年末調整電子化の義務化はいつから?電子化に関する注意点も解説
Check!
- 年末調整の電子化は任意だが、法定調書の電子提出は一部企業で義務化されている
- 年末調整の電子化は、従業員・企業双方の負担軽減につながる
- 年末調整の電子化には年末調整ソフトの導入がおすすめ
年末調整の電子化は義務化されていませんが、一部の企業を対象に、年末調整に関わる法定調書の電子提出が義務化されました。それに伴い、年末調整を電子化する企業が増えています。この記事では年末調整を電子化するメリットや、電子化の際に注意したいポイントなどを解説します。
目次
開く
閉じる
開く
閉じる
年末調整の電子化はいつから義務化されるのか

年末調整自体の電子化は義務ではありません。ただし、一部の企業において、年末調整に関わる法定調書の電子提出が義務化されています。
法定調書の電子提出が義務化されたのは、2021年1月の申告分からであり、対象となる企業は、「前々年度に発行した法定調書が種類ごとにみて100枚以上である企業」です。たとえば、2年前の源泉徴収票の発行数が100枚の企業は、義務化の対象です。
なお、2027年1月1日以降は「前々年度に発行した法定調書が種類ごとにみて30枚以上である企業」が義務化の対象となります。
上記のような企業は、2021年より「e-Tax(国税電子申告・納税システム)」等の電子上で法定調書を提出する必要があります。このような法定調書の電子提出義務化に伴い、年末調整業務自体も電子化する企業が増えています。
参考:No.7455 法定調書の提出枚数が100枚以上場合のe-Tax、光ディスク等又はクラウド等による提出義務|国税庁
そもそも年末調整の電子化とは
年末調整の電子化とは、年末調整用の関係書類の作成・提出や、税の控除額の計算・控除証明書の提出などを電子化して一元的に行うことです。作成した年末調整データは、そのままオンライン上で保管できます。
従来は紙に手書きで行なっていた申告書をオンラインで作成・保管できることで、従業員・企業の双方に様々なメリットが期待できます。そのため、法定調書の電子提出義務化の対象外の企業でも、年末調整の電子化を導入する企業は増加しています。

年末調整は現在、電子化が進められています。オンラインで申請すれば紙ベースでの申請よりも効率化でき、従業員への負担も少なくなります。この記事では、年末調整を電子化するメリットやペーパーレス化できる書類、申請の手順、注意点などを解説します。
法定調書とは
法定調書とは、所得税法等の法律により税務署への届出が義務付けられている書類の総称です。企業が従業員や取引先に支払った金額や源泉徴収した税額などを記録し、国税庁に報告するための重要な書類です。
代表的な法定調書には「給与所得の源泉徴収票」「退職所得の源泉徴収票」「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」「不動産の使用料等の支払調書」などがあります。
これらの書類は、年末調整や確定申告の基礎資料として活用され、適正な税務処理を確保する役割を果たしています。
年末調整の電子化に関する注意点

年末調整の電子化には様々なメリットがある一方で、注意すべき点もあります。ここからは、年末調整の電子化における注意点を解説していきます。
\気になる項目をクリックで詳細へジャンプ/
年末調整の電子化に関する注意点
業務フローを見直す必要がある
年末調整の電子化に伴い、従来の紙ベースの業務フローを全面的に見直す必要があります。
特に、従業員からの書類提出方法、人事部門での確認作業、修正対応、データの保管方法などが大きく変わります。
また、移行初期の段階では、紙とデジタルの併用期間を設けるのが一般的です。これによって、デジタル提出に慣れていない従業員には紙で対応しながら、徐々に電子化を拡大できるでしょう。
業務フローを見直し、スムーズに移行を進めるためには、事前に新しい業務フローを設計し、担当者の役割分担を明確化することがおすすめです。
電子帳簿保存法の対象となる書類もある
電子化できる年末調整の申告書の中でも、「給与所得者の源泉徴収に関する申告書」については、電子帳簿保存法の対象となる点に留意しましょう。具体的には、次のような書類が電子帳簿保存法の対象になります。
- 給与所得者の扶養控除等申告書
- 従たる給与についての扶養控除等申告書
- 給与所得者の配偶者控除等申告書
- 給与所得者の基礎控除申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
電子帳簿保存法の対象書類は、7年間の保管が義務づけられているほか、保管の仕方にも様々な要件があります。年末調整を電子化する場合は、これらの要件を満たすような環境の整備が必要です。
電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法とは、税制関連の書類を電子データとして保管する際のルールをまとめた法律です。たとえば、電子上で作成したデータをそのまま電子上で保管する方法や、紙媒体で受け取った書類を電子データ化する方法がまとめられています。
電子帳簿保存法により、これまで紙媒体で保管していた書類の一部は、電子上での管理が必要となりました。法令に違反すると罰則が課せられる恐れがあるため、どの書類が電子帳簿保存法の対象になるのか慎重に確認する必要があります。
セキュリティ対策を万全にする
年末調整は従業員の個人情報を取り扱うため、電子化に伴いセキュリティ対策を万全にする必要があります。データの漏洩や不正アクセスは、重大な問題を引き起こす可能性があります。
具体的には、データへのアクセス権限の設定、暗号化処理、ログ管理の徹底が必要です。また、情報漏洩やサイバー攻撃への対策、バックアップ体制の整備も欠かせません。
さらに、従業員に対するセキュリティ教育や、関連法令に基づいた適切なデータ管理も重要なポイントとなります。
年末調整を電子化するメリット

