マズローの欲求とは?5段階の意味・欠乏欲求と成長欲求・理論の限界をわかりやすく解説
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- マズローの欲求5段階と基本的欲求の意味がわかる
- 満たされないときの職場のサインがわかる
- 理論の限界と関連理論との違いがわかる
マズローの欲求とは、アメリカの心理学者アブラハム・マズローが唱えた、人間の欲求を「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の5つの階層に整理した理論です。下の段階の欲求がある程度満たされると、次の段階の欲求が強く意識されるようになる、というのが基本の考え方で、「欲求5段階説」「欲求階層説」とも呼ばれます。「給与を上げたのに部下のやる気が続かない」「表彰制度を作ったのに反応が薄い」といった職場の悩みを考える土台として、マネジメントやマーケティングの基礎知識に使われています。この記事では、用語の意味と提唱者、原典での「基本的欲求」の意味、5段階の職場での例、欠乏欲求と成長欲求、欲求が満たされないときの影響、理論の限界と関連理論までを順に解説します。
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マズローの欲求とは|意味・提唱者・原典での「基本的欲求」
マズローの欲求とは、人間の動機を5つの階層の欲求で説明する心理学の理論で、アメリカの心理学者アブラハム・マズローが1943年の論文で発表しました。ピラミッド型の図で紹介されることが多く、「欲求5段階説」「欲求階層説」「自己実現理論」とも呼ばれます。
理論の骨子は、人間の欲求には優先順位があり、下の段階の欲求がある程度満たされると、次の段階の欲求が強く意識されるようになる、というものです。空腹で倒れそうな人にとっては、周囲からの評価よりも食べ物の確保が先になる。こうした直感的に分かりやすい説明が、この理論が広く知られるようになった理由のひとつです。
1943年の論文と1954年の著書
提唱された年は、資料によって1943年と書かれていたり1954年と書かれていたりします。これは矛盾ではなく、マズローが1943年に論文「人間の動機づけに関する理論(A Theory of Human Motivation)」で考え方を発表し、1954年の著書『動機づけと人格(Motivation and Personality)』で体系的にまとめた、という経緯によるものです。日本では同書の翻訳が『人間性の心理学』という題名で出版されています。
原典でいう「基本的欲求」とは
マズローは1943年の論文で、5つの目標のまとまりを「基本的欲求(basic needs)」と呼んでいます。つまり、原典での基本的欲求は5段階の欲求すべてを指す言葉です。解説記事によっては、下位の欲求だけを指して使っている場合もあるため、どの範囲の話をしているのかを確認して読むと混乱しません。この記事では、原典にそろえて5段階すべてを基本的欲求と呼び、下の4段階は「欠乏欲求」、最上位は「成長欲求」と書き分けます。
欲求が満たされているかを確かめる|調査サービスの役割の違い
従業員の欲求がどの段階で満たされていないかは、管理職の感覚だけで決めず、匿名のサーベイなどの調査で確かめると、施策の的外れを減らせます。給与や雇用の安定に不安があるのか、居場所のなさを感じているのか、成果を認められていないと感じているのか。原因によって打つべき施策は変わるため、まず状態を数字で確かめるのが近道です。
従業員の意欲や職場への愛着、評価への納得感などを質問票で測る「エンゲージメントサーベイ」は、設問を「待遇」「人間関係」「承認」「成長」のように分けて設計すれば、結果をマズローの欲求の各段階に重ねて読めます。たとえば人間関係の設問だけスコアが低ければ社会的欲求、評価の設問が低ければ承認欲求に課題がある、という見立てが立てやすくなります。サービスごとに得意な範囲が違うため、役割の違いを表にまとめます。
従業員の欲求の状態を確かめる3サービスの役割の違い
