農業DXとは?スマート農業との違いと進め方|経理のクラウド化から始める導入段階
Check!
- 農業DXの意味とスマート農業との違い
- 高額な機械より先に記帳から始める進め方
- 使える技術・支援策と現場への定着の工夫
農業DXとは、デジタル技術とデータを使って、生産現場だけでなく経営管理や流通、販売まで含めた農業のやり方そのものを変えていく取り組みです。ロボットトラクターやドローンといったスマート農業の機械は、そのための手段の一つにあたります。ただ、農業DXの最初の一歩は、数百万円の機械である必要はありません。日々の記帳や栽培記録をデジタルに置き換えるだけでも経営の数字が見えるようになり、次の投資判断の材料がそろいます。この記事では、スマート農業との違い、2025年農林業センサスで見る現状、使われるデジタル技術、導入の障壁と段階的な進め方、国の支援策、現場に定着させる工夫までを、農林水産省などの公的資料をもとに整理します。
あなたの経営に合う農業DXの入り口を診断
Q1. いまの帳簿や領収書は、どのように管理していますか?
おすすめ記事
目次
開く
閉じる
開く
閉じる
農業DXとは何か|最初の一歩は経営の数字を見えるようにすること
農業DXとは、デジタル技術とデータで農業経営の判断や仕事の進め方を変えていく取り組みで、機械を導入すること自体が目的ではありません。農林水産省は2021年に「農業DX構想」を示し、2024年2月に改訂した「農業DX構想2.0」で、生産・流通・販売・行政手続きまでをデータでつなぐ方向を打ち出しています。
どの領域から手を付けるにしても、土台になるのは「自分の経営の今の数字」です。作業に何時間かかっているか、作目ごとの資材費や売上はいくらか。これが分からないと、機械やセンサーを入れても効果を比べられず、高額な投資を判断することもできません。2025年農林業センサスでは、農業経営体82万8千のうち、青色申告を行っているのは36万9千、正規の簿記まで行っているのは20万8千経営体にとどまります。記帳のデジタル化は、費用が小さく、しかも後の投資判断を支える、農業DXの現実的な入り口です。
紙の領収書を年に一度まとめて帳簿に写している農家や農業法人の場合の一例が、マネーフォワード クラウド会計です。商品ページによると、インターネットバンキングやクレジットカードなど2,400社以上の金融機関と連携して取引明細を自動で取り込めるほか、AIが過去の仕訳を学習して勘定科目を提案し、入力した仕訳から決算書やキャッシュフローのレポートを自動で作成します。注意したいのは、AIが誤った仕訳を学習する可能性があるため、正確な入力が求められる点です。また、個人の農家が農業所得用の青色申告決算書や収支内訳書を作る場合、マネーフォワードは「クラウド確定申告」で未対応と案内しています(2026年9月時点)。申告書類の作り方は、対応状況を資料や公式サイト、税理士に確認してから選んでください。料金はプランによって異なるため、資料や公式サイトで確認してください。
株式会社マネーフォワード
マネーフォワード クラウド会計
株式会社マネーフォワード
マネーフォワード クラウド会計
他システムの移行や機能性重視の方におすすめ!
おすすめ!
