大学DXとは|教育・運営・研究の3軸と事例・進め方・効果測定

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  • 大学DXを3軸で整理し、意味と背景がわかる
  • 3大学の公開事例から、進め方の共通点がわかる
  • DX部門とIT部門の違いと、効果測定がわかる

大学DXとは、デジタル技術とデータを使って大学の教育・運営・研究を変え、学修者本位の教育と組織運営の改善につなげる取り組みです。授業のオンライン化や事務のシステム化そのものではなく、仕事の進め方と意思決定のしかたを変えることが目的で、教育・運営・研究の3軸に分けて考えると整理しやすくなります。「オンライン授業、事務のペーパーレス化、研究データの管理と、どこから手を付ければよいのか分からない」という大学職員や情報部門の担当者に向けて、本記事では大学DXの意味、背景とメリット、先進大学の公開事例、軸ごとの進め方、学部系統別の重点、よくある失敗、効果の測り方までを、文部科学省やIPAなどの公的資料と各大学の公式情報をもとに解説します。

大学DXの進め方と、教職員の学びの整え方を診断

Q1. 大学DXで、いま最も手を付けたい領域は?

目次

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  1. 大学DXとは|教育・運営・研究の3軸と、全員で取り組む学びの土台
  2. 大学DXが求められる背景とメリット
  3. 大学DXの事例|関西大学・東北大学・長崎大学の公開情報から
  4. 教育軸|オンライン授業とLMSの活用
  5. 運営軸|事務手続きの電子化と大学経営のデータ活用
  6. 研究軸|データ活用と研究DX
  7. 教職員の学びを整える|研修の運用手順と受講管理
  8. 大学DXの進め方|推進体制と4つのステップ
  9. 学部系統別に見る3軸の重点
  10. 導入でよくある失敗パターン
  11. 効果測定の方法
  12. よくある質問(FAQ)
  13. まとめ|3軸で課題を分けて一歩ずつ進める
  14. 参考文献

大学DXとは|教育・運営・研究の3軸と、全員で取り組む学びの土台

大学DXとは、デジタル技術とデータで教育・運営・研究をつなぎ、学修者本位の教育と組織運営の改善を実現する取り組みです。システムの入れ替えではなく、仕事の進め方と意思決定のしかたを変えることが目的です。

企業のDXと大きく違うのは、関係者の幅です。学生の学び、教職員の働き方、研究活動、地域や産業界との連携が同時に関わり、しかも学部や研究科ごとに文化や意思決定の仕組みが異なります。そのため、大学DXは「どの領域の、誰の、何を変えるのか」を最初に分けて考えると整理しやすくなります。その分け方として実務で使いやすいのが、教育・運営・研究の3軸です。

軸 主な対象 代表的な取り組み 主な関係者
教育 授業、学修支援、教職員研修 LMS、オンライン授業、学修データの活用、生成AIの利用ルール 教員、学生、教務担当
運営 学務、入試、人事、会計、施設 申請・証明書発行の電子化、ペーパーレス化、部門データの連携 事務職員、情報部門、経営層
研究 研究データ、産学連携、学術情報 研究データ管理基盤、共同研究のデータ共有、成果の公開 研究者、研究支援部門、URA

3軸を支えるのは、教職員全員の学びの仕組み

3軸のどれを進めるにも共通して必要になるのが、教職員が同じ前提を学べる仕組みです。新しいシステムの使い方、個人情報と情報セキュリティの扱い、生成AIの利用ルールといった内容は、情報部門だけが理解していても現場では守られません。専任の教職員に加えて、非常勤の教員や委託先の職員まで、誰がどこまで学んだかを把握できないと、DXのルールは定着しにくくなります。

授業を担うLMSとは別に、教職員の研修や理解度の確認、周知の記録を回す仕組みを用意しておくと、3軸の取り組みを全学に広げやすくなります。次の3つは、企業の社員教育向けとして掲載されているeラーニング系のサービスで、授業そのものを担うLMSとは位置づけが異なります。教職員研修やルール周知の運用に使えるかどうかは、資料で確認することが前提です。

教職員の学びを支える3サービスの、役割の違い

自社の状況を選ぶと、合うサービスが強調されます。優劣ではなく役割の違いで並べています

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この状況に合う一例:Smart Boarding。メンバー・管理職・経営層の3階層で学習プログラムを整理し、研修の進捗を管理できます

