冗長化とは?仕組み・種類・費用相場をわかりやすく解説
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- 冗長化の基礎的な仕組みと、バックアップ・BCP/DRとの違いがわかる
- 主な方式・タイプ分類、導入費用の考え方と中央値・相場感がわかる
- 業界別の活用例、BCP・DR対策における法務上の注意点、よくある失敗パターンがわかる
「冗長化」とは、サーバーやネットワーク機器などのシステム構成要素をあらかじめ複数用意しておき、一部に障害が発生してもサービス全体を止めずに稼働を継続できるようにする設計手法です。ECサイトの受注システムや工場の生産管理システムなど、停止した瞬間に売上や業務が止まってしまうシステムほど、冗長化の重要性は高くなります。本記事では、冗長化の基本的な仕組みや代表的な方式・タイプ分類、導入費用の考え方、業界別の活用例、BCP・DR対策における法務上の注意点、そして導入時に陥りやすい失敗パターンまで、これから冗長化を検討する経営者・IT担当者向けにわかりやすく解説します。
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冗長化とは?意味とシステムが止まらない仕組みを解説
冗長化とは、システムやサーバー、ネットワークなどを構成する要素をあらかじめ複数用意しておき、そのうちの一部に故障や不具合が発生しても、システム全体としては機能を止めずに稼働を継続できるようにする設計手法を指す。基幹システムやECサイト、業務システムなど、停止による影響が大きいシステムほど、冗長化の必要性が高いと位置づけられている。
冗長化が必要とされる理由:SPOF(単一障害点)の排除
システムの中で、その部分が故障するとシステム全体が停止してしまう箇所のことを、SPOF(Single Point of Failure:単一障害点)と呼ぶ。たとえば、サーバーが1台しかない構成では、そのサーバーが故障した瞬間にサービス全体が止まってしまう。冗長化の基本的な考え方は、こうしたSPOFを構成要素ごとに洗い出し、一部が故障してもシステム全体には影響が及ばないように、代わりとなる構成要素をあらかじめ用意しておくことにあるとされる。
冗長化の基本原理:「同じ機能を複数用意する」
冗長化の仕組みは、サーバー・ストレージ・ネットワーク機器・電源といった構成要素ごとに、同じ機能を持つものを複数用意しておくという考え方に基づく。一部が停止しても、残りの構成要素が処理を引き継ぐ、あるいは自動的に切り替わることで、利用者側からはシステム停止が見えにくくなる。どこまで冗長化するか(サーバー単位か、データセンター単位かなど)は、システムの重要度や許容できる停止時間・予算に応じて検討されるのが一般的とされる。
冗長化・バックアップ・BCP/DRの違い
冗長化と混同されやすい概念に、バックアップとBCP(事業継続計画)・DR(災害復旧)がある。いずれも「システムを止めない」「データを守る」という目的で語られることが多いが、対象や機能するタイミングには違いがあるため、以下に整理する。
| 比較項目 | 冗長化 | バックアップ | BCP・DR(事業継続計画・災害復旧) |
|---|---|---|---|
| 目的 | システムを止めないこと(可用性の確保) | データを失わないこと(データの保全・復元) | 災害・重大障害時にも事業を継続・復旧させること |
| 主な対象 | サーバー・ネットワーク・電源などの構成要素 | データ・ファイル・システム設定 | 業務プロセス・人員体制・拠点・ITシステム全般 |
| 機能するタイミング | 平常時から常時機能し、稼働中の障害に即応する | 障害・誤操作の発生後、復元作業として機能する | 災害・重大インシデント発生時に計画に沿って発動される |
| 位置づけ | 可用性を高める設計手法の一つ | データ保全の手段の一つ | 冗長化やバックアップを構成要素として含む、より上位の計画とされる |
| 限界 | 広域災害等で構成要素が同時に被災すると機能しない場合がある | 復元には一定の時間を要し、その間のシステム停止は防げない | 計画自体の実効性は、定期的な見直し・訓練に依存するとされる |
冗長化は主に平常時から常時稼働させておく仕組みであり、バックアップは事後の復元手段、BCP・DRはより広い事業継続の計画という位置づけになる。実務上は、これら3つを組み合わせて初めて、システム障害や災害への備えとして機能すると考えられている。
冗長化の主な方式・タイプ分類(デュアル構成/クラスタリング等)