- 面倒な帳簿・レポート・決算書を自動作成
- 金融機関の入出金データを自動取得してリアルタイムで数字を共有
- 他サービスとの連携で勤怠管理やマイナンバー管理が可能
気になる…
- ある程度の簿記知識が必要な場合も
-
年度繰り越しもあっという間にできるし、確定申告も決められた所に数字を入れれば簡単にできるので助かっています。 また分からないことがあっても、AIにはなりますが24時間いつでも聞けるのが魅力的です。だいたい聞いたら解決できます。
-
銀行やクレジットカードから仕訳入力や取引データの取得が自動化され、会計業務にかかる時間を大幅に短縮できました。AIによる自動仕訳やレポート自動生成機能により、経営状況の可視化やミスの防止も実現。帳票を出力して提出書類として扱いやすいのがメリットです。
-
経理業務で発生する書面が全てペーパーレスで管理できるようになりました。 また請求書の発行などもオンラインでできるため、時短です。
実際に使ってみたレビュー記事はこちら

【レビュー】マネーフォワードクラウド会計を実際に登録して使ってみた【使い方解説】
数ある会計ソフトの中でそのサービスを使ったらいいかわからないという方も多くいると思います。そこで今回は「マネーフォワードクラウド会計」の無料登録から使い方まで、利用経験ゼロの筆者が実況形式でお伝えします。
金融口座の取引明細データが自動で取り込まれ、各取引の勘定科目も自動で仕訳される。
株式会社久松農園(茨城県土浦市の農園)の導入事例より。「クラウド会計は衝撃だった。農業経営に集中できる環境に」(2017年公開当時の情報)
口座連携と自動仕訳で、記帳の手間を減らしたい農業経営に
マネーフォワード クラウド会計の資料を無料でダウンロードできます
農業DXとスマート農業の違い
スマート農業は生産現場でロボットやICTを使う取り組みを指し、農業DXはそれを手段の一つとして、経営・流通・販売まで含めた農業のあり方全体を変えていく取り組みを指します。スマート農業は農業DXに含まれる概念と整理できます。
農林水産省はスマート農業を「ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業」と位置づけています。自動操舵のトラクター、ドローンによる農薬散布、ハウスの温度や湿度を自動で制御する環境制御システム、水田の水位を遠隔で確認できるセンサーなどが代表例で、主な対象は田畑やハウスといった生産の現場です。
一方で農業DXは、農林水産省が2021年に策定し、2024年2月に改訂した「農業DX構想2.0」で方向性が示されている取り組みです。生産現場だけでなく、資材の調達、出荷や流通、販売、消費者とのつながり、さらには行政手続きまでを含めてデータでつなぎ、消費者のニーズに合った価値を届ける経営へ変えていくことが目指されています。機械を入れること自体が目的ではなく、デジタル化によって経営の判断や仕事の進め方を変えられたかどうかが問われる点が、スマート農業との大きな違いです。
| 比較の観点 | スマート農業 | 農業DX |
|---|---|---|
| 主な対象 | 田畑・ハウス・畜舎などの生産現場 | 生産に加え、経営管理・流通・販売・行政手続きまで |
| 目的 | 省力化・高品質化・作業負担の軽減 | データを使った経営判断と、事業のあり方そのものの変革 |
| 代表的な手段 | 自動操舵農機、ドローン、環境制御、センサー | スマート農業技術に加え、クラウド会計、営農管理アプリ、ネット販売、受発注のデジタル化など |
| 初期費用の傾向 | 機械によっては高額になりやすい | 事務や記録のデジタル化など、低コストで始められる領域も多い |
この違いを押さえておくと、「うちは規模が小さいから農業DXは関係ない」という思い込みから離れられます。高額な機械を導入しなくても、帳簿や作業記録をデジタルにして経営の数字を見えるようにすることは、それ自体が農業DXの入り口です。
農業DX構想が目指す姿と行政手続きのデジタル化
