SaaSの継続率とは?NRR・GRR・チャーンレート・NPSの見方を解説

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  • NRR・GRR・Churn・NPSの4指標の定義と計算式
  • 業界水準(公開IR情報・公的統計に基づく)
  • 継続率を上げるカスタマーサクセスの基本設計

SaaSの継続率は、契約がどれだけ残ったかだけでなく、既存顧客からの収益がどの程度維持・拡張されたかを見るための指標です。個人事業主が小さなSaaSを運営する場合も、中小企業が自社サービスの健全性を見たい場合も、中堅大企業が投資判断やKPI設計を行う場合も、NRR・GRR・Churn Rate・NPSの違いをそろえておくと、解約防止やカスタマーサクセス施策を検討しやすくなります。この記事では、SaaS継続率の基本、4指標の計算式、業界水準を見る際の注意点、継続率を高める設計手順を整理します。

目次

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  1. SaaSの継続率とは|事業の健全性を見る4つの指標
  2. NRRの定義と見方|拡張収益まで含めた継続率
  3. GRRの定義と見方|既存収益をどれだけ残せたか
  4. Churn Rateの定義と見方|解約を顧客数と収益で分ける
  5. NPSと継続率の関係|満足度ではなく推奨意向を見る
  6. 継続率を高めるカスタマーサクセス設計
  7. 投資家・経営企画が継続率を見るときの注意点
  8. 自社で継続率を測る手順
  9. よくある質問(FAQ)
  10. まとめ|今日からできる3つのこと
  11. 出典一覧

SaaSの継続率とは|事業の健全性を見る4つの指標

SaaSの継続率は、クラウド上で提供されるサービスが継続的に使われ、収益として残っているかを見る考え方です。NISTはクラウドコンピューティングを、ネットワーク経由で共有された計算資源へ必要に応じてアクセスできるモデルとして説明しており、SaaSはそのサービスモデルの一つです。買い切り型のソフトウェアと異なり、SaaSでは導入後の利用継続が事業の安定性に直結します。

継続率は「契約が残る割合」だけでは見ない

継続率を単純な契約件数だけで見ると、事業の状態を読み違えることがあります。たとえば、契約社数は残っていても単価が下がっていれば収益は弱くなります。一方で、解約が一部あっても、残った顧客の利用拡大で収益が伸びる場合があります。そのためSaaSでは、顧客数・収益・利用状況・推奨意向を分けて見ることが重要です。

NRR・GRR・Churn・NPSの役割

本記事では、継続率を4つの指標で整理します。NRRは拡張収益を含めた既存顧客収益の残り方、GRRは拡張収益を除いた守りの強さ、Churn Rateは解約の割合、NPSは推奨意向を示します。SaaSとは何かを先に確認したい場合は、基本用語の整理と合わせて読むと理解しやすくなります。

SaaS継続率を見る4指標 SaaS継続率を見る4指標 NRR 拡張収益を含む 既存顧客収益の 維持・成長を見る GRR 拡張収益を除く 既存契約の 守りの強さを見る Churn 解約率 顧客数と収益を 分けて見る NPS 推奨意向 継続の先行兆候を 補助的に見る 収益・解約・推奨意向を分けて見ると、打ち手を整理しやすい
図1:SaaS継続率を見る4指標の関係

NRRの定義と見方|拡張収益まで含めた継続率

NRR(Net Revenue Retention)は、既存顧客からの収益が、解約・縮小・拡張を経てどれだけ残ったかを見る指標です。SaaSではアップセルやクロスセルにより既存顧客からの収益が増えることがあるため、単純な解約率だけでは成長の実態をつかみにくい場合があります。

NRRの計算式

NRRは、一般に「期首の既存顧客収益に、アップセル・クロスセルを加え、ダウングレードと解約を差し引いた金額」を期首の既存顧客収益で割って算出します。MRRで見る場合は、次のように整理できます。

