SaaS銘柄の見方|財務指標を解説

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  • SaaSビジネスの収益構造がわかる
  • ARR・解約率・Rule of 40等の財務指標がわかる
  • 「SaaSの死」議論の実態がわかる

SaaS関連企業のニュースで「ARR」「解約率」「Rule of 40」といった指標を見かけても、何を意味するのか分からないことがあります。この記事は投資助言ではなく、SaaSビジネスの収益構造と財務指標の読み方を解説するものです。本記事では、SaaS銘柄の見方をビジネスモデルと財務指標の観点から整理します。SaaS企業を取引先・事業として理解したい場合はSaaS企業とは|ビジネス構造と業界マップの記事、「SaaSの死」という議論の実態を詳しく知りたい場合は「SaaSの死」は本当かを整理した記事、投資目的以外でSaaS会社のビジネスモデル・指標の読み方を知りたい場合はSaaS会社のビジネスモデルの記事もあわせてご覧ください。

目次

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  1. SaaSビジネスの収益構造
  2. SaaS関連企業を業種で整理する
  3. SaaS特有の財務指標の読み方
  4. 「SaaSの死」議論と市場の見方
  5. 財務指標を確認する際の情報源の考え方
  6. SaaS銘柄の見方でよくある失敗パターン3つ
  7. NRR(純収益維持率)など上級者向けの指標
  8. SaaSバリュエーション(企業価値評価)の考え方
  9. 業種別に見るSaaS企業のビジネスモデルの違い
  10. SaaS企業の決算発表を確認するタイミングの考え方
  11. よくある質問(FAQ)
  12. まとめ|今日からできる3つのこと

SaaSビジネスの収益構造

SaaSビジネスは、月額・年額の利用料でソフトウェアを提供するサブスクリプション型の収益構造を持ちます。ARR(年次経常収益)やMRR(月次経常収益)は、この継続課金モデルの収益規模を示す代表的な指標です。日本企業のクラウド利用率は2024年時点で80.6%に達し、SaaSは社会基盤の一部として定着しています。

SaaS関連企業を業種で整理する

汎用業務向けのホリゾンタルSaaS、特定業界向けのバーティカルSaaS、基盤系SaaSという3つの軸で、SaaS関連企業を中立的に整理できます。特定の企業を推奨する分類ではなく、事業の対象範囲による分類として捉えることが重要です。

指標 意味
ARR成長率 年次経常収益の増加率
解約率 契約が解約される割合
売上総利益率 売上に対する売上総利益の割合
Rule of 40 成長率と利益率の合計が40%以上かの指標
図1:SaaS特有の財務指標

SaaS特有の財務指標の読み方

ARR成長率、解約率、売上総利益率、Rule of 40という4つが、SaaS企業を評価する際によく使われる主要指標です。継続課金モデルであるため、新規契約の増加だけでなく、解約率を低く抑えられているかどうかが事業の健全性を示す重要な要素になります。

こうした指標を理解した上で、SaaS市場やSaaS企業の動向をより深く調査したい場合、業界の市場規模や競合状況を専門的に調査するサービスを活用する方法もあります。

「SaaSの死」議論と市場の見方

「SaaSの死」という議論の実際の論旨は、SaaSの消滅ではなく、AI時代における業務形態の進化を指しています。市場構造そのものが消えるわけではなく、既存の指標を踏まえながら変化の方向性を見ていくことが重要です。

財務指標を確認する際の情報源の考え方

ARR成長率や解約率といったSaaS特有の財務指標は、上場企業であれば決算説明資料やIR(投資家向け情報)ページで開示されている場合がありますが、開示の粒度や頻度は企業ごとに大きく異なる点に注意が必要です。

四半期ごとの決算発表でARRやMRRの推移をグラフで示す企業もあれば、こうした指標そのものを開示していない企業もあります。SNSやニュース記事で語られる「急成長中のSaaS企業」といった表現は、必ずしも一次情報である決算資料の数値に基づいているとは限らないため、気になる企業があれば、まずはその企業の公式IR資料に当たり、実際にどの指標がどのような定義で開示されているかを確認する習慣をつけることが望ましいとされています。

