SaaS会社のビジネスモデル|指標の読み方
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- SaaS会社の収益構造がわかる
- ARR・チャーン率・NRR等の主要指標がわかる
- 成長性以外に見るべき観点がわかる
SaaS会社の業績を見る際、ARRの規模だけで良し悪しを判断してしまうことがあります。しかし、チャーン率やNRRといった指標を合わせて見なければ、実態を正しく評価できません。本記事では、SaaS会社のビジネスモデルを、ARR・チャーン率・NRRの読み方から詳解します。株式投資の観点でSaaS銘柄を見る場合の注意点はSaaS銘柄の見方の記事で整理しています(本記事・関連記事ともに投資助言を目的としたものではありません)。自社のSaaS事業で継続率を改善したい場合はSaaS継続率(NRR・GRR・チャーンレート・NPS)の記事で解説しています。
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目次
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SaaS会社とは
SaaS会社とは、月額・年額課金で継続的にソフトウェアを提供する事業者を指します。「SaaS会社」という言葉には、SaaSを提供する事業者(提供側)と、SaaSを利用する事業者(利用側)の両方の文脈で使われる場合があるため、話の前提を確認することが大切です。
SaaS会社の収益構造
新規契約だけでなく、契約後の継続利用・アップセル・解約を含めた総合的な収益の動きを見ることが、SaaS会社の収益構造を理解する上で重要です。一度契約を獲得しても、解約が増えれば収益は縮小してしまいます。
主要指標|ARR・MRR・チャーン率・NRR
ARRは年間継続収益、MRRは月間継続収益を示し、チャーン率は解約の割合、NRRは既存顧客からの売上維持率を示す指標です。チャーン率は顧客数ベースか金額ベースかで意味が異なるため、どちらの基準で示されているかを確認する必要があります。
| 指標 | 意味 |
|---|---|
| ARR | 年間継続収益 |
| MRR | 月間継続収益 |
| チャーン率 | 解約の割合(顧客数/金額ベース) |
| NRR | 既存顧客からの売上維持率 |
成長性以外の観点
粗利率、CAC(顧客獲得コスト)の回収期間、Rule of 40(成長率と利益率の合計)という観点も、成長性だけでなく事業の健全性を確認する上で重要です。成長率だけを見て、これらの観点を見落とすと、実態の評価を誤ることがあります。
こうした指標を理解した上で、SaaS会社の業界動向や競合状況、あるいは自社が展開するSaaS事業の市場ポジションをさらに深く把握したい場合、決算資料や公開情報だけでは分からない顧客ニーズ・競合の評判・市場規模の推計を、専門的な市場調査会社に依頼して補う方法もあります。特に非上場のSaaS会社を取引先やM&A候補として評価する際は、こうした第三者による市場調査が、資金調達実績や従業員数の推移と並ぶ有力な判断材料になります。
会社規模別の確認ポイントとIR資料の読み方
会社規模によって重視すべき指標のバランスは異なり、IR資料を読む際は各指標の算出方法(顧客数ベースか金額ベースか等)を注記も含めて確認することが重要です。SaaSを利用する事業者にとっても、契約先の事業の健全性を把握する参考情報になります。
取引先としてSaaS会社を評価する際の活用法
SaaS会社の指標は投資判断だけでなく、自社が長期的に利用する取引先として選ぶ際の判断材料としても活用できます。特に業務の基幹システムとして使う場合、そのSaaS会社が事業として安定して継続できるかどうかは、機能や価格と並んで重要な確認事項になります。
上場しているSaaS会社であれば、決算説明資料やIR資料で開示されているARRの推移やチャーン率を確認することで、その会社が今後も安定してサービスを提供し続けられそうかを推測する材料になります。ARRが右肩上がりで成長し、チャーン率が低い水準を維持している会社であれば、事業として健全に成長している可能性が高く、長期的な取引先として安心材料になります。逆に、成長が鈍化していたり、チャーン率が悪化傾向にある場合は、将来的なサービス縮小や機能改善の停滞といったリスクも視野に入れておく必要があります。
