DX投資とは|ROIの計算方法と評価の落とし穴、KPI設計・公的指標の使い方

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  • DX投資のROIの計算式と落とし穴がわかる
  • 3層評価とKPIで投資の効果を数字にできる
  • IPAの最新調査で自社の立ち位置を確かめる

DX投資とは、デジタル技術を使って業務やビジネスモデルを変革するために、システム・ツール・人材育成・業務改革などへ投じる費用のことです。その効果は、(投資によって得られた利益-投資額)÷投資額で求めるROIと回収期間を軸に、投資の前後の数字を比べて評価します。ただしDXの効果は、費用削減のようにすぐ数字に出るものばかりではないため、計算式を当てはめるだけでは評価を誤ることもあります。この記事では、ROIの基本の計算式、DX特有の落とし穴、財務・業務効率・戦略の3層評価、KPI設計、TCOと機会コスト、IPA「DX動向2026」などの公的な指標の使い方、ROI算出の5ステップ、経営層への提案の組み立て方までを順に整理します。

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目次

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  1. DX投資の効果を数字で説明するには|投資前後の費用と利益を同じデータで追う
  2. DX投資とは|ROIの基本の計算式
  3. DX投資特有の注意点|短期評価の落とし穴
  4. 3層フレームワークで見るROI評価|財務・業務効率・戦略
  5. 投資対効果を測るためのKPI設計
  6. コストの多層的な捉え方|TCOと機会コスト
  7. 公的な評価指標・ベンチマークの使い方
  8. ROI算出の5ステップ
  9. 経営層への提案を通すための組み立て方
  10. よくある質問(FAQ)
  11. まとめ
  12. 参考文献

DX投資の効果を数字で説明するには|投資前後の費用と利益を同じデータで追う

DX投資の効果を数字で説明するには、投資額と効果を同じ財務データの上で、投資の前後を継続的に比べられる状態を先に作ることが近道です。どれだけ精緻な計算式を用意しても、費用や利益の数字がすぐに取り出せなければ、評価は担当者の手作業頼みになり、続きません。

DXそのものの定義や進め方はDXとは?経産省の定義とデジタル化との違い、業種別・規模別の始め方で整理しています。この記事では、投資したあとに「本当に効いたのか」を数字で確かめる側に絞って解説します。

数字での確認が欠かせない理由は、調査にも表れています。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2026」(2025年度調査)によると、DXに取り組む企業のうち「成果が出ている」と答えた企業は60.8%でしたが、「わからない」と答えた企業も26.8%ありました。DXの成果指標を「設定している」企業は23.9%で、4社に1社にも届いていません。成果を測る物差しがなければ、投資の良し悪しを判断することも、次の投資を説明することもできません。

とくに中小企業では、ROIの算出に使う人件費・外注費・システム利用料といった数字が、会計データの中に散らばっていることがほとんどです。財務分析やレポートの機能を持つ会計ソフトで、勘定科目別・月別の推移を確認できるようにしておけば、投資の前後で何がどれだけ変わったかを追いやすくなります。

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DX投資とは|ROIの基本の計算式

DX投資とは、デジタル技術を使って業務やビジネスモデルを変革するために、システム、ツール、人材育成、業務改革などに投じる費用のことです。その効果を測る代表的な指標がROI(Return on Investment、投資利益率)で、投資した金額に対してどれだけの利益が得られたかを割合で示します。

ROIの基本の計算式は次のとおりです。

ROI(%)=(投資によって得られた利益-投資額)÷投資額×100

たとえば、クラウドの業務システムに初期費用と3年分の利用料を合わせて300万円を投資し、3年間で人件費と外注費を合わせて450万円削減できた場合、ROIは(450万円-300万円)÷300万円×100=50%になります。ROIがプラスであれば投資額を上回る効果が出ており、数値が大きいほど投資効率が高いと判断できます。

あわせて使われることが多いのが、投資額を何年で回収できるかを示す回収期間(投資額÷年間の効果額)です。上の例なら、年間150万円の効果に対して300万円の投資なので、回収期間は2年です。ROIは「どれだけ得をするか」、回収期間は「いつ元が取れるか」を示すため、両方をセットで示すと経営層の判断材料として伝わりやすくなります。