NRRの計算式 NRR = 既存顧客収益の残り方 期首MRR 100 拡張 + アップセル等 縮小・解約 ダウン/解約 NRR % 式:{期首MRR + 拡張収益 – 縮小収益 – 解約収益} ÷ 期首MRR
図2:NRRは拡張収益と縮小・解約を合わせて見る

NRRが示すこと

NRRが100%を超える場合、既存顧客からの拡張収益が、解約や縮小による減少を上回っている状態を示します。ただし、価格改定、契約範囲、従量課金の扱いで数値は変わります。SaaSの値上げを行う場合も、短期的なARPA上昇だけでなく、更新率や解約理由の変化を合わせて見る必要があります。

業界水準を確認する場合、公的統計ではSaaS各社のNRR平均が直接示されるとは限りません。公開IRなどを参考にする際は、対象顧客、計算期間、為替影響、価格改定、従量課金の扱いなどの定義差を確認し、単純な優劣比較にしないことが大切です。

GRRの定義と見方|既存収益をどれだけ残せたか

GRR(Gross Revenue Retention)は、拡張収益を含めず、期首に存在した既存顧客収益がどれだけ残ったかを見る指標です。NRRが成長込みの見方であるのに対し、GRRは既存契約を守れているかを確認するための指標です。

GRRの計算式

GRRは「期首MRRから、ダウングレードと解約による減少分を差し引いた金額」を期首MRRで割って算出します。アップセルやクロスセルによる増加は含めないため、既存契約の維持力を見やすい点が特徴です。

指標含めるもの主な見方注意点
NRR拡張収益、縮小、解約既存顧客からの収益成長を見る価格改定や従量課金の影響を受ける
GRR縮小、解約既存契約の維持力を見る拡張収益による補正が入らない

NRRとの使い分け

NRRだけを見ると、拡張収益が大きい一部顧客によって、解約や縮小の課題が見えにくくなる場合があります。GRRを合わせて見ると、既存顧客の離脱やプラン縮小がどの程度起きているかを切り分けられます。SaaS業界とはという広い視点では市場や提供形態を見ますが、本記事では事業の内側にある維持率の把握に焦点を当てます。

Churn Rateの定義と見方|解約を顧客数と収益で分ける

Churn Rate(チャーンレート)は、一定期間に失われた顧客または収益の割合です。SaaSでは、顧客数ベースのチャーンと収益ベースのチャーンを分けて見ることで、どの顧客層で課題が起きているかを確認しやすくなります。

顧客チャーンと収益チャーン

顧客チャーンは、期間中に解約した顧客数を期首顧客数で割る考え方です。収益チャーンは、解約や縮小によって失われたMRRを期首MRRで割る考え方です。小規模契約の解約が多い場合と、大口契約が少数解約した場合では、顧客数と収益への影響が異なります。

顧客チャーンと収益チャーン Churnは2つに分けて見る 顧客チャーン 解約した顧客数を見る 収益チャーン 失われたMRRを見る 顧客数と収益を分けると、小口・大口契約の影響を切り分けやすい
図3:顧客チャーンと収益チャーンの違い

チャーンを見る期間

チャーンは月次、四半期、年次で見え方が変わります。月額契約のサービスでは月次の変化を追いやすい一方、年契約が多いSaaSでは更新月に数字が偏ることがあります。そのため、契約更新サイクルと合わせて期間を決めることが重要です。

また、セキュリティや可用性への不安は継続判断に影響します。総務省のクラウドサービス関連ガイドラインやIPAのチェックシートは、クラウド利用時に確認すべき情報管理・契約・運用上の観点を整理する材料になります。

NPSと継続率の関係|満足度ではなく推奨意向を見る

NPS(Net Promoter Score)は、顧客がそのサービスを他者にすすめたいかを見る指標です。収益そのものを表す指標ではありませんが、継続利用や紹介、アップセルの可能性を考える際の補助指標として使われます。