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調査の結果は、欲求の段階に重ねて読むと施策に結びつけやすくなります。調査項目と欲求の段階の対応は、次の表のように整理できます(あくまで整理のための一例で、設問の作り方によって対応は変わります)。
| 調査で見る項目の例 | 重ねて読みやすい欲求 | 低いときに疑うこと |
|---|---|---|
| 労働時間・休息・待遇への満足 | 生理的欲求・安全の欲求 | 長時間労働や雇用への不安が、意欲の土台を削っていないか |
| 人間関係・チームワーク・相談のしやすさ | 社会的欲求 | 孤立や、相談できる相手の不在がないか |
| 評価への納得感・フィードバック | 承認欲求 | 成果が正しく伝わり、認められているか |
| 仕事のやりがい・成長実感・キャリアの見通し | 自己実現欲求 | 挑戦や学びの機会が足りていないか |
5段階の欲求を職場の例で理解する
5段階は、下から生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求の順で、職場では休息、雇用の安定、所属、評価、成長の機会に置き換えて考えられます。それぞれの意味と、職場に置き換えたときの例を表にまとめます。
| 段階 | 欲求の内容 | 職場に置き換えた例 |
|---|---|---|
| 1. 生理的欲求 | 食事、睡眠、呼吸など、生きていくために欠かせない基本的な欲求 | 生活できる水準の賃金、十分な休憩と休日、長時間労働で睡眠が削られない働き方 |
| 2. 安全の欲求 | 身の安全や経済的な安定、健康など、危険や不安のない状態でいたい欲求 | 雇用の安定、労働災害の防止、ハラスメントのない職場、社会保険や福利厚生 |
| 3. 社会的欲求 | 集団に所属したい、仲間に受け入れられたいという欲求。「所属と愛の欲求」とも呼ばれる | チームの一員として受け入れられている感覚、相談できる上司や同僚、孤立しない仕組み |
| 4. 承認欲求 | 他者から認められたい、自分を価値ある存在と感じたいという欲求 | 成果や努力への公正な評価、上司からのフィードバック、責任ある役割の付与 |
| 5. 自己実現欲求 | 自分の能力や可能性を最大限に発揮し、なりたい自分になりたいという欲求 | 挑戦できる仕事、キャリアの見通し、学びや成長の機会、仕事の意味を実感できること |
たとえば、転職したばかりの人を考えてみます。最初に気になるのは、給与が生活に足りるか、契約が安定しているかといった安心の部分です。それが落ち着くと、チームに受け入れられているか、頼れる相手がいるかが気になります。さらに進むと、自分の仕事ぶりが認められているか、そして最後に、この仕事で何を成し遂げたいかへと関心が移っていきます。実際の人の気持ちは、ここまできれいな順番では動きませんが、「いまの関心はどの段階にあるか」を考える手がかりになります。
各段階の具体例を、日常や仕事の場面でさらに多く確認したい場合は、マズローの欲求5段階説とは?マーケティング・組織・採用への活用と理論の限界も参考になります。
承認欲求には「他者からの承認」と「自尊心」の2つがある
4段階目の承認欲求は、見落とされやすいものの重要な区別を含んでいます。マズローは承認欲求を、他人から注目や評価を得たいという低いレベルの承認と、自分で自分の能力や達成を認められる自尊心という高いレベルの承認に分けて考えました。職場でいえば、表彰や褒め言葉は前者を満たしますが、仕事の熟達や自信は後者にあたります。表彰制度だけを増やしても手応えが薄いと感じる場合、従業員が本当に求めているのは「自分の仕事に自信を持てる状態」なのかもしれません。
一見同じ行動でも、背景にある欲求は人によって違う
5段階を職場に当てはめるときに、いちばん注意したいのが「行動から欲求を決めつけない」ことです。マズローは1943年の論文で、どんな行動も、基本的欲求のいくつか、あるいはすべてによって同時に決まる傾向があると述べています。同じ行動に見えても、背景にある欲求は人によって違うということです。