農業DX構想では、目指す姿として「FaaS(Farming as a Service)」という考え方が示されています。これは、データにもとづく農業経営によって、消費者のニーズに的確に応える価値をつくり、届ける農業を指す言葉です。作ったものを売るという発想から、求められているものをデータで把握して作り、届けるという発想への転換が込められています。2024年2月に取りまとめられた農業DX構想2.0は、農業や食関連産業の関係者がそこへ向かうための道筋を示す、ナビゲーターとしての役割を担うものと位置づけられています。
農業DXの対象は、農業者の経営だけではありません。農林水産省は、補助金や交付金などの行政手続きをオンラインで行える共通申請サービス「eMAFF」や、農地に関する情報を地図上でまとめて扱う「eMAFF地図」の整備を進めています。申請のたびに窓口へ出向いて紙の書類を出すという手間が減れば、その時間を生産や販売にあてられます。農業DXは、現場の経営と行政の手続きの両方をデジタルでつなぎ直す取り組みだと捉えると、全体像をつかみやすくなります。
農業DXの現状と課題|データ活用は4割、分析まではまだこれから
2025年農林業センサスでは、データを活用した農業を行っている経営体は全体の40.0%でした。ただし調査方法が変わっているため前回との単純比較はできず、担い手の減少が続くなかで、データを経営改善につなげる段階はこれからという状況です。
担い手の減少と規模拡大が同時に進んでいる
農林水産省の「2025年農林業センサス結果の概要(概数値)」によると、2025年2月1日時点の農業経営体数は82万8千経営体で、5年前に比べて23.0%減少しました。個人経営体が大きく減る一方で、法人経営体は3万3千経営体と7.9%増えています。1経営体あたりの経営耕地面積は3.7haと5年前より広がり、経営耕地面積20ha以上の経営体が全体の面積の51.0%を占めるようになりました。
つまり、農業をやめる人が増える一方で、残った経営体が農地を引き受けて規模を広げているのが現在の姿です。少ない人数で広い面積を管理し、雇用する従業員も増えるとなると、勘や記憶に頼った管理では追いつかなくなります。農業DXが求められている背景には、この構造的な変化があります。
データを活用する経営体は増えたが、中身には差がある
同じセンサスで、気象状況、市況、農作業の履歴、生育状況などのデータを活用した農業を行っている経営体は33万1千経営体、割合にして40.0%でした。団体経営体に限ると63.0%に達します。2020年の調査では17.0%だったため大きく伸びたように見えますが、2025年は活用方法を複数回答で尋ねる形に変わっており、数字をそのまま比べるのは適切ではありません。
また、ここでいうデータ活用には、天気予報や市況の情報を見て作業を決めるといった取り組みも含まれます。自分の経営で集めた記録を蓄積し、収量や費用と照らし合わせて改善策を考えるところまで進んでいる経営体は、まだ一部にとどまるとみられています。
記帳のデジタル化にも伸びしろがある
経営の数字という面では、同じセンサスで青色申告を行っている農業経営体は36万9千経営体、そのうち正規の簿記を行っているのは20万8千経営体でした。農業経営体全体の82万8千と比べると、帳簿をきちんと付けて経営の数字を把握している経営体は半数に届いていないことになります。記帳は税務のためだけでなく、どの作目が利益を生み、どこに費用がかかっているかを知るための基礎データです。ここにデジタル化の伸びしろが大きく残っていることは、低コストで始められる農業DXの入り口がまだ多くの経営体に開かれていることを意味します。
データがつながらないという課題とWAGRI
農林水産省の「農業DX構想の検討」のページには、議題として「ICT利活用における農業情報の標準化」が挙がっており、機器やサービスごとに別々に持っているデータを、つなげて使える形にそろえることが論点になっています。その受け皿の一つがWAGRI(農業データ連携基盤)です。WAGRIの公式サイトでは、気象・農地・収量予測など、農業に不可欠なデータやプログラムを集約した公的クラウドプラットフォームと説明されています。導入を検討しているサービスが、こうした外部のデータとつながるか、自分のデータを書き出して他のサービスに移せるかは、選ぶときの確認点になります。
農業DXで使われる主なデジタル技術と使いどころ