NPSの基本

NPSでは、推奨意向に関する質問に対して、推奨者・中立者・批判者に分け、推奨者割合から批判者割合を差し引いて考えます。SaaSでは、満足度の高さだけでなく、業務に定着しているか、周囲にすすめやすい状態かを把握する材料になります。

継続率KPIとの使い分け

NPSが高いからといって、短期の解約率がそのまま下がるとは限りません。契約更新のタイミング、価格、セキュリティ要件、サポート品質なども継続判断に関わるためです。NPSはNRRやChurn Rateの代わりではなく、解約理由を早めに見つけるための補助線として扱うと運用しやすくなります。

見る対象主な指標活用場面
収益の維持GRR既存契約の縮小・解約を確認する
収益の拡張NRRアップセルやクロスセルを含めて見る
離脱の兆候Churn Rate顧客数・収益の減少を追う
推奨意向NPS利用体験や期待値のズレを把握する

継続率を高めるカスタマーサクセス設計

継続率を高めるには、営業後のフォローだけでなく、導入目的、初期設定、活用支援、更新前の確認を一つの流れとして設計することが大切です。SaaSは導入して終わりではなく、利用者が業務上の価値を感じ続けることで継続につながります。

オンボーディングで初期価値を確認する

導入直後は、契約者と実際の利用者の期待がずれやすい時期です。個人事業主であれば使う機能を絞り、中小企業であれば担当者と承認者の役割を決め、中堅大企業であれば部署間の権限やデータ連携を整理します。SaaS導入の段階で目的を言語化しておくと、継続率の評価もしやすくなります。

ヘルススコアで変化を拾う

ヘルススコアは、顧客の利用状況を早めに把握するための管理方法です。ログイン頻度だけでなく、主要機能の利用、問い合わせ内容、管理者変更、利用人数の減少、請求プランの変更などを組み合わせると、解約前の変化を見つけやすくなります。

カスタマーサクセス循環 継続率を高める循環設計 継続率 収益・解約・推奨意向を 同じ流れで確認 導入目的 価値の定義をそろえる 利用定着 主要機能の利用を見る 兆候検知 解約前の変化を拾う 改善施策 支援と開発へ戻す
図4:継続率を高めるカスタマーサクセスの循環設計

投資家・経営企画が継続率を見るときの注意点

投資家や経営企画がSaaSの継続率を見る場合、数値だけで事業の優劣を判断しないことが大切です。継続率は、顧客規模、契約期間、価格体系、導入難易度、サポート体制の影響を受けます。とくに公開資料を見る場合は、同じ名称の指標でも計算式が異なることがあります。

数値だけで優劣を決めない

NRRやGRRは便利な指標ですが、業種、対象顧客、契約単価、導入期間によって意味が変わります。たとえば、エンタープライズ向けSaaSと個人・小規模事業者向けSaaSでは、契約更新の周期やサポートの手厚さが異なります。SaaSの将来性を考える際も、継続率は市場全体の成長性と組み合わせて見る必要があります。

投資推奨ではなく業種理解に使う

継続率はSaaS事業の理解に役立つ指標ですが、個別銘柄の購入や売却をすすめる材料として扱うべきではありません。経済産業省のデジタルガバナンス・コードでは、企業価値向上に向けてデジタル技術を経営に組み込む視点が示されています。継続率を見るときも、単独の数字ではなく、顧客価値、運用体制、事業戦略の一部として捉えることが重要です。

DX投資の効果を測る場面では、SaaS導入後の利用継続も評価対象になります。導入による効率化や品質改善を整理したい場合は、DX効果の考え方と合わせて、SaaSの継続率を見ていくと判断軸をそろえやすくなります。

自社で継続率を測る手順

自社でSaaSの継続率を測る場合は、最初から多くの指標を並べるより、対象、期間、計算式、改善会議の流れを決めることが大切です。指標が増えても、担当者ごとに定義が違うと、意思決定に使いにくくなります。