投資額が大きく、効果が5年、10年と長く続く投資では、NPV(正味現在価値)もあわせて確認します。NPVは、将来得られる効果を一定の割引率で現在の価値に直し、そこから投資額を差し引いた金額で、プラスであれば投資する価値があると判断します。単純なROIでは3年後の100万円と今年の100万円を同じ価値として扱いますが、NPVでは将来の効果ほど割り引いて評価するため、効果が出るまでに時間がかかる投資ほど、ROIとNPVで判断が分かれることがあります。割引率には、借入金利や自社が投資に求める最低限の利回りを使うのが一般的です。投資の収益率そのものを求めるIRR(内部収益率)も、同じ考え方の指標です。いずれも将来の利益やキャッシュフローの見積もりが前提のため、見積もりの根拠を残しておくことが大切です。

従来のIT投資との違い|守りと攻めで評価の物差しを変える

DX投資の評価が難しいのは、従来のIT投資と同じ物差しでは測れない部分があるためです。業務の効率化やコスト削減が中心の「守り」の投資は、削減額でROIを出しやすい一方、新しいサービスや顧客との関係づくりを狙う「攻め」の投資は、売上や継続率などの成果が出るまでに時間がかかります。1つの稟議で両方を同じ基準で評価すると、攻めの投資が通りにくくなります。

観点 守りのDX投資(業務効率化・コスト削減) 攻めのDX投資(新サービス・顧客価値の創出)
主な目的 社内の作業時間・人件費・紙のコストを減らす 新しい収益源や、顧客との関係の深まりをつくる
KPIの例 処理時間、処理件数、削減額 商談数、受注率、継続率、解約率
効果が出る時期 短期から中期 中期から長期
ROIの出し方 削減額を投資額と比べる。見積もりの誤差が小さい 売上や粗利の増加分を試算する。不確実性が大きいため、複数パターンで示す

CRMの導入のように両面を持つ投資は、稟議の段階で主な目的を決め、もう一方は副次効果として記録しておくと、あとで効果を測るときに判断がぶれません。業務の自動化から新しい価値の創出へと段階が進む考え方は、DXの意味とは?経産省定義と3段階モデルでデジタル化との違いを整理でも解説しています。

DX投資特有の注意点|短期評価の落とし穴

DX投資では、費用削減だけで評価する、評価の時期が早すぎる、投資額を少なく見積もる、基準値を記録していない、の4つが代表的な落とし穴です。ROIの計算式そのものは単純ですが、DXの効果は、導入直後よりも業務が定着してから表れるものや、金額に直接換算しにくいものが多いため、そのまま当てはめると判断を誤ることがあります。

落とし穴 起こりがちなこと 対策
費用削減だけで評価する すぐ数字に出る費用削減の案件ばかりが通り、人材育成やデータ基盤の整備が後回しになる 財務以外の効果も評価の軸に入れる(次の章の3層フレームワーク)
評価の時期が早すぎる 導入直後の移行期間は、旧業務との並行運用や操作の習熟で一時的に生産性が下がり、「効果なし」と判断される 評価のタイミングを3か月後・半年後・1年後など複数回に分けて決めておく
投資額を少なく見積もる ライセンス費用だけを投資額にし、研修やデータ移行の工数が抜けてROIが実態より高く出る TCO(総保有コスト)で投資額を捉える
基準値を記録していない 導入前の作業時間や件数を測っていないため、効果を比べられない 投資を決める前に、現状の数字を基準値として記録する

なかでも影響が大きいのは、最後の「基準値を記録していない」です。導入前の数字がなければ、どれだけ効果が出ても証明できません。DX投資の評価は、投資を決めた時点ではなく、現状を測った時点から始まると考えておきましょう。

3層フレームワークで見るROI評価|財務・業務効率・戦略

DX投資の効果を漏れなく捉えるには、財務・業務効率・戦略の3層に分けて評価するのが有効です。財務の数字だけでは短期的な費用対効果しか見えず、戦略的な効果だけでは説得力に欠けるため、3つを組み合わせて全体像を示します。

評価の層 何を見るか 効果が出る時期の目安
財務 人件費・外注費・紙や郵送のコスト削減、売上や粗利の増加など、損益計算書に直接表れる効果 短期から中期
業務効率 処理時間、ミスや手戻りの件数、対応のリードタイムなど、業務の現場で測れる効果 短期
戦略 データを活用した意思決定、新しいサービスの展開、人材の確保・定着など、将来の競争力につながる効果 中期から長期

