医療DXとは?具体例とメリット・デメリット、医療機関の進め方を厚労省資料で整理
Check!
- 医療DXはIT化の先にある連携
- 2026年10月に推進方針を策定
- まず資格確認と処方箋から着手
医療DXとは、保健・医療・介護の情報をデジタルでつなぎ、診療や事務のやり方そのものを変えていく取り組みのことです。DXは「デジタルトランスフォーメーション」の略で、紙のカルテを電子化するだけのIT化とは区別されます。厚生労働省は2026年10月1日に「医療情報化推進方針」を策定し、第1期として2030年3月までに取り組む内容を示しました。一方で、制度の名前が多く、自院が何から手を付ければよいか迷う医療機関も少なくありません。本記事では、意味と具体例、背景と最新の方針、医療機関の対応ステップ、メリットとデメリット、進め方を、公的資料にもとづいて整理します。
医療DXで、自院が最初に読むべき箇所を診断
Q1. いま一番知りたいのはどちらですか?
おすすめ記事
目次
開く
閉じる
開く
閉じる
医療DXとは|意味・IT化との違い・具体例
医療DXとは、診療情報や業務のデータをデジタルで施設の内外につなぎ、受付・診療・会計・連絡といった医療現場の仕組みを作り変える取り組みです。紙カルテを電子カルテに置き換えるのはIT化(デジタル化)で、個々の作業を電子化することが中心です。医療DXは、電子化した情報を医療機関・薬局・介護事業所・自治体の間でつなぎ、業務の流れや医療提供のあり方まで見直す点が異なります。DXという言葉そのものの意味は「DXとは|経済産業省の公式定義から業種別・規模別の始め方まで」で整理しています。
医療DXの具体例は、情報をつなぐ範囲で3つに分けると分かりやすくなります。
| 範囲 | 具体例 | 期待される変化 |
|---|---|---|
| 施設の外とつなぐ | マイナ保険証によるオンライン資格確認、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービス | 保険資格のその場確認、薬剤情報などの共有、重複投薬のチェックのしやすさ |
| 患者との接点 | Web予約、Web問診、オンライン診療、会計の自動化 | 待ち時間の短縮、受付での転記作業の削減 |
| 院内・多職種の業務 | 院内の連絡と周知、シフトや文書の共有、薬局・介護事業所との連絡 | 制度変更や手順の周知漏れの減少、連絡手段の一本化 |
3つのうち、制度対応で後回しにされやすいのが院内・多職種の連絡です。オンライン資格確認の運用変更、電子処方箋の対応開始日、加算の算定要件の見直しといった情報は、事務長や医事課だけが把握していても運用は変わりません。受付・看護・薬剤・医師の全員に同じ内容が届いてはじめて現場が動きます。電子カルテは診療情報を扱うシステムで、院内の連絡や周知までは担わないことが多く、紙の回覧や個人のメッセージアプリが混在していると、「誰がどの通知を読んだか分からない」「最新の手順書がどれか分からない」といった状態になりがちです。
この院内外の連絡と周知の場の一例が、株式会社kubellが提供するビジネスチャット「Chatwork」です。商品ページで確認できる特徴は、チャットだけでなくビデオ通話・音声通話が標準で使えること、タスク管理ができてタスクが完了すると自動でチャットに通知されること、ファイルをアップロードしてチャット参加メンバーのみで共有できることの3点です。シフト制で全員が集まれない院内や、薬局・介護事業所との連絡にも使える場面があります。注意したいのは、フリープランでは過去40日分・5,000件までしか閲覧できない点です。また、患者の診療情報を書き込むかどうかは導入前に院内の運用ルールで決めておく必要があります(後述の法令上の注意点を参照)。料金はプランによって異なるため、資料や公式サイトで確認してください。
おすすめ!
