SaaSの継続率とは?NRR・GRR・チャーンレート・NPSの見方を解説
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- NRR・GRR・チャーンレート・NPSの4指標の定義と計算式がわかる
- 業種別に異なる継続率の目安と確認すべき観点を紹介
- 継続率を高めるカスタマーサクセス設計とよくある失敗パターンを解説
SaaSの継続率は、契約が残っているかどうかだけでなく、既存顧客からの収益がどの程度維持・拡張されているかを合わせて見ることで、事業の健全性を正しく判断できる指標である。個人事業主が小規模なSaaSを運営する場合も、中小企業が自社サービスの状態を確認したい場合も、中堅・大企業が投資判断やKPI設計を行う場合も、NRR・GRR・チャーンレート・NPSという4つの指標の違いを整理しておくことで、解約防止やカスタマーサクセス施策の優先順位を判断しやすくなる。本記事では、4指標の定義と計算式、業界水準を見る際の注意点、業種別の違い、継続率を高める設計手順、運用でよくある失敗パターンまでを一つずつ解説する。投資家の視点からSaaS会社のARR・チャーン率・NRRを評価したい場合はSaaS会社のビジネスモデルの記事で解説している。
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SaaSの継続率とは|事業の健全性を見る4つの指標
SaaSの継続率とは、契約の継続だけでなく、既存顧客からの収益・解約状況・利用体験・推奨意向を分けて確認するための複数指標の総称である。 米国国立標準技術研究所(NIST)はクラウドコンピューティングを、ネットワーク経由で共有された計算資源へ必要に応じてアクセスできるモデルと定義しており、SaaSはそのサービス提供形態の一つに位置づけられる(NIST「The NIST Definition of Cloud Computing」Special Publication 800-145、2011年9月、2026年8月7日取得)。買い切り型のソフトウェアと異なり、SaaSでは導入後の利用継続そのものが事業の安定性に直結する。
継続率は「契約が残る割合」だけでは判断できない
継続率を契約件数だけで見ると、事業の実態を読み違えることがある。契約社数が残っていても顧客単価が下がっていれば収益は弱含みになり、一方で一部の解約があっても、残った顧客の利用拡大によって収益全体が伸びる場合もある。総務省の調査でも、クラウドサービスの利用が企業規模を問わず拡大している状況が示されており、継続率の見方が事業判断に与える影響は増している(総務省「通信利用動向調査」2025年、2026年8月7日取得)。そのためSaaSでは、顧客数・収益・利用状況・推奨意向を分けて確認することが重要になる。
本記事では、継続率を4つの指標に分けて整理する。NRRは拡張収益を含めた既存顧客収益の残り方、GRRは拡張収益を除いた守りの強さ、チャーンレートは解約の割合、NPSは推奨意向を示す。SaaSの基本用語を先に確認したい場合は、SaaSとは何かという整理と合わせて読むと理解しやすい。
NRRの定義と見方|拡張収益まで含めた継続率
NRR(Net Revenue Retention)とは、既存顧客からの収益が解約・縮小・拡張を経てどれだけ残ったかを示す指標である。 SaaSではアップセルやクロスセルによって既存顧客からの収益が増えることがあるため、単純な解約率だけでは成長の実態をつかみにくい場面がある。
NRRの計算式
NRRは、一般に「期首の既存顧客収益に、アップセル・クロスセルによる拡張収益を加え、ダウングレードと解約による減少分を差し引いた金額」を、期首の既存顧客収益で割って算出する。MRR(月次定額収益)で見る場合は、次のように整理できる。
NRRが100%を超える場合、既存顧客からの拡張収益が、解約や縮小による減少を上回っている状態を示す。ただし、価格改定、契約範囲の変更、従量課金の扱いによって数値は変動するため、単月の変化だけで一喜一憂しない設計が必要になる。業界水準を確認する場合、公的統計でSaaS各社のNRR平均が直接示されるとは限らない。公開IR情報などを参考にする際は、対象顧客層、計算期間、為替影響、価格改定、従量課金の扱いといった定義差を確認し、単純な優劣比較にしないことが大切である。
GRRの定義と見方|既存収益をどれだけ守れたか
GRR(Gross Revenue Retention)とは、拡張収益を含めず、期首に存在した既存顧客収益がどれだけ残ったかを示す指標である。 NRRが成長込みの見方であるのに対し、GRRは既存契約を守れているかどうかを確認するための指標として使われる。
GRRは「期首MRRから、ダウングレードと解約による減少分を差し引いた金額」を期首MRRで割って算出する。アップセルやクロスセルによる増加は含めないため、既存契約の維持力そのものを見やすい点が特徴である。
| 指標 | 含めるもの | 主な見方 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| NRR | 拡張収益、縮小、解約 | 既存顧客からの収益成長を見る | 価格改定や従量課金の影響を受けやすい |