年末調整の電子化は義務ではありません。ただし、年末調整の電子化には、従業員・企業の双方にメリットがあるため、法定調書の電子提出義務化対象外の企業であっても、導入がおすすめです。
ここからは、年末調整を電子化するメリットについて解説します。
\気になる項目をクリックで詳細へジャンプ/
従業員側のメリット
年末調整を電子化することで、従業員にとっては以下のようなメリットを得られます。
- 紙書類に手書きする手間を削減できる
- 面倒な税控除の計算も自動で行われる
- 税額の計算ミスのリスクが減る
- 控除証明書の取得も電子上で完結できる
年末調整の書類には必要な書類が多く、従業員は通常の業務を行いながら書類を作成する必要があります。そのため、電子化によって、オンライン上で必要事項を入力するだけで書類の作成を完了できることは大きなメリットです。
企業側のメリット
年末調整の電子化により、企業側は以下のようなメリットに期待できます。
- 従業員用の申告書の配布・回収の手間を削減できる
- 申告書のチェック作業が簡単になる
- 社内のペーパーレス化により、紙代・印刷代・保管スペースを節約できる
従来の年末調整業務では、提出書類にミスがないかを一つひとつ目視で確認する必要があり、担当者が残業をしなければならないケースも少なくありませんでした。
電子化によって、こうした確認作業を自動化できるため、入力エラーの発見から再提出依頼、再チェックまでを効率化でき、担当者の負担軽減を図れます。
年末調整を電子化するデメリット

年末調整を電子化することで、人事担当者の負担を大幅に軽減できますが、従来の紙による方法から変更するにあたって、最初は混乱が生じる可能性があります。
特に、電子的な手続きに慣れていない従業員に対しては、操作方法の丁寧な説明や、個別の問い合わせに対応する必要が出てくるでしょう。また、電子化にあたっては以下のようなシステムの導入がおすすめですが、その際はコストがかかる点にも注意が必要です。
ただし、長期的に見れば、紙の印刷・回収・保管コストの削減や、担当者の工数削減による業務効率化など、高い費用対効果を得られるでしょう。
年末調整の電子化を進める方法

年末調整の電子化を進めるには、年末調整に対応したソフトの導入やマイナンバーカードの取得などが必要になります。また、スマートフォンからの手続きに対応したシステムもあるため、自社の状況に合わせて電子化を進めましょう。
ここからは、年末調整の電子化を進める方法について解説します。
\気になる項目をクリックで詳細へジャンプ/
年末調整の電子化を進める方法
年末調整ソフトの導入
年末調整を電子化するやり方として、年末調整のソフトの導入が有効です。年末調整ソフトとは、従業員用の申告書の配布や回収のほか、税額控除の計算・法定調書の作成や提出を電子上で完結できるツールです。
年末調整ソフトには様々な種類があり、中には無料で利用できる製品もあります。国税庁が提供する無料の年末調整ソフトもあり、システムコストを抑えたい中小企業などは導入を検討するのがおすすめです。
参考:年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年調ソフト)|国税庁