| 職場でよく見る行動 | 背景にありうる欲求の例 | 確かめ方の例 |
|---|---|---|
| 毎日遅くまで残業している | 評価を落としたくない不安(安全)、成果を認められたい(承認)、仕事そのものが面白い(自己実現)、チームを助けたい(社会的) | 1on1で「何がその働き方につながっているか」を尋ねる |
| 資格の勉強を始めた | 雇用への不安に備えたい(安全)、周囲に認められたい(承認)、専門性を伸ばしたい(自己実現) | キャリア面談で目的と時期の希望を聞く |
| 飲み会や社内行事に毎回参加する | 仲間として受け入れられたい(社会的)、上司に顔を覚えてもらいたい(承認) | 参加の理由を決めつけず、他の交流の場への反応も見る |
| 昇進の打診を断った | 責任が増えて生活が崩れることへの不安(安全)、いまのチームを離れたくない(社会的)、別の分野に挑戦したい(自己実現) | 断った理由と、望む役割を面談で具体的に確認する |
この表のとおり、1つの行動に複数の欲求が重なっていることも、人によって別の欲求が理由になっていることもあります。管理職の推測で「この人は承認欲求が強い」と決めると、的外れな施策になりがちです。面談で本人に聞く方法と、匿名の調査で全体の傾向を見る方法を組み合わせると、決めつけを減らせます。
3サービスの役割を比較表で見る欠乏欲求と成長欲求|基本的欲求の3つの分け方
欠乏欲求と成長欲求の違いは、「足りないことで不満が生じ、満たされると落ち着く欲求」か、「満たされてもさらに強まる欲求」かにあります。5段階のうち下の4段階が欠乏欲求、最上位の自己実現欲求が成長欲求です。
下の4段階は「欠乏欲求」と呼ばれ、足りないことで不満や不安が生じ、満たされると欲求そのものが落ち着くという特徴があります。一方、最上位の自己実現欲求は「成長欲求」と呼ばれ、満たされても終わりがなく、むしろ満たされるほど強まっていくとされます。
| 区分 | 該当する段階 | 満たされたときの変化 | 職場での意味 |
|---|---|---|---|
| 欠乏欲求 | 生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認欲求 | 不満が解消され、欲求が落ち着く | 不足していると離職や意欲低下の原因になるが、満たしただけでは意欲は伸び続けない |
| 成長欲求 | 自己実現欲求 | 満たされるほど、さらに成長したいという気持ちが強まる | 挑戦や学びの機会が、長期的な意欲の源になる |
この区別は、「待遇を良くしたのにやる気が続かない」という悩みを説明する手がかりになります。賃金や雇用の安定は欠乏欲求を満たすため、不足していれば大きな不満になりますが、満たされたあとは意欲を押し上げる力が弱まります。長く続く意欲を引き出すには、成長欲求に働きかける仕事の中身や機会づくりが欠かせない、というのがこの理論から引き出せる示唆です。
物質的欲求と精神的欲求、外的欲求と内的欲求という分け方
5段階の分け方は、欠乏欲求と成長欲求のほかにも2つ紹介されることがあります。1つは、欲求の対象がモノや環境なのか心の充足なのかで分ける「物質的欲求」と「精神的欲求」、もう1つは、欲求を満たすものが自分の外側にあるのか内側にあるのかで分ける「外的欲求」と「内的欲求」です。いずれも5段階をどこで区切るかが異なるため、3つの分け方を並べて整理します。
| 分け方 | 下位側に入る段階 | 上位側に入る段階 | 分ける基準 |
|---|---|---|---|
| 物質的欲求と精神的欲求 | 物質的欲求:生理的欲求、安全の欲求 | 精神的欲求:社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求 | モノや環境で満たされるか、心の充足で満たされるか |
| 外的欲求と内的欲求 | 外的欲求:生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求 | 内的欲求:承認欲求、自己実現欲求 | 自分の外側の環境や他者によって満たされるか、自分の内面で満たされるか |