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この状況に合う一例:SAKU-SAKU Testing。既存問題と自社の問題を1つのテストにまとめ、受講結果をリアルタイムで集計できます

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サービス Smart Boarding SAKU-SAKU Testing OneCompliance(ワンコンプライアンス)
向いている会社 内定者や新人から管理職まで、階層別に教育プログラムを組みたい組織 研修後の理解度テストと、受講結果の集計を重視する組織 個人情報・情報セキュリティなどのコンプライアンス研修を継続したい組織
特徴 研修・OJT・eラーニングを1つのシステムで運用。LMS機能で受講者の進捗や理解度を確認でき、自社の資料や動画で研修コースも作成できる CBTの技術を活かしたテスト機能が特徴。既存問題と自社の問題を1つのテストにまとめられ、受講状況や結果はリアルタイムで集計される 専門家が作成・レビューした法務・労務・情報領域のコンテンツを提供し、法改正に合わせて更新。ダッシュボードと自動リマインダーで管理の工数を減らす
注意したい点 電話やメールでの相談、教育プログラム設計の支援は「充実サポートプラン」のみ。自社の教育内容をプログラム化するには一定の手間がかかる 事務局運営やカスタマーデスクはオプション。AIによるリモート監視機能は有償オプションで、日本国外での利用はサポート対象外 料金は受講人数に応じて変わるため問い合わせが必要。デモや無料トライアルの期間・内容も問い合わせで確認する
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3つのうち、教職員を階層別に育てる設計から始めたい場合の一例がSmart Boardingです。商品ページによると、受講者ごとの進捗や理解度を確認できるLMS機能に加えて、自社の資料や動画を組み合わせたオリジナルの研修コースを作成でき、キャリアマップはメンバー・管理職・経営層の3階層で整理されます。大学であれば、新任の職員、中堅の事務職員、部署の責任者といった階層ごとに、DXで求める知識をそろえる使い方を検討できます。一方で、電話やメールでの相談、教育プログラムの設計といった手厚い支援を受けられるのは「充実サポートプラン」のみで、自社の教育内容をプログラム化するには一定の手間もかかります。料金はプランによって異なるため、資料や公式サイトで確認してください。

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今、eラーニングシステムを導入する企業が増えています。特に「LearnO」と「Smart Boarding」は2大人気サービスで、評価を見てもどちらが本当に自社に合うサービスなのか悩んでいる方も少なくありません。本記事では、徹底比較したビジコン編集部が目的別・使い方別に違いを明確に解説します。

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研修を受けたかどうかを自己申告に頼るしかなく、研修管理が難しい状況でした。(導入後)誰が研修を受けたか、受けていないかが一目でわかるようになり、管理が非常に簡単になりました。

出典:日鉄保険サービス株式会社の導入事例(Smart Boarding)

上の引用は保険代理業の会社の事例で、大学の事例ではありません。それでも、研修を受けたかどうかを自己申告に頼る状態から、受講状況を一覧で確認できる状態に変えるという課題は、全学の教職員に同じ研修を届ける大学にも共通します。

大学DXが求められる背景とメリット

大学DXが求められる背景には、18歳人口の減少、教職員の業務負荷、学び直しなど多様な学修者への対応があり、メリットは教育の質、事務の効率、研究データの共有、学生や社会との接点づくりに分けて考えると整理できます。

背景|18歳人口の減少と、運営・教育の見直し

文部科学省の「平成30年度文部科学白書」は、2040年に向けた高等教育のグランドデザインとして、18歳人口が2040年に88万人へ減少し、現在の7割程度の規模になる推計を示しています。大学進学者数も、約63万人から約51万人へ約12万人減る見通しとされています。この推計は後の人口推計で見直されており、最新の数字は文部科学省の資料で確認する必要がありますが、進学者数が減る局面で、教育の質を高めながら運営を効率化しなければならないという方向は変わりません。

コロナ禍でオンライン授業が一気に広がり、デジタル化の土台は多くの大学で整いました。それを教育の質や運営の改善にどうつなげるかが、今の課題です。文部科学省も、大学教育のデジタライゼーションを進める取り組みとして「Scheem-D」を展開し、大学教員とデジタル技術者などが協働して学修者本位の教育を実現する仕組みづくりを後押ししています。数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度により、大学等の正規課程でのデータサイエンス・AI教育も推進されており、大学DXは個々の大学の努力だけでなく、国の高等教育政策の流れの中に位置づけられています。

