マズローの欲求5段階説とは?マーケティング・組織・採用への活用と理論の限界

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  • 5つの欲求の意味と具体例がわかる
  • 6段階説や欠乏欲求と成長欲求の違いがわかる
  • 仕事での活用法と古いと言われる理由がわかる

マズローの欲求5段階説とは、心理学者アブラハム・マズローが1943年の論文で示した、人間の欲求を「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の5つの階層で整理した理論です。下位の欲求がある程度満たされると、より上位の欲求が行動の動機として強まると考えます。ビジネスでは、顧客ニーズの分析、従業員のモチベーション管理、採用での訴求設計などに使われますが、学術的には階層の順序を裏づける実証が乏しく、「古い」と言われることもあります。この記事では、5つの欲求の意味と具体例、6段階説との違い、仕事での使い方、批判と使うときの注意点までを順に整理します。

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Q1. マズロー理論を使いたい場面は、次のどちらに近いですか?

目次

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  1. マズローの欲求5段階説とは|5つの階層と職場での具体例
  2. 5つの欲求の具体例|仕事・日常・社会的欲求の見分け方
  3. 6段階説・7段階説とは|5段階の先にある自己超越
  4. 欠乏欲求と成長欲求|5つの欲求の3つの分け方
  5. マーケティングでの活用|顧客ニーズの階層分析
  6. 組織マネジメント・採用への活用|X理論・Y理論と応募者の欲求
  7. 従業員モチベーション向上への応用例|欲求の段階を見極めて施策を選ぶ
  8. 理論の限界・注意点|「古い」と言われる理由と使い方
  9. よくある質問(FAQ)
  10. まとめ
  11. 参考文献

マズローの欲求5段階説とは|5つの階層と職場での具体例

マズローの欲求5段階説は、人間の欲求を生理的欲求から自己実現欲求まで5つの階層に分け、下位の欲求が満たされるほど上位の欲求が強まると考える理論です。

マズローは1943年に学術誌『Psychological Review』の論文「A Theory of Human Motivation(人間の動機づけに関する理論)」でこの考え方を示しました。行動の原因を刺激への反応や無意識の衝動だけで説明しない、人間性心理学の代表的な理論として知られます。一般にはピラミッドの図で説明されますが、この図はマズロー自身が描いたものではなく、後年の経営学の教科書などを通じて広まった表現だとされています。

階層別の呼び方欲求の内容職場での例
第5段階:自己実現欲求自己実現の欲求自分の能力や可能性を発揮したい裁量の大きい仕事、挑戦できる役割
第4段階:承認欲求尊重(承認)の欲求他者から認められたい公正な評価、成果の称賛
第3段階:社会的欲求所属と愛の欲求、帰属の欲求集団に属し、受け入れられたいチームの一体感、同僚との信頼関係
第2段階:安全欲求安全の欲求身の安全や経済的な安定を確保したい雇用と給与の安定、安全衛生
第1段階:生理的欲求生理的な欲求食事・睡眠など生きるための欲求適正な労働時間、休憩・休日

自社の欲求の段階は、見た目だけではわからない

5つの階層を知っても、自社の従業員や応募者が今どの段階にいるかは、管理職の印象だけではつかみにくいものです。同じ職場でも、雇用や給与に不安を抱える人と、裁量や成長の機会を求める人が混在しています。欲求の段階を見誤ると、福利厚生を手厚くしても離職が減らない、表彰制度をつくっても反応が薄いといったずれが起こります。

そこで、従業員の状態を定期的に数値で把握するサービスや、応募者の傾向を入社前に把握する適性検査を使う選択肢があります。次の表は、本記事で取り上げる3つのサービスの役割の違いです。優劣ではなく、どの場面で使うかの違いとして読んでください。

従業員の欲求と応募者の傾向を把握する3サービスの役割の違い

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5つの欲求の具体例|仕事・日常・社会的欲求の見分け方

5つの欲求の具体例は、生理的欲求が睡眠や食事、安全欲求が雇用や健康の安定、社会的欲求が仲間とのつながり、承認欲求が評価、自己実現欲求が挑戦や成長です。

階層の名前だけでは、自分の周りのどの場面がどの欲求にあたるのかをつかみにくいため、日常生活と仕事の両方で具体例を並べます。「満たされないときの状態」の列は、従業員の様子から欲求の不足を見分けるときの手がかりになります。