農業DXで使われる技術は、記録・経営管理のツール、生産現場の機器、販売・流通のサービス、行政手続きのサービスの4つに分けて考えると整理しやすく、課題に合わせて選びます。
| 領域 | 主な技術・サービス | 使いどころ | 導入前に確認したい点 |
|---|---|---|---|
| 記録・経営管理 | クラウド会計、営農管理アプリ、作業日誌アプリ | 収支と作業時間の把握、作目ごとの採算の確認 | 現場で入力が続けられるか、これまでの記録を引き継げるか |
| 生産現場の機器 | 自動操舵トラクター、ドローン散布、環境制御システム、水位センサー | 水管理・防除・施設の環境管理など、時間のかかる作業の省力化 | 費用に見合う稼働面積か、通信環境、共同利用や委託で足りないか |
| 販売・流通 | オンライン直売所、受発注のデジタル化 | 消費者や取引先との直接の取引、出荷先ごとの単価の比較 | 販売先ごとの経費を比べられる収支の記録があるか |
| 行政手続き | eMAFF、eMAFF地図 | 補助金や交付金などの申請のオンライン化、農地情報の確認 | 対象となる手続きや利用の準備は、農林水産省の案内で確認する |
表のとおり、どの領域でも「導入前に確認したい点」には、自分の経営の数字や記録が関わっています。圃場ごとの作業記録を取り始める場合は、圃場の意味や管理方法を整理した圃場とは?読み方・農地との違いと種類、スマート農業での圃場管理の方法を解説もあわせて参考になります。
農業DXで期待できるメリットと取り組み事例
農業DXの主なメリットは、作業の省力化、品質と収量の安定、販路や収益源の拡大の3つです。農林水産省は全国の取り組み事例を公開しており、高額な機械だけでなく、スマートフォンでの記録やデータの見える化といった身近な取り組みも紹介されています。
2025年農林業センサスでは、ふだん仕事として主に自営農業に従事している基幹的農業従事者は102万1千人で、5年前に比べて25.1%減少しました。働き手が減り続けるなかで生産を維持するには、同じ人数でこなせる仕事の量を増やすか、同じ面積から得られる利益を高めるしかありません。農業DXのメリットは、この2つの方向に沿って整理できます。
| メリット | 具体的な内容 | 実現するための前提 |
|---|---|---|
| 作業の省力化 | 水管理の見回り、防除、記帳や伝票の作成など、時間のかかる作業を自動化や遠隔操作で減らす | どの作業に何時間かかっているかを把握していること |
| 品質と収量の安定 | 温度や湿度、生育の記録を蓄積し、経験者の勘に頼っていた判断を数値で再現できるようにする。技術の継承にもつながる | 記録を一定期間続け、結果と照らし合わせること |
| 販路と収益源の拡大 | オンラインの直売や、流通事業者との受発注のデジタル化によって、消費者や取引先と直接つながる | 販売先ごとの単価や経費を比べられる収支の記録があること |
表の右の列に共通しているのは、どのメリットも「今の状態を数字で把握していること」が前提になるという点です。機械やシステムを入れただけでは効果は確かめられず、導入前の作業時間や収支と比べて初めて、省力化や収益の改善を実感できます。
農林水産省が公開している取り組み事例
農林水産省は「農業DXの取組事例」として、全国13の事例を公開しています。AIを使った病害虫や雑草の診断アプリの活用、イチゴ栽培での温度管理へのセンサー活用、水門の管理を自動化するシステムによる省力化、ドローンで得たデータの活用といった生産現場の事例に加え、農家と顧客をデジタルでつなぐ流通、オンライン直売所を通じた消費者との交流、営農データの見える化による経営の改善、スマートフォンを使った生産記録や農薬の使用記録の管理、データを活用した牛群の管理など、流通・販売・経営管理の事例も並んでいます。
注目したいのは、紹介されている取り組みの多くが、大がかりな機械の導入ではなく、記録やデータの見える化を起点にしている点です。事例を参考にするときは、導入した技術の名前よりも、どの課題を解決するために何の記録を取り始めたのかという順番に目を向けると、自分の経営に置き換えて考えやすくなります。効果の大きさは作目や面積、地域の条件によって変わるため、数字はそのまま当てはめず、目安として捉えてください。