| 欠乏欲求と成長欲求 | 欠乏欲求:生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認欲求 | 成長欲求:自己実現欲求 | 足りないものを埋めたいのか、さらに伸びたいのか |
職場で考えるときは、この区切りの違いが施策の種類の違いに対応します。賃金や休日、設備、雇用の安定といった物質的欲求は、制度や予算で会社が直接整えられる領域です。社会的欲求まで含めた外的欲求は、配属やチーム編成、上司の関わり方など、周囲の環境を変えることで満たしやすくなります。これに対して承認欲求や自己実現欲求といった内的欲求は、本人がどう感じるかに左右されるため、会社が用意できるのは評価の基準や挑戦の機会といった「きっかけ」までです。なお、承認欲求のうち他者からの評価を求める部分は外的な要素を含むため、境界は厳密なものではなく、整理のための目安として使うのが適切です。
下の段階が「完全に」満たされる必要はない
5段階説は「下が100%満たされないと上に進めない」という意味だと誤解されがちですが、マズロー自身は、多くの人はそれぞれの欲求を部分的に満たしながら、同時に複数の欲求を持っていると説明しています。下の段階がある程度満たされるにつれて、上の段階の欲求が相対的に強く現れてくる、という連続的なイメージでとらえるほうが実態に近いとされます。
欲求が満たされないとどうなる?職場に出るサインと確かめ方
欲求が満たされない状態が続くと、不満や不安、意欲の低下といった形で表れます。原典でも、重要な基本的欲求が妨げられると心理的な不調につながると述べられており、取るに足らない願望が妨げられても同じ影響は出ないという区別が置かれています。
原典の記述は、欲求の妨げが人の状態に影響するという考え方の根拠として読めますが、職場の個別のケースを診断するものではありません。心身の不調が疑われるときは、産業医や専門の相談窓口につなぐことが前提です。そのうえで、日常の観察で気づきやすいサインと、まず確認する材料を欲求の段階ごとに整理します(サインは一般的な例で、同じサインでも原因が別の欲求にある場合があります)。
| 満たされていない欲求 | 職場に出やすいサインの例 | まず確認する材料 |
|---|---|---|
| 生理的欲求 | 疲れが抜けない様子、集中力の低下、遅刻や欠勤の増加 | 残業時間、休暇の取得状況、勤怠の推移 |
| 安全の欲求 | 将来への不安の発言、雇用や評価への心配、ハラスメントの相談 | 人事面談の記録、ストレスチェックの集団分析、相談窓口への相談件数 |
| 社会的欲求 | 会議での発言の減少、孤立、相談できる相手がいない様子 | 1on1での様子、部署ごとの人間関係の設問の結果 |
| 承認欲求 | 評価への不満、「頑張っても見てもらえない」という声、仕事の手応えの薄さ | 評価面談の内容、承認やフィードバックに関する設問の結果 |
| 自己実現欲求 | 仕事への退屈、成長の実感のなさ、キャリアの見通しがない、転職の検討 | キャリア面談、成長実感に関する設問の結果 |
同じサインでも原因は人によって違うため、サインから欲求を決めつけないことが大切です。「なぜこのスコアになったのか」を設問ごとに掘り下げて確かめる方法が、原因の特定には役立ちます。
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評判・口コミを紹介
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3サービスの役割を比較表で見るストレスが高いか低いかの判定はできても、なぜその人のストレスが高いのかという具体的な原因を特定することができませんでした。
ラフールサーベイの導入事例(株式会社共同テレビジョン。導入の背景として掲載) 出典:導入事例ページ
ビジネスで広く使われる基本的な活用法
マズローの欲求がビジネスで使われる場面は、大きく「組織マネジメント」と「マーケティング」の2つです。どちらも、相手がいまどの段階の欲求を強く持っているかを考え、それに合った働きかけをするという点で共通しています。