欲求日常生活の例仕事の例満たされないときの状態
生理的欲求食事、睡眠、休息休憩が取れる、無理のない労働時間疲労、集中力の低下、欠勤の増加
安全欲求安心して住める家、健康、貯蓄雇用の安定、安定した給与、安全衛生、ハラスメントのない職場将来への不安、転職を考え始める、相談が増える
社会的欲求家族や友人とのつながり同僚との信頼関係、チームの一員という実感孤立感、発言の減少、部署間の連携不足
承認欲求褒められる、感謝される成果への評価、役職や責任のある仕事「頑張っても報われない」という不満
自己実現欲求趣味や学びで自分らしさを表現する裁量のある仕事、新しい挑戦、キャリアの自己決定仕事のマンネリ化、成長の実感のなさ

社会的欲求(所属と愛の欲求・帰属の欲求)の具体例

社会的欲求は、家族・友人・職場などの集団に属し、仲間として受け入れられたいという欲求です。原典の英語では「love needs」にあたり、日本語では「所属と愛の欲求」「帰属の欲求」などと訳されます。恋愛感情だけを指すものではなく、集団の中で居場所があると感じられるかが中心です。職場では、次のような場面が具体例にあたります。

  • 朝のあいさつに返事があり、困ったときに相談できる同僚がいる
  • チームの一員として会議や情報共有の場に呼ばれている
  • テレワークでも、雑談や1on1など顔を合わせて話す機会がある
  • 新入社員が入社後に、先輩やメンターから継続的にフォローを受けている

社会的欲求と混同されやすいのが承認欲求です。社会的欲求は「仲間として受け入れられたい」、承認欲求は「能力や成果を認められたい」という違いがあります。同じ「褒められる」場面でも、チームの一員として歓迎されたことへの喜びなら社会的欲求、成果への評価なら承認欲求というように、何を満たしているかで見分けます。

赤ちゃんの生理的欲求の例

生理的欲求を乳児にあてはめると、授乳や食事、睡眠、排泄、体温の調節といった、生きるために欠かせない欲求が中心になります。乳児は自分でこれらを満たせないため、養育者が満たすことが前提です。育児の場面にあてはめた解説は、理論の応用例として広く紹介されていますが、マズローの原典の中心は大人の動機づけを説明する理論である点には注意が必要です。

6段階説・7段階説とは|5段階の先にある自己超越

マズローの6段階説は、5段階の最上位である自己実現欲求のさらに上に「自己超越」の欲求を置く考え方で、マズローが晩年に示した見方とされます。

自己超越とは、自分個人の利益や成長を超えて、他者や社会、より大きな目的に貢献しようとする欲求のことです。心理学者のマーク・コルトコ=リベラは2006年の論文で、一般に知られる5段階は、マズローが晩年に修正した後の考え方を反映しておらず、自己実現のさらに先に自己超越があると指摘しました。企業のパーパスや社会貢献に共感して働く人の動機を説明するときに、この考え方が引き合いに出されます。

呼び方段階の数え方内容使うときの目安
5段階説生理・安全・社会・承認・自己実現1943年の論文を土台にした、最も広く知られた整理研修や顧客分析など、基本の枠組みとして使う
6段階説5段階の上に自己超越を加える自己実現の先にある、他者や社会への貢献を求める欲求パーパスへの共感や社会貢献が動機になる人を説明するとき
7段階以上の説認知的欲求・審美的欲求などを加える知りたい・美しさを求めるといった欲求を階層に入れた整理解説書や研修で紹介されることがあり、数え方は資料により異なる

実務では、まず5段階で整理し、チームの動機を説明しきれないときに6段階目の自己超越を補助線として使うのが現実的です。段階の数え方や名称は解説書によって異なるため、社内で共有するときは、どの整理を使っているかを明記しておくと混乱を防げます。自己超越や関連する理論との違いは、別記事のマズローの欲求とは?5段階の意味・欠乏欲求と成長欲求・理論の限界をわかりやすく解説で、6段階説・7段階説の整理はマズローの5段階欲求とは?各段階の内容とマーケティング・組織マネジメントへの活用法で詳しく扱っています。

欠乏欲求と成長欲求|5つの欲求の3つの分け方

5つの欲求の分け方としてよく使われるのは、下位4つを欠乏欲求、最上位の自己実現欲求を成長欲求とする分類です。

5つの欲求は、見る角度によっていくつかのグループに分けて説明されることがあります。解説書や研修でよく使われる分類は次の3つです(区切り方は説明する人によって多少異なります)。