導入の障壁|高額な初期投資と「使いこなせるか」の不安
農業DXが進みにくい最大の理由は、スマート農業機械の初期投資が大きく、しかも投資に見合う効果が出るかを事前に見積もりにくいことです。加えて、操作を覚える人手や時間、通信環境、データの扱い方といった運用面の不安も導入をためらわせます。
これはスマート農業が普及しにくい理由の説明でもあります。農林水産省の令和6年度白書(特集3)でも、スマート農業機械等の導入にはコストが高いことや、扱える人材が不足していることが課題として挙げられています。同じ白書は、たとえば狭い畝間に機械が入らないなど、現在の栽培方法のままでは技術の効果が出にくい例も示しています。
機械の費用を回収できる規模かどうか
自動操舵システムやロボット農機、環境制御システムなどは、機種や規模によって価格が大きく異なり、数百万円以上の投資になることも珍しくありません。削減できる作業時間や増える収量が、その費用を何年で回収できるかは、経営面積や作目、今の作業体系によって変わります。面積が小さい経営体や、繁忙期が限られる作目では、機械を所有しても稼働する時間が短く、費用に見合わない場合があります。
効果を測るための数字がそもそもない
見落とされやすいのが、投資の判断に必要な「今の数字」が手元にないという問題です。作業ごとに何時間かかっているのか、作目ごとの資材費や人件費はいくらなのかが分からなければ、機械を入れたら何がどれだけ改善するのかを計算できません。販売店の提案やほかの地域の事例を参考にするしかなくなり、自分の経営に当てはまるのかを判断しにくくなります。高額な投資に踏み切れない背景には、費用の大きさそのものだけでなく、判断材料の不足があります。
操作・通信・データの扱いという運用面の不安
新しい機器やアプリを覚える時間が取れない、圃場の通信環境が不安定、集めたデータを誰がどう管理するのか分からないといった運用面の課題もあります。特に高齢の家族や季節雇用のスタッフが作業する経営体では、操作が難しいツールは定着しにくくなります。農業機械メーカーやサービス事業者に農業データを預ける場合は、契約でデータの利用範囲がどう定められているかも確認しておきたい点です。
こうした障壁を考えると、最初から高額な機械に投資するよりも、まず費用が小さく、しかも投資判断の材料となる数字がそろう領域から手を付けるほうが合理的です。その代表が経理のクラウド化です。月々の利用料で始められ、使い始めたその年から作目ごとの経費や売上が数字で見えるようになります。
農業DXの段階的な進め方
農業DXは、事務と記録のデジタル化、データの蓄積と見える化、生産現場への技術導入、販売や経営モデルの見直しという4段階で進めると無理がありません。前の段階で集めたデータが、次の段階の投資判断の根拠になります。
この段階の考え方は、DX全般の進め方を整理したDXのステップとは?3段階・4段階の違いと進め方、役割分担を解説や、DX化の進め方|6ステップとロードマップの作り方、よくある失敗5つとも共通しています。農業では、これを自分の作目や経営形態に当てはめて読み替えます。
| 段階 | 主な取り組み | 費用の目安感 | 次の段階へ進む判断材料 |
|---|---|---|---|
| 1. 事務と記録のデジタル化 | クラウド会計での記帳、スマートフォンでの作業日誌、請求書や出荷伝票の電子化 | 小さい(月額利用が中心) | 作目別の収支と作業時間が数字で分かるようになったか |
| 2. データの蓄積と見える化 | 圃場ごとの作業記録、施肥・防除の履歴、気象データとの照合、営農管理アプリの活用 | 小さいから中程度 | どの作業・どの圃場に負担やロスが集中しているかが分かったか |
| 3. 生産現場への技術導入 | センサー、環境制御、ドローン散布、自動操舵など、課題が明確な作業に絞った導入 | 中程度から大きい | 削減できた作業時間や改善した収量が、費用に見合っているか |
| 4. 販売・経営モデルの見直し | 直販やネット販売、取引先とのデータ連携、加工や契約栽培など付加価値の拡大 | 取り組みによって異なる | データをもとに販売先や作付けの配分を決められているか |