冗長化には複数の方式があり、システムのどの部分をどのように二重化するかによって、いくつかのタイプに分類できる。ここでは代表的な方式として、稼働形態による分類(Active-ActiveとActive-Standby)、クラスタリング、負荷分散、ストレージの冗長化(RAID)、クラウド環境における冗長化(マルチAZ・マルチリージョン)を順に整理する。
稼働形態による分類:Active-ActiveとActive-Standby
冗長化の稼働形態は、大きくActive-Active(同時稼働型)とActive-Standby(待機系型)の2つに分類されるのが一般的とされる。Active-Standbyは、通常時は1系統のみが稼働し、もう一方は待機状態にしておく方式で、障害発生時に待機系へ処理を引き継ぐ(フェイルオーバー)。Active-Activeは、複数の系統が同時に稼働して処理を分散させる方式で、1系統が停止しても残りの系統で処理を継続できる。両者の違いを図で整理する。
どちらの方式を選ぶかは、システムの重要度・予算・許容できる停止時間(RTO)などを踏まえて検討されるのが一般的とされる。
クラスタリングによる冗長化
クラスタリングとは、複数台のサーバーを1つのまとまり(クラスタ)として連携させ、あたかも1台の高性能・高可用なシステムのように動作させる技術を指す。クラスタを構成するサーバーの一部が停止しても、残りのサーバーが処理を引き継ぐことで、システム全体としての可用性を高められるとされる。クラスタリングは、前述のActive-ActiveまたはActive-Standbyのいずれの構成でも実装され得る技術と位置づけられる。
負荷分散(ロードバランシング)による冗長化
負荷分散(ロードバランシング)は、複数のサーバーに処理を振り分けるための仕組みで、ロードバランサーと呼ばれる機器・ソフトウェアが、アクセスや処理要求を各サーバーへ分散させる。単純に処理性能を高めるだけでなく、1台のサーバーが停止した場合でも、ロードバランサーが自動的に残りのサーバーへ振り分け先を切り替えることで、冗長化の役割も果たすことが多いとされる。
ストレージの冗長化:RAIDの仕組み
データを保存するストレージ(ハードディスクやSSD)についても、冗長化の考え方が使われる。代表的な技術がRAID(Redundant Array of Independent Disks)で、複数台のディスクを組み合わせ、1台が故障してもデータを失わずに運用を継続できるようにする仕組みである。RAIDには、データを複製して保持するミラーリング方式(RAID 1など)や、誤り訂正用の情報を分散して保持するパリティ方式(RAID 5・RAID 6など)といった複数の方式があり、耐障害性と記憶容量効率のバランスが異なる。どの方式を採用するかは、システムの重要度やコストに応じて検討されるのが一般的とされる。
クラウド環境における冗長化:マルチAZ・マルチリージョン
クラウドサービスを利用する場合、冗長化の単位はデータセンター内の機器だけでなく、より広い範囲に及ぶことがある。多くのクラウド事業者は、地理的に分散した複数のデータセンター群(アベイラビリティゾーン、AZ)を用意しており、システムを複数のAZに分散配置する構成(マルチAZ)によって、1つのAZで障害が発生しても他のAZで稼働を継続できるようにする設計が可能とされる。さらに、地震・水害など広域災害への備えとして、地理的に離れた複数のリージョン(地域)にシステムを分散配置する構成(マルチリージョン)を採る例もある。マルチリージョン構成は可用性を高める一方、データ同期の設計やコストの増加といった検討事項も伴うとされる。
冗長化を支える主要機能・構成要素
冗長化は「機器や回線を二重に用意すること」だけでは完成しません。異常を検知し、処理を引き継ぎ、元の状態に復旧させるまでの一連の仕組みが噛み合ってはじめて、利用者が気づかないレベルで「止まらないシステム」が実現します。ここでは、その中核を担う代表的な機能・構成要素を実務目線で解説します。
フェイルオーバー:障害検知から処理引き継ぎまでの仕組み
フェイルオーバーとは、稼働中の機器やシステムに障害が発生した際に、待機系や別系統へ処理を自動的に引き継ぐ仕組みです。冗長化の効果を実感できるかどうかは、このフェイルオーバーにかかる時間(切替時間)の長さに大きく左右されます。切替に数分~数十分かかる構成もあれば、利用者にほとんど影響を与えずに切り替わる構成もあり、この切替時間の目標値は一般的に「RTO(目標復旧時間)」という指標で管理されます。自社の業務で「どこまでの停止が許容できるか」を先に定義してから、フェイルオーバーの方式を検討することが実務上のポイントです。
ロードバランシング(負荷分散):1台への集中を防ぐ役割