非上場のSaaS会社の場合は、こうした指標が公開されていないことがほとんどです。その場合は、資金調達の実績(直近でいくら調達したか)や、従業員数の推移、導入企業数の推移といった、公開情報から間接的に事業の勢いを推測する方法もあります。契約前にこうした情報を一通り確認しておくことで、突然のサービス終了や大幅な仕様変更といったリスクに備えやすくなります。
指標の読み方でよくある失敗パターン3つ
ARRの規模だけで判断する、チャーン率の算出基準を確認しない、成長率だけを見て粗利率を見落とすという3つが、指標の読み方でよく見られる失敗の典型です。
失敗パターン1:ARRの規模だけで判断する。継続率や利益率を見ずに、規模の大きさだけで良し悪しを判断してしまうケースです。複数の指標を組み合わせて見ることが回避策になります。
失敗パターン2:チャーン率の算出基準を確認しない。顧客数ベースと金額ベースを混同し、実態を誤解するケースです。算出基準を確認することが回避策になります。
失敗パターン3:成長率だけを見て粗利率を見落とす。急成長していても収益性が伴っていない場合を見逃すケースです。Rule of 40等の複合指標も確認することが回避策になります。
CAC(顧客獲得コスト)とLTVの関係
CAC(顧客獲得コスト)とLTV(顧客生涯価値)という2つの指標の関係も、SaaS会社のビジネスモデルの健全性を見るうえで欠かせない観点です。
CACは、1人(1社)の顧客を新規獲得するためにかかった広告費・営業人件費などのコストを指します。LTVは、1人の顧客が契約している期間全体を通じて、その会社にどれだけの収益をもたらすかを示す指標です。SaaSビジネスでは、LTVがCACを上回っていることが、事業として持続可能である前提条件とされています。LTVがCACを下回っている状態が続くと、新規顧客を獲得すればするほど赤字が積み重なっていく構造になってしまうため、成長率だけを見て「顧客数が増えている=順調」と判断するのは早計です。
一般的に、LTVがCACの3倍以上であれば健全な水準とされることが多いですが、この目安はあくまで業界内でよく語られる経験則であり、事業のフェーズや業種によって適正な水準は異なります。成長初期の段階では、将来の市場シェア獲得を優先してあえてCACに先行投資し、一時的にLTV/CAC比率が低くなるケースもあるため、単年度の数値だけでなく、その会社がどのフェーズにあるかも踏まえて評価することが望ましいとされています。
事業モデル別に見るSaaS会社の評価の違い
SaaS会社と一口に言っても、主に中小企業を顧客とするSMB(スモール・ミディアム・ビジネス)向けモデルと、大企業を顧客とするエンタープライズ向けモデルとでは、指標の見方が大きく異なります。どちらのモデルかを踏まえずにARRやチャーン率の水準だけを比較すると、実態とかけ離れた評価をしてしまうことがあります。
SMB向けのSaaS会社は、1顧客あたりの契約金額が小さい一方、契約数が多いため、一定数の解約が発生することが前提のビジネスモデルになりやすい傾向があります。そのため、チャーン率の絶対値だけを見て「解約が多い会社」と判断するのではなく、新規獲得のペースが解約のペースを上回っているか、また顧客獲得コストを新規契約から早期に回収できているかを合わせて確認することが重要です。クレジットカード決済を中心とした自己解約(セルフサーブ型の解約)が多い事業モデルでは、ある程度のチャーン率は構造上避けられないため、同業他社との比較を通じて水準感をつかむ姿勢が求められます。
一方、エンタープライズ向けのSaaS会社は、1顧客あたりの契約金額が大きく、契約期間も複数年に及ぶことが多いため、チャーン率そのものは低く出やすい傾向があります。この場合は、チャーン率だけでなく、既存顧客がプランのアップグレードや利用ユーザー数の追加といった形で契約金額を伸ばしているかを示すNRR(ネット・リベニュー・リテンション)の水準がより重要な意味を持ちます。NRRが100%を超えていれば、新規契約がゼロでも既存顧客からの売上が拡大していることを意味し、事業の安定性を測る有力な手がかりになります。逆にNRRが100%を下回っている場合は、解約やダウングレードが新規獲得やアップセルを上回っている状態であり、成長の持続性に懸念があると解釈されることがあります。
決算説明資料で見かける関連用語