メリット|軸ごとに見る期待できる変化

軸 期待できる変化 成果として見るもの
教育 学修データを授業改善と学生支援に使え、つまずきを早く把握できる 課題提出率、単位修得率、学生満足度
運営 申請・証明書発行などの手続きが電子化され、窓口と転記の手間が減る 1件あたりの処理時間、窓口対応件数
研究 研究データの保存・共有・公開のルールがそろい、共同研究を進めやすくなる データ管理ルールの整備率、共同研究の件数
社会との接点 出願から入学手続き、社会人の学び直しまでのオンライン化で、利用者の手間が減る 問い合わせ件数、社会人向けプログラムの受講者数

いずれも導入しただけで得られる効果ではなく、測定する指標を先に決めたうえで、軸ごとに見ていくことで成果を説明できます。指標の決め方は後半の「効果測定の方法」で扱います。

学校DX・教育DXとの違い

学校DXや教育DXは、小中高校、塾、企業研修、社会人教育まで含む広い概念として使われることが多い言葉です。これに対して大学DXは、高等教育機関に固有の学位プログラム、研究活動、教職協働、産学連携までを対象にします。授業のデジタル化だけでなく、大学経営や研究基盤まで視野に入れる点が、教育DX全般との大きな違いです。小中高や企業研修まで含めた全体像は、教育DXとは|GIGAスクール・大学DX・企業研修をわかりやすく解説で解説しています。

大学DXの事例|関西大学・東北大学・長崎大学の公開情報から

大学DXの事例は、各大学が公式サイトで公開している取り組みを、教育・運営・研究のどの軸にあたるかで仕分けして読むと、自校に置き換えやすくなります。以下は、2026年10月15日時点で各大学の公式ページに書かれている内容の要約です。

大学 公式サイトで公開されている取り組み 主に当てはまる軸
関西大学 DX推進構想で4つの柱を掲げる。「いつでも、どこでも、アバターでも学べる」「学修成果の見える化」「DXの推進に対応したインフラ、環境整備」「学内業務の効率化」。学修成果の見える化では関大LMSの強化、業務の効率化では各種申請手続きのオンライン化を挙げている 教育・運営
東北大学 2016年の仮想デスクトップ導入から始まり、2019年にGoogleのクラウド業務基盤を導入、2020年に「オンライン事務化宣言」を発出し、国立大学法人初の3か国語対応チャットボットを導入。2022年はRPAによる業務削減が年間約10万時間超、2024年に研究DXチームと人事給与DXチームを新設 運営(研究DXの体制づくりも)
長崎大学 2022年11月にDX推進室を設立し、CDOが室長を務める。教育・研究・事務・社会貢献の4分野を掲げ、事務DXとしてRPA、共有フォルダの一括管理とペーパーレス化、オンラインツールの活用、教職員向けの認証・管理システムの開発、DX人材育成のプロジェクトを紹介している 運営・推進体制

関西大学の公式ページには、2021年1月に文部科学省が公募した「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」に2件申請し、2件とも採択されたと記載されています。教育軸の取り組みは、国の事業と結びつけて進める方法もあることが分かります。

3大学の事例から読み取れる共通点

  1. 推進の「器」を先に決めている。長崎大学はDX推進室とCDOを置き、東北大学は業務DXに加えて研究DXと人事給与DXの専任チームを順に増やしている
  2. 軸や領域ごとに柱を分けている。関西大学は4つの柱、長崎大学は4分野と、全学の方針を領域別の取り組みに分解している
  3. 事務の手続きから着手し、人材の育成を並行させている。東北大学は2020年の「オンライン事務化宣言」から進め、長崎大学はDX人材育成を事務DXの取り組みに含めている

3つの大学に共通するのは、ツールの名前ではなく、推進体制と軸ごとの柱を先に決めている点です。次の章から、教育・運営・研究の軸ごとに、自校で何を決めればよいかを見ていきます。

教職員の学びを支える3サービスの役割を比較表で見る

教育軸|オンライン授業とLMSの活用

教育軸のDXとは、オンライン授業やLMSを導入することそのものではなく、学修データを使って学生の理解・参加・振り返りを支える授業へ設計し直す取り組みです。

オンライン化より先に学修設計を決める

オンライン授業、動画教材、LMSは有用な手段ですが、それだけで教育のDXとはいえません。どの授業で対面の良さを活かし、どの部分をオンラインで補い、どのデータを授業改善に使うのかを先に設計する必要があります。たとえば、知識の習得部分は事前の動画と小テストで済ませ、対面授業は討議や演習に充てる反転授業型の設計にすると、限られた授業時間の価値を高めやすくなります。