ロードバランシングは、複数のサーバーにアクセスや処理を分散させる仕組みです。単純に処理を振り分けるだけでなく、後述のヘルスチェックと連動して「異常が出ているサーバーには処理を回さない」という判断も担っており、負荷分散と障害の切り離しを同時に実現している点が実務上重要です。特定のサーバーに負荷が集中して落ちるという事態を防ぐと同時に、1台が停止しても残りのサーバーで処理を継続できる状態を維持する、いわば冗長化の「日常運転」を支える機能といえます。
データレプリケーション(同期・非同期):データを失わない仕組み
データレプリケーションは、データを別の場所(別サーバー・別拠点・別リージョン等)に複製し続ける仕組みです。方式は大きく「同期レプリケーション」と「非同期レプリケーション」に分かれ、それぞれに一般的なトレードオフがあります。
同期レプリケーションは、データ更新時に複製先への書き込み完了を待ってから処理を完了させる方式で、障害発生時のデータ損失(目標復旧時点、いわゆるRPO)をほぼゼロに近づけられるとされています。一方で、複製先が地理的に離れるほど通信の遅延(レイテンシ)が発生しやすく、システムの応答速度に影響が出る場合がある点には留意が必要です。非同期レプリケーションは、複製にわずかな時間差(タイムラグ)を許容する方式で、パフォーマンスへの影響を抑えやすい一方、障害発生の直前に発生したデータの一部が失われる可能性があるとされています。どちらを選ぶかは、業務にとって「データを1件も失えないか」「多少のタイムラグは許容できるか」という判断軸で検討することが一般的です。
ヘルスチェック監視と自動復旧:人が気づく前に対処する仕組み
ヘルスチェックとは、サーバーやサービスの稼働状態を定期的に確認する仕組みです。応答の有無や応答速度、リソース使用状況などを監視し、異常を検知した時点で、ロードバランサーへの経路から外す、待機系への切替(フェイルオーバー)を発動する、異常なインスタンスを自動的に再起動・入れ替えるといった対応(いわゆる自動復旧・オートヒーリング)につなげます。この「検知から対処までを人手を介さず自動で行える範囲」が広いほど、深夜・休日を含めて安定した「止まらない」運用に近づくとされています。ただし、自動復旧の仕組みだけに依存せず、異常の傾向を人が定期的に確認する運用体制も併せて整えておくことが一般的に推奨されています。
冗長化の導入費用はどのくらい?費用相場と中央値の目安
冗長化の導入費用は、対象システムの規模、オンプレミスかクラウドか、求められるRTO(目標復旧時間)・RPO(目標復旧時点)の水準などによって大きく変動するため、一律の相場を示すことは難しいのが実情です。まずは「何にかかる費用を指しているのか(初期構築費か、継続的な運用費か)」を分けて捉えることが、費用感をつかむ第一歩になります。なお、以下の内容は一般的な傾向・構造を整理したものであり、具体的な金額の断定は避けています。実際の費用は、利用予定のクラウドベンダーや構築を依頼するベンダーへの見積もり確認をおすすめします。
費用を左右する主な変動要因
- 構成規模:冗長化の対象とするシステムの台数・データ量が多いほど、必要なリソースと費用は増える傾向にあります。
- オンプレミス vs クラウド:クラウドで複数の可用性ゾーンを使うマルチAZ構成などは、追加インスタンスやデータ転送量に応じた費用が主体になりやすい一方、オンプレミスやDR環境の構築は、拠点整備・機器調達といった初期投資が先行しやすいとされています。
- RTO/RPO要件:許容できる停止時間・データ損失量の基準が厳しいほど、同期レプリケーションや専用回線など、費用が高くなりやすい構成が必要になる傾向があります。
- 運用体制:監視・自動復旧の仕組みを自社で運用するか、クラウドベンダーのマネージドサービスを活用するかによっても、費用の内訳(人件費型か利用料型か)が変わります。
構成パターン別コスト・耐障害性レベルの目安
代表的な構成パターンごとに、コスト感と耐障害性レベルの一般的な傾向を整理すると、以下のようなイメージになります(いずれも相対的な目安であり、実際の費用・性能は構成の詳細・提供事業者によって変動します)。
| 構成パターン | コスト感(相対目安) | 耐障害性レベル(相対目安) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Active-Standby(待機系構成) | 低~中 | 中 | 普段は待機系を稼働させず、障害発生時に切り替える構成。比較的低コストで導入しやすい一方、切替に一定の時間を要する場合があります。 |
| クラスタリング | 中 | 中~高 | 複数サーバーを1つのシステムとして常時稼働させる構成。負荷分散と障害時の切替を両立しやすいですが、構成の設計・運用にはある程度の専門知識が必要とされます。 |