組織マネジメント・人事での使い方
人事や管理職の立場では、施策を欲求の段階ごとに整理することで、抜けや偏りに気づきやすくなります。たとえば、労働時間の管理や安全衛生は生理的欲求と安全の欲求、チームの関係づくりや新人の受け入れは社会的欲求、評価制度やフィードバックは承認欲求、研修や挑戦的な配置は自己実現欲求に対応します。自社の施策を並べてみて、特定の段階にばかり偏っていないかを確かめるだけでも、次に取り組むべきことが見えてきます。
厚生労働省の「令和元年版 労働経済の分析」では、働く人の「働きがい」に注目し、仕事に対する熱意や没頭、活力を示すワーク・エンゲイジメントが、定着率や仕事のパフォーマンスと関係していることが分析されています。働きがいを高める要素として、将来のキャリア展望や上司からの支援、仕事を通じた成長の実感などが挙げられており、これらはマズローの枠組みでいえば承認欲求や自己実現欲求に近い領域です。
施策を段階別に点検したあとは、従業員の実際の状態を、定期的に同じ設問で確かめる仕組みがあると、施策の前後の変化を比べられます。組織が変わるとき、どの欲求が揺らぎやすいかはマズローの欲求階層説とは?5段階の意味と組織運営への活かし方をわかりやすく解説で、各階層をエンゲージメントサーベイの設問に置き換える方法はマズローの欲求5段階説とは?各階層の意味と従業員エンゲージメントへの活かし方を解説で整理されています。
マーケティング・商品企画での使い方
マーケティングでは、顧客が商品やサービスを通じてどの欲求を満たそうとしているかを考えるために使われます。同じ飲み物でも、のどの渇きをいやすだけなら生理的欲求、健康を意識した成分なら安全の欲求、仲間と楽しむ場面を訴求すれば社会的欲求、高級感やブランド性は承認欲求に働きかけるものになります。
| 段階 | 顧客が求める価値の例 | 訴求の方向性 |
|---|---|---|
| 生理的欲求 | 基本的な機能、手頃さ | 必要なことが確実にできることを伝える |
| 安全の欲求 | 品質の確かさ、保証、サポート | 失敗しない、安心して使えることを伝える |
| 社会的欲求 | つながり、コミュニティ、共感 | 誰かと共有できる体験や所属感を伝える |
| 承認欲求 | ステータス、こだわり、評価 | 選んだ人の価値やセンスが伝わることを示す |
| 自己実現欲求 | 成長、挑戦、なりたい自分 | 使うことで可能性が広がる未来を描く |
採用広報やマーケティングでの具体的な応用例は、マズローの欲求5段階説とは?マーケティング・組織・採用への活用と理論の限界でまとめています。この記事では、理論そのものを正しく理解することに重点を置き、次に理論の限界を見ていきます。
理論の限界と学術的な評価
マズローの欲求5段階説は、実証研究では順番どおりに進むことが十分に確認されておらず、そのまま事実として受け入れられているわけではありません。ビジネスで使う前に、代表的な批判を押さえておくことが大切です。
| 主な批判 | 内容 | 使うときの注意 |
|---|---|---|
| 実証的な裏付けが弱い | 後の研究で、欲求が5段階に明確に分かれることや、下から順に進むことは十分に確認されていないとされる | 「法則」ではなく、考えを整理する枠組みとして使う |
| 順番どおりに進まない人がいる | 経済的に厳しくても芸術や研究に打ち込む人のように、下の欲求より上の欲求を優先する例がある | 一人ひとりの優先順位の違いを前提にする |
| 文化による違い | 個人の自己実現を最上位に置く考え方は、個人主義的な文化を反映しているという指摘がある。集団との調和を重んじる文化では、社会的欲求の比重が大きくなりうる | 海外の理論をそのまま自社に当てはめない |
| ピラミッド図は本人の作ではない | よく知られるピラミッドの図は、マズロー本人ではなく後の解説者が広めたものとされ、段階が固定的に見える一因になっている | 図のイメージだけで理解しない |