業務効率の効果は、財務の効果の手前にある先行指標です。たとえば請求書の処理時間が月40時間短くなれば、その時間に時給を掛けた金額が人件費の削減効果として財務の層に反映されます。業務効率の数字を金額に換算する道筋を示せると、ROIの根拠として説得力が増します。

戦略の層は金額に換算しにくいものの、切り捨てるべきではありません。「顧客データを一元化したことで、提案までの準備時間が半分になった」のように、業務効率の数字と結びつけて説明すると、評価の対象として扱いやすくなります。

投資対効果を測るためのKPI設計

DX投資のKPI(重要業績評価指標)は、利用・業務・成果の3段階で設計し、各段階1から2個に絞るのが基本です。ROIは最終的な結果を示す指標であり、途中経過を管理するにはKPIを設定する必要があります。ツールが使われているか、業務が変わったか、成果につながったかの順に見ると、どこでつまずいているかが分かりやすくなります。

段階 KPIの例 確認の頻度
利用(ツールが使われているか) 利用率、ログインしている従業員の割合、紙や旧システムでの処理件数 導入直後は毎週、定着後は毎月
業務(業務が変わったか) 1件あたりの処理時間、対応漏れ・入力ミスの件数、承認までの日数 毎月
成果(財務に表れたか) 人件費・外注費・残業代の削減額、売上や粗利の変化、ROI 四半期ごと、年度ごと

KPIを選ぶときは、欲張って数を増やしすぎないことが大切です。1つの投資につき各段階1から2個に絞り、誰がどのデータから数字を取るかまで決めておくと、担当者が替わっても評価が続きます。利用のKPIが低いまま業務や成果のKPIを見ても意味がないため、まず利用率が上がっているかを確認するのが順番です。

成果の段階のKPIは、最終的に会計データから取り出すことになります。月次の試算表で人件費や外注費の推移を確認できる状態にしておけば、業務のKPIの改善が財務の数字にどう表れたかを、四半期ごとに無理なく確認できます。

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コストの多層的な捉え方|TCOと機会コスト

DX投資のコストは、ライセンス費用だけでなく、初期・運用・変革の3層を含めたTCO(Total Cost of Ownership、総保有コスト)で見積もります。ROIの分母となる投資額をTCOで捉えると、ROIが実態より高く出るのを防げます。DX投資のコストは、次の3層に分けて洗い出すと漏れが少なくなります。

コストの層 主な内容
初期コスト システムやツールの導入費、初期設定、データ移行、外部の導入支援費用
運用コスト 月額・年額の利用料、保守費用、追加のアカウント費用、社内の管理担当者の工数
変革コスト 従業員の研修時間、旧業務との並行運用期間の生産性低下、業務手順の見直しにかかる工数

見落とされやすいのが変革コストです。研修に1人3時間、対象者が20人なら60時間分の人件費がかかります。金額としては小さくても、あらかじめ計上しておくと、導入直後に一時的に生産性が下がったときにも「想定の範囲内」として説明できます。

もう1つ押さえておきたいのが、機会コスト、つまり「投資しないことのコスト」です。手作業を続けることで発生し続ける人件費、入力ミスによる手戻り、属人化した業務が担当者の退職で止まるリスク、インボイス制度や電子帳簿保存法のような法令対応の遅れなどは、投資をしなくても毎年かかり続けます。投資する場合としない場合の3年間の総コストを並べて比べると、稟議の場でも判断の材料として示しやすくなります。

公的な評価指標・ベンチマークの使い方

自社のROIやKPIが良いのか悪いのかを判断するには、外部の基準と比べる視点が欠かせません。国や独立行政法人が公表している調査や指標は、無料で使えるうえ、経営層への説明の根拠としても信頼性があります。

IPA「DX動向2026」に見る日本企業の成果・指標・投資対効果の実態

IPAが2026年7月30日に公表した「DX動向2026」は、2025年度に国内企業1,799社を対象に実施した調査(調査期間は2026年4月17日から6月12日)をまとめたものです。DXの取組、成果、成果指標、投資の状況について、次の結果が示されています。