段階1:事務と記録から始める理由
最初の段階を事務と記録にするのは、費用が小さいことに加えて、失敗しても経営への影響が限られ、しかも後の段階すべての土台になるからです。クラウド会計で記帳を始めると、銀行口座の明細が自動で取り込まれ、領収書をスマートフォンで撮影して登録できるようになります。確定申告の時期にまとめて作業する必要がなくなり、年の途中でも利益の見込みが分かるようになります。作業日誌も同じようにスマートフォンで入力する形にすれば、誰がどの圃場で何時間作業したかが記録として残ります。
段階2と3:課題を数字で確かめてから技術を選ぶ
記録が1年分たまると、どの作業に時間がかかり、どの圃場で費用がかさんでいるかが見えてきます。たとえば防除に多くの時間を取られていると分かればドローン散布の委託を検討する、水管理の見回りが負担ならば水位センサーを試す、というように、導入する技術を課題から逆算して選べるようになります。機械は購入だけでなく、共同利用やレンタル、作業を請け負う農業支援サービスの活用という選択肢もあり、面積や稼働日数によってはこちらのほうが負担を抑えられる場合があります。
段階4:データを販売と経営の判断に使う
生産と収支のデータがつながると、どの作目をどれだけ作り、どの販売先に出すかをデータにもとづいて決められるようになります。出荷先ごとの単価や手数料、輸送の手間を比べて販売先の配分を見直したり、直販やネット販売の採算を試算したりするのがこの段階です。農業DX構想2.0が描く、消費者のニーズに合った価値を届ける経営は、こうした段階を一つずつ積み上げた先にあります。
経営形態によって入り口は変わる
家族経営の農家では、記帳と作業日誌のデジタル化だけでも、確定申告の負担軽減と翌年の作付け計画の見直しという効果を得やすくなります。従業員を雇う農業法人では、作業の指示と記録を共有する仕組みや、労務時間の管理、取引先への請求書の発行など、組織として情報をそろえる取り組みが優先されます。施設園芸では環境制御、畜産では個体管理や飼養環境の監視といったように、作目によって段階3で効果が出やすい技術も異なります。自分の経営に近い事例を探すときは、面積や作目、雇用の有無が近いものを選ぶと参考にしやすくなります。
段階1の記帳と記録、今のやり方で足りていますか?セルフチェック
当てはまるものを選んでください(登録不要)
国の支援策|スマート農業技術活用促進法と実証プロジェクト
国は2019年からのスマート農業実証プロジェクトで技術の効果を検証し、2024年10月には「スマート農業技術活用促進法」を施行して、計画の認定を受けた農業者や事業者に対する金融・税制面の支援を用意しています。補助事業は年度ごとに内容が変わるため、最新の公募情報の確認が欠かせません。
スマート農業実証プロジェクト
農林水産省は2019年度から、全国の生産現場でロボットやAI、IoTなどの技術を実際に導入し、効果や課題を検証するスマート農業実証プロジェクトを進めてきました。作目や地域ごとの実証結果や導入事例は農林水産省のスマート農業のページで公開されており、自分の経営に近い条件で、どの技術がどの程度の効果を上げたのかを調べる材料になります。
スマート農業技術活用促進法
2024年10月に施行された「農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律」では、スマート農業技術の活用とあわせて作業の進め方などを見直す農業者の「生産方式革新実施計画」と、技術を開発・供給する事業者の「開発供給実施計画」について、国の認定を受けられる仕組みが設けられました。認定を受けると、日本政策金融公庫による長期・低利の融資や、税制上の優遇措置などの支援を受けられるとされています。対象となる要件や支援の内容は制度の詳細によって異なるため、具体的に検討する際は農林水産省や都道府県の窓口で確認してください。
補助事業や地域の相談窓口
このほか、スマート農業機械の導入やデータ活用を支援する補助事業が国や都道府県、市町村で実施されることがあります。公募時期や要件、補助の対象は年度ごとに変わるため、農林水産省のサイトや、都道府県の普及指導センター、地域の農業協同組合などで最新の情報を確認するのが確実です。補助事業の申請では、導入によってどのような効果を見込むかを示すことが求められる場合が多く、ここでも段階1で整えた収支や作業時間の記録が役に立ちます。なお、本記事は制度の概要を紹介するもので、個別の申請可否や税務上の判断を示すものではありません。