こうした限界があっても、この理論が今も使われ続けているのは、人の動機を「一つの原因」ではなく「複数の段階の欲求の組み合わせ」として考える視点を与えてくれるからです。厳密な予測の道具としてではなく、話し合いや施策の点検の出発点として使えば、十分に役に立つ考え方だといえます。
3サービスの役割を比較表で見るマズロー以降に提唱された関連理論との違い
マズローの理論は、その後の動機づけ研究の出発点になり、欠点を補う形でさまざまな理論が提唱されました。ビジネス書や研修でよく一緒に紹介されるものを整理します。
| 理論(提唱者) | 考え方 | マズローとの違い |
|---|---|---|
| ERG理論(クレイトン・アルダファー) | 欲求を「生存(Existence)」「関係(Relatedness)」「成長(Growth)」の3つにまとめる | 複数の欲求が同時に働くことや、上の欲求が満たされないと下の欲求に戻ることを認めている |
| 二要因理論(フレデリック・ハーズバーグ) | 不満を生む「衛生要因」(給与、労働条件など)と、満足を生む「動機づけ要因」(達成、承認、仕事そのものなど)を分ける | 衛生要因を改善しても不満がなくなるだけで、満足は生まれないとする。欠乏欲求と成長欲求の区別に近い |
| X理論・Y理論(ダグラス・マクレガー) | 「人は本来怠けるもの」とみるX理論と、「条件が整えば自ら働く」とみるY理論を対比する | マズローの理論を土台に、管理者の人間観がマネジメントの方法を左右すると論じた |
| 達成動機理論(デイビッド・マクレランド) | 人の動機を「達成」「権力」「親和」の欲求で説明する | 欲求に階層を設けず、人によってどの欲求が強いかが異なるとする |
なかでもハーズバーグの二要因理論は、職場の施策を考えるうえでマズローの理論と組み合わせて使われることが多い理論です。給与や労働条件の改善は「不満を減らす」ために必要であり、「意欲を高める」には仕事の達成感や承認、成長の機会が必要になる、という整理は、欠乏欲求と成長欲求の区別とほぼ同じ方向を向いています。マズロー以外の欲求理論を幅広く知りたい場合は、欲求とは?意味と種類、マズローの5段階説をビジネスに生かす方法も参考になります。
自己実現欲求の先にある「自己超越」という視点
マズローは晩年、自己実現のさらに上に「自己超越」という段階があると考えるようになったとされます。自己超越とは、自分自身の成長や成功にとどまらず、他者や社会、より大きな目的のために貢献したいという欲求のことです。
この視点は、現代の組織づくりで重視される「パーパス(存在意義)」や社会貢献への共感と重なる部分があります。自分の仕事が顧客や社会にどう役立っているのかを実感できることは、個人の成長とは別の角度から働く意欲を支えます。ただし、自己超越はマズローの晩年の構想として語られることが多く、5段階説ほど整理された形では示されていない点には注意が必要です。6段階説・7段階説と呼ばれる整理を各段階の中身まで見たい場合は、マズローの5段階欲求とは?各段階の内容とマーケティング・組織マネジメントへの活用法で扱っています。
理論をビジネスで使うときのよくある失敗パターン
マズローの欲求は分かりやすい分、職場に当てはめるときに単純化しすぎてしまうことがあります。よく見られる失敗と、その見直し方を表にまとめます。
| 失敗パターン | 起きやすい問題 | 見直し方 |
|---|---|---|
| 待遇改善だけで意欲を上げようとする | 欠乏欲求は満たされるが、意欲が長続きしない | 評価の納得感や成長機会など、承認欲求・自己実現欲求への施策も並行して考える |
| 全員を同じ段階にいると決めつける | 一律の施策が、一部の人には響かない | 年代、職種、ライフステージによる違いを前提にし、個別の声を聞く |
| 下の段階を飛ばして上を求める | 長時間労働や人間関係の問題を放置したまま「挑戦」を促し、反発を招く | 安全や所属感の土台に問題がないかを先に確かめる |
| 承認を「褒めること」だけと考える | 表彰や称賛を増やしても手応えが得られない | 公正な評価基準、任せる範囲の拡大など、自尊心につながる承認も設計する |