項目 結果(2025年度調査) 読み取れること
DXに何らかの形で取り組んでいる企業 75.7% 横ばい。従業員1,001人以上は98.7%、100人以下は41.6%と、規模で二極化している
取り組む企業のうち「成果が出ている」 60.8% 「わからない」も26.8%あり、成果を把握できていない企業が多い
成果指標を「設定している」 23.9% 4社に1社にも届かない。設定している企業の指標は、内向きの業務改革が80.0%、外向きの業務改革が33.5%
成果指標を設定していない理由 「評価指標の設定方法がわからない」36.0%、「評価指標はこれから定める」33.4% 必要性は感じていても、設定できていない企業が多い
成果の中身(成果が出ている企業) コスト削減70.9%、売上高増加17.9%、利益増加19.6% 成果の中心は、コスト削減や業務効率化といった内向きの領域
投資・費用を上回る投資対効果が出ている 14.6%(「大幅に上回る」と「上回る」の合計) 成果指標を設定している企業は、設定していない企業より10ポイント程度高い

注目したいのは、投資対効果が出ていると答えた企業が14.6%にとどまる一方で、成果指標を設定している企業では、その割合が設定していない企業より10ポイント程度高い点です。指標を持てば必ず効果が出るとはいえませんが、投資の効果を測る物差しを持つ企業ほど、効果を実感している傾向があります。前の章で整理したKPIを投資前に決めておくだけでも、多くの企業より一歩進んだ状態になります。

前年の「DX動向2025」(2024年度調査の日米独比較)でも、成果指標を設定している日本企業は27.4%で、米国の89.8%、ドイツの82.7%を大きく下回っていました。日本企業の多くは、成果が出ていないのではなく、成果を測る物差しを持っていない可能性があります。

売上に対するDX投資の割合の目安

他社がどのくらいDXに投資しているかは、自社の投資額を決めるときの参考になります。「DX動向2026」では、売上に占めるDX投資額・費用の割合は「1%未満」が27.8%、「1%以上2%未満」が31.0%で、2%未満の企業が全体の半数以上を占めました。一方で「5%以上」も21.1%あり、企業によって投資規模に大きな差があります。従業員301人以上1,000人以下の企業では「1%未満」が39.3%と最も高く、100人以下の企業では「5%以上」が39.0%と最も高くなりました。

これらは任意回答の設問の結果で、規模や業種によって傾向が異なるため、他社の割合は目安にとどめるのが現実的です。大切なのは、自社の売上に対する投資額の割合を、投資の前後や年度ごとに並べて見ることです。同じ調査では、2024年度から2025年度にかけてDX投資額・費用が「大幅に増加」または「やや増加」した企業が51.7%、「ほぼ横ばい」が38.2%でした。

AI投資の効果はどう評価するか

AIへの投資も、DX投資と同じ考え方で評価します。「DX動向2026」では、AIを導入または試験利用している企業は58.0%でした。導入効果は、「期待以上」と「期待どおり」の合計が31.8%、「一定の効果はあった」が50.6%です。効果の内容は「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%と最も高く、「売上や利益が向上した」は3.9%にとどまりました。

AI投資の評価では、まず作業時間や処理件数といった業務効率の指標で効果を測り、売上や利益への波及は別の指標と別の時間軸で見るのが現実的です。前の章の3層フレームワークを使い、業務効率の数字から財務の数字へつなぐ道筋を、投資前に描いておきましょう。

DX推進指標で自社の成熟度を測る

経済産業省が策定し、IPAが運用しているDX推進指標は、自社のDXの取組状況を自己診断するためのツールです。経営のあり方やITシステムの構築について、成熟度をレベル0から5の6段階で評価し、現在の水準と3年後の目標を整理できます。診断結果をIPAに提出すると、他社と比較したベンチマークレポートを受け取れます。2026年9月18日からは、提出方法が従来のExcelファイルから「DX推進ポータル」のWebフォームに変わっています。

DX推進指標は個別の投資のROIを直接測るものではありませんが、投資の優先順位を決める材料になります。たとえば「データ活用」の成熟度が低ければ、まずデータ基盤への投資を優先する、という判断の根拠として使えます。