現場に定着させるための工夫
農業DXを現場に定着させる鍵は、入力の手間を最小限にし、記録した人がその効果を実感できるようにすることです。道具を入れただけで終わらせず、入力方法と使い道を最初に決めておくことが、続くかどうかを分けます。
入力方法を見直して手間を減らす
作業の合間に長い文章を入力するのは現実的ではありません。作業の種類や圃場はあらかじめ選択肢として登録しておき、タップで選ぶだけで記録できるようにする、音声入力や写真で補うなど、入力にかかる時間をできるだけ短くします。経理でも、口座やカードの明細を自動で取り込めば、手で入力するのは現金で支払った分や例外的な取引だけで済みます。「記録を付ける日」をまとめて作るのではなく、作業や支払いの直後に数十秒で終わる形にすると続けやすくなります。
記録した人が効果を実感できる場をつくる
記録が何に使われているかが見えないと、入力は負担にしか感じられません。月に一度、集まった記録から作業時間や経費の変化を家族や従業員と一緒に確認し、次の作業計画に反映させると、記録する意味が共有されます。前年との比較で肥料の使い方を見直せた、繁忙期の人手の配置を変えられたといった小さな成果を共有することが、次の段階に進む原動力になります。
推進体制と、研修・相談先の考え方
農業DXの推進体制は、大きな組織を作る必要はありません。経営者が目的を決め、記録の入力ルールをまとめる担当者を1人置き、家族や従業員が同じ手順で入力する、という分担があれば始められます。スキル面も、最初から全員が使いこなす必要はなく、入力の手順を紙1枚にまとめて共有し、慣れた人が教える形で足ります。専門家の力を借りたいときは、会計や申告は税理士、栽培や機械の導入は都道府県の普及指導センターや地域の農業協同組合、補助事業は都道府県や市町村の窓口というように、課題ごとに相談先を分けると頼みやすくなります。農林水産省もスマート農林水産業の人材育成に取り組んでおり、同省のスマート農業のページで関連する情報を案内しています。
よくある失敗パターン
| 失敗パターン | 起こりやすい理由 | 避けるための工夫 |
|---|---|---|
| 高額な機械を先に入れて活用しきれない | 課題を数字で確かめないまま、事例や提案だけで投資を決めてしまう | まず記録と収支をそろえ、効果を見積もってから導入を判断する |
| ツールを増やしすぎて入力が続かない | 作業日誌、在庫、会計を別々のアプリで管理し、二重入力が発生する | 最初は会計と作業記録の2つ程度に絞り、連携できるものを選ぶ |
| 一人だけが使い方を知っている | 導入した担当者に操作と管理が集中し、休んだときに止まる | 入力の手順を簡単な紙1枚にまとめ、家族や従業員と共有する |
| データを集めるだけで使わない | 何を判断するための記録なのかを決めずに始めている | 月に一度、記録を見て次の作業や支出を決める場を設ける |
これらの失敗を避けるうえでも、経理の効率化は定着の練習台として適しています。毎月の支払いと売上という、誰にとっても必要な情報を扱うため目的がはっきりしており、明細の自動取り込みで入力の手間も小さく抑えられます。ここで「記録して、見て、判断する」流れが身に付けば、作業記録やセンサーのデータを扱う段階にも同じやり方を広げられます。明細の自動取得や仕訳の自動提案といった機能の範囲は、マネーフォワード クラウド会計の商品ページで確認できます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 農業DXとはどういう意味ですか?
A. 農業DXとは、デジタル技術とデータを使って、生産現場だけでなく経営管理や流通、販売まで含めた農業のやり方を変えていく取り組みです。農林水産省の「農業DX構想2.0」では、データにもとづく農業経営で、消費者のニーズに合った価値を届ける農業を目指す方向が示されています。
Q2. 農業DXとスマート農業は何が違いますか?