LMS選定で確認したい5つのポイント

大学でLMSやeラーニングシステムを選ぶ際は、機能の多さよりも、学内の運用に合うかどうかを確認することが大切です。特に次の5点は、導入後に「使われない」「連携できない」といった問題を防ぐうえで重要です。

確認ポイント 見るべき内容
1. 料金体系と利用人数 学生数・教職員数に対して、ユーザー課金か固定料金か。卒業・入学による入れ替えへの対応
2. 教材の作りやすさ ITに詳しくない教員でも動画・スライド・小テストを登録できるか
3. 学修データの取得 受講履歴、テスト結果、提出状況を出力・分析できるか
4. 既存システムとの連携 学務システムや学内認証(シングルサインオン)とつなげられるか
5. サポートと安全管理 導入時の支援体制、障害時の対応、個人情報の取り扱いとデータの保存場所

大学DXで学生は何を学ぶのか|数理・データサイエンス・AI教育

大学DXの文脈で「学ぶ」内容として制度化されているのが、文部科学省の数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度です。この制度は、文部科学大臣が大学等の正規課程にある優れた教育プログラムを認定し、数理・データサイエンス・AI教育への取り組みを後押しするもので、対象は大学(短期大学を含む)と高等専門学校です。

レベル 位置づけ 主な学修内容
リテラシーレベル 大学等の全学生が身に付けるべき、デジタル社会の基礎的な素養 データと社会の関係を学ぶ「導入」、データ読解の基礎、倫理・法・社会的留意点を扱う「心得」
応用基礎レベル リテラシーを発展させ、専門分野に応用する力 AIを活用した課題解決の基礎能力と、専門分野へ応用する視点

学生が学ぶ内容は大学のカリキュラムで決まりますが、教職員側にも同じ前提の理解が必要です。授業で扱うデータの取り扱い、生成AIの使い方の指導、個人情報への配慮は、教員と職員が共通のルールで運用できて初めて授業の質につながります。

生成AIの利用ルールを同時に整える

教育軸では、生成AIの扱いも避けて通れません。授業や課題で生成AIの利用を認めるのか、認める場合はどの範囲で、どのように明示させるのかを、科目ごと、あるいは全学のガイドラインとして示しておく必要があります。評価方法の見直し、個人情報や著作権への配慮、教職員と学生への説明もあわせて準備しておくと、現場の混乱を防げます。

ただし、ルールは定めて周知しただけでは運用に落ちません。教職員が内容を理解したかをテストで確かめ、未受講の人をフォローできる状態にしておくと、現場の判断のばらつきを減らせます。

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運営軸|事務手続きの電子化と大学経営のデータ活用

運営軸のDXとは、学務・入試・人事・会計などの事務手続きを電子化し、部門ごとに分かれている情報を必要な範囲で連携できる状態に整える取り組みです。

学生・教職員向け手続きのデジタル化

大学の事務には、履修登録、各種証明書の発行、休学・退学などの届出、奨学金の申請、施設予約、出張・経費の精算など、紙と押印で回っている手続きが今も多く残っています。学生にとっては窓口に並ぶ手間、職員にとっては転記や確認の手間が発生し、双方の負担になっています。これらをオンライン申請に切り替えるだけでも、窓口対応の時間が減り、職員が学生支援など本来の業務に時間を使えるようになります。

電子化を進める際は、いきなりシステムを選ぶのではなく、次の順番で進めると失敗しにくくなります。

  1. 手続きごとに、件数、所要時間、関わる部署、押印の有無を一覧にする
  2. 件数が多く、ルールが単純な手続きから電子化の対象に選ぶ
  3. 押印や原本提出が本当に必要かを、学内規程とあわせて見直す
  4. 申請から承認、通知、保管までの流れを電子上で完結させる
  5. 利用状況と処理時間を記録し、次の手続きへ横展開する

