給与前払いサービスにニーズがある理由|メリット・注意点も解説

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- 給与前払いサービスは、従業員の申請で給料日より早く給与を受け取れるサービスである
- 人材不足を背景に、福利厚生の一環として給与前払いサービスを導入する企業が増加した
- 給与前払いサービスを選ぶ際は、自社払いと立替払いのどちらのタイプか確認する
給与前払いサービスとは、従業員が希望するタイミングで給料日よりも前に給与を受け取れるサービスです。給与前払いサービスを導入する企業が増えている背景には、さまざまなニーズが影響しています。本記事では、給与前払いサービスにニーズがある理由について詳しく解説します。
目次
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給与前払い制度とは

給与前払い制度とは、通常の給与支払い期日よりも前に、働いた分の給与を支給する制度のことです。この制度により、従業員は突発的な経済的困難や非常事態に直面した際に、生計を維持するための給与を前倒しで迅速に受け取ることができます。
近年では、雇用の安定性や福利厚生の観点から、給与前払い制度を導入している企業が増えています。本記事では、給与前払いにニーズがある理由、前払いを円滑にする給与前払いサービスのメリット、選ぶ際のポイントなどをわかりやすく解説します。
「非常時払」との違い
労働基準法第25条では、従業員が生計を営むために急な経済的困難に直面している状況において、「非常時払」を実施する際の要件が規定されています。
これは、労働者やその家族が疾病や災害などの非常時に、すでに働いた分の賃金を請求できる制度で、労働者の権利として法律で保護されています。
一方の給与前払いは、労働者が通常の給与支払日前に賃金の一部を請求できる制度で、会社の規定に基づいて運用されるものです。生活費の不足など、従業員の経済的な負担を軽減するのが目的で、企業によっては福利厚生の一環として導入されています。
つまり、非常時払は法定の権利として従業員を保護する制度であるのに対し、給与前払いは企業が任意で導入する福利厚生制度という点で大きく異なります。
給与前払いにニーズがある理由

給与前払いは、従業員個人が予測不可能な支出や急な緊急事態に対処しなければならない場合に、従業員に対して安心と安定を提供する手段として注目されています。ここでは、給与前払いにニーズがある理由について解説します。
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給与前払いにニーズがある理由
多様な働き方に対応するため
近年の労働環境では正規雇用に限らず、契約社員、パートタイムなど、多様な働き方が定着しています。これらの労働形態は短期や不規則な場合もあり、各々のライフスタイルに合わせた働き方を選ぶ人が増えています。
働き方の多様化に伴い、給与を受け取るタイミングについてのニーズも多様化しています。日払いや週払いに対応する企業が増えていることから、給与前払いもニーズに対応する制度として、需要が高まってきています。
また、正社員に比べて給与が少ない傾向にある非正規雇用の従業員にとって、健康上の理由や冠婚葬祭など、突然の出費が必要になった際に前倒しで給与を受け取れるのは、経済的な安心感につながります。
人材不足対策としての福利厚生になるため
給与前払いが広がってきた理由としては、社会的な人材不足も関係しています。人材不足が慢性的に続いている状況下では、採用力を高める必要があり、企業は福利厚生の充実を充実させなければならず、給与前払いもその一環となっています。
競争の激しい労働市場において、福利厚生面が優れている企業は魅力的で優秀な人材が集まる理由の1つです。そのため、給与前払いの導入は安定的な人材確保にも役立つといえます。
貯蓄が少ない若年層が多いため
近年では、20代を中心に貯蓄がゼロに近い状態の若年層が増えているとされています。このような貯蓄が少なく突然の出費に対応できない若年層にとって、給与日以前に給与を受け取れることが救済になります。
給与前払い制度は、貯蓄が少ない若年層にとって、経済的な安定と生活品質の向上を図る際に有効です。金銭的な緊急事態に対処しやすくなるため、若年層の経済的な安心感につながる当制度の導入が増えています。
借り入れのリスクが大きいため
一般的に、消費者金融などでの借り入れは高金利で、長期的には返済額が増加する可能性があります。借り手は借入額以上の金額を返済しなければならず、リスクが大きいです。
給与前払いを利用することで、高金利のローンやクレジットカードに頼る必要性が減り、借金を回避できます。給与前払いで必要な支出に対処すれば、高金利負担の借り入れなどのリスクが低減され、健全な経済状態を保つことが可能です。
給与前払い制度を導入するメリット