また、非上場のSaaS企業については、こうした財務指標が外部に公開されていないことがほとんどです。業界メディアや業界レポートで紹介される成長率や評価額は、企業側のプレスリリースや、限定的な取材に基づく推計であることも多く、数値の算出根拠や時点が明記されているかを確認したうえで参考にする姿勢が重要です。断定的な数値をそのまま鵜呑みにせず、複数の情報源を照らし合わせて実態を把握することをおすすめします。

SaaS銘柄の見方でよくある失敗パターン3つ

指標の意味を理解せず数字だけで判断する、解約率を確認せず成長率だけを見る、分類を推奨ランキングと誤解するという3つが、SaaS銘柄の見方でよく見られる失敗の典型です。

失敗パターン1:指標の意味を理解せず数字だけで判断する。ARRの大きさだけを見て、実態を見誤るケースです。指標の意味を理解したうえで数字を見ることが回避策になります。

失敗パターン2:解約率を確認せず成長率だけを見る。新規契約が多くても解約も多い企業を見誤るケースです。解約率も合わせて確認することが回避策になります。

失敗パターン3:分類を推奨ランキングと誤解する。ホリゾンタル・バーティカルの分類を優劣の順位と勘違いするケースです。分類は事業範囲を示すものであり、優劣を示すものではないと理解することが回避策になります。

NRR(純収益維持率)など上級者向けの指標

ARRや解約率だけでなく、NRR(Net Revenue Retention、純収益維持率)という指標も、SaaSビジネスの質を評価する際によく参照されます。

NRRは、既存顧客からの収益が1年後にどれだけ維持・拡大しているかを示す指標です。単純な解約率だけを見ると、顧客数が減っているかどうかは分かりますが、既存顧客がプランをアップグレードしたり、利用人数を増やしたりすることで収益が増えている場合、その効果までは反映されません。NRRを見ることで、解約による収益減少と、既存顧客のアップセルによる収益増加を差し引きした、実質的な収益の伸びを把握できます。

一般的に、NRRが100%を超えていると、新規顧客を一切獲得しなくても既存顧客だけで収益が成長していることを意味し、事業の健全性を示す好材料として語られることが多い指標です。逆にNRRが100%を下回っている場合は、既存顧客からの収益が縮小傾向にあることを示すため、新規顧客の獲得ペースが鈍化した際に、事業全体の収益にも影響が出やすい構造といえます。ただし、NRRの算出方法や開示のタイミングは企業によって差があるため、他社と比較する際は、同じ算出方法に基づいた数値かどうかを確認することが望ましいとされています。

SaaSバリュエーション(企業価値評価)の考え方

SaaS企業の株価やバリュエーションを議論する際、PSR(株価売上高倍率)という指標が使われることがあります。PSRは株式時価総額を年間売上高で割って算出する指標で、まだ黒字化していない成長段階のSaaS企業を評価する際によく参照されます。従来型の製造業などで一般的なPER(株価収益率)は、当期純利益を基準にするため、赤字段階にある企業には使いにくい面があります。SaaS企業は成長初期に営業損失を計上しながら顧客獲得に投資する傾向があるため、利益ではなく売上高を基準にしたPSRが便宜的に用いられる場面が多いといえます。

ただし、PSRだけを見て企業の優劣を判断するのは注意が必要です。同じ売上高でも、解約率が低くNRRが高い企業と、解約率が高くNRRが低い企業とでは、将来にわたって積み上がる収益の質が大きく異なります。PSRが高い企業は「将来の成長期待が織り込まれている」と説明されることが多い一方、その期待が実際のARR成長率や解約率の実績と整合しているかどうかを、決算資料などの一次情報で確認する姿勢が重要です。市場の期待値と実際の経営指標との間にギャップが大きい場合、株価が期待先行で形成されている可能性も考えられます。

また、SaaS企業のバリュエーションは、金利動向など市場全体のマクロ環境によっても変動しやすいとされています。金利が上昇する局面では、将来の利益を現在価値に割り引く際の割引率が上がるため、遠い将来の成長を織り込んだ株価は相対的に下落しやすい傾向があると説明されることがあります。逆に金利が低下する局面では、成長期待の高い銘柄が買われやすくなるとも言われます。こうしたマクロ要因は個別企業の事業内容とは別の変数であるため、ARRや解約率といった事業指標の変化と、株価そのものの変動を混同しないよう区別して捉えることが望ましいとされています。