大学経営にDXを活かす|部門データをつなぎ判断に使う

大学経営にDXを活かすとは、学生情報、履修、成績、入試、奨学金、施設利用などの部門ごとの情報を、判断に使える形でつなぐことです。一つの巨大なシステムにまとめることが目的ではなく、どの情報を、誰が、どの目的で使うのかを整理し、必要な連携と権限管理を設計することが出発点になります。たとえば、入試区分と入学後の成績、学修状況と退学の傾向などを部門横断で見られるようになると、入試戦略や学生支援の改善を根拠に基づいて議論できるようになります。

IPAの「DX動向2025」では、日本企業のDXが「内向き・部分最適」にとどまりがちで、「外向き・全体最適」への転換が求められていると指摘されています。大学も、部局ごとの個別最適が積み重なりやすい組織です。運営軸では、部門の効率化を全学の判断につなげる視点を最初から持っておくことが大切です。

研究軸|データ活用と研究DX

研究軸のDXとは、研究データを安全に保存・共有・公開できる基盤を整え、学内外の共同研究や成果の活用を進めやすくする取り組みです。

研究データ管理のルールを先に決める

研究データは、分野、共同研究の有無、機密性、倫理審査の対象かどうかによって扱いが大きく異なります。研究DXでは、単にクラウドへ保存するだけでなく、保存場所、アクセス権、公開範囲、バックアップ、長期保管、研究不正の防止といった観点を整理しておく必要があります。研究室ごとにルールがばらばらな状態では、共同研究や研究者の異動のたびにデータの所在が分からなくなりがちです。まずは学部・研究科レベルで、保存形式、保管期間、アクセス権の最低限の共通ルールを決めることが第一歩になります。

研究と教育をつなぐ視点

研究軸のDXは、研究者だけのテーマではありません。研究データの扱い方、データ分析の手法、研究倫理や情報セキュリティの基礎は、学生や研究支援にあたる職員にも共通して必要な知識です。こうした内容を、研究室ごとの口頭指導に頼らず、eラーニングの教材として整備しておけば、新入生や新任の研究者、研究支援職員に同じ水準の知識を効率よく伝えられます。受講履歴が残るため、研究倫理教育の受講状況を確認する用途にも使えます。

地域・産業界との接続

大学DXは大学内だけで閉じる取り組みではありません。地域課題の解決、企業との共同研究、社会人の学び直し、学生の実践的なプロジェクトなど、外部との接点が広がるほど、データの共有範囲や契約上の取り決めを整理する重要性も増します。研究データの外部提供や共同利用を行う場合は、あらかじめ契約で権利関係と管理責任を明確にしておくことが欠かせません。

教職員の学びを整える|研修の運用手順と受講管理

教職員の研修と周知を全学で回すには、対象と内容を決め、期限とリマインドを設定し、理解度を確認して、受講の記録を残すという5段階の運用を整えると、手作業の負担を減らせます。

  1. 研修の内容を洗い出す。個人情報の取り扱い、情報セキュリティ、ハラスメント防止、生成AIの利用ルール、新しいシステムの操作など、DXに伴って全員に周知する項目を並べる
  2. 対象者の名簿を整える。専任の教職員に加えて、非常勤の教員、派遣・委託先の職員、新任者を、いつ誰に届けるかの単位で整理する
  3. 配信の期限とリマインドの方法を決める。未受講者への連絡を、担当者が個別に行うのか、仕組みで自動化するのかを選ぶ
  4. 受講後に理解度を確認する。小テストの結果を集計し、理解が浅い項目を次の研修に反映する
  5. 受講の記録を残す。誰がいつ何を受けたかを、部署の求めに応じてすぐに出せる状態にする

手作業の運用で起きやすいこと

運用の場面 手作業のままだと 仕組みで減らせること
受講者の把握 部署ごとのExcelや紙の名簿を集約する手間が毎回発生する 受講状況を一覧で確認できる
未受講者への連絡 担当者が個別にメールを送り、期限前の対応が漏れる 自動のリマインドで連絡の手間を減らす
理解度の確認 紙のテストの採点と集計に時間がかかる テスト結果をまとめて集計する
記録の保管 年度ごとにファイルが分散し、確認に時間がかかる 受講履歴を出力して残す