| 行動から欲求を決めつける | 「残業するのは承認欲求が強いから」のように推測し、施策が的外れになる | 面談で理由を聞き、調査で全体の傾向を確かめる |
| 管理職の印象だけで判断する | 声の大きい人の意見に施策が引っ張られ、実態とずれる | 匿名の調査などで、従業員全体の状態をデータで確かめる |
これらに共通するのは、「従業員が実際にどの欲求で困っているのか」を確かめないまま施策を決めてしまうことです。理論は見立ての枠組みを与えてくれますが、答えそのものは与えてくれません。「全員を同じ段階と決めつける」ことを避けるには、一人ひとりの価値観や特性の違いを前提にした見方が欠かせず、これは入社後の育成だけでなく、採用や配属の段階にも当てはまります。
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評価・口コミを紹介
以前は新卒採用者の50%にあたる人数が退職していたところ、ミキワメ導入から現在(2024年1月)まで新卒退職者がゼロになりました。導入前後の背景が異なるので、単純に数値を比較できないのですが、ミキワメのおかげで早期退職者が減ったのは紛れもない事実です。
導入事例(アサヒ物産株式会社)|株式会社リーディングマーク
おすすめ!
- 受検から分析・活用まで一貫したサービスを低コストで使える
- 性格分析に特化しているため、活躍する人材の適正配属を実現
- 充実したコンテンツと「カスタマーサクセスチーム」による丁寧な支援
気になる…
- 紙での受検や会場での受検には対応していない
検査結果が「定量的なものさし」として活用ができるため、面接官の「感覚的なものさし」の影響が減ります。
ミキワメAI 適性検査の導入事例(デジタルアスリート株式会社) 出典:導入事例ページ
自社の従業員がどの段階にいるかを把握するには
従業員の欲求の状態は、日常の観察、データ、面談、調査を組み合わせて把握します。理論を職場で生かすには、従業員の状態を段階ごとに確かめる手段が必要です。ここでは、日常の観察から調査まで、組み合わせて使える方法を整理します。
| 方法 | 分かること | 注意点 |
|---|---|---|
| 勤怠・人事データの確認 | 残業時間、休暇の取得状況、離職率など、生理的欲求・安全の欲求に関わる状態 | 数字から気持ちまでは分からないため、他の方法と組み合わせる |
| 1on1や面談 | 一人ひとりの悩み、評価への納得感、キャリアの希望 | 上司との関係によって本音が出にくい場合がある |
| エンゲージメントサーベイ | 人間関係、承認、成長実感などを設問ごとに数値化し、部署別や時系列で比べられる | 匿名性の確保と、結果を施策につなげてフィードバックすることが欠かせない |
| ストレスチェック | 心理的な負担の状況。安全の欲求に関わる職場環境の課題を把握する材料になる | 労働安全衛生法にもとづく制度で、結果の取扱いには本人の同意などのルールがある |
とくにエンゲージメントサーベイは、設問を欲求の段階に対応させて設計しやすく、部署ごとの違いや施策前後の変化を数字で比べられる点で、マズローの枠組みと組み合わせやすい方法です。一方で、調査したのに結果が共有されず何も変わらないと、「答えても意味がない」という不信感を招き、かえって意欲を下げてしまいます。実施の目的を事前に伝え、結果にもとづく改善をきちんと示すことが前提になります。
働く人のメンタルヘルスや職場環境の改善については、厚生労働省のポータルサイト「こころの耳」でも、事業者や人事担当者向けの情報が公開されています。心身の不調に関わる課題は、専門家や産業保健スタッフと連携して対応することが大切です。
いまの把握の仕方で足りているかは、次のセルフチェックで確認できます。当てはまる項目が多いほど、感覚や面談だけに頼らず、調査で状態を数字にする仕組みを検討する価値があります。
従業員の状態の把握、今のやり方で大丈夫?セルフチェック
当てはまるものを選んでください(登録不要)
よくある質問(FAQ)
Q1. マズローの欲求とは何ですか?