- チャットだけでなく「ビデオ通話」「音声通話」も標準装備
- タスク管理が行えて、タスクが完了すると自動でチャットへ通知
- ファイルがアップロードでき、チャット参加メンバーのみで共有
気になる…
- フリープランは過去40日分、5,000件までしか閲覧できない
「Chatworkの導入により多職種連携を実現し、ほとんどの患者様で「在宅医療情報連携加算」が算定できています。」
出典: Chatwork導入事例 医療法人忠恕 春日部在宅診療所ウエルネス(取材2024年12月。記載は取材時点の情報)
院内の周知と多職種の連絡を、1か所にまとめたい医療機関に
Chatworkの資料を無料でダウンロードできます
医療DXが求められる背景と、2026年10月の医療情報化推進方針
医療DXが求められる背景は、医療需要の増加と人手不足、紙やFAXが残る業務、施設ごとに分断された情報の3つです。そして2026年10月1日には、国の取り組みの土台となる「医療情報化推進方針」が策定され、適用が始まりました。
医療DXが必要とされる3つの背景
1つ目は、高齢化に伴う医療需要の増加と、医療従事者の確保の難しさです。限られた人員で診療と事務をこなすには、転記や電話、紙の管理といった作業を減らす必要があります。2つ目は、医師の働き方改革への対応です。時間外労働の上限規制が適用されるなか、事務作業を含めた業務の見直しが避けられません。3つ目は、情報が施設ごとに分断されていることです。薬剤情報や検査結果が医療機関・薬局・介護事業所で共有されにくく、患者が転院するたびに同じ説明を繰り返すといった負担が生じます。国はこの3つの課題を、保健・医療・介護の情報を全体でつなぐ基盤づくりで解決しようとしています。
医療情報化推進方針で何が決まったか
厚生労働省の「医療DXについて」のページによると、医療情報化推進方針は「地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律」第11条の2第1項にもとづき令和8年(2026年)10月1日に策定され、同日から適用されています。クラウド化や全国医療情報プラットフォームの構築を通じて、国がハブとなって医療等情報を全国的に連携・共有する基盤を整備することが目的です。概要資料では、これまで個々の医療機関の運用に合わせて作られてきた「点」のDXを、国がハブとなって「線」につなぎ、やがて「面」へ広げる、という考え方が示されています。対象期間は2026年10月1日から2030年3月31日までの第1期で、取り組みは次の3区分で整理されています。
| 方針の区分 | 主な取り組み | 医療機関にとっての接点 |
|---|---|---|
| 1. 医療DXサービス利用のための基盤整備 | クラウドネイティブ型電子カルテの普及、大病院向けクラウドネイティブ型製品の開発・普及支援、サイバーセキュリティ対策の強化 | 電子カルテの更新時期と対応、セキュリティ対策の見直し |
| 2. 全国医療等情報プラットフォーム | マイナ保険証を基本とする仕組みの環境整備、診療報酬改定DX、電子処方箋の普及、電子カルテ情報共有サービスの運用開始と情報の拡張など | 受付、処方、他施設との情報共有の運用 |
| 3. 医療等情報の二次利用 | 公的データベースにおける仮名化情報の利用・提供、電子カルテ情報データベースの構築・運用など | 診療情報が研究や政策に活用される仕組みの整備(個別の対応は今後の案内を確認) |
方針では目標も示されています。2028年度までに、200床以上の病院(療養病床等が中心の病院を除く)の電子カルテ普及率をほぼ100%にすること、2030年末までに、必要な患者の医療情報を共有できる電子カルテの普及率を約100%にし、地域の拠点となる病院のサイバーセキュリティ対策を100%実施することなどです。診療所や中小病院にとっては、自院の電子カルテが国のサービスと接続できる仕様か、クラウド型への移行をいつ検討するかが実務上の論点になります。補助金の申請は、厚生労働省のページで案内されている「医療情報基盤・診療報酬審査支払機構 医療機関等向け総合ポータルサイト」で確認できます。
従来の「三本柱」との関係
医療DXを説明する言葉として広く使われてきたのが、2022年に示された「医療DX令和ビジョン2030」の三本柱です。2022年には内閣に医療DX推進本部が設置され、2023年6月に「医療DXの推進に関する工程表」が決定されました。三本柱の施策は、2026年の方針でも取り組みの中に含まれています。
| 三本柱 | 目的 | 2026年の方針での位置づけ |
|---|---|---|
| 全国医療情報プラットフォームの創設 | オンライン資格確認等システムのネットワークを拡充し、医療・介護・自治体の間で情報を共有する | 区分2「全国医療等情報プラットフォーム」 |