ここまでの内容を、自校の状況に当てはめて確認できるチェックリストを用意しました。当てはまる数によって、見直しの優先度が変わります。

教職員研修の運用、今のやり方で足りていますか?セルフチェック

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大学DXの進め方|推進体制と4つのステップ

大学DXは、目的の明確化、推進体制の整備、計画と小さな試行、全学への展開の4ステップで進めると、3軸の取り組みを全学の成果につなげやすくなります。

ステップ やること つまずきやすい点
1. 目的と課題を明確にする 大学の中期計画や教育方針とDXの目的を結びつけ、3軸ごとに解決したい課題を言語化する 「他大学がやっているから」とツール導入が目的化する
2. 推進体制を整える 学長や理事などの責任者を置き、情報部門、教務、事務部門、教員が参加する推進組織をつくる 情報部門だけに任せ、教員や事務部門が当事者にならない
3. 計画を立て小さく試す 優先する施策を選び、特定の学部や手続きで試行して、効果と課題を確かめる 最初から全学一斉に導入し、現場の混乱で頓挫する
4. 全学へ展開し見直す 試行の結果をもとにルールと手順を整え、他部局へ横展開し、指標で定期的に振り返る 導入して終わりになり、改善のサイクルが回らない

推進にあたって多くの大学が直面する課題は、主に3つあります。1つ目は、システム導入や保守にかかる費用で、単年度の予算で完結しにくい点です。複数年度の計画として位置づけ、効果の見えやすい施策から段階的に投資すると、学内の理解を得やすくなります。2つ目は人材で、DXを推進できる教職員が限られていることです。外部の専門家の力を借りつつ、学内でも推進役を育てていく必要があります。3つ目は合意形成で、学部や部局ごとの慣習が強い大学では、変化への抵抗が起こりやすくなります。なぜ変えるのか、学生や教職員にとってどんな価値があるのかを、試行の結果とあわせて丁寧に共有することが、全学展開を進めるうえでの近道です。全体の進め方をロードマップに落とす方法は、DX化の進め方|6ステップとロードマップの作り方、よくある失敗5つで詳しく解説しています。

DX部門とIT部門の違い

DX部門とIT部門の違いは、DX部門が「何を変えるか」を決めて全学の変革を進める役割、IT部門が「どう動かし守るか」を担う役割という点にあります。これは一般的な整理で、大学によって部署の名前や分担は異なります。

項目 DX部門(推進組織) IT部門(情報部門)
主な役割 課題の整理、優先順位づけ、全学の計画づくり、現場との調整 システムの導入・運用・保守、ネットワークとセキュリティの管理
判断の軸 教育・運営・研究の成果が変わるか 安定して動くか、安全に使えるか
主な関係者 学長・理事、教務、事務、教員、研究支援 システム担当、学内外のベンダー

大学では、情報部門に推進まで任せて「ツール導入」で止まるケースが目立ちます。長崎大学のようにDX推進室とCDOを置く、東北大学のように専任のチームを増やすといった形で、推進の役割を明確にしておくと、IT部門は運用と安全管理に集中できます。

大学はDX認定を取得できるか

IPAのDX認定制度は、デジタルガバナンス・コードの基準に沿ってDXに取り組む事業者を認定する制度で、IPAのFAQでは、全ての事業者(法人と個人事業者)を対象とし、法人は会社だけでなく公益法人等も含むと案内されています。日本国内で法人設立登記をしている法人が対象で、法人番号が国税庁法人番号公表サイトに登録されていることで確認されます。大学を設置する学校法人が申請する場合の扱いは、申請要項とFAQ、DX認定制度事務局で確認してください。

推進役の育成と、階層別の研修

推進体制を整えても、現場で動く職員や教員が新しい手順を理解していなければ、全学展開は進みません。推進役、一般の職員、教員、管理職では必要な知識が異なるため、階層別に何を学ぶかを決めて研修を設計すると、試行から全学展開への移行がスムーズになります。DX人材の育成の考え方は、DX人材育成とは|進め方5ステップ・DSS-LとDSS-P・助成金・事例を解説でも整理しています。

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学部系統別に見る3軸の重点

大学DXの重点は、学部系統によって大きく変わります。全学で同じ施策を一律に進めるのではなく、3軸のどこに比重を置くかを学部の実情に合わせて読み替えることが、現場の協力を得るうえで重要です。

学部系統 重点になりやすい軸 具体的なテーマ
医療・保健系 教育 臨床実習の事前学習、国家試験対策、卒業後の継続教育
理工系 研究 実験・計測データの管理、計算資源の共有、共同研究のデータ連携
人文社会系 教育・運営 レポート・ゼミ指導の支援、出席や提出状況からのつまずきの早期把握、生成AIの学術利用ルール