分類の軸含まれる欲求ビジネスでの見方
物質的欲求と精神的欲求物質的:生理的欲求・安全欲求/精神的:社会的欲求・承認欲求・自己実現欲求給与や労働環境など条件で満たせるものと、関係性や評価など心で満たされるものを分けて考える
外的欲求と内的欲求外的:生理的欲求・安全欲求・社会的欲求/内的:承認欲求・自己実現欲求会社や周囲が環境として用意できるものと、本人の内面から生まれる動機を分けて施策を考える
欠乏欲求と成長欲求欠乏:生理的欲求から承認欲求まで/成長:自己実現欲求不満の解消につながるものと、意欲や主体性の向上につながるものを分けて考える

このうち最もよく使われるのが欠乏欲求と成長欲求の分け方です。生理的欲求から承認欲求までの下位4つは、足りないときに満たそうとする欠乏欲求です。これに対し、自己実現欲求は、満たされるほどさらに高めたくなる成長欲求とされます。ビジネスの場面では、欠乏欲求が満たされていないと不満や離職につながりやすく、成長欲求に応えると意欲や主体性が高まりやすい、という見方で使われることが多いといえます。

マーケティングでの活用|顧客ニーズの階層分析

マーケティングでの活用とは、自社の商品やサービスが顧客のどの階層の欲求に応えているかを整理し、訴求メッセージや商品企画に反映することです。

同じ商品でも、どの欲求に訴えるかによって伝えるべき価値は変わります。次の表は、階層ごとの顧客が求める価値と、訴求の方向性の例です。

欲求の階層顧客が求める価値訴求メッセージの方向性
生理的欲求必要なものが手に入る、不快が解消される価格、手軽さ、すぐ使えること
安全欲求失敗しない、損をしない、安心できる品質保証、実績、サポート体制、セキュリティ
社会的欲求仲間とつながる、共感を得られるコミュニティ、口コミ、共有しやすさ
承認欲求周囲から評価される、ステータスを示せるブランド、限定性、導入企業としての評価
自己実現欲求なりたい自分に近づく、目標を達成する成長の実感、カスタマイズ性、挑戦を後押しするストーリー

BtoBでは「担当者の欲求」も分けて考える

法人向けの商品やサービスでは、会社としてのニーズ(コスト削減、リスク低減など)に加えて、導入を検討する担当者個人の欲求も意思決定に影響します。たとえば「導入に失敗して責任を問われたくない」という安全欲求には導入実績やサポート体制を、「社内で成果を認められたい」という承認欲求には効果を説明しやすい資料や数値を用意する、といった具合です。会社のニーズと担当者の欲求を分けて整理すると、提案内容の抜け漏れを防げます。

市場の成熟度によって訴求する階層は上がる

新しい市場では、まず「必要な機能がある」「安心して使える」といった下位の欲求への訴求が有効です。一方、競合が増えて機能や品質で差がつきにくくなった市場では、共感や自己表現など、より上位の欲求に訴える差別化が求められやすくなります。自社商品が置かれた市場の段階と、顧客が当たり前と感じている欲求の水準をあわせて確認することが大切です。

組織マネジメント・採用への活用|X理論・Y理論と応募者の欲求

組織マネジメントでマズロー理論を土台に発展した代表的な考え方が、経営学者ダグラス・マグレガーが1960年の著書『企業の人間的側面』で示したX理論・Y理論です。

マグレガーは、管理者が部下をどのような人間だと捉えているかによって、マネジメントのやり方が大きく変わると指摘しました。

項目X理論Y理論
人間観人は本来仕事が嫌いで、命令や管理がなければ働かない人は条件次第で自ら目標に向かって働き、責任も引き受ける
対応する欲求主に生理的欲求・安全欲求などの低次の欲求主に承認欲求・自己実現欲求などの高次の欲求
マネジメント手法明確な指示、厳格なルール、アメとムチによる管理目標の共有、権限委譲、自律性の尊重
向いている場面新人の立ち上げ期、安全や法令順守が最優先の業務基本的な労働条件が満たされ、成長や裁量を求める人が多い組織

マグレガーは、生活水準が上がり低次の欲求がある程度満たされた社会では、X理論的な管理だけでは人の意欲を引き出せず、Y理論に基づくマネジメントが必要になると考えました。ただし実務では、どちらか一方に決めるのではなく、メンバーの経験や状況に応じて使い分けることが現実的です。