| 電子カルテ情報の標準化等 | 施設ごとに異なる電子カルテの情報を、共通の形式でやり取りできるようにする | 区分1の電子カルテの普及と、区分2の電子カルテ情報共有サービス |
| 診療報酬改定DX | 診療報酬改定に伴う医療機関・ベンダーのシステム改修負担を軽減する | 区分2の「診療報酬改定DXの推進」 |
つまり、三本柱は今も医療DXを理解する入口として使えますが、最新の工程や目標は医療情報化推進方針で確認する、という使い分けになります。
医療DXの主な取り組みと、医療機関の対応ステップ
医療機関が取り組む順序は、オンライン資格確認・マイナ保険証、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービス、診療報酬改定DXへの継続対応の4ステップで整理できます。
| ステップ | 取り組み | 確認のポイント |
|---|---|---|
| Step1 | オンライン資格確認・マイナ保険証の運用定着 | 受付での利用案内、カードリーダーのトラブル時の対応手順が全スタッフに共有されているか |
| Step2 | 電子処方箋の運用開始 | 医師の電子署名の準備、近隣薬局の対応状況 |
| Step3 | 電子カルテ情報共有サービスへの参加 | 電子カルテの標準規格対応、更新・入替のタイミング |
| Step4 | 診療報酬改定DXへの継続的な対応 | ベンダーとの改修スケジュールの共有、加算要件の定期確認 |
マイナ保険証と電子処方箋|受付と処方の変化
全国医療情報プラットフォームは、オンライン資格確認等システムのネットワークを拡充し、医療機関・薬局・自治体・介護事業所の間で保健・医療・介護の情報を共有する仕組みです。医療機関と患者の側から見ると、変化は3つあります。1つ目は受付です。マイナンバーカードを健康保険証として使う「マイナ保険証」により保険資格をその場で確認でき、資格過誤による返戻の減少が期待されています。2つ目は診療時の情報です。患者本人の同意を前提に、過去の薬剤情報や特定健診の結果を医師・薬剤師が閲覧できるようになります。3つ目は処方です。電子処方箋は2023年1月に運用が始まり、処方・調剤の情報が中央のサーバーに集約されるため、ほかの医療機関で出された薬との重複投薬や併用禁忌のチェックがしやすくなります。ただし対応する医療機関・薬局の広がりには地域差があり、連携先の薬局が未対応であれば効果は限定的です。地域の薬局や連携病院の対応状況を把握しておくことも準備の1つです。
電子カルテ情報共有サービスと標準化
電子カルテ情報の標準化は、施設ごとに仕様が異なる電子カルテの情報を、共通の形式で交換できるようにする取り組みです。医療情報の国際標準規格であるHL7 FHIRをベースに、まず「3文書6情報」の共有から始める方針が示されています。3文書は診療情報提供書、退院時サマリー、健康診断結果報告書、6情報は傷病名、アレルギー、感染症、薬剤禁忌、検査、処方です。これらを共有する仕組みが「電子カルテ情報共有サービス」で、2026年度の冬を目途に全国での運用開始が予定されています。2027年度には、このサービスなどに対応する認証クラウドネイティブ型電子カルテの普及開始と、標準型電子カルテ(導入版)の医療機関による導入開始が予定され、共有する情報も「訪問看護指示書・計画書・報告書等」へ広がります。2029年度には歯科情報にも拡大する計画です。
Step3でつまずきやすいのが、電子カルテの更新時期との兼ね合いです。導入から年数が経った電子カルテを使い続けたまま様子を見ていると、制度対応の期限が近づいた時点で更新・移行作業が一度に集中します。反対に、更新したばかりのシステムに標準化対応を別途追加すると、連携改修の費用が分散して積み上がることがあります。オンプレミス型かクラウド型か、ほかのシステムとの連携性、ベンダーが公表している標準化対応の予定を比べたうえで、更新サイクルと制度対応を1つの計画にまとめることが、負担を平準化する近道です。医療機関向けのクラウドサービスを選ぶ際の観点は、「医療SaaSの選び方|ISMAP・医療情報セキュリティ・電子カルテ連携」で詳しく解説しています。
診療報酬改定DXと医療DX推進体制整備加算
診療報酬は原則として2年ごとに改定され、そのたびに医療機関やベンダーはレセプトコンピュータなどのシステムを短期間で改修してきました。診療報酬改定DXは、この改修負担を軽くするための取り組みで、診療報酬の計算ルールを共通化した「共通算定モジュール」、各種マスタや電子点数表の改善などが工程表に盛り込まれています。2026年の方針では、2028年度に医科・DPC向け共通算定モジュールのレセプト作成・請求事務を支援する機能や労災版モジュールの運用を開始すること、医療用医薬品の流通分野のキーコード(GS1コード)とYJコードを含む公的なデータベースを公開することが予定されています。データやマスタ、コードの共通化は、ベンダー側の作業に見えて、医療機関の改修費用や切り替え時の混乱の大きさに直結します。