| GRR | 縮小、解約 | 既存契約の維持力を見る | 拡張収益による補正が入らない |
NRRだけを見ると、拡張収益の大きい一部顧客によって、解約や縮小の課題が見えにくくなることがある。GRRを合わせて確認することで、既存顧客の離脱やプラン縮小がどの程度起きているかを切り分けやすくなる。SaaS業界全体の動向を見る場合は市場規模や提供形態が論点になるが、本記事では事業の内側にある維持率の把握に焦点を当てている。
チャーンレートの定義と見方|解約を顧客数と収益で分ける
チャーンレートとは、一定期間に失われた顧客数または収益の割合を示す指標である。 SaaSでは、顧客数ベースのチャーンと収益ベースのチャーンを分けて見ることで、どの顧客層で課題が起きているかを確認しやすくなる。
顧客チャーンと収益チャーン
顧客チャーンは、期間中に解約した顧客数を期首顧客数で割る考え方である。収益チャーンは、解約や縮小によって失われたMRRを期首MRRで割る考え方である。小規模契約の解約が多い場合と、大口契約が少数解約した場合では、顧客数と収益への影響の出方が異なるため、両方を分けて確認する必要がある。
チャーンを見る期間の決め方
チャーンは月次、四半期、年次のどの単位で見るかによって印象が変わる。月額契約が中心のサービスでは月次の変化を追いやすい一方、年契約が多いSaaSでは更新月に数字が偏ることがあるため、契約更新サイクルと合わせて期間を決めることが重要になる。加えて、セキュリティや可用性への不安は継続判断に影響する要素であり、総務省のクラウドサービス関連ガイドラインやIPAのチェックシートは、クラウド利用時に確認すべき情報管理・契約・運用上の観点を整理する材料になる(総務省「クラウドサービス提供における情報セキュリティ対策ガイドライン」2021年9月、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「クラウド利用者のための情報セキュリティチェックシート」、いずれも2026年8月7日取得)。
NPSと継続率の関係|推奨意向をどう測るか
NPS(Net Promoter Score)とは、顧客がそのサービスを他者にすすめたいと思うかを数値化した指標である。 収益そのものを表す指標ではないが、継続利用や紹介、アップセルの可能性を考える際の補助指標として使われる。
NPSの基本と継続率KPIとの使い分け
NPSでは、推奨意向に関する質問への回答をもとに顧客を推奨者・中立者・批判者に分け、推奨者の割合から批判者の割合を差し引いて算出する。NPSが高いからといって短期の解約率がそのまま下がるとは限らない。契約更新のタイミング、価格、セキュリティ要件、サポート品質なども継続判断に関わるため、NPSはNRRやチャーンレートの代わりではなく、解約理由を早めに見つけるための補助線として扱うと運用しやすくなる。
ただし、NPSは調査設計と集計の運用負荷が意外と大きい指標でもある。配信対象の抽出、質問文の設計、回答の集計、推奨者・中立者・批判者への分類、経年での傾向管理までを表計算ソフトで手作業で続けると、担当者の異動や多忙な時期に調査が止まってしまい、継続率の先行指標としての価値が失われやすい。実際に、SaaS企業がNRRやチャーンレートの定義を社内でそろえたあとに次の課題として挙がりやすいのが、NPS調査そのものの継続運用である。アンケートの配信・集計・分析を一つの仕組みに統合できるNPSツールを使うと、調査から改善施策への反映までの流れを止めずに運用しやすくなる。
NPSツールを選ぶ際は、料金や機能の多さだけでなく、既存の顧客管理システムやカスタマーサクセス用のツールとの連携性、集計後のデータをどこまで分析・可視化できるかを確認しておくと、継続率改善の施策検討まで一気通貫で進めやすくなる。
業種別に異なる継続率の見方
継続率の目安は業種・提供形態によって大きく異なり、同じ数値でも意味づけが変わる。 以下では3つの業種傾向を例に、確認すべき観点の違いを整理する。
1. BtoB向け業務システム系SaaS:契約単位が部署・企業単位で、契約期間が年単位になりやすい。解約が発生してもすぐには数字に表れず、更新月にまとめて動くため、更新月を含む期間でチャーンレートを確認する必要がある。
2. コンシューマー向けサブスクリプション系SaaS:契約単位が個人で、月額契約が中心のため解約が日々発生する。月次のチャーンレートが実態に近く、NPSによる推奨意向の把握が新規獲得コストの抑制にも直結しやすい。
3. 医療・金融など規制業種向けSaaS:セキュリティ要件や監査対応が契約継続の前提条件になりやすく、ISMAPのような評価制度への対応状況が継続率にも影響する(内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)「ISMAP:政府情報システムのためのセキュリティ評価制度」2020年、2026年8月7日取得)。機能の使いやすさだけでなく、情報管理体制への信頼が解約防止に直結する。
自社のSaaSがどの傾向に近いかを把握したうえで、チャーンレートを確認する期間や、NPS調査の頻度を業種特性に合わせて調整すると、実態に近い継続率の判断ができるようになる。