採用では応募者の重視する欲求に合わせて訴求を変える

採用活動でも、ターゲットとする応募者がどの欲求を重視しているかを意識すると、求人の訴求を絞り込みやすくなります。

応募者が重視する欲求求人・面接で伝えたい内容
安全欲求雇用形態、給与水準、福利厚生、残業時間の実態、事業の安定性
社会的欲求チームの雰囲気、一緒に働くメンバー、入社後のフォロー体制
承認欲求評価制度の仕組み、昇進の実績、成果が認められる場面
自己実現欲求任される裁量、挑戦できるプロジェクト、キャリアの選択肢

注意したいのは、上位の欲求への訴求だけを強調しないことです。「やりがい」や「成長」を前面に出しても、労働条件など安全欲求に関わる情報があいまいだと、応募者の不安は解消されません。まず労働条件を正確に示し、そのうえで上位の欲求に応える魅力を伝える順番を意識すると、入社後のミスマッチも減らせます。

もう一つの課題が、応募者が実際にどんな傾向の人かを、面接官の印象だけで判断しがちな点です。面接官によって評価がぶれると、訴求を工夫しても入社後の相性を確かめられません。入社前に応募者の傾向を定量的に把握したい場合の一例が、株式会社リーディングマークが提供するミキワメAI 適性検査です。商品ページでは、受検から分析・活用まで一貫したサービスであること、性格分析に特化していて活躍する人材の適正配属につなげられること、カスタマーサクセスチームによる支援があることが紹介されています。従業員が無料で受検できると案内されており、入社後の従業員の傾向把握にも使える点が特徴です。適性検査は欲求の段階そのものを測るものではなく、仕事への向き合い方を見る材料として、面接や評価基準の見直しと組み合わせて使います。なお、紙での受検や会場での受検には対応していないため、受検環境は事前に確認しておくとよいでしょう。料金はプランによって異なるため、資料や公式サイトで確認してください。

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導入事例(アサヒ物産株式会社)|株式会社リーディングマーク
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成長意欲がある人という抽象的な採用基準により、面接官によって評価が変わってしまうことが起こっていた。

ミキワメAI 適性検査の導入事例(デジタルアスリート株式会社。課題として掲載) 出典:導入事例ページ

従業員モチベーション向上への応用例|欲求の段階を見極めて施策を選ぶ

従業員のモチベーション向上にマズロー理論を応用するには、下位の欲求から順に満たされているかを確認し、不足している段階に合わせた施策を選びます。

欲求段階ごとの、満たされていないときのサインと施策の例は次のとおりです。

欲求段階満たされていないときのサイン施策の例
生理的欲求慢性的な長時間労働、休憩が取れない、疲労による欠勤労働時間の管理、業務量の平準化、休暇取得の促進
安全欲求雇用や給与への不安、ハラスメントの相談が増える処遇の透明化、相談窓口の整備、安全衛生の徹底
社会的欲求孤立感、部署間の連携不足、テレワークでの疎外感1on1ミーティング、メンター制度、社内コミュニケーションの場づくり
承認欲求評価への不満、「頑張っても報われない」という声評価基準の明確化、日常的なフィードバック、表彰制度
自己実現欲求仕事がマンネリ化している、成長の実感がない権限委譲、社内公募、研修・資格取得支援、キャリア面談

部下の育成に使うときの順番

人材育成にマズロー理論を使うときは、まず育成の対象者がどの段階の欲求を強く感じているかを見極め、次に段階に応じたアプローチを選び、最後に自己実現に向けた行動を促す、という順番が基本です。給与や労働時間に不満を抱えている人に、いきなり挑戦的な課題を与えても意欲にはつながりません。1on1などの面談で、仕事で何を重視しているかを聞き取ることが出発点になります。

土台の欲求(生理的・安全)は、数字と声の両方で確かめる

長時間労働やストレスといった生理的欲求・安全欲求に関わる不満は、本人が口に出しにくく、管理職からは見えにくい領域です。年1回のストレスチェックなどで高い・低いの判定はできても、なぜその人のストレスが高いのかという原因までは分からない、という悩みも少なくありません。不調者が出てから対応すると手遅れになることもあるため、原因を把握して未然に防ぐ仕組みが重要です。

従業員の不満や不調の原因まで見たい場合の一例が、株式会社ラフールが提供するラフールサーベイです。商品ページでは、専任担当による徹底的なサポートを受けられること、組織の状態を可視化するための設問を網羅していて強みと課題の発見につながること、従業員設定や実施プランの自動作成により導入や運用が簡単に行えることが特徴として挙げられています。一方で、組織課題の解決に効果的なオプションサービスは見積もりでの依頼になるため、標準の範囲とオプションの境目は事前に確認しておくとよいでしょう。料金はプランによって異なるため、資料や公式サイトで確認してください。