| マルチリージョン(地理冗長) | 中~高 | 高 | 地理的に離れた複数拠点・リージョンにシステムを分散させる構成。大規模災害等でも事業継続性を確保しやすい一方、データ転送・運用管理の費用が増えやすい傾向があります。 |
一般的な傾向として、クラウドのマルチAZ構成は「追加インスタンス費用が主体で、必要な範囲だけ段階的に始めやすい」構造になりやすく、オンプレミスやDR環境の構築は「初期投資型で、後から拡張しにくい」構造になりやすいとされています。いずれの場合も、税込・税抜や月払い・年払いといった前提条件、契約プランの改定によって費用感は変動しうるため、最終的な予算検討の段階では、必ず利用予定のベンダーの公式見積もりで確認することが望ましいといえます。
業界別に見る冗長化の活用例(金融・医療・製造など)
冗長化の必要性は業種によって「止まった場合に何が起きるか」が大きく異なる。ここでは特に冗長化の優先度が高い4つの業界について、実務目線で見ていく。
製造業:生産管理・工程制御システムの停止は工場全体を止める
製造業では、生産管理システムやMES(製造実行システム)、工程制御用のサーバーが停止すると、生産ラインそのものが止まりかねない。特に24時間稼働のラインや、複数工場・複数拠点をひとつの生産管理システムで統合管理している企業では、システム障害が一工場だけでなくサプライチェーン全体の遅延に波及するリスクがある。
そのため製造業では、生産管理サーバーの二重化に加え、工場のネットワーク回線自体を複数経路化(マルチキャリア化)しておくことが重要とされる。単一の通信回線に依存していると、回線障害だけで受発注データの連携が止まり、部材調達や出荷指示の遅延につながりやすいためだ。
金融・決済:資金決済・口座振替の停止は取引先企業にも波及する
金融・決済関連のシステムは、自社の業務停止だけでなく、取引先企業や個人の資金移動を止めてしまう点で影響範囲が特に広い。口座振替・振込処理・決済代行システムが停止すると、給与支払いや請求処理が滞り、取引先企業の資金繰りにまで影響が及ぶことがある。
この業界では、システムの可用性そのものが監督官庁や業界の自主規制ガイドラインで重視される傾向があり、冗長化やバックアップ体制の整備が実務上強く求められる(詳細は後述の法務論点で解説)。データセンターの複数拠点化や、決済処理システムのアクティブ・スタンバイ構成による即時切り替えが、他業界より高い水準で求められやすい。
EC・小売:24時間受注システムの停止は売上とSLAに直結する
ECサイトや小売業の受注システムは24時間365日稼働が前提であり、システム停止時間がそのまま売上損失につながる。セール期間やキャンペーン時のアクセス集中でサーバーがダウンした場合、注文が完了できないだけでなく、カート内商品の消失や在庫データの不整合といった二次的な問題も発生しやすい。
モールへの出店やBtoB向けEC基盤を提供している企業では、取引先とのSLA(サービス品質保証)で稼働率の目標値を設定しているケースもあり、冗長化構成がSLA達成の前提条件になる。負荷分散(ロードバランサー)による水平スケールと、決済・在庫データベースの冗長化を組み合わせておくことが、ピーク時の受注取り逃しを防ぐうえで実務上のポイントになる。
医療:電子カルテ等の停止は診療そのものを止めかねない
医療機関の電子カルテシステムや医療情報システムが停止すると、患者情報の参照・記録ができなくなり、診療業務そのものに支障が出る。特に手術中・救急対応中にシステムが停止すると、紙運用への切り替えに時間がかかり、診療の継続性に直接影響する点が他業界と大きく異なる。
医療分野では、システムベンダーのサーバー障害だけでなく、災害時にも診療記録へのアクセスを維持できることが求められるため、院内サーバーの二重化に加え、クラウド上へのバックアップやDR(災害復旧)体制の整備が実務上の検討事項になりやすい。医療情報システムの安全管理に関するガイドラインの内容も踏まえた設計が推奨される。
冗長化とBCP・DR対策における法務・契約上の注意点
冗長化やBCP・DR対策を進める際は、技術面だけでなく、個人情報保護法上の安全管理措置や、業界の自主規制ガイドライン、委託先・クラウド事業者との契約条件といった法務・契約面の確認も欠かせない。
個人情報保護法における「安全管理措置」としての位置づけ
個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)は、個人情報を取り扱う事業者に対して、漏えい・滅失・毀損を防止するための安全管理措置を講じることを求めている。個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」では、事業の規模や取り扱う個人情報の性質に応じた技術的安全管理措置の一つとして、システムの障害対策やバックアップの確保が挙げられている。冗長化構成やバックアップ体制の整備は、この安全管理措置の一環として位置づけられると一般的に理解されている。