医療・保健系では、対面の実習時間が限られるため、知識の習得を事前のeラーニングで済ませ、実習を臨床判断力の育成に集中させる設計が有効です。理工系では、研究室単位で異なるデータ管理ルールを学部レベルでそろえることが、産学連携を進める前提条件になります。人文社会系は設備への依存度が低いぶん、学修データを使った個別フォローや、生成AIの利用ルールづくりに比重を置きやすい系統です。

導入でよくある失敗パターン

大学DXで最も多い失敗は、3軸のいずれかに偏って進めてしまい、全学としての成果につながらないケースです。代表的なパターンと、見直し後の進め方を整理します。

失敗パターン(Before) 見直し後の進め方(After)
教育軸に偏り、LMSを導入したが学修データを誰も見ていない データを見る担当と会議体を決め、学生支援や授業改善の議題に組み込む
運営軸に偏り、事務の電子化は進んだが教育・研究の現場に効果が見えない 削減できた職員の時間を、学生支援や研究支援にどう振り向けたかまで示す
研究軸に偏り、一部の研究室だけで基盤が整い全学に広がらない 先行研究室の運用ルールを学部共通ルールのたたき台として横展開する
部局ごとに別々のシステムを導入し、データがつながらない 全学方針とデータ連携の方針を先に決め、部局の導入はその枠の中で行う
ツールの使い方研修だけ行い、現場の協力が得られない なぜ変えるのか、学生や教職員にどんな価値があるのかを先に共有する

こうした失敗を防ぐうえで欠かせないのが、教職員のデジタルリテラシーの底上げです。大学DXを支えるのは情報部門だけではなく、授業を設計する教員、制度を運用する職員、学びの主体である学生すべてです。全教職員向けのリテラシーと推進役の専門スキルを分けて育てる考え方は、上で紹介した人材育成の記事でも解説しています。

法務論点|学生データの取り扱い(法的助言ではありません)

学生情報、成績、相談履歴、研究データなどを電子的に扱う場合、個人情報保護法に基づく利用目的の明示、第三者提供や委託先管理の整理、安全管理措置が前提になります。国立大学法人と私立大学とで適用される規律が異なる場合もあるため、所属する法人の区分に応じたルールを確認してください。外部事業者のLMSやクラウドを使う場合は、契約でデータの保存場所、アクセス権、障害時の対応、契約終了時のデータ返却・削除を確認しておくことが大切です。本記事の内容は一般的な整理であり、法的助言ではありません。個別の判断は法務担当部署や弁護士などの専門家に確認してください。

こうしたルールは、教職員が毎年同じ水準で理解しておく必要があります。学生情報や研究データを扱う教職員向けに、個人情報、情報セキュリティ、著作権(生成AIを含む)の基礎を継続して学べる仕組みを検討するなら、一例がOneCompliance(ワンコンプライアンス)です。商品ページには、個人情報保護法、情報セキュリティ、著作権、ハラスメント予防、下請法などのコースが挙げられ、専門家がコンテンツの作成・レビューを行い、法改正に合わせて更新される点が紹介されています。自動リマインダーとダッシュボードで受講状況を確認でき、研修の実施と管理の工数を減らせるとされています。一方で、料金は受講人数に応じて変わるため問い合わせが必要で、無料トライアルの期間や内容も問い合わせでの確認になります。

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効果測定の方法

大学DXの効果は、軸ごとに指標を分け、導入前の数値を記録してから比較すると測りやすくなります。導入前の数値がないと、改善したかどうかを説明できないため、着手前の計測は必須です。

軸 指標の例 測り方
教育 学生満足度、課題提出率、小テストの正答率、単位修得率 授業評価アンケートとLMSの受講データを学期ごとに比較する
運営 1件あたりの事務処理時間、窓口対応件数、紙の使用量 電子化前後で同じ手続きの処理時間を一定期間記録する
研究 データ管理ルールの整備率、共同研究の件数、研究倫理教育の受講率 学部・研究室単位でのルール整備状況と受講記録を年度ごとに集計する

特に学生満足度は、アンケートの設問を毎年そろえておくことで、施策の前後比較ができるようになります。事務処理時間は、職員に負担をかけないよう、代表的な手続きを数件選んで記録する方法でも十分です。また、経済産業省の「DX推進指標」のような自己診断の枠組みを参考に、関係者で現状と課題の認識をそろえる場を定期的に設けると、数値の変化を次のアクションにつなげやすくなります。