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評判・口コミを紹介

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ストレスが高いか低いかの判定はできても、なぜその人のストレスが高いのかという具体的な原因を特定することができませんでした。

ラフールサーベイの導入事例(株式会社共同テレビジョン。導入の背景として掲載) 出典:導入事例ページ

施策の前後で「働きがい」を測る

施策は打って終わりではなく、効果を確かめて次の打ち手につなげることが大切です。厚生労働省の「令和元年版 労働経済の分析」では、仕事に対する「活力」「熱意」「没頭」で構成されるワーク・エンゲイジメントに着目して「働きがい」の現状を分析し、ワーク・エンゲイジメントと定着率・離職率、個人の労働生産性との関係などを取り上げています。働きがいは、定期的に測ることで組織の状態をつかむ指標として活用できます。

たとえば、1on1ミーティングを導入して社会的欲求への施策を打ったなら、導入前と数か月後で「上司や同僚との関係」に関する設問のスコアがどう変わったかを比べます。スコアが改善していれば施策を定着させ、変化がなければ別の欲求段階に課題がないかを見直します。こうした定点観測を無理なく続けるには、設問と集計の仕組みが整ったエンゲージメントサーベイを活用するのが効率的です。欲求の階層を設問に置き換える具体的な方法は、別記事のマズローの欲求5段階説とは?各階層の意味と従業員エンゲージメントへの活かし方を解説で扱っています。

従業員の欲求の見極め方、今のやり方で足りている?セルフチェック

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理論の限界・注意点|「古い」と言われる理由と使い方

マズローの欲求5段階説は「古い」と言われることがあります。理由は、5段階の階層構造や順序を裏づける実証が乏しく、欲求が順番どおりに満たされるとは限らないためです。

わかりやすく応用範囲も広い一方で、学術的にはいくつかの批判があります。実務では、次の限界を理解したうえで「人の欲求を整理するための目安」として扱うのが適切です。

主な批判・限界内容実務での注意点
実証的な裏づけが乏しい1976年の実証研究のレビューでは、理論への支持は明確でも一貫してもいないと整理されている理論を根拠に断定せず、実際の従業員や顧客のデータで確かめる
欲求は順番どおりに満たされるとは限らない生活が苦しくても創作や社会貢献に打ち込む人がいるように、複数の欲求が同時に働くこともある「まず下位を満たしてから」と機械的に考えず、複数の欲求に並行して目を向ける
文化や個人による違い個人の自己実現を最上位に置く考え方は、集団との調和を重んじる文化には当てはまりにくいという指摘がある自社の組織文化や、働く人の価値観の多様性を踏まえて解釈する
欲求の測定が難しいどの欲求がどの程度満たされているかを客観的に測る方法が理論の中で示されていないアンケートなど測定の仕組みを別に用意する

マズロー自身も「全部満たしてから次へ」とは書いていない

1943年の原典には、階層の下位が100パーセント満たされてから上位の欲求が現れるわけではない、という趣旨の記述があります。マズローは、あくまで説明のための仮の数字として、平均的な市民は生理的欲求が約85パーセント、安全欲求が約70パーセント、愛の欲求が約50パーセント、自尊の欲求が約40パーセント、自己実現欲求が約10パーセント満たされている、という例を挙げています。つまり、満たされた度合いが上位ほど低くなるという「程度の理論」であり、「下が全部満たされなければ上は働かない」という段階式の理論として広まった理解は、原典とは少しずれています。

実証研究と国際調査でわかっていること

1976年にマハムード・ワーバとローレンス・ブリッドウェルが、それまでの実証研究を整理したレビュー論文を発表しています。この論文は、欲求が5つの階層に分かれるという主張や、順番に現れるという主張について、研究結果の支持は明確でも一貫してもいないと報告しました。一方、エド・ディーナーらが2011年に世界123か国のデータを分析した研究では、基本的な欲求、社会的な関係、尊重、自律といった欲求が満たされていることと、主観的な幸福感が世界の各地域で結びついていました。同時に、基本的な欲求や安全の欲求が十分に満たされていない状況でも、社会的な関係や自己実現が満たされている人がいるなど、順序どおりとは限らない結果も示されています。欲求の分類そのものは役に立つが、階層の順序を前提にしすぎない、というのが実務での無理のない使い方です。