また、クラウドサービスを利用してシステムを冗長化する場合は、個人情報保護委員会「クラウドサービスの利用に係るガイダンス」も参照し、データの保管場所(越境移転の有無)やクラウド事業者側の可用性・セキュリティ対策を、委託先選定の基準に含めることが望ましいとされている。
BCP・DRに関する行政の指針
BCP(事業継続計画)については、内閣府(防災担当)が「事業継続ガイドライン」を公表しており、災害・システム障害等の緊急事態においても重要業務を継続するための体制整備の考え方が示されている。冗長化はこのBCPを支える技術的手段のひとつという位置づけであり、システムの二重化だけでなく、運用体制・要員確保・代替拠点の確保など組織的な対応と合わせて検討することが、制度上の目安として推奨されている。
金融機関等における自主規制ガイドラインへの留意
金融機関がシステムを構築・運用する場合、法令そのものではないものの、公益財団法人金融情報システムセンター(FISC)が策定する「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準」等の自主規制ガイドラインが実務上の目安として広く参照されている。このガイドラインでは、システムの可用性確保やバックアップ体制、災害時の代替処理体制などについての考え方が示されており、金融機関向けにシステムを提供する事業者にとっても、契約時にこうした基準への対応状況を確認されるケースがある。
委託先・クラウド事業者との契約上の注意点
冗長化構成をクラウドサービスや外部のインフラ事業者に委託する場合は、契約上でも次の点を確認しておくことが実務上重要とされている。
- SLA(サービスレベルアグリーメント)で保証される稼働率の水準と、達成できなかった場合の対応(補償の範囲・上限)
- 障害発生時の連絡体制・報告義務が契約書に明記されているか
- データの保管場所(国内・海外)と、越境移転が発生する場合の同意取得の要否
- 委託先がさらに再委託する場合の、再委託先における安全管理措置の確認方法
これらは委託先の免責条項によって自社の責任範囲が不明確になりやすい部分でもあるため、契約締結前に社内の法務担当者や専門家を交えて確認することが望ましい。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言ではありません。個別の法解釈・実務対応については、弁護士等の専門家または該当する監督官庁にご確認ください。
冗長化導入で陥りやすい失敗パターン3つと回避策
冗長化は「構成を組めば終わり」ではなく、運用や見直しを誤ると効果を発揮しない。ここでは特に陥りやすい3つの失敗パターンと、その回避策を紹介する。
失敗パターン1:単一障害点(SPOF)の見落とし
サーバーやアプリケーションだけを二重化し、電源・ネットワーク回線・DNS・認証基盤といった周辺の共通部分を見落としてしまうケースがある。サーバー自体は冗長化されていても、それらが同じ電源系統や同じ通信回線、同じデータセンターに依存していれば、その一点が故障するだけで全体が停止してしまう。これは単一障害点(Single Point of Failure)と呼ばれ、冗長化の設計段階で最も見落とされやすい失敗のひとつである。
回避策:システム構成図を作成し、電源・回線・DNS・認証基盤・監視システムまで含めて「どこが単一の経路になっているか」を棚卸しする。可能な範囲でデータセンターや通信回線を物理的に分離し、依存関係を減らすことが基本となる。
失敗パターン2:フェイルオーバーテストを実施せず、実際の障害時に切り替わらない
冗長化構成を導入した直後は問題なく動作していても、その後の設定変更やソフトウェアの更新によって、いざ障害が発生した際に予備系へ正常に切り替わらない(フェイルオーバーしない)ケースがある。定期的な切り替えテストを行っていないと、構成上は冗長化されているにもかかわらず、実際の障害時には想定通りに機能しないという事態が起こりやすい。
回避策:導入時だけでなく、システム変更やバージョンアップのタイミングごとに、実際に主系を落として予備系へ切り替わることを確認する訓練(フェイルオーバーテスト)を定期的に実施する。切り替えにかかった時間や、切り替え後にデータの欠落がないかも合わせて記録し、次回以降の改善につなげることが望ましい。
失敗パターン3:過剰投資でコストに見合わない冗長化構成にしてしまう