デジタルガバナンス・コードで経営層と目線を合わせる

経済産業省のデジタルガバナンス・コードは、企業のDXに関する自主的な取組を促すため、経営ビジョンの策定・公表など経営者に求められる対応をまとめた指針です。2024年6月には「デジタルガバナンス・コード3.0」として、DX経営による企業価値向上に向けた内容に改訂されています。投資の評価の仕組みを整えることは経営者の役割でもあるため、「国の指針も踏まえて、KPIを設定して評価する」と説明すれば、稟議の場で評価の進め方そのものの根拠を示せます。

外部の調査と比べるときも、最後に照らし合わせるのは自社の財務データです。同業他社や公的調査の数字を横に置きつつ、自社の費用構造や利益率が投資の前後でどう変わったかを並べて見られると、ベンチマークとの差を具体的な打ち手につなげやすくなります。

ROI算出の5ステップ

DX投資のROIは、目的と対象業務の決定、基準値の測定、TCOでの投資額の見積もり、効果の金額換算、評価時期の決定の5ステップで算出します。ここまでの内容を、稟議につなげる手順としてまとめます。

ステップ1 目的と対象業務を決める

「何のために、どの業務を変えるのか」を1文で書き出します。目的があいまいなまま進めると、測るべきKPIも決まりません。

ステップ2 現状の数字を基準値として測る

対象業務の作業時間、担当人数、ミスの件数、関連する費用を、投資前に記録します。1か月分でも実測値があると、効果の見込みに説得力が出ます。

ステップ3 TCOで投資額を見積もる

初期・運用・変革の3層でコストを洗い出し、3年から5年の期間で合計します。補助金を使う場合は、補助額を差し引いた実質負担額も併記しておきます。

ステップ4 効果を金額に換算してROIと回収期間を出す

削減できる時間に時給を掛けるなどして効果を金額にし、ROIと回収期間を計算します。楽観・標準・慎重の3パターンで試算しておくと、経営層からの「本当にそこまで効果が出るのか」という問いに答えやすくなります。金額にしにくい戦略面の効果は、数字とは別に記載します。

ステップ5 評価の時期と方法を決めて検証する

3か月後・半年後・1年後など評価のタイミングと、誰がどのデータで確認するかを決めてから投資を実行します。実績が見込みを下回った場合は、利用・業務・成果のどの段階でつまずいているかをKPIで確認し、運用の見直しにつなげます。

5ステップのうち、ステップ2の基準値の記録とステップ5の月次の検証は、帳簿から数字を手で集めていると続かなくなりがちです。仕訳データから決算書やレポートが自動で作成される会計ソフトを使えば、この集計の手間を減らせる場面があります。自社の評価の進め方に手作業が残っていないか、次のセルフチェックで確かめてみてください。

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経営層への提案を通すための組み立て方

経営層への提案は、現状の基準値、投資額と効果の見込み、進め方と撤退基準、推進体制の4項目をそろえて示すと判断されやすくなります。ROIを算出しても、数字だけを示した提案は通りにくいものです。経営層が知りたいのは、効果の大きさに加えて、見込みが外れたときの損失がどこまでで済むか、誰が責任を持って進めるかです。

提案に含める項目 書く内容
現状の課題と基準値 対象業務の作業時間や費用の実測値と、放置した場合にかかり続ける機会コスト
投資額と効果の見込み TCOで見積もった投資額、楽観・標準・慎重の3パターンのROIと回収期間、金額にしにくい戦略面の効果
進め方と撤退基準 小さく始める範囲、次の段階へ進む条件、見込みを下回った場合に見直す基準
推進体制と評価の方法 責任者と担当者、KPIと評価のタイミング、経営層への報告頻度

とくに効果が読みにくい投資では、最初から全社に導入するのではなく、1部署や1業務で試してから広げる段階投資が有効です。最初の段階の投資額を小さく抑えられるうえ、試行で得た実測値を次の段階のROIの根拠に使えるため、2回目以降の稟議が格段に通りやすくなります。「3か月の試行で処理時間が20%以上短くなれば全社に展開する」のように、次に進む条件を数字で決めておくと、経営層も安心して最初の判断を下せます。小さく始めて定着させる進め方は、DXの活用・導入|小さく始めて定着させる中小企業の実務手順で詳しく解説しています。

投資前・実行中・評価時に決める判断基準|継続・増額・修正・停止

投資の評価は、評価時だけでなく、投資前と実行中も含めて1つの仕組みとして設計すると機能します。とくに「どの数字なら継続・増額し、どの数字なら修正・停止するか」を投資前に決めておくと、結果が出たあとに基準を都合よく解釈するのを防げます。

