
Q4. テナントとユーザーの違いは何ですか?
A. テナントはSaaSを契約する単位で、多くは1つの企業や組織を指します。ユーザーはテナントに所属してログインする社員一人ひとりです。テナントはデータと設定を分ける単位、ユーザーは利用する人の単位と考えると整理しやすくなります。
Q5. MaaSはSaaSの一種ですか?
A. いいえ。MaaS(Mobility as a Service)は、複数の交通手段を組み合わせて検索・予約・決済を一括で行う移動サービスを指す言葉です。「as a Service」という表現が共通するだけで、SaaSのようなソフトウェアの提供形態とは別分野です。
Q6. SaaSの利用ルールを社員に周知するには、何から始めればよいですか?
A. まず、提供会社の資料や契約内容から、アップデートの扱い、設定できる範囲、データの置き場所と持ち出しの条件を整理します。そのうえで、利用部門と新入社員向けにルールを1つの教材にまとめ、理解度を確認する仕組みを用意すると定着しやすくなります。受講状況の管理やテストの作成ができるeラーニングを使う方法もあるため、必要に応じて資料で機能を比較してください。
まとめ
SaaSのマルチテナントは、1つの環境を複数の顧客で共有し、データや設定を顧客ごとに分けることで、安さ・導入の速さ・運用の手軽さを実現する仕組みです。理解と選定のポイントは次の4点に集約できます。
- マルチテナントは環境を共有し、シングルテナントは専用の環境を持つ。費用と自由度のどちらを重視するかで向き不向きが分かれる。
- 共有にはコスト効率や運用の手軽さというメリットがある一方、カスタマイズの限界、アップデート時期を選べないこと、他の顧客の影響というデメリットがある。
- データはデータベース、スキーマ、行単位などの方法で分離される。選定時は分離の方法、保存場所、第三者認証を確認する。
- 共有ゆえのルールを利用部門まで伝え、理解度を確認する仕組みを整える。研修の仕組みを検討するなら、eラーニングの資料で機能を比べる。
参考文献
- 国土交通省「日本版MaaSの推進」 https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/japanmaas/promotion/
- 総務省「国民のためのサイバーセキュリティサイト」 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/kokumin/basic/basic_service_02.html
- ISMAPポータル https://www.ismap.go.jp/csm
- NIST「SP 800-145 The NIST Definition of Cloud Computing」 https://csrc.nist.gov/pubs/sp/800/145/final
- AWS「マルチテナンシーの再定義 – SaaS アーキテクチャの基礎」 https://docs.aws.amazon.com/ja_jp/whitepapers/latest/saas-architecture-fundamentals/re-defining-multi-tenancy.html
- Microsoft Learn「SaaS とマルチテナント ソリューション アーキテクチャ」 https://learn.microsoft.com/ja-jp/azure/architecture/guide/saas-multitenant-solution-architecture/
- Microsoft Learn「ノイジーネイバーのアンチパターン」 https://learn.microsoft.com/ja-jp/azure/architecture/antipatterns/noisy-neighbor/noisy-neighbor
- Smart Boarding公式サイト 導入事例 https://smartboarding.net/example/950/
- 株式会社イー・コミュニケーションズ「SAKU-SAKU Testing導入事例」 https://www.e-coms.co.jp/jirei/jirei19
- OneCompliance公式サイト https://onecompliance.jp/