上場SaaS会社の決算説明資料やIR資料では、ARR・チャーン率・NRR以外にも、事業の実態を把握するうえで参考になる用語がいくつか登場します。代表的なものとして、契約獲得から損益分岐に至るまでの期間を示す「CACペイバック期間」、既存顧客からのアップセル・クロスセルによる増収分を示す「エクスパンション収益」、解約とダウングレードを合わせた減収分を示す「グロス・リベニュー・チャーン」などが挙げられます。
CACペイバック期間は、1件の新規契約を獲得するためにかかったコストを、その契約から得られる月々の利益で何か月かけて回収できるかを示す指標です。一般的に、この期間が短いほど資金効率が良いとされますが、事業のフェーズによっては、あえて期間を長く見積もってでも積極的に営業・マーケティング投資を行い、市場シェアの拡大を優先する経営判断が取られることもあります。単月・単年度の数値だけを切り取って評価するのではなく、複数期にわたる推移を確認し、その会社が意図的に投資を先行させているのか、それとも効率が悪化しているのかを見極めることが望ましいとされています。
また、決算説明資料では「解約率が改善した」「NRRが向上した」といった定性的なコメントが添えられることがありますが、算出方法の定義自体が変更されている場合、単純な期間比較ができないケースもあります。注記や脚注に算出方法の変更に関する記載がないかを確認したうえで、数値の推移を評価する姿勢が重要です。こうした確認作業は、投資判断のみならず、取引先としてSaaS会社を選定する際のデューデリジェンスの一環としても活用できます。
従業員規模・調達額から非上場SaaS会社を読み解く視点
非上場のSaaS会社はARRやチャーン率を公開していないことが多いため、資金調達の実績、従業員数の推移、導入企業数の推移といった間接的な情報を組み合わせて事業の勢いを推測する必要があります。これらの情報は、プレスリリースや採用ページ、企業データベースなどで確認できることが多く、契約前の下調べとして有効です。
資金調達の実績を確認する際は、単に調達額の大きさだけでなく、直近の調達がいつ行われたかという時期にも注目すると参考になります。最後の資金調達から長期間が経過している場合、次の調達に向けて事業の見直しや組織体制の変更が行われている可能性があり、サービスの継続性や機能開発のペースに影響が出ることも考えられます。逆に、短いスパンで継続的に調達を重ねている会社は、投資家からの評価が一定程度継続しており、事業拡大に積極的な姿勢がうかがえます。ただし、調達額の大きさだけをもって「安心できる会社」と単純に判断するのは早計であり、調達資金がどのような用途(採用強化、機能開発、マーケティング投資など)に充てられているかを、プレスリリースなどで確認することが望ましいとされています。
従業員数の推移は、求人サイトや企業データベース、SNSでの採用告知などから継続的に把握できる場合があります。特にカスタマーサクセスやサポート部門の人員が拡充されているかどうかは、既存顧客のフォロー体制が強化されているサインとして参考になります。逆に、開発部門やサポート部門の人員が急激に縮小している場合は、機能開発のペースが鈍化したり、問い合わせへの対応が遅くなったりするリスクがあるため、契約前に問い合わせ窓口の応答状況を実際に確認しておくことも一つの方法です。導入企業数についても、単純な増加数だけでなく、どのような業種・規模の企業が導入しているかを確認することで、自社の業種や規模に近い導入実績があるかどうかを判断材料にできます。
よくある質問(FAQ)
Q1. SaaS会社とクラウドサービス会社は同じですか?
A. クラウドサービスはより広い概念のため、SaaS会社はその中の一部に位置づけられます。
Q2. ARRの規模だけで良し悪しを判断できますか?
A. できません。チャーン率やNRRなど複数の指標を組み合わせて確認する必要があります。
Q3. チャーン率はどう解釈すればよいですか?
A. 顧客数ベースか金額ベースかで意味が異なるため、算出基準を確認したうえで解釈する必要があります。
Q4. NRRとは何ですか?
A. 既存顧客からの売上維持率を示すKPIです。
Q5. 利用企業がIR資料を確認する意味はありますか?
A. あります。契約先の事業の健全性を把握する参考情報として活用できます。
Q6. Rule of 40とは何ですか?
A. 成長率と利益率の合計が40%以上かどうかを見る指標です。
まとめ|今日からできる3つのこと
- 複数の指標を組み合わせて見る:ARRの規模だけで判断しません。
- チャーン率の算出基準を確認する:混同しません。
- 粗利率も合わせて確認する:成長率だけを見ません。