業種別に見るSaaS企業のビジネスモデルの違い

ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaSでは、顧客獲得の仕組みや解約率の水準に構造的な違いが見られる傾向があります。会計・人事労務・コミュニケーションツールなど業種を問わず利用されるホリゾンタルSaaSは、対象市場が広い分、競合するサービスも多く、価格競争や機能競争にさらされやすい面があります。一方で、特定の業界(医療・建設・不動産・製造業など)に特化したバーティカルSaaSは、対象市場は狭いものの、業界特有の業務プロセスに深く組み込まれるため、他社への乗り換えコストが高くなりやすく、結果として解約率が低く安定する傾向があると説明されることがあります。

基盤系SaaS(インフラ・セキュリティ・データ基盤など)は、これらとはやや異なる特徴を持ちます。一度導入されると他のシステムと連携する形で組み込まれるため解約されにくい一方、初期の導入企業数を増やすまでに時間がかかりやすく、成長スピードは緩やかになりやすいという傾向が指摘されることがあります。こうした業種ごとの構造的な違いを踏まえずに、単純にARR成長率の数字だけを横並びで比較すると、事業モデルの違いを見落とした比較になりやすい点には注意が必要です。同じ成長率でも、ホリゾンタルSaaSの成長率とバーティカルSaaSの成長率では、その裏にある競争環境や解約率の前提が異なることを意識しておくと、指標の読み方に厚みが出ます。

なお、こうした業種ごとの分類はあくまで事業の対象範囲を整理するための枠組みであり、どの業種のSaaSが優れているかを順位づけするものではありません。前述のとおり、分類を優劣のランキングと混同しないという視点は、業種別の比較においても同様に当てはまります。

SaaS企業の決算発表を確認するタイミングの考え方

上場しているSaaS企業の決算発表は、多くの場合四半期ごとに実施され、決算説明資料や決算説明会の動画がIRページで公開されます。ARRやMRR、解約率、NRRといった指標の推移は、こうした四半期決算のタイミングでまとめて開示されることが一般的です。年度によって決算期(3月期・12月期など)が企業ごとに異なるため、複数のSaaS企業を継続的に見ていく場合は、それぞれの決算発表のスケジュールをあらかじめ把握しておくと、指標の更新タイミングを見落としにくくなります。

決算説明資料を確認する際は、単月・単四半期の数値だけでなく、直近数四半期分の推移を並べて見ることが重要だとされています。ARR成長率が一時的に高まっていても、それが季節要因や大口契約の一時的な計上によるものなのか、継続的なトレンドなのかは、複数期間のデータを比較しないと判断しにくいためです。また、決算説明会の質疑応答パートでは、経営陣が解約率悪化の要因や今後の見通しについて言及することもあり、数値だけでは分からない背景情報を補完する材料になります。

非上場のSaaS企業の場合、こうした定期開示の義務はありませんが、資金調達のタイミングでプレスリリースとしてARRの規模感や成長率が公表されることがあります。この場合も、公表されている数値がどの時点のものか、算出方法が他社と同じ基準に基づいているかを確認したうえで参考にすることが望ましいとされています。断定的な表現で成長を強調するプレスリリースであっても、それ自体が投資助言や成果を保証するものではない点には留意が必要です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 最低限見るべき指標は何ですか?

A. ARR成長率と解約率の2つを合わせて確認することが基本になります。

Q2. SaaS企業の利益率が低いのはなぜですか?

A. 成長初期は顧客獲得への投資が先行しやすく、利益率が抑えられる傾向があります。

Q3. SaaS市場の将来性はどう見られていますか?

A. AI時代における業務形態の進化として議論されており、市場構造自体が消えるものではないとされています。

Q4. 日本企業のSaaSの特徴は何ですか?

A. クラウド利用率が高く、SaaSが社会基盤として広く定着している点が特徴です。

Q5. Rule of 40とは何ですか?

A. 成長率と利益率の合計が40%以上かどうかを見る指標です。

Q6. 投資判断はこの記事の情報だけで行ってよいですか?

A. 本記事は投資助言ではないため、投資判断は一次情報の確認や専門家への相談を踏まえて行うことが重要です。

まとめ|今日からできる3つのこと

  1. 指標の意味を理解してから数字を見る:数字だけで判断しません。
  2. 成長率と解約率を合わせて確認する:一方だけを見ません。
  3. 分類を優劣と混同しない:事業範囲の分類として捉えます。

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