対象顧客と期間を決める

まず、全顧客で見るのか、プラン別・業種別・契約チャネル別で見るのかを決めます。次に、月次・四半期・年次のどの期間で追うかを決めます。年契約が多い場合は月次の数字だけでは変化を読み取りにくいため、更新月を含む期間で見ると実態に近づきます。

ダッシュボードに入れる順番

初期段階では、Churn Rate、GRR、NRR、NPSの順に整えると運用しやすくなります。最初に解約の発生をつかみ、次に収益の維持を見て、その後に拡張収益や推奨意向を重ねる流れです。セキュリティ要件やISMAPなどの評価制度が関わる領域では、継続率だけでなく、サービス選定時の安全性確認も並行して扱います。

手順決めること確認するポイント
対象を決める全顧客、プラン別、業種別比較単位が混ざっていないか
期間を決める月次、四半期、年次契約更新サイクルと合っているか
式をそろえるNRR、GRR、Churn、NPS部門ごとに定義がずれていないか
改善に戻すオンボーディング、サポート、価格数値の確認だけで止まっていないか

よくある質問(FAQ)

Q. SaaSの継続率は何%なら良いですか?

A. 一律の基準で判断するより、同じ定義・同じ顧客層・同じ期間で比較することが大切です。公開IRなどを見る場合も、対象顧客や計算式の違いを確認してから参考にします。

Q. NRRとGRRはどちらを重視すべきですか?

A. 目的によって使い分けます。既存顧客からの収益拡張まで見たい場合はNRR、既存契約をどれだけ守れているかを見たい場合はGRRが向いています。両方を並べると、攻めと守りを分けて見られます。

Q. NPSが高ければ継続率も上がりますか?

A. NPSは推奨意向を見る指標であり、収益維持を直接示すものではありません。NPSが高くても、価格や運用負荷が合わなければ解約が起きる可能性があります。NRRやChurn Rateと合わせて見ることが大切です。

Q. チャーンレートは月次と年次のどちらで見るべきですか?

A. 契約更新サイクルに合わせます。月額契約が中心なら月次、年契約が中心なら四半期や年次も合わせて見ると、更新時期の偏りを考慮しやすくなります。

まとめ|今日からできる3つのこと

SaaSの継続率は、契約数だけでなく、収益の維持、解約、利用体験、推奨意向を分けて見ることで実務に活かしやすくなります。NRRは拡張収益を含めた既存顧客収益の残り方、GRRは既存契約の守り、Churn Rateは離脱、NPSは推奨意向を示します。

  1. NRR・GRR・Churn・NPSの定義を社内でそろえる
  2. 契約プラン別・顧客層別に継続率を見る
  3. 解約理由をカスタマーサクセス施策に戻す

自社のSaaS指標を整えるときは、業界平均を探す前に、自社内の定義と期間をそろえることから始めると、改善につながる判断がしやすくなります。

出典一覧

  • National Institute of Standards and Technology / The NIST Definition of Cloud Computing, Special Publication 800-145 / 2011年9月 / https://csrc.nist.gov/pubs/sp/800/145/final / 取得日:2026-06-14
  • 総務省 / 令和7年版 情報通信白書 / 2025年 / https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/ / 取得日:2026-06-14
  • 総務省 / 通信利用動向調査 / 2025年 / https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05.html / 取得日:2026-06-14
  • 総務省 / クラウドサービス提供における情報セキュリティ対策ガイドライン / 2021年9月 / https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/ / 取得日:2026-06-14
  • 経済産業省 / デジタルガバナンス・コード3.0 ~DX経営による企業価値向上に向けて~ / 2024年 / https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc.html / 取得日:2026-06-14
  • 独立行政法人情報処理推進機構(IPA) / クラウド利用者のための情報セキュリティチェックシート / 公開資料 / https://www.ipa.go.jp/security/ / 取得日:2026-06-14
  • 内閣サイバーセキュリティセンター(NISC) / ISMAP:政府情報システムのためのセキュリティ評価制度 / 2020年 / https://www.ismap.go.jp/ / 取得日:2026-06-14

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