段階 決めておくこと 具体例
投資前 実現したい価値、測るKPIと基準値、継続・増額・修正・停止の条件 「請求書の処理時間を3か月で20%短縮」を継続の条件にし、半分以下の改善なら運用を修正する
実行中 想定した変化が出ているか、利用者数・業務量・費用といった前提が変わっていないかの確認方法 利用率と処理時間を毎月確認し、前提が崩れていれば計画を見直す
評価時 基準に照らした判断と、次の予算や人員の配分への反映 効果が出た範囲は他の部署へ広げ、出なかった範囲は原因を確認して修正か停止を決める

提案資料に「投資前後の数字を毎月確認し、基準を下回れば見直す」と書くには、数字の出どころがあらかじめ決まっていることが前提になります。会計データを月次で確認できる状態を整える一例として、マネーフォワード クラウド会計の資料でレポートや連携の機能を確認しておくと、提案の裏づけを作りやすくなります。

よくある質問(FAQ)

Q1. DX投資とは何ですか?

A. DX投資とは、デジタル技術を使って業務やビジネスモデルを変革するために、システム、ツール、人材育成、業務改革などに投じる費用のことです。効果はROIや回収期間で評価しますが、費用削減だけでなく、業務効率や戦略面の効果も含めて測ることがポイントです。

Q2. DX投資のROIはどうやって計算しますか?

A. 「(投資によって得られた利益-投資額)÷投資額」に100を掛けて、%で表します。たとえば300万円の投資で3年間に450万円のコストを削減できた場合、ROIは50%です。投資額を何年で回収できるかを示す回収期間とセットで示すと、判断材料として伝わりやすくなります。

Q3. 経営層や社内にDXの投資対効果を説明するにはどうすればよいですか?

A. 現状の基準値、TCOで見積もった投資額、楽観・標準・慎重の3パターンのROIと回収期間、進め方と撤退基準、推進体制を1つの資料にまとめて示します。金額にしにくい効果は業務効率の数字と結びつけて別に記載し、1部署で試してから広げる段階投資にすると、判断されやすくなります。

Q4. 日本でDXが進まない企業が多いのはなぜですか?

A. IPAの「DX動向2026」では、DXに取り組む企業は75.7%ですが、従業員100人以下の企業では41.6%にとどまり、規模で二極化しています。取り組んでいない100人以下の企業では「自社がDXに取組むメリットがわからない」が54.0%でした。取り組む企業でも、成果指標を設定しているのは23.9%で、設定していない理由は「設定方法がわからない」が36.0%で最多です。取組と同時に、成果を測る物差しを先に決めることが課題になっています。

Q5. DX投資のコストには何を含めればよいですか?

A. ライセンス費用だけでなく、導入費やデータ移行などの初期コスト、利用料や保守の運用コスト、研修や並行運用期間の生産性低下といった変革コストを含めたTCO(総保有コスト)で捉えます。投資しない場合にかかり続ける機会コストとも比べると判断しやすくなります。

Q6. DX投資の効果はいつ評価すればよいですか?

A. 導入直後は旧業務との並行運用などで一時的に生産性が下がるため、1回の評価で判断しないことが大切です。3か月後・半年後・1年後など評価のタイミングを投資前に決め、利用・業務・成果の段階ごとにKPIを確認します。

まとめ

DX投資のROIは、計算式そのものよりも、何を投資額に含め、何を効果として測るかの設計で精度が決まります。費用削減だけでなく財務・業務効率・戦略の3層で効果を捉え、TCOと機会コストでコストを見積もり、公的な指標で自社の立ち位置を確かめることで、経営層にも説明しやすい評価になります。最後に、今日から取り組める4つのことを整理します。

  1. 次に検討しているDX投資について、対象業務の作業時間や費用を基準値として記録する。
  2. 利用・業務・成果の3段階で、KPIを各1から2個ずつ決め、評価のタイミングを決める。
  3. 継続・増額・修正・停止の判断基準を、投資を実行する前に決めておく。
  4. 投資前後の費用や利益の変化を、会計データから継続的に確認できる状態を整える。会計ソフトの利用を検討する場合は、マネーフォワード クラウド会計などの資料で機能と対象を確認する。

参考文献

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