A1. アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した、人間の欲求を「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の5つの階層に分けて整理した理論です。下の段階の欲求がある程度満たされると、次の段階の欲求が強く現れるとされ、「欲求5段階説」「自己実現理論」とも呼ばれます。
Q2. マズローの基本的欲求とは何ですか?
A2. マズローが1943年の論文で、5つの目標のまとまりを呼んだ言葉(basic needs)で、原典では生理的欲求から自己実現欲求までの5段階すべてを指します。解説によっては下位の欲求だけを指す場合もあるため、どの範囲の話かを確認して読むのが安全です。
Q3. マズローの欲求が満たされないとどうなりますか?
A3. 不満や不安、意欲の低下といった形で表れます。原典でも、重要な基本的欲求が妨げられると心理的な不調につながると述べられています。職場では、疲れや孤立、評価への不満、成長の実感のなさなどがサインになりますが、同じサインでも原因は人によって違うため、面談や調査で確かめることが大切です。
Q4. マズローの5段階の欲求を、職場の例で教えてください。
A4. 生理的欲求は十分な休憩と生活できる賃金、安全の欲求は雇用の安定とハラスメントのない職場、社会的欲求はチームに受け入れられている感覚、承認欲求は成果への公正な評価、自己実現欲求は挑戦や学びの機会が例です。1つの行動の背景に複数の欲求が重なる場合もあります。
Q5. 欠乏欲求と成長欲求の違いは何ですか?
A5. 生理的欲求から承認欲求までの4段階は欠乏欲求と呼ばれ、足りないと不満が生じ、満たされると落ち着きます。最上位の自己実現欲求は成長欲求と呼ばれ、満たされるほどさらに強まるとされます。職場では、待遇改善が欠乏欲求に、挑戦や学びの機会が成長欲求に対応します。
Q6. マズローの欲求5段階説は科学的に正しいのですか?
A6. 後の研究では、欲求が5段階に明確に分かれることや、必ず下から順に進むことは十分に確認されておらず、文化による違いも指摘されています。厳密な法則としてではなく、人の動機を整理して考えるための枠組みとして使うのが適切です。
まとめ
マズローの欲求は、人の欲求を5つの段階に分けて整理した理論で、原典では5段階すべてを「基本的欲求」と呼んでいます。下の4段階は欠乏欲求、最上位の自己実現欲求は成長欲求と呼ばれ、待遇だけでは意欲が長続きしない理由を説明する手がかりになります。一方で、実証的な裏付けの弱さや文化による違いといった限界もあり、同じ行動の背景にある欲求は人によって違います。法則ではなく考えを整理する枠組みとして使うことが大切です。最後に、今日から取り組める4つのことを整理します。
- 自社の人事施策を5つの段階に当てはめて並べ、特定の段階に偏っていないかを確かめる。
- 待遇などの欠乏欲求への施策と、評価の納得感や成長機会といった成長欲求への施策を分けて考える。
- 残業や資格の勉強といった行動から欲求を決めつけず、面談で本人に理由を聞く。
- 管理職の印象だけで判断せず、調査などで従業員が実際にどの段階で困っているかをデータで確かめ、必要に応じて調査サービスの資料を取り寄せて比べる。
参考文献
- Maslow, A. H. “A Theory of Human Motivation.” Psychological Review, 50, 370-396, 1943. https://psychclassics.yorku.ca/Maslow/motivation.htm
- 厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/roudou/19/19-1.html
- 厚生労働省「こころの耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」 https://kokoro.mhlw.go.jp/