ほかの動機づけ理論とあわせて使う

マズロー理論の限界を補うために、ほかの動機づけ理論とあわせて検討する方法もあります。欲求を「生存」「関係」「成長」の3つに整理し、複数の欲求が同時に働くことを認めたアルダファーのERG理論や、職場の要因を不満を防ぐ「衛生要因」と意欲を高める「動機づけ要因」に分けたハーズバーグの二要因理論などが代表的です。1つの理論に頼らず、複数の視点から自社の状況を見ることで、施策の判断を誤りにくくなります。欲求の考え方全体と代表的な理論の違いは、別記事の欲求とは?意味と種類、マズローの5段階説をビジネスに生かす方法で整理しています。

原典にあたるには

マズローの考え方をさらに学ぶ場合は、邦題『人間性の心理学』(原題『Motivation and Personality』)、『完全なる人間』(原題『Toward a Psychology of Being』)、『完全なる経営』(原題『Eupsychian Management』)などの著作があります。1943年の論文は、冒頭の参考文献に挙げたとおり、原文が公開されています。論文を直接読むと、解説書で省略されやすい「程度の理論」の側面が確認できます。

理論の限界のうち、実務で最も困るのは「欲求の測定が難しい」点です。理論の中には測り方が示されていないため、従業員の状態を把握するには、別にアンケートやサーベイの仕組みを用意する必要があります。

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よくある質問(FAQ)

Q1. マズローの欲求5段階説とは何ですか?

A. 心理学者アブラハム・マズローが1943年に示した、人間の欲求を生理的欲求・安全欲求・社会的欲求・承認欲求・自己実現欲求の5つの階層で整理した理論です。下位の欲求がある程度満たされると、より上位の欲求が行動の動機になると考えます。

Q2. 社会的欲求(帰属の欲求)とは何ですか?具体例も教えてください。

A. 家族や友人、職場などの集団に属し、仲間として受け入れられたいという欲求で、「所属と愛の欲求」とも呼ばれます。職場では、困ったときに相談できる同僚がいる、チームの一員として会議に呼ばれている、テレワークでも雑談の機会があるといった場面が具体例です。

Q3. マズローの欲求5段階説は古いですか?

A. 学術的には、5段階の階層構造や順序を裏づける実証が乏しいという批判があり、「古い」と言われることがあります。ただし、欲求を整理して現状を点検する枠組みとしては今も使われています。順番どおりと決めつけず、実際のデータで確かめながら目安として使うのが適切です。

Q4. マズローの欲求5段階説に6段階目はありますか?

A. マズローが晩年に、自己実現のさらに上に「自己超越」の欲求を置く見方を示したとされ、これを6段階目として説明する解説があります。認知的欲求や審美的欲求を加えて7段階以上とする整理もあり、段階の数え方は資料によって異なります。

Q5. 仕事ではどのように活かせますか?

A. マーケティングでは顧客のどの欲求に応えているかを整理して訴求を考え、組織では従業員の欲求が満たされていない段階を確認して施策を選び、採用では応募者が重視する欲求に合わせて求人の伝え方を変えます。いずれも、理論を根拠に断定せず、従業員や顧客の実際の声や数字で確かめることが前提です。

Q6. 従業員がどの欲求の段階にいるかは、どう把握すればよいですか?

A. 1on1などの面談で仕事に何を求めているかを聞くことに加え、エンゲージメントサーベイなどで部署ごとの状態を定期的に数値で把握する方法があります。施策の前後で数値を比べると、効果の確認にも使えます。

まとめ

マズローの欲求5段階説は、人間の欲求を5つの階層で整理した理論で、マーケティング、組織マネジメント・採用、従業員のモチベーション向上など、ビジネスの幅広い場面で活用できます。実務で活かすときは、次の4点を意識すると効果的です。

  1. 顧客・従業員・応募者がどの階層の欲求を重視しているかを整理し、訴求や施策をその段階に合わせる。
  2. 階層は順番どおりに満たされるとは限らないことを理解し、複数の欲求に並行して目を向ける。
  3. 欲求の段階は推測で決めつけず、エンゲージメントサーベイや適性検査などで状態を測り、施策の前後で効果を確かめる。必要に応じて資料を取り寄せ、自社に合う仕組みを検討する。
  4. 理論には実証面の批判があることを理解し、ほかの動機づけ理論とあわせて判断の目安として使う。

参考文献

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