研修の受講率や理解度のように、受講データをどこまで取り出せるかで測りやすさが変わる指標もあります。教職員研修の理解度と受講状況を測る場合の一例が、SAKU-SAKU Testingです。商品ページによると、CBTの技術を活かしたテスト機能を持ち、選択式、穴埋め、並び替え、記述の問題を配信でき、受講の状況や結果はリアルタイムで集計されて、統計情報の確認とデータ出力ができます。組織やグループ別の進捗も把握できるため、部署ごとの受講率を比べる用途にも合います。一方で、事務局運営やカスタマーデスクの利用はオプション扱いで、AIによるリモート監視機能は有償オプションの契約が必要です。

株式会社イー・コミュニケーションズ

SAKU-SAKU Testing

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初心者にも◎受講者の管理をスムーズに行いたい方におすすめ

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  • 事務局運営やカスタマーデスクを利用する場合はオプション扱いとなる

受講者への事前リマインドによる受講率向上や、受講状況・結果を容易に把握できるようになったことで、次の施策への展開が容易になった。

出典:メディカル・データ・ビジョン株式会社の導入事例(イー・コミュニケーションズ)

上の引用は医療情報の分野の会社の事例で、大学の事例ではありません。研修の受講率と理解度を継続して測る仕組みを整えると、次の施策を決めるための数値が残る、という点が参考になります。

教職員の学びを支える3サービスの役割を比較表で見る

よくある質問(FAQ)

Q1. 大学DXとは何ですか?

A. 大学の教育・運営・研究をデジタル技術とデータでつなぎ、学修者本位の教育と組織運営の改善を実現する取り組みです。システムの導入そのものではなく、仕事の進め方や意思決定のしかたを変えることが目的です。

Q2. 学校のDXとはどういう意味ですか?大学DXとは違いますか?

A. 学校のDXは、小中高校を含めた学校教育のデジタル化や業務改革を指して使われることが多く、大学DXはその中でも学位プログラム、研究活動、大学経営まで含む高等教育機関の取り組みを指します。授業のデジタル化だけでなく、運営と研究も対象になる点が違いです。

Q3. 大学DXは何から始めればよいですか?

A. ツールではなく課題の洗い出しから始めます。教育・運営・研究の3軸で課題を書き出し、件数が多く効果が見えやすい領域から着手するのが一般的です。事例の大学でも、事務手続きの電子化から進めている例が見られます。

Q4. DX部門とIT部門の違いは何ですか?

A. DX部門は、何を変えるかを決めて全学の変革を進める役割で、IT部門はシステムの運用・保守とセキュリティ管理を担う役割です。大学によって部署名や分担は異なるため、推進の役割を誰が持つかを先に決めておくことが大切です。

Q5. 大学DXでは何を学ぶのですか?

A. 学生側では、文部科学省の数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度に沿って、リテラシーレベルで全学生が身に付けるべき基礎的な素養を、応用基礎レベルで専門分野への応用を学びます。教職員側には、個人情報や情報セキュリティ、生成AIの利用ルールなど、運用に必要な知識が求められます。

Q6. 大学はDX認定を取得できますか?

A. IPAのFAQでは、全ての事業者(法人と個人事業者)が対象で、法人には公益法人等も含まれると案内されています。大学を設置する学校法人が申請する場合の条件は、申請要項とFAQを確認し、DX認定制度事務局にも問い合わせてください。

まとめ|3軸で課題を分けて一歩ずつ進める

大学DXは、教育・運営・研究の3軸で現状を分けると、課題と優先順位を整理しやすくなります。今日から取り組めることは次の4つです。

  1. 教育・運営・研究の3軸で、学内の課題を書き出す
  2. 学部系統ごとに、どの軸に比重を置くかを話し合う
  3. 着手する領域を決め、導入前の指標(満足度、処理時間など)を記録する
  4. 教職員の研修と周知の運用を点検し、手作業の負担が大きければ、受講管理の仕組みを資料で比較する

大学DXは一度の導入で完成するものではなく、3軸それぞれのサイクルを継続的に見直す活動です。全学の方針と現場の課題をつなぎながら、効果が見えやすい領域から着手し、データとルールの両面を同時に整えていくことが、長期的な変革への近道になります。

参考文献

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