継続率を高めるカスタマーサクセス設計
継続率を高めるには、導入目的の明確化・初期定着・兆候検知・改善施策への反映を一つの循環として設計することが重要である。 SaaSは導入して終わりではなく、利用者が業務上の価値を感じ続けることで継続につながる。
オンボーディングで初期価値を確認する
導入直後は、契約者と実際の利用者の期待がずれやすい時期である。個人事業主であれば使う機能を絞り、中小企業であれば担当者と承認者の役割を決め、中堅・大企業であれば部署間の権限やデータ連携を整理する。SaaS導入の段階で目的を言語化しておくと、後から継続率を評価する際の基準にもなる。
ヘルススコアで変化を拾う
ヘルススコアは、顧客の利用状況を早めに把握するための管理方法である。ログイン頻度だけでなく、主要機能の利用状況、問い合わせ内容、管理者の変更、利用人数の減少、請求プランの変更などを組み合わせると、解約前の変化を見つけやすくなる。
継続率運用でよくある失敗パターン
継続率の運用を始めたあとに起きやすい失敗として、次の3つが挙げられる。
1. 指標の定義を部門ごとに決めてしまう:営業部門とカスタマーサクセス部門で「解約」の数え方(利用停止時点か、契約終了時点か)が違うと、同じNRRという言葉で異なる数字を見てしまい、議論がすれ違う。
2. 兆候検知の仕組みがなく、解約通知で初めて気づく:ヘルススコアやNPSなどの先行指標を持たず、更新時期の解約連絡で初めて離脱を把握するケースは、対応が後手に回りやすい。
3. 数値を把握するだけで施策に戻さない:チャーンレートやNPSを定期的に集計していても、その結果をオンボーディングやサポート体制の改善に反映する会議体がないと、指標を追う工数だけが積み重なり、継続率そのものは改善しない。
継続率データを扱う際の法務・情報管理上の留意点
継続率の算出に使う顧客データや利用ログには個人情報・取引情報が含まれる場合があり、個人情報保護法の観点から取得・利用目的の明示と適切な管理が求められる。 NPS調査やヘルススコアの集計で顧客の氏名・連絡先・利用履歴を扱う場合は、あらかじめ利用目的を明示し、社内での閲覧権限を必要最小限に絞ることが望ましいとされている。
また、SaaS提供事業者が競合他社の顧客データや契約条件を不正な手段で取得・利用することは、不正競争防止法上の営業秘密侵害に問われる可能性がある。継続率の業界比較を行う際も、公開されている情報の範囲内で参照することが基本となる。なお、本項目は一般的な留意点の紹介であり、個別の法的判断が必要な場合は弁護士等の専門家に確認することが望ましい。本記事の内容は法的助言を目的としたものではない。
投資家・経営企画が継続率を見るときの注意点
継続率は事業の理解に役立つ指標だが、数値だけで事業の優劣を判断すると、顧客規模や契約期間の違いを見落としやすい。 継続率は顧客規模、契約期間、価格体系、導入難易度、サポート体制の影響を受けるため、公開資料を見る場合も、同じ名称の指標で計算式が異なることがある点に注意したい。
NRRやGRRは便利な指標だが、業種、対象顧客、契約単価、導入期間によって意味づけが変わる。エンタープライズ向けSaaSと個人・小規模事業者向けSaaSでは、契約更新の周期やサポートの手厚さが異なるためである。継続率はSaaS事業の理解材料であり、個別銘柄の購入・売却をすすめる材料として扱うべきではない。経済産業省のデジタルガバナンス・コードでは、企業価値向上に向けてデジタル技術を経営に組み込む視点が示されており、継続率を見る際も、顧客価値・運用体制・事業戦略の一部として捉えることが重要とされている(経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0~DX経営による企業価値向上に向けて~」2024年、2026年8月7日取得)。
自社で継続率を測る手順
継続率を測る際は、多くの指標を一度に並べるより、対象・期間・計算式・改善会議の流れを先に決めることが重要である。 指標が増えても、担当者ごとに定義が違うと意思決定に使いにくくなる。
まず、全顧客で見るのか、プラン別・業種別・契約チャネル別で見るのかを決める。次に、月次・四半期・年次のどの期間で追うかを決める。年契約が多い場合は月次の数字だけでは変化を読み取りにくいため、更新月を含む期間で見ると実態に近づく。初期段階では、チャーンレート、GRR、NRR、NPSの順に整えると運用しやすい。最初に解約の発生をつかみ、次に収益の維持を見て、その後に拡張収益や推奨意向を重ねる流れである。
| 手順 | 決めること | 確認するポイント |
|---|---|---|
| 対象を決める | 全顧客、プラン別、業種別 | 比較単位が混ざっていないか |
| 期間を決める | 月次、四半期、年次 | 契約更新サイクルと合っているか |
| 式をそろえる | NRR、GRR、チャーン、NPS | 部門ごとに定義がずれていないか |
| 改善に戻す | オンボーディング、サポート、価格 | 数値の確認だけで止まっていないか |
よくある質問(FAQ)
Q1. SaaSの継続率は何%なら良いですか?