医療機関側の論点として押さえておきたいのが、2024年度改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」です。オンライン資格確認等システムを通じた診療情報の取得・活用、電子処方箋への対応、電子カルテ情報共有サービスへの参加体制、マイナ保険証の利用実績などを評価する仕組みで、改定後も区分の細分化や要件の見直しが行われています。加算の取得そのものを目的にすると、要件の変更に追いつけなくなるリスクがあるため、あくまで取り組みの結果として算定できる状態を目指すのが現実的です。最新の区分や要件は、厚生労働省の通知で都度確認してください。
医療DXのメリットとデメリット
医療DXのメリットは業務効率化と医療の質の向上、デメリットは費用負担、セキュリティ、ITに不慣れな人への配慮です。立場別に整理すると次のとおりです。
| 観点 | 期待されるメリット | あわせて考えたい課題(デメリット) |
|---|---|---|
| 患者 | 受付や会計の待ち時間の短縮、施設をまたいだ薬剤情報などの共有による安全性の向上 | 高齢者などデジタル機器に不慣れな患者への案内や、従来の手段を残すかどうかの判断 |
| スタッフ | 転記・電話・紙の管理といった事務作業の削減、働き方改革への対応 | 新しいシステムの操作研修、移行期間中の二重運用の負担 |
| 経営 | 資格過誤による返戻の減少、加算の算定、データにもとづく経営状況の把握 | システムの導入費用と保守費用、ベンダーへの依存度の高まり |
| 安全管理 | 紙の紛失や誤送付のリスク低減、アクセス記録による追跡 | ランサムウェアなどのサイバー攻撃、システム停止時の診療継続計画(BCP) |
課題のなかでも、近年は医療機関を狙ったサイバー攻撃により電子カルテが長期間使えなくなる事例が報じられています。厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(2026年6月公表の第7.0版)でも、システムが停止した際に備えた対策を平時から整えることが求められており、バックアップの確保や紙運用へ切り替える手順を事前に定めておくことが重要です。2026年の方針でも、サイバーセキュリティ対策の強化が基盤整備の柱の1つに位置づけられています。費用面については、国や自治体の補助制度が活用できる場合があります。対象となる設備や要件、公募時期は年度ごとに変わるため、厚生労働省のページで案内されているポータルサイトや各制度の公募要領で最新の条件を確認し、導入計画に組み込むことが大切です。
医療DXの進め方|導入の4ステップと規模別の優先順位
医療DXの進め方は、現状の洗い出し、優先順位づけ、ツールの選定、運用と研修の4ステップで考えます。システムの導入そのものよりも、誰が何を決め、どう院内に伝えるかを整えることが出発点です。
| ステップ | やること | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| 1. 現状の洗い出し | 受付・診療・会計・院内連絡のうち、制度対応で変わる業務と手作業が多い業務を書き出す | 担当者が決まらず、ベンダーからの案内が事務長の手元で止まる |
| 2. 優先順位づけ | 制度対応(期限があるもの)と業務改善(効果が大きいもの)に分けて順に並べる | 加算の取得だけを目的にして、要件変更に追いつけなくなる |
| 3. ツールの選定 | 既存の電子カルテとの連携、運用ルール、費用を比べる。補助金の対象かも早めに確認する | 更新時期と標準化対応の予定を並べて見ていない |
| 4. 運用と研修 | 操作研修と手順書の共有、トラブル時の連絡経路を決める | 手順書が紙で配られ、どれが最新か分からなくなる |
制度の変更は小刻みに続くため、一度の対応で終わるものではありません。準備の前後で院内の状態がどう変わるかを、下のトグルで比べてみてください。
準備前によくある状態
- 医療DXの担当者が決まっておらず、ベンダーからの案内が事務長の手元で止まっている
- マイナ保険証のトラブル対応手順が紙で配られ、どれが最新か分からない
- 電子カルテの更新時期と標準化対応の予定を、誰も並べて見たことがない
- 加算の要件変更を、請求の段階になって初めて知る
規模別に見る準備の優先順位
取り組む順序は規模を問わず同じですが、推進体制の作り方は規模によって変わります。
| 規模 | 準備の優先順位 |
|---|---|
| 診療所・クリニック | 院内で制度対応を一から組み立てるのは現実的ではないため、電子カルテ・レセコンのベンダーが用意する医療DX対応の案内を軸に、必要な作業を洗い出す |