年末調整ソフト とは|機能やメリット・デメリット、比較ポイントも解説
年末調整ソフトは、年末調整に関わる業務を効率化してくれるソフトで、国税庁からは無料の「年調ソフト」が提供されています。本記事では、年末調整ソフトの特徴と、導入するメリット・デメリットの他、製品を選定・比較する際のポイントについて解説します。
年末調整ソフトの選定ポイント
年末調整ソフトを導入する際は、以下のようなポイントに注目し、自社に適したものを選びましょう。
- 誰でも使いやすいか
- 導入コストは適正か
- 既存システムと連携できるか
操作が難しいとシステムが浸透しづらく、逆に負担になってしまうこともあるため、人事担当者・従業員ともに簡単に使えるシステムを選ぶことが重要です。無料トライアルで試せるソフトも多いため、複数の製品を比較して選ぶのがおすすめです。
また、給与計算ソフトや勤怠管理システムなど他システムと連携できるかも確認しましょう。既存システムと連携できるものであれば、年末調整に付随する様々な業務を効率化できます。
スマートフォンからの手続きも検討
近年はスマートフォンの普及によって、Webブラウザ版や専用アプリに対応した年末調整システムも増えています。スマートフォンに対応することで、従業員は休憩時間などの隙間時間で申請書への入力ができ、PCが利用できない環境でも手続きが可能です。
また、上述した国税庁が提供する年調ソフトでも、スマートフォン版が提供されています。従来はパソコンでの利用が前提でしたが、現在はスマホアプリにも対応し、保険会社などから発行された証明書のデータをインポートすることもできます。
ただし、スマートフォンからの手続きは手軽にできる分、個人情報の漏洩や不正アクセスなど注意すべき点も多いです。そのため、従業員に対しては、公共用のWi-Fiの利用を避けたり、端末のセキュリティ対策を徹底したりすることなどを周知しましょう。
マイナンバーカードとカードリーダーの準備
控除証明書をマイナポータル経由で取得する場合には、マイナンバーカードの取得が必要です。まずは、従業員本人がマイナンバーカードを取得し、マイナポータルにログインできる状態を整えましょう。
また、控除証明書を電子データで受け取るには、各保険会社がマイナポータル連携に対応しているかどうかを事前に確認することも重要です。一部の保険会社や共済組合では、連携手続きが必要な場合があるため、事前の確認によって手続きがスムーズに進みます。
さらに、マイナンバーカードを読み取るためには、カードリーダーの導入も重要です。マイナポータル経由で取得した控除証明書データには、各保険会社による電子署名と電子証明書が付与されており、データの改ざん防止や真正性の確認が可能です。
電子化した年末調整の流れ

電子化した年末調整の流れは、大まかに次のようになっています。
- 従業員に「マイナポータル」に登録してもらう
- 年末調整ソフトの導入
- 各従業員が従業員が保険会社などから控除証明書などを電子データで取得
- 各従業員が「3」を含めた必要項目を年末調整ソフトに入力
- 労務担当者が「4」を確認
- 企業が年末調整のデータを電子上で送信
まず行うことは、従業員に「マイナポータル」に登録してもらうことです。マイナポータルとは、様々な行政手続きをオンライン上で行えるWebサイトです。年末調整においては、保険会社・金融機関から控除証明書のデータを電子上で取得するため、登録が必須です。
また、従業員への案内や操作マニュアルの共有を早めに行っておくことで、紙から電子に移行した場合でもスムーズに手続きを進められるでしょう。併せて企業側で、書類の提出期限や入力ルール、修正対応の流れを明確に定めておくと、トラブルの防止に繋がります。
年末調整の電子化は準備を万全に
年末調整を電子化するには、従業員への早めの周知が必要です。前述の通り、年末調整の電子化には、従業員のマイナポータルの登録やマイナンバーカードの取得が必要であるためです。
従業員の協力なくして、年末調整の電子化は実現できません。スムーズに電子化を実現するためにも、従業員への早めの周知を心がけて理解と協力を得ておきましょう。
また、従業員が電子上での年末調整業務に戸惑わなくて済むように、研修の実施やサポート体制の確立も必要です。
年末調整を部分的に電子化する際のポイント

紙での申告に慣れている従業員が多い企業では、年末調整の電子化に抵抗感や拒否感を示され、電子化に踏み切るのが難しいケースもあります。この場合は、年末調整の一部を電子化するのがおすすめです。
具体的には、以下のようなシステムを活用することで、年末調整を部分的に電子化できます。従業員が電子化に慣れてきたら、徐々に電子化する範囲を広げていくのも効果的です。
ここからは、年末調整を部分的に電子化する際のポイントについて解説します。
AI-OCR
AI-OCRとは、OCRと呼ばれる手書き文字やテキストを文字データに変換する技術に、AIを組み合わせた機能です。手書きの崩れた文字やレイアウトの異なる帳票なども、AIが学習したデータをもとに高精度で認識できるのが特徴です。
この機能の利用により、従業員から提出された紙の申告書を自動で電子テキスト化できます。紙書類の確認作業に比べて、労務担当者の負担を軽減できるでしょう。
RPA
RPAとは、パソコンで行う定型作業を自動化できるシステムです。RPAを年末調整に用いることで、書類のデータ入力や転記作業、書類に不備がないかのチェックの自動化が可能になります。
RPAは人の判断が必要になるような作業には向いていませんが、これらのシンプルかつ繰り返し行うような作業に適しています。RPAの活用により、担当者は年末調整に関する作業に割く時間を削減でき、本来の業務に集中できます。
まとめ

年末調整の電子化は任意ですが、年末調整に関わる法定調書の電子提出は、一部の企業で義務化されています。また、年末調整の電子化は義務ではないものの、多くのメリットを得られることから多くの企業で導入が進んでいます。
年末調整を電子化するにあたり、必須となるのが年末調整ソフトです。導入によって、年末調整の申告書の作成や面倒な税額控除の計算を簡略化できるなど、従業員・企業の双方の負担軽減につながります。
年末調整業務に課題を抱えている企業は、年末調整ソフトを導入し、年末調整を電子化するのがおすすめです。
この記事に興味を持った方におすすめ