A. 一律の基準で判断するより、同じ定義・同じ顧客層・同じ期間で比較することが大切である。公開IR情報などを見る場合も、対象顧客や計算式の違いを確認してから参考にする。
Q2. NRRとGRRはどちらを重視すべきですか?
A. 目的によって使い分ける。既存顧客からの収益拡張まで見たい場合はNRR、既存契約をどれだけ守れているかを見たい場合はGRRが向いている。両方を並べると、攻めと守りを分けて見られる。
Q3. NPSが高ければ継続率も上がりますか?
A. NPSは推奨意向を見る指標であり、収益維持を直接示すものではない。NPSが高くても、価格や運用負荷が合わなければ解約が起きる可能性がある。NRRやチャーンレートと合わせて見ることが大切である。
Q4. チャーンレートは月次と年次のどちらで見るべきですか?
A. 契約更新サイクルに合わせる。月額契約が中心なら月次、年契約が中心なら四半期や年次も合わせて見ると、更新時期の偏りを考慮しやすくなる。
Q5. NPS調査を始める際、ツールは必要ですか?
A. 顧客数が少なく調査頻度も低い段階では、表計算ソフトでの手作業運用も可能である。ただし、対象顧客が増え、配信・集計・分析を継続的に行う必要が出てきた段階では、NPSツールを使うことで調査の抜け漏れや集計の手戻りを減らし、継続率改善の施策検討まで一気通貫で進めやすくなる。
まとめ|今日からできる4個のこと
SaaSの継続率は、契約数だけでなく、収益の維持、解約、利用体験、推奨意向を分けて見ることで実務に活かしやすくなる。NRRは拡張収益を含めた既存顧客収益の残り方、GRRは既存契約の守り、チャーンレートは離脱、NPSは推奨意向を示す。
- NRR・GRR・チャーンレート・NPSの定義を社内でそろえる
- 契約プラン別・顧客層別・業種特性に応じて継続率を見る期間を調整する
- ヘルススコアやNPSで解約の先行兆候を検知する仕組みを作る
- NPS調査を仕組み化し、集計結果を改善会議に定期的に戻す(手作業運用が限界にきたらNPSツールの活用を検討する)
自社のSaaS指標を整えるときは、業界平均を探す前に、自社内の定義と期間をそろえることから始めると、改善につながる判断がしやすくなる。指標を追う仕組みそのものが止まってしまわないよう、調査・集計の運用負荷も含めて設計しておきたい。
参考文献
- National Institute of Standards and Technology/The NIST Definition of Cloud Computing, Special Publication 800-145/2011年9月/https://csrc.nist.gov/pubs/sp/800/145/final/取得日:2026年8月7日
- 総務省/令和7年版 情報通信白書/2025年/https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07//取得日:2026年8月7日
- 総務省/通信利用動向調査/2025年/https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05.html/取得日:2026年8月7日
- 総務省/クラウドサービス提供における情報セキュリティ対策ガイドライン/2021年9月/https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity//取得日:2026年8月7日
- 経済産業省/デジタルガバナンス・コード3.0~DX経営による企業価値向上に向けて~/2024年/https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc.html/取得日:2026年8月7日
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)/クラウド利用者のための情報セキュリティチェックシート/公開資料/https://www.ipa.go.jp/security//取得日:2026年8月7日
- 内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)/ISMAP:政府情報システムのためのセキュリティ評価制度/2020年/https://www.ismap.go.jp//取得日:2026年8月7日