| 中規模病院 | 医事課・情報システム担当・看護部の役割分担と、最終的な意思決定者を明確にする。電子カルテの更新時期と標準化対応を合わせて計画し、補助金の活用可否も早めに確認する |
| 複数拠点の病院グループ | 本部主導で各拠点のシステム標準化と情報基盤の統合を進める。ベンダーとの中長期ロードマップを共有し、セキュリティ対策の全拠点展開も計画に含める |
どの規模でも共通するのは、制度の変更点を関係者全員に同じ内容で届ける仕組みが必要だという点です。ここまでの4ステップのうち、費用や期限の話になりにくいのが院内の周知ですが、実務ではここが止まると全体が止まります。外部委託という選択肢を含めた検討は、「医療BPOとは|病院・クリニックで委託できる業務と注意点」も参考になります。
医療DXで押さえたい法令上の注意点
情報連携の範囲が広がるほど、個人情報の取扱いと診療録の管理に関する論点が重要になります。患者の診療情報は個人情報保護法上の要配慮個人情報にあたり、個人情報保護委員会と厚生労働省は「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」で、安全管理措置や委託先の監督などの考え方を示しています。また、診療録については医師法第24条で記載と5年間の保存が定められており、電子的に保存する場合は、一般に真正性・見読性・保存性の3つの要件を満たすことが求められるとされています。具体的な要件は厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(第7.0版)で説明されています。
グループウェアやビジネスチャットなど診療以外の業務ツールを導入する場合も、患者情報を書き込まない運用ルールを定めるのか、書き込む前提でアクセス権限や端末管理を設計するのかを、導入前に決めておく必要があります。なお、本項は公的資料にもとづく一般的な解説であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際の対応にあたっては、弁護士などの専門家や、厚生労働省・個人情報保護委員会の最新の公式情報を確認してください。
ここまで見た進め方のうち、院内の周知と多職種の連絡は、いまの運用で足りているかどうかを自院で確かめやすい部分です。次のセルフチェックで、当てはまる項目を選んでみてください。
医療DXの院内周知、いまのやり方で足りていますか?セルフチェック
当てはまるものを選んでください(登録不要)
スケジュールと今後の見通し
医療DXの工程は、2030年に向けて段階的に組まれています。主な流れを時系列で整理すると次のとおりです。個別の日付や対象範囲は見直されることがあるため、最新の情報は厚生労働省の「医療DXについて」のページで確認してください。
| 時期 | 主な動き |
|---|---|
| 2022年 | 医療DX推進本部の設置 |
| 2023年 | オンライン資格確認の原則義務化、電子処方箋の運用開始、医療DXの推進に関する工程表の決定 |
| 2024年 | 診療報酬改定で医療DX推進体制整備加算を新設、改定の施行時期を6月へ変更、健康保険証の新規発行終了とマイナ保険証を基本とする仕組みへの移行 |
| 2026年度 | 2026年10月に医療情報化推進方針を策定。電子カルテ情報共有サービスの全国での運用開始(冬を目途)、医療費助成のオンライン資格確認の全国規模での導入 |
| 2027年度 | 認証クラウドネイティブ型電子カルテの普及開始、標準型電子カルテ(導入版)の導入開始、共有情報を訪問看護指示書・計画書・報告書等へ拡大 |
| 2028年度 | 200床以上の病院の電子カルテ普及率をほぼ100%に、共通算定モジュールの機能の運用開始、電子カルテ情報データベースの運用開始 |
| 2029年度 | 電子カルテ情報共有サービスで共有する情報を歯科情報へ拡大 |
| 2030年末まで | 必要な患者の医療情報を共有できる電子カルテの普及率約100%、地域の拠点となる病院のサイバーセキュリティ対策100%を目標とする |
今後は、訪問診療や介護事業所、自治体の保健事業など、医療機関の外側へ情報連携の範囲が広がっていく見通しです。方針でも、クラウド化によってAIを活用した業務効率化ツールなどを導入しやすくすることが挙げられています。医療分野でのAIの位置づけや制度は「医療AIとは|プログラム医療機器(SaMD)の制度と活用領域を厚労省資料で整理」で整理しています。ただし新しい技術ほど個人情報の取扱いや出力の確認体制が問われるため、ガイドラインの更新を追いながら慎重に検討することが大切です。こうした制度の変更点は小刻みに続くため、院内の全員に同じ内容を届ける経路は、システムの導入前から整えておくほど有利です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 医療DXのDXとは何の略ですか?IT化との違いは?