給与前払い制度の導入は、従業員だけでなく企業にも多くのメリットをもたらします。給与前払いに対応可能であれば、従業員や応募者が企業を魅力的に感じてくれます。ここでは、給与前払い制度を導入するメリットについて解説します。
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給与前払い制度を導入するメリット
求人応募数の増加につながる
労働市場は競争が激しく、企業は優秀な人材を確保するために、魅力的な福利厚生プログラムの提供を求められます。給与前払い制度は求職者にとって魅力的なメリットであり、他の企業との競争において差別化を図ることができます。
経済的な安定感は求職者にとって重要な事項であり、給与前払い制度は応募者が企業に応募する際の動機の1つになります。そのため、制度の導入により、企業への応募数増加に期待できます。
従業員の定着率を向上できる
企業が給与前払い制度を導入することで、従業員は急な支出や緊急事態に対応しやすくなり、経済的な安定感を獲得します。経済的な不安やストレスが軽減されることで、従業員は安心して仕事を続けられるでしょう。
また、企業が従業員のニーズに柔軟に応えることにより、従業員満足度の向上にもつながります。従業員満足度は定着率のみならず、生産性にも大きく影響します。定着率や生産性が上がれば、企業の安定的な経営や成長を図れます。
採用コストを削減できる
従業員の定着率が向上すれば、新たに人材を採用しなければならない局面も減っていきます。そして、採用活動自体が最低限で済み、活動にかかるコスト削減が可能です。
人材採用のために求人誌などに出稿する企業も多いでしょう。給与前払い制度の導入によって応募数が増加したり、定着率が向上したりすれば、求人広告の掲載期間や掲載回数を減らすことができ、採用コストの削減にもつながります。
給与前払い制度を導入する際の課題と対策

給与前払い制度は、従業員満足度の向上や採用コストの削減といった多くのメリットを持つ一方で、制度導入時にはさまざまな課題も伴います。ここでは、企業が制度を導入する際に直面しやすい課題と対策について詳しく解説します。
勤怠データのリアルタイム把握が必要になる
給与前払い制度では、すでに働いた分の給与を計算して支払う必要があるため、正確な勤怠データをリアルタイムで把握する体制が不可欠です。
勤怠管理がアナログで行われている場合や、打刻ミス・遅延が多い環境では前払い額の算出が困難となり、トラブルの原因につながります。
対策としては、クラウド型の勤怠管理システムの導入で勤怠情報を即時反映できる体制を整えたり、勤怠の締め日や集計方法の見直しを行うといった方法が挙げられます。
人事・労務部門の負担が増える可能性がある
給与前払い制度を導入すると、これまで月に1回だった給与支払い義務が前払いの申請ごとに発生します。
そのため、人事・労務部門や経理部門の負担が一時的に増加し、通常の給与計算や支給業務に加え、前払い分の申請確認、勤務実績の確認、支給額の計算、振込処理といった対応が増えます。
さらに、前払い制度に関する従業員からの問い合わせ対応や、制度説明、トラブル対応など、制度そのものの運用業務も新たに発生するため、手動による管理を減らすような取り組みが必要です。
例えば、給与前払いサービスのような外部システムを活用し、自動で申請受付から振込までを完結させる仕組みを導入すれば、事務作業の負担を大幅に減らせます。
前払いを円滑にする「給与前払いサービス」

給与の前払いを行うには、従業員の勤怠データや控除などを確認して前払い可能な金額を算出するなど、手間がかかります。近年は企業内のガバナンスが重視されており、給与前払い制度を独自に構築するのが難しくなっています。
そこで、導入が増えているのが給与前払いサービスです。企業に代わって給与前払いの手続きを担ってくれるため、負担なく前払い制度を導入することができます。企業の勤怠データや給与データを給与前払いサービスと連携させることで、円滑に前払いが行われます。
サービスの導入後は、従業員はスマートフォンやパソコンで給与前払いを申請できるため、簡単に給与前払い制度を利用可能です。

給与前払いサービス・システムとは?メリット・デメリットなどを解説
給与前払いサービス・システムとは、従業員が給与日を待たずに、希望のタイミングで給与を受け取れるサービスです。本記事では、給与前払いサービス・システムをよく知らない方のために、メリット・デメリットや選び方を解説しています。
給与前払いサービスを利用する際の注意点