A. スマート農業は、ロボットやICTを使って生産現場の省力化や高品質化を図る取り組みです。農業DXはそれを手段の一つとして含み、経営管理や流通、販売までデータでつなげて、農業経営のあり方そのものを変えていく取り組みを指します。
Q3. 農業DXの事例にはどのようなものがありますか?
A. 農林水産省の「農業DXの取組事例」には13の事例が公開されています。AIによる病害虫や雑草の診断アプリ、イチゴ栽培での温度管理へのセンサー活用、水門管理の自動化、スマートフォンでの生産記録や農薬の使用記録の管理、営農データの見える化による経営の改善、オンライン直売所を通じた消費者との交流などです。
Q4. スマート農業はなぜ普及しにくいのですか?
A. 農林水産省の令和6年度白書(特集3)では、スマート農業機械等の導入にはコストが高いことや、扱える人材が不足していることが課題として挙げられています。現在の栽培方法のままでは機械の効果が出にくい場合もあるため、まず自分の経営の数字を把握し、課題の大きい作業に絞って導入を検討するのが現実的です。
Q5. 農業DXは何から始めればよいですか?
A. 事務と記録のデジタル化から始めるのがおすすめです。小規模な農家でも、クラウド会計での記帳やスマートフォンでの作業記録など、費用の小さい領域から取り組めます。記録が1年分たまったら、課題の大きい作業に絞って技術の導入を検討します。
Q6. スマート農業機械の導入に使える支援制度はありますか?
A. 2024年10月に施行されたスマート農業技術活用促進法に基づく計画の認定を受けると、日本政策金融公庫の長期・低利の融資や税制上の優遇措置などの支援を受けられるとされています。このほか国や自治体の補助事業もありますが、内容や公募時期は年度ごとに変わるため、農林水産省や都道府県の窓口で最新情報を確認してください。
まとめ|今日からできる3つのこと
農業DXは、スマート農業の機械を導入することだけではなく、データを使って経営の判断や仕事の進め方を変えていく取り組みです。担い手の減少と規模拡大が同時に進むなかで、勘や記憶に頼らない経営への切り替えが求められています。高額な投資から始める必要はなく、費用が小さく判断材料がそろう領域から段階的に進めるのが現実的です。最後に、今日から取り組める3つのことを整理します。
- 口座やカードの明細を自動で取り込めるクラウド会計ソフトを検討し、農業の勘定科目や、自分の申告に必要な決算書への対応範囲を、資料や公式サイトで確認する。
- 作業日誌をスマートフォンで入力する形に置き換え、圃場ごと・作業ごとの時間を記録として残す。
- 記録が1年分たまったら、負担の大きい作業に絞ってスマート農業技術や支援制度の活用を検討する。
参考文献
- 農林水産省「スマート農業」 https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/
- 農林水産省「「農業DX構想2.0」が取りまとめられました」 https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/joho/240222.html
- 農林水産省「農業DX構想の検討」 https://www.maff.go.jp/j/kanbo/dx/nougyou_dxkousou.html
- 農林水産省「農業DXの取組事例」 https://www.maff.go.jp/j/kanbo/dx/dxsub/index.html
- 農林水産省「2025年農林業センサス結果の概要(概数値)(令和7年2月1日現在)」 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/noucen/040909/index.html
- 農林水産省「令和6年度食料・農業・農村白書 特集3 スマート農業技術の活用と今後の展望」 https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r6/r6_h/trend/part1/chap0/c0_1_03.html
- WAGRI(農業データ連携基盤) https://wagri.naro.go.jp/
- 国税庁「No.2070 青色申告制度」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2070.htm
- マネーフォワード「農業所得の申告に対応していますか?」(クラウド確定申告アプリサポート) https://biz.moneyforward.com/support/ca-app/faq/app-tax-return/tr-app20.html
- マネーフォワード「クラウド会計は衝撃だった。農業経営に集中できる環境に」(導入事例) https://biz.moneyforward.com/case/132/
この記事に興味を持った方におすすめ