「止まってはいけない」という意識が強すぎるあまり、業務上の重要度が低いシステムにまで高コストな冗長化構成を適用してしまい、費用対効果が見合わなくなるケースもある。すべてのシステムを同じレベルで冗長化する必要はなく、業務停止による影響度に応じて対策のレベルを分けることが本来の考え方である。
回避策:システムごとに「停止した場合の業務影響度」と「復旧までに許容できる時間・データ損失の範囲」を整理し、重要度に応じて冗長化のレベル(フルバックアップ体制/簡易的なバックアップのみ/冗長化なし等)を分けて設計する。導入前に自社の業務にとって本当に必要な範囲を見極めることが、コストに見合った冗長化を実現するポイントになる。
よくある質問(FAQ)
Q. 冗長化とバックアップの違いは何ですか?
A. バックアップはデータの複製を別の場所に保存する仕組みで、冗長化は稼働系そのものを複数用意し障害時も処理を止めない仕組みです。バックアップは復旧までに時間がかかりますが、冗長化は待機系への切り替えで停止時間を大幅に短縮できます。目的が異なるため、多くのシステムでは両者を併用します。
Q. 冗長化とクラスタリングの違いは何ですか?
A. クラスタリングは冗長化を実現する代表的な技術のひとつで、複数のサーバーを束ねて1つのシステムのように稼働させる仕組みです。冗長化はより広い概念で、サーバー・ネットワーク・電源など構成要素全般の多重化を指し、クラスタリングはその実装手法の一つに位置づけられます。
Q. 中小企業でも冗長化は必要ですか?
A. 事業規模にかかわらず、基幹システムの停止は業務・売上への影響が避けられないため、優先度をつけた段階的な冗長化の検討が推奨されます。全システムを一律に多重化する必要はなく、停止時の影響が大きい部分から順に対応するのが実務的な進め方です。
Q. 冗長化のコストを抑える方法はありますか?
A. クラウドサービスのマネージド機能を活用すれば、自社でハードウェアを二重化するより低コストで冗長化構成を実現できます。まずは影響度の高いシステムに絞り、必要な範囲だけ段階的に冗長化を進めることで、投資対効果を保ちながらコストを抑えられます。
Q. RTO・RPOとは何ですか?
A. RTO(目標復旧時間)は障害発生から業務を復旧させるまでの目標時間、RPO(目標復旧時点)はどの時点まで遡ってデータを復旧させるかを示す指標です。冗長化やBCP計画を検討する際は、業務ごとにこの2つの指標を数値で設定することが出発点になります。
Q. クラウドとオンプレミス、どちらが冗長化しやすいですか?
A. クラウドサービスは複数の拠点・設備があらかじめ用意されており、一般的にオンプレミスより冗長化構成を導入しやすい傾向があります。ただしオンプレミスでも、自社で拠点や機器を分散配置すれば同等の冗長性を確保することは可能です。
まとめ|今日からできる3つのこと
- 単一障害点(SPOF)の棚卸し:サーバー・ネットワーク・電源など、どこが1点でも停止すると業務全体が止まってしまうかを洗い出し、優先的に対策すべき箇所を特定する。
- RTO・RPOの目標設定:業務システムごとに、許容できる復旧までの時間(RTO)とどの時点までのデータ復旧を目指すか(RPO)を数値で定義し、冗長化の要否・水準を判断する基準にする。
- 段階的な冗長化構成の検討:影響度の大きいシステムから優先的に、クラウドの活用も含めた冗長化構成を検討し、BCP・DR計画として文書化・定期的な見直しにつなげる。
参考文献
- 中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」(第2版)
https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/ - 内閣府(防災担当)「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」(令和5年3月改定)
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/guideline202303.pdf - 情報処理推進機構(IPA)「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版
https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/about.html - 総務省「令和6年版 情報通信白書」(2024年)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ - 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/