給与前払いサービスは、前払い手続きの負担というデメリットを払拭できる便利なサービスで、市場規模も拡大しています。しかし、利用する際にはいくつかの注意点も存在します。ここでは、給与前払いサービスを利用する際の注意点について詳しく説明します。
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給与前払いサービスを利用する際の注意点
利用には手数料がかかる
給与前払いサービスの利用では、導入する企業に負担が発生します。例えば、従業員数に応じたシステム手数料や月額料金などです。
また、前払いを利用する従業員に対しても、振込金額に応じた手数料が発生します。従業員の手数料負担はサービスによって決まっており、システムの提供形態によっては負担額が大きくなることもあります。
手数料は給与前払い額から引かれるため、サービス導入時には従業員に周知し、利用方法を事前に理解してもらうことが大事です。そして、サービス提供会社が設定している手数料が適正かどうか確認するのもポイントです。
サービスの導入に手間がかかる
給与前払いサービスを利用する際には、従業員の勤怠状況として勤怠データや給与データの提供が必要です。そのため、勤怠管理システムや給与計算システムとサービスのシステムを連携させるのに、ある程度の手間がかかることが予想されます。
企業側が勤怠・給与システムのカスタマイズを行う必要性が出てくる場合もあります。また、システムを利用しないで勤怠・給与の管理を行っている場合は、データを提供可能な形にするために管理方法を見直さなければなりません。
給与前払いサービスを導入する際には、事前準備に必要な工数や人員を把握し、余裕を持った計画を立てるのがおすすめです。
関連する法律に留意する必要がある
前払いができるのはすでに働いた分の給与のみであり、将来発生する予定の労働分まで支払ってしまうと、労働基準法第17条「前借金相殺の禁止」に抵触する恐れがあります。給与前払いサービスを利用する際には、厳重に注意しなければなりません。
なお、給与前払いサービスの中で「立替払い」を採用しているものは、多くの場合「貸金業」にあたります。貸金業登録をしていない場合、違法な業者である可能性が考えられるため、事前によく確認しておきましょう。
その他、立替払いのサービスでサービス会社が手数料を従業員の口座から天引きしている場合は、労働基準法第24条の賃金支払い5原則のうち「全額払いの原則」「直接払いの原則」に違反する可能性があります。このような法律上のリスクに十分注意しましょう。
過度な利用リスクもある
給与前払いサービスは便利な制度ですが、従業員の安易な利用による過剰な前払いのリスクもあります。計画性のない前払い利用は、給料日に受け取る金額の大幅な減少を招く可能性があり、手数料の負担も重なることで、従業員の家計を圧迫しやすいです。
こういったリスクを軽減するため、多くのサービスでは前払い可能額の上限設定や利用回数の制限機能を備えています。企業は機能を適切に活用し、従業員の過度な依存を防ぐための管理体制を整えることが重要です。
給与前払いサービスを選ぶ際のポイント

給与前払いサービスを選ぶ際には、確認すべきいくつかの重要なポイントがあります。適切なサービスを選ぶことで、企業と従業員のニーズにマッチするサービスの導入が可能です。ここでは、給与前払いサービスを選ぶ際のポイントについて解説します。
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給与前払いサービスを選ぶ際のポイント
サービスのタイプを確認
給与前払いサービスのタイプには、「立替払いタイプ」「自社払いタイプ」があります。それぞれ仕組みや特徴が異なるため、よく確認して自社に合うタイプを選択しましょう。
立替払いタイプ
立替払いタイプは、給与前払いサービスを提供する会社が一時的に支払う給与を立て替えるタイプのサービスです。給与支払日以前に、企業は前払い分の資金を準備する必要がないため、財務状況への影響が少ないのが特徴です。
また、企業は給料日に前払い金をまとめて清算できるため、給料支払いの周期を変更する必要がなく、負担が少ないという利点があります。
ただし、従業員が給与前払いサービスを利用して前払い金を引き出す際には、システム利用料や振込手数料として、申請額の数%の負担が必要となります。
自社払いタイプ
企業が前払い金を準備して、従業員に支払うタイプです。賃金払いの原則に従った給与前払い制度を運用でき、法的リスクを減らせるため、より安全性の高いタイプです。
また、従業員が利用料や手数料を負担する立替払い型に比べて、従業員の利用料負担を軽減できる点が特徴となっています。
各サービスの支払方法は、企業の口座から従業員の口座に振り込むものや、資金を預託して従業員がATMから引き出せるようにするものが代表的です。
海外に送金できるか
企業が外国人労働者を多く雇用している場合、海外送金ができるかどうかもポイントになります。給与前払いサービスを選ぶ場合は、海外送金が可能かどうかの確認がおすすめです。
外国人の従業員は、給与を海外に送金するケースが多いです。給与前払いサービスで国際送金が可能になると、経由するシステムが少なくなり、前払いの給与を送金したい場合の手数料が少なくなります。
提携している銀行の種類を確認
給与前払いサービスは基本的に銀行振込で行われます。給与前払いサービスを提供する会社がどの銀行と提携しているかは、企業にとっても従業員にとっても大事なポイントになります。そのため、サービス会社が提携している銀行の種類を確認しましょう。
提携している銀行が多い場合には、銀行口座への振り込みが手軽に行えたり、従業員が利用するATMの手数料が無料になったりすることから、利便性が高まります。対して、提携している銀行が少ない場合は、新たに銀行口座の開設を行うなどの手間が発生します。
また、現在はコンビニなどに設置されているATMでも現金を引き出すことが可能です。銀行だけでなく、コンビニのATMなどでも利用できるかを導入前に確認しましょう。
まとめ

給与前払いは、従業員の経済的なニーズに対応し、緊急な支出に対処するのに役立つ手段として注目されています。従業員は通常の給与支払い日以前に給与を受け取れるため、生活の経済的な安定感が向上します。
給与前払い制度を導入する際は、給与前払いサービスの利用がおすすめです。給与前払いサービスは、従業員がアプリやウェブプラットフォームを通じて申請し、手軽に前払い給与を受け取ることができる便利なサービスです。
給与前払いは従業員と企業の双方にとって利益をもたらす制度であるため、サービスの利用も検討しながら効果的に運用することで、企業の人材獲得・離職の防止にもつなげられます。
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