A. DXは「デジタルトランスフォーメーション」の略です。IT化は紙カルテを電子カルテに置き換えるなど個々の作業の電子化を指すのが一般的で、医療DXは電子化した情報を施設の壁を越えて連携させ、医療提供や業務のあり方そのものを変える点が異なります。
Q2. 医療DXの具体例にはどのようなものがありますか?
A. マイナ保険証によるオンライン資格確認、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスといった施設の外とつなぐ仕組みのほか、Web予約・Web問診・オンライン診療・会計の自動化、院内や多職種の連絡の効率化などがあります。
Q3. 医療・看護のDXとは何を指しますか?
A. 看護記録や連絡の電子化、多職種との情報共有の効率化など、看護の現場の業務をデジタルでつなぐ取り組みを指します。国の方針では、電子カルテ情報共有サービスで共有する情報を、2027年度に「訪問看護指示書・計画書・報告書等」へ拡大する予定が示されています。
Q4. 2026年10月に策定された医療情報化推進方針とは何ですか?
A. 厚生労働大臣が定め、2026年10月1日から適用された方針です。第1期の対象期間は2030年3月31日までで、基盤整備、全国医療等情報プラットフォーム、医療等情報の二次利用の3区分で取り組みが整理されています。
Q5. 医療機関は何から始めればよいですか?
A. オンライン資格確認とマイナ保険証の運用定着が出発点です。続いて電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスへの参加準備、診療報酬改定DXへの継続的な対応という順に進めます。あわせて、制度の変更点を院内に確実に伝える周知の仕組みを整えておくと、各ステップが進めやすくなります。
Q6. 医療機関でビジネスチャットを使うときの注意点は?
A. 患者の診療情報を書き込むかどうかの運用ルールを導入前に決めること、アクセス権限や端末管理の設計、プランごとの閲覧できる期間や件数の違いの確認が重要です。診療情報は電子カルテ等で管理し、チャットは周知と連絡に使い分ける方法もあります。
まとめ
医療DXは、電子化した情報を施設の壁を越えてつなぎ、医療や業務のあり方を変える取り組みです。2026年10月には医療情報化推進方針が策定され、2030年3月までの第1期の工程が示されました。医療機関が本記事からすぐに取り組めることを、5つに整理します。
- 厚生労働省の「医療DXについて」のページで、自院に関係する最新の方針と工程を確認する
- オンライン資格確認、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスの対応状況を自院で棚卸しする
- 電子カルテの標準規格対応と更新時期を並べ、1つの計画にまとめる
- 担当者と最終判断者を決め、ベンダーからの案内の窓口を一本化する
- 制度の変更点を院内の全スタッフに同じ内容で届けるため、ビジネスチャットなどの情報共有ツールを検討する
医療DXは、政策・制度・技術が連動して動く取り組みです。情報の鮮度が成果を左右するため、厚生労働省やデジタル庁の公式情報を一次情報として継続的に確認していきましょう。
参考文献
- 厚生労働省「医療DXについて」https://www.mhlw.go.jp/stf/iryoudx.html
- 厚生労働省「医療情報化推進方針の概要について」https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/001754267.pdf
- 厚生労働省「医療情報化推進方針」https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/001756943.pdf
- 厚生労働省「医療DXの推進に関する工程表」(医療DX推進本部決定、2023年6月2日)https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/001234597.pdf
- 厚生労働省「第1回 医療DX推進本部 資料3 医療DX推進本部について」(2022年10月)https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001125302.pdf
- 厚生労働省「医療DX令和ビジョン2030」関連資料https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000992353.pdf
- 個人情報保護委員会「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/iryoukaigo_guidance/
- e-Gov法令検索「医師法」https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201
- 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000516275_00006.html
- Chatwork導入事例「医療法人忠恕 春日部在宅診療所ウエルネス」https://go.chatwork.com/ja/case/wellness.html